スカーフに揺れるイラン
- 2023年 5月 24日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
イランは地理的にも文化的にも遠い。本やニュースで聞きかじっただけで、世界有数の石油産出国でイスラム原理主義の国ということぐらいしかない。数千年におよぶ歴史と文化を誇る大国なのに、スカーフ不着用で人を殺す国になりさがったように見える。そのありさまをイスラム原理主義国家の成り立ちの背景から見てみる。ウィキペディアから関係する個所を書き写した。
ウィキペディアのurlは下記のとおり。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%B3
一九四〇年代に国民戦線を結成したモハンマド・モサッデクは、国民の圧倒的支持を集めて一九五一年四月に首相に就任した。モサッデグ首相はイギリス系アングロ・イラニアン石油会社から石油国有化を断行したが、一九五三年八月一九日にアメリカ中央情報局(CIA)とイギリス秘密情報部による周到な計画(アジャックス作戦、英: TPAJAX Project)によって失脚させられ、石油国有化は失敗に終わった。
このモサッデグ首相追放事件によってパフラヴィー朝の皇帝(シャー)、モハンマド・レザー・パフラヴィーは自らへの権力集中に成功した。一九五七年にCIAとFBIとモサドの協力を得て国家情報治安機構(SAVAK)を創設した。この秘密警察SAVAKを用いて政敵や一般市民の市民的自由を抑圧したシャーは白色革命の名の下、米英の強い支持を受けてイラン産業の近代化を推進し、大地主の勢力を削ぐために一九六二年に農地改革令を発した。特に一九七〇年代後期にシャーの支配は独裁の色合いを強めた。
イラン・イスラーム共和国
シャーの独裁的統治は一九七九年のイラン・イスラーム革命に繋がり、パフラヴィー朝の帝政は倒れ、新たにアーヤトッラー・ホメイニーの下でイスラム共和制を採用するイラン・イスラーム共和国が樹立された。新たなイスラーム政治制度は、先例のないウラマー(イスラーム法学者)による直接統治のシステムを導入するとともに、伝統的イスラームに基づく社会改革が行われた。
打倒したシャーへの支持に対する反感により対外的には反欧米的姿勢を持ち、特に対アメリカ関係では、一九七九年のアメリカ大使館人質事件、革命の輸出政策、レバノンのヒズボッラー(ヒズボラ)、パレスチナのハマースなどのイスラエルの打倒を目ざすイスラーム主義武装組織への支援によって、非常に緊張したものとなった。
以上ウィキペディアから。
イスラム原理主義を国是としたといわれても、人々の日常生活に課されている宗教的規範がどのようなものなのか、細かなことまでは分からない。たまに目にするニュースにも驚くことが多いが、若い女性がヒジャブを着用していないことで逮捕され死に至ったというニュースには、驚きを越えたものがあった。ヒジャブと聞いて、何それと思う人も多いだろう。ここでは使いなれたスカーフ(頭部にも被るが)と呼ぶことにする。その後のスカーフ着用を強制する政府に対するデモと警察隊による鎮圧、そしてイスラム教の規定にふれる人たちを取り締まる道徳警察に対する反発が続いている。デモから半年たって、都市部ではもうスカーフなんかするもんかという女性たちの反発に同調する人びとが増えている。そこに「スカーフ着用はイスラム教の教えに従うものであり、イランの民族としての習慣であり、法で決められたもの」だとあえて言い出したのか、言わざるをえなくなった政府のありようが日々ニュースとしてながれてくる。世界中で発信される英語のニュースの一掴みしか見ていないが、目にしたニュースの主要個所は下記のとおり。
GQというサイトの記事が発端を分かり易く説明している。
「ヒジャブ着用をめぐる22歳の女性の死が、イラン全土から世界へと抗議の声を広げた理由」
https://www.gqjapan.jp/culture/article/20220928-mahsa-amini-hijab-iran
2022年9月28日
ヒジャブ着用を義務づける法律に違反したとして、22歳のマフサ・アミニさんが、9月13日(現地時間)、イランの首都テヘランで道徳警察に逮捕・拘束され死亡した。
警察側は彼女が心臓発作を起こしたと主張しているが、アミニさんの家族は、事件前まで彼女が健康であったと話している。アミニさんは、頭部を強く殴打された疑いがある。
事件以降、イラン国内は騒然としている。イラン情報通信技術省によると、活動家たちが組織化に利用してきたインターネットやソーシャルメディアへのアクセスは、「安全上の理由」から9月21日以降、制限されているという。
アミニさんの悲劇を受け、イランだけでなく、中東・北アフリカ地域や、世界各国の女性たちも立ち上がった。多くの女性たちが街頭に出て、ヒジャブを脱いだり燃やしたり、髪を切ったりして、象徴的な行動を続けている。
東京新聞電子版
「怖いけど、これが私の意思表示」 ヒジャブ着用抗議デモ後、イランで髪を出す女性が増加
https://www.tokyo-np.co.jp/article/224106
2023年1月8日 06時00分
イスラム教徒の女性が髪を覆う布「ヒジャブ」の着用を巡る抗議デモが、昨年9月からイラン全土に広がった。経済低迷への不満を背景に、イスラム体制にも怒りの矛先が向く。権利拡大を求める女性らは、警察の取り締まりにおびえながらも、抗議の意思表示を続けていた。
ヒジャブ着用を巡るデモ イランでは、イスラム法に基づく政治体制に移行した1979年の革命以降、女性は国籍や宗教を問わず、髪の毛を覆う「ヒジャブ」の着用が義務付けられている。昨年9月、テヘランでヒジャブの「不適切」着用を理由に、クルド人女性(22)が風紀警察に拘束され、その後死亡した。全土に抗議デモが拡大し、その後反政府デモへと変容。人権団体の調べでは、治安部隊との衝突でこれまでに470人以上が死亡した。
街には、ヒジャブで髪を覆わない女性が少なくない。「表だって訴えられないけど、デモへの賛同は示したい」。女性たちの姿からは、そんな無言のメッセージがにじむ。首にヒジャブを巻くのは、突然の取り締まりに備えてだ。
