ドイツ通信第202号 最近のドイツの政治動向に見られるもの
- 2023年 7月 13日
- 評論・紹介・意見
- T・K生
最近のドイツの政治動向に見られる極右派、ポピュリズムに流れていく危険な傾向の中から、そこに含まれる重要な課題を整理してみます。言うまでもなく議論は必要です。しかし、事態が急展開している現状を踏まえると、それだけではなく具体的な対策と行動が求められているように思われます。どこでストップできるのか、という実践的な課題です。
ドイツで初のAfD郡長が誕生 ゾネベルク(Sonneberg)
6月25日(日)、チューリング州南にある郡区ゾネベルク(Sonneberg)で郡長を選ぶ選挙が行われ、AfD候補者が決勝投票で勝利し、これによってドイツで最初のAfD郡長が誕生したことになります。それ以降、全ドイツで白熱した議論が展開されていきます。なぜか? その原因は? 議論の背景には民主主義(制度)が、このまま極右派、ファシストにどこまで敗北していくのかという危機感があるからです。
2週間前の6月11日に行われた第1回目の投票で、各党派候補者が絶対過半数の50%を突破できず、決選投票に持ち込まれました。
選挙権者数は4万8千人といわれますから、単なる地方の政治スキャンダルとして軽視できないばかりか、決選投票の候補者対立が同時に極右派対民主主義派を体現していることから政治的に重要な意味を持ってきます。そして、そこでの民主主義派の敗北であり、極右派の勝利になります。勝敗は、いかなる解釈や解説の余地を残さないほど明瞭です。民主主義派の口が重くなる所以です。一方で、AfDの軽やかな談話が伝えられてきます。
ここで、第1回投票から決選投票への移行経過と結果を、投票数を見比べながら検討してみることにします。そこに〈政治意味〉が読み取れると思うからです。
第1回投票(6月11日) 決選投票(6月25日)
AfD 46.67% 52.8
CDU 35.71 47.2
SPD 13.25
左翼党 4.36
決選投票はAfDとCDU 候補者の一騎打ちになりますが、SPD、左翼党そして緑の党がCDU支持投票を決定します。
単純に計算すれば、反AfD派の過半数確保は可能です。そこに一抹の期待が込められたのが決選投票前の希望的観測でした。結果はそれを覆すどころか、AfDがさらに得票数を伸ばしたというところに、敗北した反AfD陣営のダメージの強さがあります。
AfDの選挙テーマは、
1.難民――反難民、受け入れ拒否、難民住居へのデモ、放火
2.コロナ――コロナ謀略・陰謀論、個人の「権利と自由」、規制反対
3.ウクライナ戦争――親ロ派路線、戦争の原因はアメリカと西側、軍事出費より市民の生活援助
4.エネルギー・プライス――インフレによる生活困窮の原因はロシア制裁、パイプラインによるロシア・ガス輸入再開
以上からのAfDの政治路線としては、上層階級・エリートの支配に対して〈物言わぬ多数派の民主主義〉を獲得することであり、そこに「怒れる市民」が結集することになります。そのために扇動とプロパガンダが必要となります。市民を怒らせねばならないからです。現在の政治体制は、民主主義制度ではなく、一部エリートと資本ブローカーに支配された独裁体制だという現状認識です。
他方、反AfD派に問われていることは、極右派も「民主主義の獲得」を主張するところから、単なる用語と概念の解釈で闘う市民を眠らせるようなことをしてはならず、明確な闘争の方向性と目的が示されねばならないのです。
反AfD派の民主主義とは何だったのか
この観点から、反AfD派の民主主義とは何だったのかが問われなければならないでしょう。言うまでもなく反AfD自体は民主主義運動ではないからです。そういう意味での民主主義派の反AfDの敗北だっただろうと思われます。
アメリカ・トランプ主義の運動でも見られるように、極右派がそれらしく民主主義概念を持ち出し〈市民の欲求・利害〉というとき、AfDの選挙テーマに明らかなようにその背後にある外国人・難民排斥、人種・差別主義、ナショナリズムそしてポピュリズムの偽装が剥ぎ取られ、それに対する戦線が立てられていかねばならず、それによって民主主義(派)の運動が強化されていくはずです。
なぜなら、地方、地区の各政党のAfD への対応に、テーマによってケース・バイ・ケースで現実主義的にAfDと共同決議をとるケースが認められるからです。選挙で選ばれた政党であり、議会に議席を持ち、各委員会の役職に就くAfD議員を無視することができないのは事実として、その状況が常態化すれば極右派を社会的に認知させていくことになります。それをどこでストップするのかが問われたのが、今回の郡長選挙でした。
