中国はロシア産石油のEUへの迂回流入をどう見ているか
- 2023年 5月 29日
- 評論・紹介・意見
- EUインドロシア石油阿部治平
――八ヶ岳山麓から(427)――
この4月初め、今年2月からロシア原産の石油製品がインドから欧州連合(EU)に輸入されていることが伝えられた。石油分析会社の調査によると、インドのロシア産原油輸入はこのところ連続増加し、イラクを抜いて全輸入量の450万─460万バレルの2割強に達した。インドは、ロシアがウクライナに侵攻を開始して以降、ロシア産原油の大きな得意先となっている。
一方、欧州のインドからの軽油・航空燃料輸入量は、ロシアのウクライナ侵攻以前は平均で日量15万4000バレルほどだったが、EUがロシア産石油製品輸入を禁止した2月5日以降、輸入量が20万バレルに増えた。主な買い手はフランス、トルコ、ベルギー、オランダである(ロイター2023・04・05)。
こんなことをやっていて、EU当局が何か言わないはずがないと思っていたら、5月になって、EU外交トップ・ボレル外交安全保障上級代表が「ディーゼルやガソリンがインドから欧州に入ってきて、それらがロシアの原油によって生産されたものだとしたら、それは制裁の回避であり、EU加盟国は取り締まりなどの対策を講じる必要がある」との見方を示した(CNN 2023・05・17)。
これにたいして、インドのジャイシャンカル外相は、「EUの制裁規定によれば、第三国が加工したロシア産原油はもはやロシア製品とは認められない」と、そっけない答えをした。
ちなみにロシア産化石燃料の輸入大国は中国だが、中国当局が20日に公表したデータによると、5月中国の原油輸入はロシア産が前年比55%増となり、サウジアラビア産を抜いて1位となった。
中国に次ぐのは、ドイツ、フランス、ベルギー、オランダなどEU諸国である。わたし(阿部)のような素人からすれば、EU当局はインドにごたごた言う前に、なぜドイツやフランスに文句を言わないのか、いやできないのか、実に不可解である。
わき道にそれるが、EUは、対露制裁のために、ロシア産原油に対する価格上限を設定しているが、これによってロシアは、(インドや中国が大量に購入しても)原油からの収入が40%超減少している(米報告書 共同2023・05・18)。その結果、ロシアは天然資源販売を原資とする「国民福祉基金」を取り崩し、財政赤字の補填に使っている。
こうした事態を背景に、中国現代国際関係研究所ヨーロッパ研究所の研究員董一凡氏は、5月19日「人民日報」国際版「環球時報」で、「ヨーロッパとインドの『矛盾』の背後にある複雑な事情」と題する論評を発表した(2023・05・19)。
董氏はEUがインドに対して対露制裁を「遵守」するように圧力をかけても、多くの課題と限界に直面しており、効果は薄いとみている。
まず、「制裁の遵守」という要求とEUの開発途上国の外交方針間には矛盾があるという。というのは、ロシア・ウクライナ紛争の勃発後は、発展途上国が「(いわゆる自由、民主主義、基本的人権といった)普遍的価値観」や西側諸国の地政学的な意図のために自国の利益を犠牲にすることを望まないことが明らかになってきたからである。
ところがEUは、いまだにインドを脅したりして、自らのイデオロギーや政策上の好みで線引きをやり、発展途上国を自分の言いなりになる相手と見ている。
董氏は、これではアジア・アフリカ・ラテンアメリカから更なる反発を受けるだけで、「グローバル・サウス」を西側に結集するという戦略ビジョンは、目的を達することはできないという。
第二に董氏は、EUによるインドへの威嚇は技術的に実現が難しいという。
国際石油貿易のグローバル化が拡大複雑化した現状から判断すると、EUがインドの製油所のロシア原油をはじめとする輸入と製品の輸出をすべて追跡することは技術上困難である。したがって、EUが本当に制裁を発動したいのであれば、インドの石油製品に(全面的に)禁輸措置を課すことであるが、それでもインドが世界中の国家に供給するのを阻止することは難しい。
さらにEUが全面的に制裁しようとして、インドの関連石油会社や金融・保険などの下流サービス企業に包括的な二次制裁を課すことは、従来の一国主義に反対するという主張に違反することであり、ヨーロッパとインドの間の経済・貿易関係では大規模な摩擦がうまれ、経済的、地政学的利益を損なうことは避けられない。
第三に董氏は、EUがインドに対して(政治的な圧力をかけるといった)強硬政策をとることはできないという。
現在アメリカは、「インド太平洋戦略」を推進するため、経済や安全保障の分野でインドを抱き込もうとしており、ウクライナ危機以来、ロシア産原油の大量輸入を見て見ぬふりをしてきた。中国と競争するというアメリカの目標からすれば、インドがロシア産原油を輸入し、加工して輸出することなど「小さな問題」に過ぎない。アメリカの思惑とEUの企図するところとはだいぶ距離があるのである。
そこで董氏は、インドのような発展途上国がEUの味方になるのを望むのは、おそらく非現実的だろうと結論する。それよりもEUが「グローバル・サウス」とのパートナーシップを発展させようとすれば、相互尊重と対立回避こそが正しい方法だ、つまりインドなど途上国相手に突っ張るのは不利益しかないというのである。
わたしが董氏の論評で重要だと思うのは、ウクライナ戦争後「グローバル・サウス」がG7など大国の意向に簡単には従わなくなった現実があるという指摘である。いいかえれば、途上国の中には、いわゆる普遍的価値に基づく外交では動かない、それよりも自国の利益を優先する国家が増えているのである。
広島サミットでは、インド・モディ首相はゼレンスキー大統領と会談しても中立的態度を崩さなかったし、ブラジル・ルラ大統領などはゼレンスキー氏と会うこともなかったことでそれは明らかである。
(2023・05・23)
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