アメリカから見た福島原発事故―原因追究(その1)
- 2011年 8月 23日
- 交流の広場
- 松元保昭
みなさまへ 松元
京都の諸留さんがNHKETV特集「アメリカから見た福島原発事故」を、ていねいに全文の文字起こしをしました。この投稿は、貴重な文字記録であると同時に、事故原因を追究し続ける諸留さんの批判的註解に大きな意味があります。
したがってタイトルも、「アメリカから見た福島原発事故―原因追究(その1)、(その2)」とさせていただきました。また幾つかの変換ミスも、諸留さんの特徴としてそのままにしてあります。
なお長文ですから改行を施していますが、文字化けなどありましたら申し出てください。再送いたします。
=====以下転載(その1)=====
「アメリカから見た福島原発事故(その1)」
[2011(H23)年8月21日(日)PM17:45]
《パレスチナに平和を京都の会》の諸留です
**転送転載 自由**
——————————–
NHKETV特集から2011年8月14日(日)に放映された「アメリカから見た福島原発事故」は
既にご覧になった方も多いかと思いますが、福島第一原発事故が何故起こったのかを検証する上でいろいろ考えさせられる、非常に良い参考資料として有益だと思われます。同画像から「文字起こし」した。
長文の為(その1)(その2)の2回分割とした。
また、例によって何のコメント無しのNHK報道は原子炉や原発に関する専門知識の乏しい一般市民には原発推進養護のキャンペーン、宣伝番組と思われる「キワドイ箇所」も何カ所か散見されるので、問題と思われる箇所は以下の文中に[◆註:]の形で、私(諸留)が註を付加した。
後半に登場する後藤政志氏は、2011年4月4日の京都エントロピー学会での講演会で始めて彼の講演を聴き、単なる「技術屋」でなく、確かな思想を持つ真の「技術者」だと感銘を受けた。元 GE 主任アメリカ人技術者デール・ブライデンボウ
氏と並び、我が国にもこうした原発技術者もいることを、頼もしく思う次第である。
福島第一原発事故の事故は何故起こったのか?その第一原因はどこにあったのか?今後発表されるであろう。福島第一原発の「事故調査・検討委員会」の調査報告に騙されない為にも、福島第一原発以外にも問題のマークI型原発が、日本にまだ5機もあることなど、我々市民一人一人が、透徹した科学的分析能力を養う一助として欲しい。
———以下文字興し文—————
【解説】:建設中の原子力発電所を撮影した写真です。アメリカGE(ゼネラル・エレクトリック社)[◆註:1]1960年代に開発したマークI型の原発です。
[◆註:1]以下、ゼネラル・エレクトリック社を GE と略記する。
【テロップ】:GE ゼネラル・エレクトリック マークI型(格納容器)
【画面】:建設中のGE ゼネラル・エレクトリック マークI型(格納容器)の白黒写真
【解説】:東京電力福島第一原発ではマークI型の原発が導入されていました。
【テロップ】:東京電力福島第一原子力発電所
【解説】:福島第一原発は地震と津波によって炉心のメルトダウンという深刻な事故を引き起こし、今も放射能を出し続けています。「想定外」とされたこの原発事故。[◆註:2]
[◆註:2]事故後5ヶ月も経過し、事故原因に関する多くの見方が提起されたにも関わらず、このNHKの番組を始め、未だに「想定外事故」であったとする「決めつけ」「独断」解説や報道が氾濫している。事故の最初の原因が地震だでで起こったのか、地震後の津波の影響も原因に加わっているのか、いないのか?事故は「想定外」だったのか「想定内」だったのか?正確な検証はまだ全くなされていないにもかかわらず、軽々しく「想定外だった」と即断するNHKの報道は、「報道」ではなく明らかな「政治宣伝」である。こうした報道姿勢は厳しく批判されねばならない。
【解説】:私たちはマークI型が設計されたアメリカで取材を始めました。GEで原発部門の幹部を務めていた人物です。開発当初の1960年代には炉心溶融に至る事故は想定外としてアメリカ政府からも対策を求められてはいませんでした。しかし、福島では設計時の想定を遙かに越える事故が起きたのです。
【テロップ】:元 GE 原発部門の幹部
【元 GE 原発部門の幹部】:「マークIの設計が事故を拡大させたのです。大量の水素をうまく放出できず圧力容器への注水も難しいからです。事故が起きたらすぐに注水しなければいけません」
【解説】:福島第一原発の建設にも関わったGEの元技術者。地震や津波の影響を深刻に受け止めました。
【テロップ】:元 GE 技術者