ここで過去の一例を挙げれば、既報したように2019年10月27日に行われたチューリンゲン州議会選挙です。(注)
(注)2019年の選挙結果は、以下の通り。
左翼党31%、AfD23,4%、CDU 21,7%、SPD 8,2%、緑の党5,2%、FDP5%
左翼党、SPD、緑の党の少数派政権をCDUがFDPとAfDの連立で何としても阻止しようとし、それによってFDP首相が成立しますが、轟々たる市民の抗議にあい高々24時間の短命で終わる政権でした。CDUが、姑息にもFDP首相選出の黒子役を果たしているのが認められます。
CDU、FDPからは、選挙で選ばれた政党の議会制民主主義―多数決原理に基づくものだという観点からの反論がなされましたが、政治手続きによって民主主義の意味内容――あるいは理念といっていいかと思いますが――が書き換えられ、偽装されれば議会制度が瓦解し、ファシストに乗っ取られていく結末を招くしかありません。
政党の権力奪取に向けた駆け引きが、AfD―極右派グループのサロン化を許している一因だといえます。それ以降、何が変わったのか? 議論は、ここでワイマール共和国まで後戻りすることになります。
ドイツで初のAfD市長が誕生 ザクセン―アンハルト州ガクハ・ジェスニッツ
郡長選挙に続いて7月2日、ザクセン―アンハルト州ガクハ・ジェスニッツでおこなわれた市長選の決選投票でも、同じくAfD候補者が勝利し、ドイツで最初のAfD市長が誕生しました。第一回投票から決選投票までの経過は、上記した郡長選挙と同一の過程を辿っています。(注)
選挙権者数8000人未満の小さい町ですが、重要だと思われるので、ここに記録しておきます。
(注) 第1回目投票(6月18日) 決選投票(7月2日)
第一無所属候補者 16.59% AfD 51.3%
AfD 40.7% 第二無所属候補者 48.87%
CDU 5.28%
第二無所属候補者 36.89%
続いて2024年には、東地域の三つの州――チューリンゲン、ブランデンブルグそしてザクセンで州議会選挙が予定されているところ、極右派の勢いがどこまで広がり、伸びていくのか、また、それへの対応はどうすべきかで議論が繰り広げられています。
とりわけチューリンゲン州議会選挙に向けた事前の世論調査(Infratest dimap)では、AfDが34%で第一党の位置を占め、対して現三党連立(左翼党‐SPD‐緑の党)は全部を合わせても35%にすぎないという結果が出されています。
他の2州も同じで、AfDが30%前後で第一党を確保しています。単に安定しているということではなく、支持率を恒常的に伸ばし続けているというところに、切迫した危機感が感じられるのです。はたして、どこまで?
あくまで選挙に向けたアンケート調査です。しかし、そこに見られる傾向は無視できないはずです。一つの政治的傾向が読み取れるからです。
そこで議論のテーマは、この現象が果たして単に東ドイツ地域だけのものか、どうか? あるいは、ドイツの東西地域に共通する傾向だとすれば、何が原因か? そしてドイツの方向性とは? ここにテーマが絞られてきます。
ここに最新のアンケート調査(Infratest dimap)があります。全ドイツで行われた調査期間は2023年7月3日―7日のものです。各政党の支持率は、以下のような結果が出されています。
SPD 18%
CDU/CSU 28%
緑の党 14%
FDP 7%
AfD 20%
左翼党 4%
勢いが止まらない東西地域でのAfD
東西地域でのAfDの勢いが止まらない傾向を示しています。
一つの危険な議論は、これらを東地域の特別な現象だと強調すれば、AfD支持層が示す市民の抱える問題を無視するばかりでなく、その責任を市民自身に押し付ける結果となり、そうしてさらに、東地域市民・住民が周辺化、辺境化させられていくことになります。実は、これがAfD支持層に顕著に認められるところです。この悪循環を絶ち切らねばならなのです。それは、ドイツ統一のこれまでの意味と結果が問い返されなければならないことを教えています。
もう一つのポイントは、チューリンゲンはAfDの中に潜む極右派、ファシスト勢力の拠点であるということです。
党代表の一人であるヘッケ(Bjoern Hoecke)は、確信的なナチズム、反ユダヤ主義を公然と主張し、2020年以降、州憲法擁護庁の監視下に置かれている人物とはいえ、党内外への影響力には強いものがあり、このAfDと抗議市民の結びつき如何が決定的な意味を持ってくるように思われます。
