マクロンの味方はいなかった 一夜の夢と消えた「中欧協力してウクライナ和平を」の習提案
- 2023年 4月 20日
- 時代をみる
- ウクライナフランス中国田畑光永
17日の本欄で中国の習近平国家主席がマクロン仏大統領に「仏主導のウクライナ和平案」を出してくれれば、中国はそれを支持すると持ち掛けた、ことを紹介した。マクロンが今月五日から七日まで中国を公式訪問した最終日の七日、マクロンの広州見物に押しかけガイドのように自分も広州に出かけた習近平が最後の会談で持ち出した話である。「中+ロ・対・米+西側諸国」の二極対立の図式に新しく「中+仏」を一極として参入し、和平への主導権を握ろうとの発想である。
マクロンはその場で「フランスは中国の国際的影響力を重く受け止め、中国と密接に協力して、危機の早急な解決のためにともに努力したい」と応え、習近平の誘いに、半分「乗る」に足をかけた姿勢を見せた。不意打ちの「共闘提案」を受けて、マクロンも驚きはしたものの、その中に現状の対立図式を流動化して、事態を打開する可能性を見たのではなかったろうか。だれがやろうと妙案がないのは同じだとすれば、ここは「中仏連携」という目新しさにかけてみる気になった可能性はある。
マクロンにすれば、中国といえば、台湾に対して「武力行使をしないとは絶対約束しない国」というレッテルを振り回すだけでは話もできない。米には米の立ち位置があるだろうが、遠いヨーロッパまでが米と同じポジションに立っていては身動きができない、といった思いがあっても不思議ではない。
そこでマクロンは中国から帰って、いろいろな場面でこういう言い方をした。
「欧州が直面している最大のリスクは、自分たちのものではないリスクに巻き込まれて、戦略的自律性を発揮できなくなってしまう事態だ。パニックに陥って、欧州自身が『我々はたんなる米国の追随者』と信じてしまっている。台湾危機の加速はわれわれの利益になるのか。答えはノーだ。最悪なのは、台湾問題で米国のペースや中国の過剰反応に合わせて、欧州もそれに追随しなければならない、と考えてしまうことだ」
そのほかにも「同盟国は属国ではない、自分で考える権利がわれわれにないということではない」とも言い、また同時に「われわれは一つの中国政策を支持し、事態を平和的に解決する方策を探している」とも言っている。
しかし、こうしたマクロンの発言はたちまち批判のつぶてにさらされた。その内容は、たとえば「フランスが独自路線を歩むことで、国際社会での地位を確保しようとするドゴール主義の名残りであり、その意味は西側諸国に身を置きながら、米と共同歩調をとらない、という立場にすぎない」というものや、「もし欧州が台湾をめぐって米中間で米の味方をしないのなら、ウクライナについて米は欧州の味方をするべきでない」など。要は欧州も台湾を守る立場から離れるべきでない、という声である。
米トランプ前大統領にいたっては「私の友人であるマクロン氏は中国の尻にキスしている。フランスは今や中国につこうとしている」となじったと伝えられ、これに対してマクロンは「彼の発言については何も言うべきことはない。対中関係を悪化させたのは彼なのだから」と答えたという。
要するに欧州全体の雰囲気としても、中国はロシアとならぶ悪役であって、そこと手を組むことは、裏切りに他ならないということのようである。
そうした賛否のやりとりのさなかの四月十七日、日本の軽井沢でG7外相会議が開かれた。ここにもマクロン発言が影を落とし、「法の支配」に基づく国際秩序を守るための協議、に力が入ることになったのは皮肉であった。
会議では、「中国による力を背景とした一方的な現状変更の試みに反対」することで一致し、共同声明には次のような一文が書き込まれた。
「中国に率直に関与し、われわれの懸念を中国に直接表明することの重要性を認識する。国際社会の責任ある一員として行動するように求める。・・・
東・南シナ海における状況を真剣に懸念する。力や威圧によるいかなる現状変更の試みにも強く反対する。台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認し、両岸問題の平和解決を促す」
マクロンに対する習提案は双方が同意したとしても、それを実行に移す舞台さえまだ存在しない。その段階で仏を含めて欧州の四カ国の外相たちが出席した場で、こんなふうに中国をたしなめる文章を発表されては、習提案はここではや命運は尽きたと見るしかない。
中国としては、イランとサウジの間を取り持って仲直りを実現させて気を良くした勢いで、ウクライナでもと勢い込んだのであろうが、国家主席に大統領と登場人物に不足はなかったのに、あえなく失速、墜落した。
ウクライナ和平に力を見せて、国家主席三選に勢いをつけようとした習近平の目論見はこうして破綻した。次はなにを考えるのだろうか。(230419)
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