【元 GE 技術者】:「確かに地震や津波で全てが破壊されるとは思っていませんでした。マークIは(地震や津波などの)外部事象に弱いのです。放射性物質を大規模に放出してしまったかもしれない。適切な設計ではないのです。それが福島の事故を深刻化させる要因の一つだった。悲劇としか言いようがありません」
【解説】:アメリカ政府の研究機関は、マークIを含む原発の安全性の検証を1980年代に行っていました。真剣な議論が闘わされていました。
【テロップ】:元 国立研究所の科学者(原発の安全研究)
【元 国立研究所の科学者(原発の安全研究)】:「1980年代『マークIを廃止すべきか』真剣に検討しました。それは今も検討すべき課題です。特に地震の危険性が高い場所では真剣に考えるべきです。20年前にマークIは廃炉すべきだった。それが正しい選択だったと思います。しかし廃炉できずに事故は起こってしまった」
【解説】:日本では長いあいだ、原発の事故の可能性は低い[◆註:3]とされてきました。
[◆註:3]福島第一原発の5機の原子炉も含め地震大国日本で稼働しているマークI型原子炉は計10機。しかし最高裁の司法当局も含め、官民・学会・マスコミ挙げて、その安全性検証は全くなされず「安全神話」の横行を野放しにしてきた。こうした盲信と言うべき「安全神話の氾濫」は、福島原発事故以後の現在も「放射能汚染問題」に関しても、広範に、根強くはびこっている。
福島県近隣各県のみならず、被災資材の消却を全国自治体での焼却などを通じても、全国的広範地域での放射能汚染の拡大と、微量放射線の人体への影響が懸念される。しかし、ここでもまた、微量放射線の人体への影響問題は、科学的検証、報道は一切されず、微量放射線の影響は最初から一切考慮していないICRPの放射能汚染基準値だけの「一人歩き」「独断的横行」「安全神話」がはびこっている。マークI型原発事故で犯した過ちを、放射線汚染安全値問題でも、私たちは再び犯している。
【解説】:しかし、アメリカ側では1980年代から起こり得ると考えられてきました。アメリカの研究者や技術者の見た原発事故です。
【テロップ】:アメリカから見た福島原発事故
【解説】:今から30年前の1981年、アメリカ原子力規制委員会は、マークIの安全性について詳細な検証を実施しています。重大事故が起きた場合マークIはどうなるのか?
【テロップ】:オークリッジ国立研究所
【画面】:OAK RIDGE NATIONAL LABORATORY MANAGED BY UT-BATTELLE FOR U.S.DEPARTMENT OF ENERGY
【解説】:1940年代から原子力開発に関わってきたオークリッジ国立研究所がシュミレーションを行いました。
【テロップ】:オークリッジ国立研究所 原子炉研究部 シェル・グリーンさん
【解説】:シュミレーション・チームにいたシェル・グリーンさんです。事故が起きて原発に電気が来なくなる。そんな事態を分析しました。
【シェル・グリーン氏】:「重大事故の時、マークI型は他の型と比べてぜい弱である事が分かりました。それが結論でした」
【画面】:東京電力福島第一原発の事故前の遠景写真画像(提供
国土交通省 東北地方整備局)
【テロップ】:福島第一原発 9・0の地震
【解説】:3月11日、福島第一原発はマクニチュード9・0の地震[◆註:4]に襲われました。
[◆註:4]ここでもNHKの悪質な意図的宣伝報道が執拗に繰り返されている。2011年3月11日14時46分頃に、北緯38.0度、東経142.9度の三陸沖、牡鹿半島東南東130Km付近の震源深さ24Kmで発生した東日本大地震は、1回目の報道では「気象庁モード」のマクニチュド単位が使用されていたのに、2回目の修正報道以降からは「モーメントモード」に「突然」切り替えられた。地震発生直後の原発事故発生を「意識した」政治判断の疑いが濃厚。3・11地震を「史上最大規模」の印象を国民へ植え付けようとする意図が働いたと思われる。
地震の揺れの大きさを地震発生後の最中に変更するという、「前代未聞」の措置を意図的に行ったことは見逃せない重大な点である。この変更を確認すべく私(諸留)が直接気象庁へ確認電話をしたが、担当気象官の変更理由は「広く採用されている国際基準に従ったからです‥‥」との、見え透いた釈明をした。百歩譲って国際基準に従ったとしても、第一回の地震には以前までの「気象庁モード」で8.4と発表しておきながら、まだ余震の続く最中の第二回目以降から、モーメント・モードの8.8や、更に3回目のモーメント・モード9.0へと修正発表したのか?更に疑惑を深めさせた点として、今回の3・11東日本震災と、阪神淡路大震等それ以前までの震災の震度は、単位変更を一切言及せず、以前通りの「気象庁モード」で報道し続けている点である。