CDU/CSUは、AfD躍進の原因が現三党連立にあることを強調します。政府が明確な方針を出せず、すべての議論がズルズルと散漫に先延ばしされることが、市民の不安と怒りを煽り、AfDの支持率につながっていると批判すれば、SPDと緑の党からは、CDU/CSUが政府批判のために難民問題を政治利用し外国人差別・排斥を扇動しながら、環境―エネルギー問題では化石燃料から自然再生可能なエネルギーへの転換にブレーキをかけてAfDとの境界線を取り払っていると反論します。
FDPはというと、この間の各州議会選挙で5連敗し、5%の得票率を確保できず州議会で立て続けに議席を喪失したきた経緯から、一方で政権党派として振舞いながらも、また他方では政権内野党として自派の存在性をアピールしてきました。そうしないと党派の役割が実感できなくなっていました。こうして、二足の草鞋を履くことになります。
この現状ではAfDの高笑いが聞こえてきそうです。なぜなら、当の市民が議論の蚊帳の外に置かれてしまっているからです。そこでの議論―反論であるからです。各政党から〈民主主義〉、〈ヨーロッパの価値〉が強調されればされるほど、政党が市民の切実な現状から浮き上がっていくことになります。議論が空回りし、市民の中に鬱積と嫌悪感、そして持っていきどころのない怒りが蓄積してきます。
そこをAfDは、虚偽とプロパガンダで感情的に扇動することになります。意気が上がり、暴力を誘発させるのです。難民への暴行、難民宿泊所への破壊、放火事件、当該する町の市長や政治家、支援者への脅迫、殺人事件は、そうした頂点といえるものです。
同じことは、環境問題をめぐっても見られます。
以上のテーマを別の面から考えていきます。
2023年3月15日に行われたオランダの地方選挙で、「農民・市民運動」(略称BBB)が20%弱の得票率を獲得し、センセーショナルなニュースになりました。地方議会はドイツの連邦参議院と同じような性格を持っていますから、オランダ政府へ多大な影響を及ぼし、内閣の倒壊を引き起こしかねない可能性が、これによって出てきたことになりますが、早急に話しをすすめる前に、その意味と背景について整理してみます。 (注)
(注) Der Spiegel Nr.13/25.3.2023, Aufstand gegen die Staedter von Nadina Pantel
Frankfurter Rundschau Montag,10.Juli 2023, EU-Staat Rechtsruck von Peter Riesbeck
今回の躍進の背景には、一体何があったのか
2019年11月に設立された政党で、2021年にはBBB代表のファン・デア・プラス( Carolin van der Plas)が、唯一国会議員に選ばれています。
今回の躍進の背景には、一体何があったのか。
EUおよびオランダ政府が決定した「窒素排出規制」案に対する抗議です。2030年までに排出を半減するというEU -政府案に対して、農民がトラックターでアウトバーン、地方・田舎に通じる道路をブロックする抗議行動を取り組みました。
なぜなら、農業活動―例えば乳牛や肥育ブタの飼育には窒素排出が不可避であるからです。「規制」案に従えば、3分の1が農業を廃業しなければならなくなり、生存の危機に立たされることになります。
そうなれば単なる一産業の喪失ではなく、これまで世代的に形成されてきた地域の人間関係、文化、伝統、更に数世代間の家族関係も崩壊していくことになります。それによって、多くの人たちに親しまれてきた自然に囲まれた、長閑な田舎の観光産業も衰退していきます。地域が消滅しかねないのです。
これが、BBBの主張するところです。
私たちの食卓にも、オランダからの野菜が並びます。アメリカに次いで二番目の農産物輸出国だといわれるオランダでは、しかし、狭い敷地で最大限の生産性を生み出す必要性から、全ヨーロッパの平均値と比べて多量な窒素が排出されることになります。
BBBは、「決して環境保護に反対しているわけではない」、「農民の意見を聞け」と言っているのです。「規制」案では結論が述べられているが、しかし、農業活動―乳牛や肥育ブタの飼育に関しては、すべての経済的・財政的責任が農民の一手に負わされることになり、この矛盾にEUの政治(家)は、まず気づかなければならないでしょう。
政治が人心離れしてしまっているのです。自然環境、バイオ、気象保護などの名目で! では、その現実をどう把握するのか?
