海洋国家中国は日本の上に立つ
- 2023年 6月 30日
- 評論・紹介・意見
- 中国阿部治平
ーー八ヶ岳山麓から(432)ーー
6月21日、人民日報国際版の環球時報は、「日本は『海での中国封じ込め』を実行すれば苦汁を飲むだろう」という論説を掲載しました。内容は今年4月末に岸田内閣が決定した「第4期 海洋基本計画」批判です。
日本では「第4期 海洋基本計画」の閣議決定は、あまり大きなニュースにならなかったので、何ごとならんと読んでいくと、強烈な対日批判でした。筆者は中国現代国際関係研究院海洋戦略研究所副所長の王旭氏。肩書通りだと海洋戦略の専門家でしょう。
そもそも「海洋基本計画」は、海のさまざまな分野に関する日本政府の「基本計画」ですが、王旭氏が問題にしたのは、その安全保障分野です。内閣府の発表した「概略」によるとこうなっています。
1)我が国周辺海域をめぐる情勢への対応
○国際関係において対立と協力の様相が複雑に絡み合う時代において、我が国及びその周辺における有事、一方的な現状変更の試み等の発生を抑止し、法の支配に基づく 「開かれ安定した海洋」を強化することが必要。
○関係機関が連携して防衛力や海上法執行能力等の向上に取り組み、ハード面及びソフト面から、まず我が国自身の努力により、抑止力・対処力を不断に強化することが必要。
この「概略」だけでも、日本政府が中国の海洋進出、力による現状変革に対抗して軍備と治安の増強を計画していることが容易にわかります。以下とびとびに引いて王旭氏の主張を紹介します。
王旭氏による「第4期 海洋基本計画」の概括
――日本は「中国の軍事力増強がインド太平洋のパワーバランスを崩している」といい、「中国の領海侵犯」や「中露合同海洋演習」を口実に日本の国益は未曾有の脅威に直面していると主張している――
――前回の「海洋基本計画」(2018年版)で打ち出された「軍事力の強化」「海上警備の強化」「海洋状況認識(MDA)システムの構築」といった総合的な海洋安全保障の取り組みを再確認するとともに、「海洋政策の大きな変革(Ocean Transformation)」を提起し、MDAシステムを高度化し、水中無人機器などの精力的な開発をすすめる、といった新たな取組みを打ち出した。また、「インド太平洋」諸国への海洋安全保障支援を強化し、「国際海洋秩序を維持・発展させる」と表明している――
日本政府の対中国政策
――日本の国家海洋戦略は安全保障上の不安をあおり、中国を封じ込めることに重点を置いている。例えば、2016年のG7伊勢志摩サミットで、安倍晋三は参加首脳に「東シナ海と南シナ海における中国の膨張」を懸命に説明した。今年広島で開催されたG7サミットでは、東シナ海や南シナ海問題について語っただけでなく、台湾への粗暴な干渉に関する共同声明の採択を促した――
――日本は「中国海洋脅威論」を振りまき、東シナ海・南シナ海・台湾海峡を結びつけ策動した張本人である。 嘘の網を張り続けて「平和憲法」を破り、戦後の国際秩序を破壊し、「政治的大国化」、「海での中国封じ込め」を謀っている――
南西諸島における軍備増強
――(日本が)釣魚島(尖閣諸島)に対する「脅威」を唱えるのは、実際にはこの紛争を口実に南西部の軍備を強化しようとするものだ。 釣魚島とその付属島嶼は古来より中国固有の領土であるにもかかわらず、日本側はいわゆる「国有化」などの違法行為を行っただけでなく、「中国を東シナ海における安全保障上の脅威」として、「反撃能力」を装備しようとしている――
――安倍晋三は政権2期目に就任以来、軍事・海洋安全保障予算を年々増額し、沖縄に軍隊を配備し、ミサイルを設置し、東シナ海における海軍と海上警察の海空の影響力を強化し、南西部で高頻度・高強度・実戦化・国際化した訓練を実施してきた――
日本の南シナ海進出
――第二次世界大戦の敗戦国である日本は、安全保障の面で戦後体制の制約を受けている。 南シナ海では明らかに域外国家であるのに、「被害者」として南シナ海にたびたび介入し、南シナ海の国境を接する国々に哨戒機、哨戒艇、レーダー、海上保安要員の訓練支援などを率先して提供し、最近では「政府の安全保障能力強化支援」を提唱している――
――さらに露骨なのは、日本がアメリカとともに東南アジア諸国に周辺海域の船舶の動きをリアルタイムで提供し、情報と巡視船の提供、海上警備能力の支援を結びつけ、「中国に対する協力ネットワーク」を作ろうとしていることだ――
――日本は、「台湾有事は日本有事だ」「今日のウクライナは明日の東アジアだ」と広言することによって混乱を引き起こしている。台湾問題は中国の内政問題であり、他国がとやかく言うことではない。 しかも日本はアメリカを超越しており、「戦争を止める」というポジティブなイメージを作り上げる一方で、戦後の国際秩序を覆し、「政治大国」になろうとしている――
結 論
――日本経済の低迷、人口動態の悪化、科学技術革新の欠如はいうに及ばず、安全保障戦略の実施だけを見ても、日本の防衛予算はすでに前借状態になっている。しかも自衛隊や海上保安庁は人材確保に苦労しており、どうやって「政治大国」「軍事大国」としての野望を支えることができるのだろうか。
これとは対照的に、中国は陸と海をあわせ持つ大国であり、長い海岸線と多くの島々や岩礁を有し、貿易や海上輸送の面でも世界最大の国家であり、広範かつ遠大な海洋権益を有している。
中国が海によって生まれ、海によって栄えることは歴史と時代の必然であり、強力な海洋国家を建設することは、中華民族の偉大な若返りのひとつである。 中国の海洋強国建設が着々と進み、日本に対する海洋上の優位性が高まることは、日本政府自身が認めていることだ。
こうした背景があるのに、日中の海洋相互信頼を破壊するのは、いったい誰なのだろうか――
わたしの読後感
王旭氏の日本の経済、人口、科学研究などへの言及はあたっています。岸田軍拡が予算の前借状態で、自衛隊に人が集まらないのも周知の事実です。だが、日本の防衛政策とくに南西諸島の軍備増強には中国とアメリカの対立が絡んでいるのに、これへの分析がありません。この論文が激しいことばのわりに説得力がいまひとつなのはそのゆえでしょう。
それに中国が強大な海洋国家になり、日本に対して優位に立つのは当然だというのは、研究者のものとはとても思われません。経済的成功と軍事の強大化がこのような傍若無人の発言をさせたものでしょうが、あらためて中華民族主義は大国主義であることを思い知らされました。 (2023・06・27)
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