3・11震災とそれ以前の震災の強度を示す単位(ものさし)自体が、相違しているままで、東日本大地震の大きさを、それ以前の震災強度と比較させて「かってない史上最大級」とか「想定外規模」と報道するマスコミの誇大報道の仕掛け人は、気象庁であり、更にその背後には、東電や原発行政を進めてきた「原子力村民」への損害賠償や責任免責を狙った「援護射撃」「政治的圧力」が働いている点を指摘しておく。NHKも「1000年に一度の巨大地震」などと大デマ宣伝放送を垂れ流し続けている。
ちなみに、従来の「気象庁モード」で計算すれば、今回の3・11東日本大地震の震度は最大値でも8.3~8.4程度。以下同様の「気象庁モード」でスマトラ島沖地震(2004年9月1日が9.1、2005年3月28日の同島沖地震8.6、2007年9月12日の同島沖地震8.5、1995年1月17日の阪神淡路大地震が7.3、2005年5月11日のバヌアツ地震が7.8、2009年9月30日のサモア諸島8.0‥‥など、いずれも「気象庁モード」の数値で8.0級の地震はいくらでも発生している。NHKを始めマスコミが盛んに宣伝する「1000年に一度の巨大地震」という報道が、如何に大げさな政治的意図を持つ宣伝報道であるかはこの事実からも明白。
広河隆一・広瀬隆講演2011年3月23日緊急報告「福島原発で何が起きているのか」
広瀬隆著『原子炉時限爆弾・・・大地震におびえる日本列島』ダイヤモンド社 2010年8月26日発刊
http://www.ustream.tv/recorded/13509353
【解説】:地震によって外部から原発に電気が供給されていた設備が破壊されました。外部電源の喪失。ここから危機が始まります。
【画面】:福島第一原発へ送電する送電鉄塔の倒壊した画像
【テロップ】:3月11日 午後3時42分 福島第一原発に津波
【解説】:電気が来なくなった原発に、今度は津波が襲いかかります[◆註:5]。津波は原発内部にまで押し寄せ、多くの機器が水没しました。
[◆註:5]ここでもNHKは、厳密な客観的科学的データーに基づかない「憶測」報道を流している点に注意!こうしたNHKの報道を漫然と見聞きする限り、今回の原発事故は、いかにも地震と津波襲来という2つ以上の複合的要因が重なって発生した複合的原因の事故であったかのような印象を受ける。
しかし、炉心溶融にまで至った原発の事故の原因が地震の際の振動や過大な圧力や捻れや変形などの発生という、津波が襲来する以前までの段階で既に起こっていた事故だったのか、そうではなく津波発生以前まではトラブルが無く、緊急停止も非常用冷却装置も正常に作動していたのかは、事故後丸五ヶ月経過した現在も、依然として未確認である。事故発生の原因が地震と津波による複合原因であるかのような誤った印象を視聴者に与える悪質な宣伝報道であることを改めて指摘しておく。
【解説】:その中には原発の安全を守るため、命綱とも言える機器もあったのです。
【テロップ】:非常用ディーゼル発電機(事故前の映像)
【解説】:それは外部電源喪失時に緊急に電気を送る非常用ディーゼル発電機、それが津波によって水没し、機能を失ったのです。
【テロップ】:3月11日 午後3時42分 全交流電源を喪失
【解説】:福島第一原発は必要な全ての交流電源を失いました。シェル・グリーンさんはシュミレーションをしていたのです。
【シェル・グリーン氏】:「これが1981年の報告書です」
【画面】:全交流電源喪失事故の分析
Station Blackout at Browns Ferry Unit–Accident Sequence Analysis のタイトルの英文報告書
【解説】: 原発が電源を失った場合、原子炉の炉心の温度が急上昇するというのです。これがその予測です。
【画面】:横軸に時間。縦軸に原子炉温度のグラフ。電源喪失後の300分後=5時間後から温度の急上昇。炉心溶融(CORE MELTING BEGINS)を示す曲線が画
かれているグラフ
【解説】:電源を失ってから4時間はバッテリーで稼いだとし、それが切れた、事故発生後300分後、つまり5時間後には、温度は急上昇。炉心の溶融(CORE MELTING BEGINS)が始まります。原子炉の破壊へとつながる事態です。なぜ、そんなことが起きるのか?原子炉の内部を見てみます。運転を停止した原子炉。【画面】:原子炉内の燃料格納容器内の核燃料を包む水が沸騰している動画像【テロップ】:500度→電気→100度【解説】:圧力容器の中にある核燃料は、運転停止後もおよそ500度の高熱を出し続けます。そこで電気を使って核燃料の周りの冷却水を循環させ冷やさなければなりません。しかし、電気を失うと、これが出来ません。