昨年12月以降、ヒジャブ着用を取り締まる風紀警察がテヘランの街角から姿を消した。政府の明確な説明はない。現在は風紀警察に代わるように、デモが頻発した目抜き通りや広場では重装備の治安部隊が重点的に配置されている。
APドバイ電
https://apnews.com/article/iran-crime-tehran-59d4b028bbd402a642b83fdddc35fdc8?user_email=885991de1e0bc543407be9533f0f209b031a7c7d8ec7be89dfefe40606c169e2&utm_source=Sailthru&utm_medium=email&utm_campaign=December08_MorningWire&utm_content=B&utm_term=Morning%20Wire%20Subscribers
Dec 8, 2022
ドバイ(アラブ首長国連邦)(AP) – イランは木曜日、同国で進行中の全国的な抗議活動中に犯したとされる犯罪で有罪判決を受けた囚人を処刑したと発表した。
この死刑執行は、9月中旬にイランの道徳警察に対する反発から始まった抗議行動に関与した他の被拘禁者にも死刑の可能性があることを意味する。抗議活動はその後、1979年のイスラム革命以来、イランの神権政治に対する最も深刻な挑戦の1つに拡大しました。
活動家たちは、近い将来、他の人々も死刑になる可能性があると警告しており、これまでに少なくとも12人がデモに関与したことで死刑判決を受けたと述べています。
Die Welt電
Who are Iran’s ‘morality police’?
イランの「道徳警察」は誰なのか?
https://www.dw.com/en/who-are-irans-morality-police/a-63200711?maca=en-newsletter_en_bulletin-2097-xml-newsletter&r=17278361311318970&lid=2363170&pm_ln=178775
Dec 5, 2022
「道徳警察」は何をしているのか?
“指導パトロール “と訳され、「道徳警察」として広く知られているGasht-e-Ershadは、強硬派のマフムード・アハマディネジャド前大統領の下で設立されたイランの警察部隊である。
イランでヒジャブの着用が義務化されたのは1983年。しかし、この部隊が街頭パトロールを開始したのは2006年のことで、イスラム教の服装に関する法律を公の場で取り締まることを任務としています。
イランの社会的規制の大部分は、イスラム教のシャリーア法の国家解釈に基づくもので、男女ともに節度ある服装を要求しています。し かし、実際には、「道徳警察」は過去に主に女性を対象としてきました。
Al Jazeeraが報じてきた原理主義政府の主張
Iran’s Raisi says hijab is the law as women face ‘yoghurt attack’
イランのライシ氏、女性が「ヨーグルト攻撃」に遭う中、「ヒジャブは法律」と発言
https://www.aljazeera.com/news/2023/4/1/irans-raisi-says-hijab-is-the-law-as-women-face-yoghurt-attack?utm_source=sendinblue&utm_campaign=Weekly%2005042023&utm_medium=email
イラン大統領、マシュハドで無帽の女性にヨーグルトを投げつける男の動画を見て「ヒジャブは法律」と発言。
内務省の木曜日の声明は、ベールを「イラン民族の文明的基盤の一つ」「イスラム共和国の実践的原則の一つ」と表現し、この問題に関して「後退や寛容」はないとした。
政府はこれまで、ヒジャブのルール違反に目をつぶってきたが、このことが政府寄りの宗教指導者や政治家の怒りを買っている。
メディアの報道によると、ある宗教指導者とある議員は土曜日、政府がヒジャブの遵守を義務付ける規則の施行に踏み切らない場合、自ら行動を起こすと脅した。
一人の女性が収監中に死亡したことから大規模な抗議活動に発展した。抗議活動に参加した人たちが逮捕され、死刑を宣告された一人の死刑が執行された。スカーフ着用はイラン民族の文明基盤の一つであり、イスラム教の実践的原則とし強硬な弾圧が続いてきたが、都市部の若い人たちのなかにはイスラム教の実践というお題目を掲げて市民生活を拘束しているだけじゃないかと、普通の常識があるひとなら誰もが思うことだろう。
ウクライナ戦争で中央アジアに対するロシアのたがが崩壊しようとしているときに、スカーフの着用うんぬんで騒いでいる場合か。
イスラム教どころか宗教とは縁のないもの、そして規則や法律だからという主張に対しては、なぜその規則や法律が何のために、何を目的としているか。そもそも規則も法律も人がときどきの状況を自分たちの都合のいい方にとしてつくったものでしかないじゃないか。そんなもの今の状況にてらして功罪を確認して、廃棄したほうがいいものもあれば、改善したほうがいいものもあるだろう。普通の頭があれば、遠い昔に誰かが誰かの都合で決めたことを墨守すれば今日の生活との間にあきれつが生まれることぐらい想像できるはずだろう。
法律ですから、規則ですからってのはどこかの頭の固い、呆れた中学や高校の校則と五十歩百歩じゃないか。言ってみればたかがスカーフ、数千年の歴史と文化を誇るイランは、そんなもので騒ぎになるような脆弱な社会じゃないはずだと信じている。
道徳は人びとの日常生活の規範のなかから生まれるもので、権威や権力で強制するものでもなければ、されるものでもない。
2023/4/8
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13034:230524〕
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