被爆78年、広島は再び立ち上がった 核抑止論に固執したG7批判の大合唱
- 2023年 8月 9日
- 時代をみる
- ヒロシマ岩垂 弘広島核核抑止論
広島は8月6日、「被爆78年」を迎えた。ウクライナ戦争で核兵器が使われるのではないかという危機感が世界に広がる中、広島市では、この日を中心に、市当局や平和団体などによるさまざまな催しが行われたが、それらに共通していたのは、この5月に同市で行われたG7(主要7カ国)広島サミットの首脳会議が「核抑止論」を安全保障政策の基本として確認したことへの強い反発と、核兵器を廃絶するには核兵器禁止条約に世界の全ての国々が参加する以外にないという世界への訴えだった。長期にわたるコロナ禍と、G7広島サミットへの失望で落ち込んでいた広島の核兵器廃絶運動は、不死鳥のように甦ったように見えた。
私は1960年代から、「広島原爆の日」の8月6日を中心とする諸団体の催しの取材を続けてきた。今年で52回目。4日から6日にかけて、市内で行われた催しの一部を見て回った。異常な炎暑下での催しだったが、世界と日本の各地から「核なき世界」の実現を願う人びとが集まった。
「核抑止論」からの脱却を訴えた平和宣言
6日午前8時から平和記念公園で始まった広島市主催の平和記念式典には、市民や内外の各地からやってきたきた約5万人(広島市発表)が集まった。コロナ感染防止のため、2020年から式典参加者が極端に制限され、中でも20、21年はわずか880人しか式典会場に入れなかった。それを考えれば、記念式典は4年ぶりに往事の規模をほぼ取り戻したと言ってよかった。
記念式典のハイライトは市長名で発表する「平和宣言」である。今年は松井一實市長が登壇して宣言を読み上げたが、その中で「核による威嚇を行う為政者がいるという現実を踏まえるならば、世界中の指導者は、核抑止論は破綻しているということを直視し、私たちを厳しい現実から理想へと導くための具体的な取り組みを早急に始める必要があるのではないでしょうか。市民社会においては、一人一人が、被爆者の『こんな思いは他の誰にもさせてはならない』というメッセージに込められた人類愛や寛容の精神を共有するとともに、個人の尊厳や安全が損なわれない平和な世界の実現に向け、為政者に核抑止論から脱却を促すことがますます重要になっています」と述べたのだ。
「核抑止論」とは、核兵器の保有はその法外な破壊のために、かえって戦争を抑止する力となるという考え方だ。さる5月に広島で開かれG7広島サミットで採択された「核軍縮に関するG7首脳会議広島ビジョン」は「われわれの安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」として、G7各国が核抑止論を是とする立場であることを明確にしていた。
被爆者の声に耳を傾けた?
私はいささか驚いた。「宣言は核抑止論を否定し、世界の為政者は核抑止論から脱却せよ、と提言している。いわばG7の広島ビジョンへの“反逆”ではないか」と。松井市長が自民・公明の推薦で市長に当選し、現在4期目であることから、余計そう思ったわけである。
松井市長はなぜ、宣言でここまで踏み込んだのか。察するに、広島ビジョンの発表後、多くの被爆者や平和団体・市民団体が広島ビジョンについて抗議の声を挙げていたことから、市長としてこうした動きを無視できない、と考えたのではないか。
平和団体も次々と核抑止論批判
平和宣言に留まらない。平和団体の大会・集会でも核抑止論批判一色だった。
原水爆禁止日本協議会(原水協)系の世界大会国際会議で採択された宣言は「G7広島サミットが『核抑止論』を公然と主張し、被爆者被爆地を愚弄したことは、断じて許されない」と述べ、さらに「今年7月に開かれたNATOの首脳会議は、安全保障にとって『核兵器が唯一無二の存在』だとし、核兵器にしがみつく態度を改めて表明した」としていた。
また、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)系の世界大会・広島大会で採択されたヒロシマ・アピールは「G7広島サミットで出された『核軍縮に関する広島ビジョン』は核廃絶どころか、核兵器禁止条約や核兵器の先制不使用宣言にも全く言及されておらず、核による抑止力と北大西洋条約機構の核共有を正当化しただけの許しがたいものでした。核兵器を所持することが核抑止になることは絶対にありません。被爆の実相こそが、核兵器使用を思いとどまらせてきた最大で唯一の核抑止力であることを、改めて強く社会に発信していく必要があります」と述べていた。
さらに、8・6ヒロシマ平和のつどい2023実行委員会主催のつどいが採択した「市民による平和宣言」は、「G7広島サミットでは、私たちが予想した通り『ヒロシマ』はG7広島サミットという権力者の軍拡、軍事同盟強化、ウクライナ戦争激化、拡大核抑止強化、戦争準備に利用された。岸田首相が宣伝した『核なき世界への道筋をつける』といううたい文句は『核抑止を前提とした解決』という首脳声明によって完全にメッキが剥がれた」としていた。
日本も核兵器禁止条約に参加を
「8・6」関係の催しを見て回っているうちに、「核なき世界」を実現するための一番の近道は、世界の全ての国が核兵器禁止条約に参加することではないか、と思えた。
広島市によると、すでに92カ国・地域が署名し、国連加盟国の半数に迫っている(うち批准は68カ国・地域)。広島市の平和宣言は、日本政府に対し「一刻も早く条約の締結国となり、核兵器廃絶に向けた議論の共通基盤の形成に尽力するために、まずは本年11月に開催される第2回締約国会議にオブザーバー参加していただきたい」と述べている。
平和団体・市民団体も同様の要求を日本政府に求めている。
なお、平和記念式典での岸田首相のあいさつについて何人かに感想を聞いてみたが、いずれも「心に残るものはなかった」という回答だった。中国新聞によると、平和記念式典に参列したカナダ在住の被爆者、サーロー節子さん(91歳)は「核兵器廃絶への強い思いや具体的な計画が見えなかった」と失望感を露わにしたという。
核兵器廃絶運動も世代交代へ
最後にとくに印象に残ったことを一つ。それは、「8・6」をめぐる様々な催しに若い人たち、とりわけ高校生や中学生が目立ったことだ。全国各地からやってきた労働組合員にも若い人が多かった。被爆から78年。核兵器廃絶運動でも明らかに世代交代が始まっている。そんな思いを強くした。
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