BBBが、〈反体制政党〉と自他ともに認める所以です。
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ここまで書いてきて、フランスの「黄色ベスト」運動と同様な発展過程が連想されます。CO2減少のために環境税が燃料に課せられました。農村生活での移動には車が不可欠なばかりか、農業用機や器具そして輸送車両には多量の燃料が必要です。その上に環境税です。
フランスでの運動が、その後どういう経過を経て収束していったかの詳細な情報と資料が手元にないので、ここでは事実関係の比較だけにとどめておきます。
×××××
早速トランプは、「環境・気象保全独裁に対する闘争」とアピールすれば、ル・ペンは、「連帯」を訴えてきます。しかし、そう簡単に言って事が済ませられるのかという問題です。
極右派・ポピュリストの論理が、政敵を見つけ出し社会対立と混乱を誘導するために、問題を二極論――というか白黒論によってより単純化させることに対して、それに対抗する戦線はどう立てられるべきか?ここが分岐点になるように思われます。
多極で多彩な視点が求められます。それはまた、戦線の多様性を保障することになるはずです。
それをオランダ、フランスの2つの運動から何点か、以下に整理してみます。。
1.顕著なのは、現実的に必要とされる環境、エネルギー対策が、その目的のために引き起こされる社会的再編と変動の経過を結末まで見越して立てられているのか、どうかでしょう。環境税、排気ガス規制、農薬規制等々――これらの規制の必要性を認めながら、その結果が市民の財政負担、農民および小売り業(特にパン屋さん)の経営困難を導いていることを無視し、無自覚であれば、市民の生存(権)は保障されることなく、社会は貧富の二極に分解していきます。ここが金融、産業が危機に陥った時との一番の大きな違いだろうと思います。富めるものは更に富み、貧しい人はますます貧しくなっていく現実経過です。
2.都市と農村の対立です。2つの運動に見られるのは――こう言ってよければ農村の都市に対する反抗です。その背景にあるのは社会のモダン化――新自由主義の現われ方でしょう。情報産業――IT、コンピューターの導入により社会再編は急ピッチで進みました。特に都市部で。それによって労働環境が変わり、日常の人と人の関係性も従来の直接的で個人的な関係から、コンピューターによる、その意味で顔の見えない匿名による関係になりかわってきました。こう考えれば、情報産業が確かに一方で、新しい社会のネットワークを作り上げたのは事実として、他方で社会を、そして個人を孤立させ、分裂させてしまったのではないかと思われてなりません。私などコンピューター音痴には、そうとしか思えないのですが。世のスピードについていけない部分が出てきて当然です。
その対極にあるのが農村ではないかと思います。時間はゆっくりゆっくり進みます。自然と土の上で営みを続ける農村では急激な変化は不可能です。農民にとってみれば社会のモダン化は、農村社会の破壊として感じられて当然でしょう。自然と土地が取り上げられていくことへの危機感です。生産手段を農民自身の手中に確保し、自ら決定し運営管理していくことです。
3.この同じことが、都市での社会層分岐を引き起こし、貧困層になり果てるのではないかという先行きへの不安定感が中間層の危機意識を高めることになります。この層には現状維持が望ましいのですが、それが許されない現状からの動揺が、この層を政治行動に向かわせることになります。
従って今回のBBBの選挙勝利は、単に都市と農村の対立を越えて、新自由主義によって経済活動と社会参加を排除されてきた、そしてされていくだろうと予見されるあらゆる諸階層が結集する抗議声明であったと理解できるのです。
4.これを書いている途中に、オランダから首相退陣のニュースが入ってきました。
今後、EUの中にこうした傾向の政治グループが大きな一つの勢力になってくることが予測されます。
以上、現状でトランプなどがアピールするようにBBBを右派ポピュリストと規定することはできませんが、しかし「黄色ベスト」の経験から、それへの転換が進むのか、あるいは大衆的な戦線が成立するのかは、実は、環境、エネルギー問題への私たち一人ひとりの関り如何によると思われ、これを書きました。
最後に、BBBの政治判断に必要な3点を付け加えておきます。
1.難民問題に関しては、オランダの極右派が主張する「受け入れ拒否、排除」に反対して「規制
下の移民政策」を主張。
2.弱者を援助し、国家は介入を控えるべき。
