中国が沖縄県議会意見書を支持する理由
- 2023年 5月 18日
- 評論・紹介・意見
- 中国沖縄阿部治平
――八ヶ岳山麓から(425)――
(沖縄県議会)当山勝利県議ら県議団は4月25日、外務省に吉川ゆうみ外務政務官、内閣官房に出口和宏内閣審議官を訪ね、2月定例会で賛成多数により可決した対話と外交による他国との平和構築を求めるという趣旨の意見書を手渡した。意見書を受け取った吉川政務官は「沖縄を再び戦場にしてはならないということは当然のことだ。(だが)防衛力で沖縄を含むわが国に脅威が及ぶことを抑止していく。防衛力は外交の裏付けになる」と語った(中略)。
当山氏は要請行動終了後、報道陣の取材に応じ「2022年末に閣議決定された安保3文書に沖縄の軍事的負担が増す内容が記述されている。抑止力強化が地域の軍事的緊張を高めることから日中両国は平和構築へ最大限の努力を払うべき」と語った(「琉球新報」 2023・04・27)。
これについて、中国共産党機関紙「人民日報」の国際版「環球時報」は、4月26日この意見書を全面的に支持する社説「沖縄の方々の不安と心痛を共有する」を発表した。
以下、環球時報社説を要約して紹介する。
「沖縄の方々の不安と心痛を共有する」(要約)
「この決議には、沖縄県民の全体の声だけでなく、彼らが平和と正義を追求してきたことも反映されている」
「決議はおそらく東京湾に沈む可能性が高く、日本当局とアメリカは沖縄の民意により沿うような軍事的外交的変更はしないだろう」「しかし、われわれは沖縄県民の平和と正義の呼声を高度に理解し、堅く支持しており、また世界中のすべての真に平和を愛する人々は沖縄県民と『ともにある』ことを強調しなければならない」
「(沖縄県議会決議は)今日の東アジア、特に台湾海峡で起こっていることについての真実を世界に明らかにしている。アメリカと日本はもはやいわゆる『地域の平和と安定』を言い訳に(軍拡を)することはできない。なぜならこの地域への最大の脅威は、まさにアメリカと日本自身であるからだ」
「琉球諸島は1879年に日本に併合され、沖縄と改名されて以来、悲劇的な運命をたどった。沖縄は第二次世界大戦に巻き込まれ、当時の日本政府によって捨駒とされ、砲弾の餌食となった。1945年の沖縄戦では、沖縄は太平洋で最も血なまぐさい悲劇的な戦場になり、最大4分の1の住民が死亡した。 この悪夢の経験を経て、戦後沖縄に米軍基地がおかれ、これが今日まで沖縄県民衆を悩ませ続けてきた」
「この決議は主に2つの要求を提起している。第一に、外交と対話を通して平和を構築すべきであって、ミサイルを配備するなど南西諸島における軍事力の強化によって日本の『抑止力』を実現するべきではないということ。第二に、日中関係の政治文書で確認された原則に従い、両国の友好関係を発展させ、問題を平和的に解決すべきこと。東京はこれを拒否する理由を見つけることができず、言訳をするほか方法はあるまい」
「琉球王国は歴史的に『万国津梁』とたたえられてきたが、それは「万国の架け橋」という意味である。今日の沖縄についていえばそれははるかに手の届かないところにある。だが『平和群島』へのたゆまぬ努力は全世界の尊敬と声援に値するものだ」
「沖縄の観光資源はもともと競争力を持っている。そのため近年観光業はとみに発展しているが、沖縄県の美しい小島は、いまや重武装の兵士や恐ろしい攻撃ミサイルによって汚されており、沖縄県民の心痛のもとになっている。我々はこれに心から同情する」
おわりに
環球時報社説は、沖縄県議会意見書を高く評価して日本外務省と内閣官房の対応を批判し、「沖縄の方々の不安と心痛を共有する」という。だが、この20年余りの尖閣諸島近海での中国艦船の行動を見てきた沖縄県民はもちろん、本土の岸田大軍拡に反対してきた人々も多くは「断る」というだろう。
中国の本音は社説末尾に表れている。そこでは南西諸島は「重武装の兵士や恐ろしい攻撃ミサイルによって汚されて」いると言っている。第一列島線を自由に往来しようとする中国海軍にとって、南西諸島に地対艦ミサイルをおかれてははなはだ不都合だからである。
従来、中国軍の行動は、日米政府の軍備拡大による「抑止力」増強にまたとない口実を与え、日本の軍拡反対・護憲の運動に冷や水を浴びせてきた。これを棚上げして沖縄を「平和群島」にしようというのはいかにもそらぞらしい。
環球時報社説が沖縄県議会「意見書」支持を表明したのは、それが日本政府の南西諸島の防衛体制増強を非難するのに都合の良い「出し」だったからであろう。
この5月に入ってからも、尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域を航行していた中国海警局の艦船4隻は、1日午前7時ごろ、新たに他の4隻と交代した。うち「海警1108」は軍艦を転用したとみられ、機関砲はこれまで確認された中で最大の76㍉砲という(八重山日報2023・05・02)。
さらに、台湾の「武力解放」の可能性を捨てないという中国は、台湾近海での大規模軍事演習を繰り返している。これでは東シナ海の「平和と安定」を犯し緊張を高めているのは、ひとえに日米両国だとすることはできない。中国が本当に沖縄県議会の意見書を支持し、日中両国の「対話と外交」を望むならば、とりあえず尖閣近海での挑発行動をやめてはどうだろうか。
それにしても日本の主要メディアが沖縄県議団の意見書と政府訪問を伝えなかったのにひきくらべ、中国当局が沖縄県の政治動向を詳細に観察していることには驚く。
当山勝利県議ら沖縄県議団が外務省と内閣官房を訪問したのは4月25日。翌26日には、はやくも環球時報が社説で県議団意見書と行動を論じた。沖縄の「琉球新報」が県議団の政府訪問を報道したのは27日である。
中国がいかに南西諸島の軍備増強に重大な関心をもっているかがわかる。
(2023・05・07)
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