本間宗究(本間裕)の「ちきゅうブッタ斬り」(427)
- 2023年 9月 16日
- 評論・紹介・意見
- 本間宗究本間裕金融
金利とドルと金価格
海外では、いまだに、「金利と金価格の関係性」における誤解が存在し、「今後も、金利が上昇するために、これから金価格は下がるのではないか?」と考える人が多い状況とも言えるようである。別の言葉では、私自身が、40年ほど前に米国の大学で学んだ、「金価格は、ドルと金利と負の相関関係にある」という理論であり、このことは、「金利が上がれば金価格は下がり、また、ドルが強くなれば、やはり、金価格は値下がりする」という考え方のことである。
しかし、実際の相場は、「1980年に850ドルの高値を付けた金価格が、その後、2000年前後の250ドルにまで暴落した」という展開でありながら、一方で、「値上がりするはずのドルも金利も、その間、同様に値下がりした」という状況だったのである。つまり、約20年間に渡り、「金利とドルと金価格の関係性」が、理論通りに動かなかったために、私自身は、「マネーの総量が金価格に影響を与える可能性」や「デリバティブの膨張」を憂慮して、「一家に一キロの金保有」を推奨した状況だったのである。
そして、その後の展開としては、想定どおりに、「金価格の上昇」が始まったものの、一方で、「金利やドルは、低下を継続した」という状況であり、このことから理解できたことは、「金価格の決定要因」として挙げられる点が「通貨への信頼性」、すなわち、「中央銀行や政府の資金繰り」だったことも思い出されるのである。別の言葉では、人類史上、初めて、「金と通貨との関連性」が断たれた「1971年のニクソンショック」がもたらした「マネーの大膨張」に、大きな恐怖心を覚えた状況のことである。
そのために、これから想定される「世界的なハイパーインフレ」に関しては、以前から、注意深く見守ってきた状況だったが、実際の展開としては、「2000年前後から始まったデリバティブの大膨張」と「2010年前後からの量的緩和(QE)」により、「時間的な遅れ」が発生し、また、「想定される規模の拡大」が懸念される状況だったのである。
つまり、「時間の経過とともに、雪だるま式に膨れ上がった状況」のことでもあるが、今後は、「約600兆ドルのデリバティブ」と「約330兆ドルの世界債務残高」という「目に見えない金融ツインタワー」の崩壊により、「巨額なデジタル通貨」が、一斉に、「きわめて小さな貴金属や原油、あるいは、食料品などの実物資産の市場」へ流れ込む展開、すなわち、私の想定する「金融界のホーキング放射」が、「世界的な国債価格の暴落」をキッカケにして始まるものと考えている。(2023.8.15)
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中国版リーマン・ショック
「2023年8月15日」については、「戦後の26年サイクル」の観点から、大きな注意を払ってきたが、実際に発生した出来事としては、「中国版リーマン・ショック」と言われる「中国最大級の投資ファンドである中植企業集団の流動性危機」などだった。また、同時に報道されたことは、「米国の銀行格下げの危機」であり、具体的には、「フィッチのアナリストによる米国銀行格下げの警告」でもあった。
「戦後の26年サイクル」に関しては、以前から申し上げているように、「1945年の8月15日の第二次世界大戦の終戦」と「1971年8月15日のニクソンショック」、そして、「1997年8月13日の世界的な信用収縮の始まり」と「現在」のことである。つまり、最初の26年間は、「世界的な実体経済の成長期」であり、その次の26年間が、「経済の金融化の時期」を意味するとともに、最後の26年間が、「デリバティブによるマネーの大膨張とその後始末の時期」だったことも見て取れるのである。
より詳しく申し上げると、「1997年から2010年の約13年間」が「デリバティブの膨張期」であり、その後の「2023年8月15日までの約13年間」が、「世界的な量的緩和(QE)により、デリバティブの後始末が目論まれた時期」だったものと理解できるのである。しかし、実際には、「デリバティブの処理が成功せず、反対に、国債を始めとした何でもバブルの発生に繋がった」という展開だったのである。
その結果として、現在では、「約600兆ドルのOTCデリバティブ」と「約330兆ドルの世界債務」の「目に見えない金融ツインタワー」が形成されたわけだが、この点に関する注目点は、「2022年11月9日」に発生した「FTXの破綻」が「金融ツインタワーに突入した一機目のジェット機」の役割を果たし、また、「3月10日に発生したシリコンバレー銀行の破綻」が「二機目のジェット機」の役割を果たした可能性である。
つまり、現在は、「炎上中の金融ツインタワーが崩壊を始めようとする段階」であり、このキッカケとなるのが、今回の「中国版リーマン・ショック」や「米国の銀行格下げの警告」とも想定されるのである。そのために、「今後の数週間、あるいは、数か月」は、最も危機的な時期ではないか、と考えているが、一方で、数年前から始まっている「世界各国の政府や中央銀行による金(ゴールド)の購入」については、「事前に情報を知った人々が、先回りして商品を購入する」という「フロントランニング」のような行為とも思われるとともに、この点についても、間もなく、結果が判明するものと考えている次第である。(2023.8.16)
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日銀トレードの存続可能性
今後、最も注目すべき点は、「OTCデリバティブの約8割を占める金利デリバティブ」や「世界各国の国債」におけるバブル崩壊であり、実際には、「国債の買い手」が消滅することにより、「金利に関連する商品が全面的な崩壊期を迎える可能性」である。つまり、今までは、「ロシアや中国の資本主義化」により、「未曽有の規模でのデリバティブとマネーの大膨張」が実現可能な状況だったが、現在では、反対に、「東西冷戦状態の復活」により、「マネーの消滅」が世界的に始まっているものと考えられるのである。
そして、この時に、実務面で大きな意味を持つのが、「日銀トレード」だと思われるが、具体的には、今まで、多くの金融機関が、「日銀が買ってくれるから、高めの価格で入札しても大丈夫だ」と考え続けてきた状況のことである。しかし、今後は、「日銀の金融政策変更」により、「どの価格で応札すれば、損失が発生しないのか?」というような疑心暗鬼の状態に陥る可能性だけではなく、「保有している資産価格の下落により、民間金融機関に大量の不良資産が発生している可能性」までもが想定される状況となっているのである。
そのために、今後の展開としては、「民間金融機関と日銀とに、資金的な余裕が無くなる状況」が想定されるとともに、「最後の貸し手」と言われる「日銀」が、「債務の貨幣化」である「財政ファイナンス」を実施する可能性も考えられるのである。つまり、「1991年のソ連」や「1945年の日本」、あるいは、「1923年のドイツ」のように、「大量の紙幣」か、あるいは、「CBDC(中央銀行デジタル通貨)」を発行する可能性が想定される状況のことである。
しかも、今後の問題点としては、「債券と株式の違い」も指摘できるようだが、具体的には、「債券価格の下落が、株式よりも、急激であり、かつ、時間的に短くなる可能性」のことである。つまり、「債券」の場合には、「金利」だけが問題となるために、数多くの業種が存在する「株式」とは違い、きわめて短期間のうちに、価格の暴落(金利は急騰)が発生する展開も想定されるのである。
そして、このことが、私の想定する「目に見えない金融ツインタワーの崩壊」のことであり、また、「ハイパーインフレが発生する主因」でもあるが、現在では、時間的な余裕が無くなった状況とも考えられるのである。つまり、間もなく、「劇場の火事」のような「ボトルネックインフレ」が発生する可能性のことだが、実際には、「早い者勝ちで、実物資産を買い始める可能性」のことである。(2023.8.17)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
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〔opinion13237:230916〕
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