3.そこからコロナ対策に反対する人たちが結集することになりました。
4.市民の声を聞き入れ、政治に伝える。
多数、多様な市民を結集できる大衆的な政治運動とは何か? 極右派、ポピュリストの運動がどこか遠い世界の出来事ではなく、私たちの優れて身近な――こう言ってよければ紙一重のところで凌ぎあっている世界であるのが見えてきます。
2022年9月スウェーデン、2023年2月フィンランドでも戦後の伝統的な社民政権が保守ポピュリスト派の政権に変わりました。決定的にしたのは、コロナ禍に次いでウクライナ戦争がもたらす経済危機と財政負担で、「福祉国家の模範」といわれてきたスカンジナビア半島を支えていた福祉、教育、家庭・子ども、健康・医療等、社会分野の経費がカットされることになり、この問題は各国どこでも共通しているはずですが、その決定的な責任を、保守派とポピュリストは難民に求めたことです。この点でも各国共通し、次いで登場したのがイタリアの政権です。最近のところでは、ギリシャの選挙でも左派の衰退から、分散しているとはいえ右派ナショナリスト、極右派、オーソドックス派の台頭が顕著に認められ、3グループを合わせると13%になるといわれています。
キリがないほど、こうしてヨーロッパには右派ポピュリズムが蔓延しています。そして、ドイツの政治動向が連なります。
闘争の「紙一重の凌ぎあい」という視点から、ドイツの状況を振り返ってみます。
ベルリンの市長選挙が、課題の所在を教えてくれているように思われます。
ベルリンの市長選が行われたのは、2021年9月26日の連邦議会選挙と同日でした。事前予測は、緑の党が頭をひとつ抜けて、最初の首都での緑の党市長誕生が謳われていました。しかし、選挙直前にはSPDが抜け出てきます。(注)
(注)選挙結果は以下の通り
SPD21.4% CDU18% 緑の党18.9% 左翼党14.1% AfD8% FDP7.1%
しかし、投票用紙の不足や事務処理の不手際で投票所が1時間早く閉鎖され、逆に長蛇の列ができ18時の閉鎖時間を越えて投票が行われ、選挙民からの訴えで2022年11月ベルリン憲法裁判所がこの選挙を違法とする決定を下ろし、2023年2月12日に再選挙が行われることになりました。
信じられない、というか笑い話のような話ですが、事実です。
第1回の選挙で成立したSPD‐緑の党‐左翼党の連立政権は、これによって1年半足らずで任期を終了することになりました。
2023年2月12日の再選結果は、しかし短期だとはいえ連立政権に失望した市民の声が反映されることになります。(注)
(注)SPD18.4% CDU28.2% 緑の党18.4% 左翼党12.2% AfD9.1% FDP4.6%
まず、選挙結果の数字の読み方ですが、
1.SPDと緑の党は同率です。しかし、得票数の差で105票の違いが出ています。その後、郵便投票の開封されていない地区が発見され、その分の開票が行われ、結果的にその差が53票まで接近しますが、順位に変化はありません。
2.勝利者はCDUとAfDとなり、ベルリンの今後の政治傾向を示しています。
3.FDPは、昨年のザーランド、シュレスヴィヒ‐ホルシュタイン、ノルトライン‐ヴェストファーレンそしてニーダーザクセンに続いて5連敗を喫することになり、ここからの脱出のために政権内野党への方向転換を図ります。
4.第1回選挙後の3党連立は可能でした。しかし、SPDと緑の党との間で政策の共通確認が取れず、CDUとSPDの連立が成立します。
問題はこの流れの背景に何があったのかということです。
1.皆さんも記憶にあると思いますが、大晦日にベルリンをはじめ各都市部で大規模な騒擾がありました。車が放火され、ケガ人が多発し、その救助に向かう救急者が妨害される動画がTV等で報道されていました。
私の記憶では、拘束された騒擾参加者の85%が「ドイツ国籍の青年」と新聞、雑誌で報道されていたはずです。
それに対してCDUは、「名を公表すべきだ」と主張します。出身国を公表しろと言っているのです。
例えば「トーマス」と「アリ」の違いは歴然としています。それを公表しろということは、ドイツ国籍にもかかわらず、あくまで外国人扱いされ、ドイツ市民としては差別扱いされるということです。
これに対してSPD候補者(当時の市長Franziska Giffey)が、「私たちの子ども」と擁護し、反外国人・反ムスリムに対抗しようとしたことは、とげとげしい議論の中でも心の救いになりました。
2.SPD候補者は政治的にどちらかというと党内右派グループに属し、緑の党と環境対策では意見の同意がとれなかったように思われます。
