大阪維新府政の教育破壊 私立高校授業料無償化の意味するもの
- 2023年 9月 6日
- 評論・紹介・意見
- 大阪府小川 洋日本維新の会私立高校授業料無償化
安倍政権以来、政治家が、すぐに嘘とわかる嘘を平気で口にする姿は、すっかり見慣れた景色となっている。トランプ前大統領は在任中もその後も嘘を吐き続けているが、強固な支持者を失ってない。嘘をついても、あるいは嘘をつくことによって、政治家が支持されるという状況を、どう理解すればいいのか。ここでは日本維新の会が2,3年前から繰り返していた「大阪における私立高校授業料完全無償化の実現」なる嘘を取り上げたい。
維新の会の嘘
2021年衆議院総選挙、22年の参議院選挙の際、日本維新の会の共同代表である吉村大阪府知事、同代表の馬場衆議院議員らは、「私立高校の授業料の完全な無償化を実現しているのは大阪だけ」という主張を繰り返した。しかし実際は、大阪府でも他の府県と同様、子どもを私立高校に通わせれば、一定以上の所得のある世帯には授業料負担がある。
他党やメディアなどから、その主張の虚偽性を指摘されると、彼らは、しれっと「選挙中だったので、(盛った)」とか、「(授業料負担のある)該当者には理解できている」(カッコ内は、筆者)など、嘘をつくことに疚しさを全く感じていない姿を見せた。
民主党政権の高校無償化法と私立高校授業料の軽減
民主党政権下の2010年、公立高校の授業料を不徴収とする法が成立した。その際、私立高校にも公立高校授業料に準じた額の補助金を提供し、保護者の負担軽減も実施された。政権に復帰した自公政権は、保護者の所得水準に応じた授業料徴収を復活させたが、その後、国と地方自治体からの助成によって、いずれの府県でも一定の所得制限はあるものの公立・私立を問わず、授業料負担は大幅に軽減されてきた。
筆者の住む埼玉県では、子ども二人の世帯年収が720万円以下であれば、私立高校の平均的な年額授業料である40万円が、国と県の支援金として保護者に支給され、実質的に無償となっている。大阪府の場合、私立高校の平均授業料は約60万円で、世帯年収が590万円以下であれば、その全額が同様の仕組みから支給される。しかし収入がそれ以上であれば、10万円から最大で60万円(年収910万円以上の世帯)の授業料負担がある。他の府県と比べても特に負担が軽減されていたわけではない。にもかかわらず、維新の代表たちは、「完全無償化を大阪だけが実現している」という嘘を繰り返していたのである。
私立高校の「身を切る改革」
大阪府はこの5月、来年度からの段階的な「授業料の完全無償化(案)」を発表した。変更点は「所得制限の撤廃」である。従来、授業料負担を求められていた所得の多い者ほど恩恵を被る「改革」である。しかし吉村知事によれば、これで大阪の子どもたちは公立・私立を問わず、行きたい学校に行けるようになり、選択肢が増えるのだと主張する。
さらに驚くことに、授業料が60万円を超える学校は、超える分を私立学校が負担するとするものだった。しかもこの案は、事前に私立学校側に相談も連絡さえもなく、一方的に発表されたという。さすがに私学側からの反発を受け、基準額を63万円に引き上げることによって、私学側の最終的な了解を得て落ち着いた。
大阪府の私立高校96校のうち授業料が63万円を超える高校は25校あり、私立学校側の負担は総額約7.9億円となるという(読売新聞、2023/08/10)。日本維新の会は常々「身を切る改革」という標語を好んで使うが、これでは、「他人(私立学校)の身を切って」、自分たちが府民に「いい顔をする」ということになる。
私立高校への生徒誘導-公立高校の相次ぐ閉校
私立側に断りもせずに負担を求める案に対し、反発はあまり強くないだろうと府側が考えていた背景がある。少子化の進む中、大阪府市は多くの公立高校を廃止し、その結果、私立高校への進学者数の減少幅が抑えられてきたのである。大阪府は、2012年に「府立学校条例」に以下のような項目を設定し、府立高校を半ば機械的に減らしていく策をとっている。
入学を志願する者の数が三年連続して定員に満たない高等学校で、その後も改善する見込みがないと認められるものは、再編整備の対象とする。
この条例に基づいて、公立高校は16校がすでに閉校または閉校予定となっている。今後さらに9校の閉校が見込まれている。この結果、公立から私立への生徒移動が進んでいるのだ。13年度の大阪府内の高校入学者は80,695人(公立46,893人、私立33,353人)だったが、22年度は67,821人(公立36,800人、私立30,583人)となっている。公立高校が約1万人減らす一方で私立は3,000人程度の減少となっている。
少子化の進行は今後も避けられない。上図は22年の府内の児童・生徒数である。中3約74,000人から、小1の67,500人まで、今後9年間でさらに6,500人の減少が確実である。標準的な規模の高校がさらに20校ほど消える計算である。私立高校の経営者にとっては、頭の痛い状況であるが、もっぱら公立高校の閉校が続いてくれるのであれば、不安は多少とも和らぐ。今回の府側の一方的な負担要求に強く反対できない訳である。
「改革」の意味
吉村知事らは、今回の改革を、「所得など関係なく自らの可能性を追求できる社会を実現する」ものと位置付けているが、ここまでの話からも明らかなように、事実は逆である。
この政策による最大の受益者は高額所得者である。彼らは3年間で最大200万円前後の授業料負担を免れることになる。また彼らの多くは都市中心部の高層住宅や良好な環境の住宅地に住んでいるだろうから、通学の便もよく、子どもたちの学校選択の幅は確実に、より広がるだろう。
一方、地価も比較的安い郊外周縁部に住む、所得水準も相対的に低い家庭の子どもたちの通う公立高校は廃止され、学校選択の幅が狭められる。例えば大阪府南部の阪南市では、市長や市議会の要請にもかかわらず、唯一の公立高校である泉鳥取高校が25年度に廃止されることが決まっている。自転車などで通える地元の公立高校がなくなるのである。
また私立高校は授業料以外の費用が大きい。例えば大阪の公立高校の入学金は5,650円だが、多くの私立高校は20万円である。埼玉県では私立高校進学者に、所得制限があるものの10万円の入学金補助が支給される。それでも一人親家庭などでは、公的資金の借り入れが必要となるケースもある。大阪府では入学金の助成はない。入学金以外の諸会費等、各自主行事費、制服代・その他制定品費などの項目も、一般的に私立の方が高額となるから、所得水準の低い家庭にとって私立高校進学は経済的負担が大きいことに変わりはないのである。
「すべての子どもたちが自分の可能性を追求できる」と、誰も批判できないスローガンのもと、維新府政が導入した政策は、少子化が進む中で私立高校の経営を支え、高額所得世帯の教育費負担を軽減する一方で、経済的に恵まれない家庭の子どもの教育機会を狭めるものなのである。
維新府政は、市立病院の廃止、地下鉄・バスの公営交通機関の民営化、そして公立高校の閉校と、市民生活を支える公共インフラを潰し続けている。その一方で万博やカジノの誘致など、その収益性にも疑問が投げかれられている事業推進に邁進している。まともな行政の体をなしているとは思えない。
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