人工知能(AI)のもたらす「知能ギャップ」についての中国の主張
- 2023年 5月 15日
- 評論・紹介・意見
- AI中国阿部治平
――八ヶ岳山麓から(424)――
4月21日、人民日報国際版の「環球時報」は、人工知能(AI)時代の「知能ギャップ」問題についての論評を掲載した。著者は李艶氏で、中国現代国際関係研究院傘下の中国科技与網絡安全研究所所長である。「網絡」はネットワークのことだから、李艶氏は中国のIT関連の技術やネットワーク・セキュリティー研究の指導者であろう。
近い将来、いや現実にもデータ漏洩からプライバシー侵害、業界の危機から倫理問題まで人工知能が引き起こすリスクは、非常に深刻な問題である。
そこで中国の専門家が人工知能AIをどうとらえているかを李艶論文で見てみたい。わたしはPCで文章を書くのがやっとという素人なので、以下の内容に間違いがある可能性がある。その際はご叱正を賜りたい。
AI時代の「知能ギャップ」問題に高度の関心を持とう(要約)
李 艶
AI時代の文脈における知能ギャップ問題は、より多くの注意と慎重な検討に値するものである。デジタル・ギャップとは、グローバルなデジタル化の過程におけるさまざまな国、地域、産業、企業、コミュニティ、さらには人々のグループ間の情報とネットワーク技術の所有・応用・革新能力の格差を指すものである。
これによって情報・ネットワーク技術の格差が拡大し、貧富のさらなる両極化が生まれる。
同様に、いわゆる知能ギャップは、知能化の過程で、異なった主体が知能・技術を把握し応用する能力の格差である。これは本質的には「知識の格差」あるいは「情報の格差」であり、これにはリソースの不均一な所有、異なるアプリケーション機能、不平等な開発機会が反映されている。
AI の時代は、まだ開発の初期段階にあるが、AI が生み出した知能のギャップはすでに無視できないものとなっている。現在の生成型人工知能は、急速な変化の開発傾向を反映しており、以前の知能システムと比較して、その汎用性の面でのパフォーマンスにより検索エンジン、ソーシャル・メディア、電子商取引などのデジタル分野における技術的障壁を打ち破ることができる。
さらに重要なことは、金融、法律、教育、医療など、社会のあらゆる分野で、新しい知能システムにアクセスするための障壁が大幅に低下し、知能化を迅速に実現できるようになったことである。
これへの依存度が高ければ高いほど、全領域にわたる新型知能システムは、当然「高度独占」状態を示している。現在、新型知能システムの開発・普及に力を持つグローバル企業は、依然としてマイクロソフト、グーグル、フェイスブック、その他のテクノロジーの巨人が主であり、(これら企業は)データ、計算能力、先端チップの優位性から、技術の先発、市場優占の優位性があるだけではない。この「勝者は独占し、強者はつねに勝つ」というパターンを打破することはじつに困難である。
AI時代の不均衡発展問題はさらに突出する。マッキンゼー 国際研究所によると、人工知能は、いま社会を変化させつつあり、産業革命に比べると「発生の速さは10 倍、規模は300 倍で、影響はほぼ 3,000 倍だ」という。
現在、おもな大国はすべて、新しい段階の科学技術革命が各国の発展に関連するだけでなく、将来の国際権力構造にも影響を与えると深刻に認識している。
実際に情報技術革命の恩恵は、先進国と発展途上国の関係においても、社会内部においても格差があり、人工知能の発展も同様に発展途上国にとっては実際上の挑戦課題となっている。
たとえば、発展途上国は労働力の面での比較優位を失ううえに、その技術水準と国内市場は、人工知能によってもたらされる可能性のある産業のレベルアップに対応する準備ができていない。
その結果、多年にわたる努力によって縮められてきた途上国と先進国の格差が、この「車線変更」によって再び拡大する可能性が高くなる。これによって国際社会は新たな「格差」に直面し、新しい「南北問題」に直面する可能性がある。
それをどのように解決し、対処するかについての回答には、時間と実践が必要である。 だとすれば、国際社会のすべての関係者が協力して解決する必要がある他の主要な問題と同様に、その方法は共通の理解に基づいて共通の行動を取ることである。
『発明の倫理: テクノロジーと人類の未来』の著者であるシーラ・ジャサノフ(ハーバード大学ケネディスクール教授・科学技術社会論)は、「技術選択は、本質的に政治的でもある。それは、社会秩序を決定し、利益と負担を分配し、権力を導く」という。『自主思想:政治思想のテーマとしての制御不能技術』の著者であるラングドン・ウィナーも、「われわれは、自由、社会正義およびその他の主要な政治的目標と両立する技術体系を構想し構築するよう努めるべきである」と提案している。
だから、新しい技術やその応用の進歩は歓迎すべきことだ。だが、その方向性や将来性は、やはり社会の選択にかかっている。
だからこそ、グテーレス国連事務総長が「デジタル世界の現状とデジタル協力のロードマップの実施に関するオンラインのハイレベル活動」で指摘するように、我々は技術ガバナンスの岐路に立っており、技術改革の方向が私たちの能力、公共の利益を保護する能力を超越させるわけにはいかないのである。
おわりに
李艶氏は、評論の前半ではAIの開発、普及において主として先進国と発展途上国の格差を論じている。AIの時代がすでに本格的に到来しているとすれば、知能ギャップの問題は、国際社会が注目し、解決に向けて努力すべき重要課題になることは避けられないという。そして「将来を見据えた技術ガバナンスの観点から、AI の未来が、すべての人類に普遍的に知能の配当をもたらすことを期待する」としている。
そして情報の偏りが国際的な貧富の格差を生み、新しい「南北問題」が現れることへの警鐘を打ち鳴らしている。
この限りでは正当な主張だと思うが、かれが先進国による途上国への情報技術の援助を繰り返し主張する背景には、中国に対する西側のデカップリング政策への強い不満があることを感じる。
同時に李艶氏がジャサノフやウィナーを肯定的に引用していることに注目したい。すなわち「技術選択は、本質的に政治的でもある。それは、社会秩序を決定し、利益と負担を分配し、権力を導く」「われわれは、自由、社会正義およびその他の主要な政治的目標と両立する技術体系を構想し構築するよう努めるべきである」
つまり技術体系の構築、技術の選択や移転は権力の政治判断による。中国は、急速なITの普及、生活インフラのインターネット化を進展させ、個人情報の集中管理と、それによる民衆支配を実現しつつある国家である。
李艶氏はあえてそこには立ち入らない。それは本質的に政治的であるからであろう。
(2023・5・3)
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