環境問題では合意は出来ても、その具体的な対策となれば、SPDは社会的なバランスに配慮しがちですから、環境という一つの目的の実現ために対策を立てていく緑の党との間に亀裂が生じてきます。
この問題を象徴するのが、選挙2週間前に緑の党候補者(Bettina Jarasch)――ベルリン市自然環境、交通上院議員は、独自の判断でフリードリヒ通りの車の通行を禁止し、歩行者天国にしました。環境整備の一環です。
しかし、この通りはチェックポイント・チャーリーまで延びる観光客のホット・スポットであり、ショッピングの中心地になっているところ、小売り業者、商店主、住民からの反発が出てきます。裁判の結果、この軽率なスタンド・プレーは取り止めになりましたが、緑の党支持者の投票を意図した典型的な示威行動でした。
3.緑の党候補者は、選挙前にジャーナリストを前にしたインタヴューでSPDとの統一した政策実現の困難さ、定まらない方針を吐露しながら、次に「ギファイ(SPD市長)は、分裂症だ」と対抗馬を批判しました。TVニュースからの記憶ですが、これを聞いた時、どのような選挙結果が出ようと選挙戦は終わったと感じました。
彼女の意図するところは、緑の党が第一党になって三党連立、よしんばそれがSPDから蹴られた場合には、CDUとの連立を実現することでした。
4.この経過を追いながら、2013年のベルリン市長選が思い起こされます。2011年フクシマ原発事故から、高まるドイツの反原発運動の追い風を受けて緑の党市長誕生は、ほぼ確実視されていました。
突然、候補者(Renata Kuenast)は、私には突発的と思えたのですが、週に一日、学校給食および企業食堂で「採食日」(Veggie Day)を設置するよう提案してきます。食生活に採食が健康にいいのは誰もが知っています。しかし、食の選択と嗜好などは政治から強制されるような代物ではなく、教育と啓蒙の長い時間をかけて生活習慣になっていくものです。それよりはむしろ栄養のバランスをすすめるほうが、特に子どもたちには喜ばしいことだと思われるのです。
現実には、定期的に「採食日」を自主的に取り入れている企業、会社を知っています。「緑の党の独裁」という言葉が、私の記憶では、このあたりから一般化し始めたのではないかと思われるのです。
5.次に、議会における市長新任投票の経過と結果についても、触れておかねばなりません。
4月27日の投票では、全議席159、絶対過半数は80ですが、1回目投票71票、2回目79票で絶対過半数に達しません。CDUとSPDの議席を合わせると86票になり、SPD-Jusoはじめ各地区では「大連立」反対意見が強かったですから、いろいろな詮索が可能です。また、AfDの動きもこの時点では認められません。
ようやく3回目投票で86票を獲得して、CDU市長が誕生しました。CDUは20年来の返り咲きになります。AfDの動向に注目されましたが、ここでもいろいろな詮索だけでした。
こうして見てくると、チューリンゲンの郡長選挙、ザクセン―アンハルトの市長選挙は、おなじような長い経過の背景を持っていることがわかります。
テーマを語りながら、何が足りなく、抜け落ちていたのか? と自問させられることになります。それが、これを書いた動機になります。各政党を批判して、自己の正当性を主張するようなことではなく、政治が動く内部のメカニズムを分析しながら、あくまで自分の立場を明確にし、そこから人に語り掛けていくためです。
それが、一つのトレンドのように政治家の中で使用されている「価値」や「民主主義」を作り上げていくことになるだろうと考えるようになりました。そのために闘うのではなく、人種・差別主義、ナショナリズム、ポピュリズムと一線を画しながら、様々な領域で且つ多様な人たちとの連帯を通して「価値」や「民主主義」を作り上げていくということです。それによって結集する人たちの多様性と多彩性が、その言葉に実現されると思います。
最後に、一つの興味ある動きとして、2023年3月3日公共サーヴィス・運輸・交通労働組合の春闘―労働条件改善、賃上げ闘争に、FFFが連帯、共同行動をとりました。全く新しい動きだと思います。今後、どう発展していくか注目しています。 (つづく)
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〔opinion13126:230713〕
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