【テロップ】:電気がなくても緊急に炉心を冷却するシステムが備えられた原発もある【解説】:冷却水の循環が止まり、高温の核燃料によって、水は沸騰し、蒸発してしまうのです。【テロップ】:冷却水 蒸発【解説】:核燃料は剥き出しとなり、冷やすことが出来ないまま、圧力容器内の温度はますます上昇、2500度に達すると、【テロップ】:炉内温度 上昇 2500度 炉心溶融 メルトダウン【シェル・グリーン氏】:「外部電源を失ってからは、非常用バッテリーの寿命が重要です。4時間でバッテリーが無くなり、5時間で炉心が冷やせなくなり、6時間半で炉心溶融にいたり、圧力容器の底に核燃料が落ちます。その30分後には圧力容器は破損、外部電源を失ってから7時間です。8時間半で格納容器まで壊れます」【解説】:実際、福島原発事故でも同じようなプロセスを辿りました。1号機から3号機の原子炉は、非常用ディーゼル発電機は津波で使えないようになり、炉心溶融が起きました。[◆註:6][◆註:6]この点は、事故原因究明にとって、非常に大切な点なので、再度繰り返し指摘する。NHKのこの報道、指摘は、明らかに科学的検証に全く基づかない、完全な「憶測」報道である。炉心溶融が発生した原因は、(1)地震発生の午後14時46分から、津波が襲来した午後15時42分までの間の、「空白の56分間」に、炉心溶融が既に始まっていたか、または、炉心溶融はまだ始まってなかったにせよ、格納容器やそれに付属している核種配管やボルトなどに、地震の震動による何らかの過度のストレスが加わった為に損傷や亀裂、破断などが発生し、それが原因となって、冷却装置が正常に作動しなくなる現象が、津波襲来以前に、既に起こっていた可能性は残される。(2)それとも問題の「空白の56分間」は炉心部も冷却機能も正常であって、津波が襲来した午後15時42分以降から冷却装置が正常に作動しなくなったために炉心溶融が起こったのか?この2つのいづれが真相であるかは、事故後丸5ヶ月も経過した2011年8月14日現在でも、いまだ全く解明されていないことは、確かな事実である。それが確認されていなからこそ、東京電力福島第一原子力発電所事故に関する事故調査・検証委員会(6月7日第一回初会合)が立ち上げられているのではないか!後述のごとく、後藤政志氏を始め、事故原因が(1)であった可能性が否定できないとの見方がある中で、一方的な「憶測」を真実とすり替える悪質なデマ宣伝報道には警戒。【解説】:それは次の深刻な事態を引き起こします。【シェル・グリーン氏】:「アメリカ時間の土曜日の朝でした。妻とテレビで福島の事故を見ていました。妻に『水素爆発が起こりそうだ』と言った数分後でした。実際に水素爆発が起きたのです。爆発が起きた事で深刻な炉心溶融が起きている事が分かりました」[◆註:7][◆註:7]最初の水素爆発が起こったこの時点でさえ、日本では東電を筆頭に、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、政府、閣僚、学者の誰一人も、炉心溶融、いわゆるメルトダウン発生の危険を明確に指摘した人はいなかった。我が国の「原子力村」住民は論理的科学的推論すら全くできない無能集団であることが暴露された瞬間である。【解説】:炉心溶融から水素爆発へと進む重大事故のプロセス。グリーンさん達、アメリカの研究者たちは以前から分析していました。そこには原発開発の長い歴史がありました。原子力は、そもそも核兵器の開発から始まりました。【テロップ】:1945年 広島 長崎への原爆投下【解説】:1945年、アジア太平洋戦争の末期、広島、長崎へアメリカが投下した原爆。戦後、アメリカと当時のソビエト連邦は、核兵器の開発、生産にひた走ります。その頃、原子力の技術は軍事機密でした。転機が訪れたのは1953年、アメリカのアイゼンハワー大統領が原子力を発電に使う、いわゆる原子力の”平和利用”を宣言したのです。【テロップ】:1953年 原子力の”平和利用”を宣言【画面】:1953年 原子力の”平和利用”を宣言するアメリカのアイゼンハワー大統領の国連演説の画面【米アイゼンハワー大統領】:「私たちは新たな一歩を踏み出さねばなりません」【テロップ】:アルゴンヌ国立研究所【解説】:核兵器研究開発の拠点のひとつだった、アルゴンヌ国立研究所。原子力の平和利用宣言。原子力発電の研究が始まりました。核分裂をコントロールして電気を生み出す原子力発電は、核兵器の技術が元になっています。【テロップ】:アルゴンヌ国立研究所(工学博士) ウォルター・デトリッチさん【画面】:アルゴンヌ国立研究所敷地内の古いEBWR型 沸騰水型実験原子炉(ドーム型)の画像【テロップ】:EBWR型 沸騰水型実験原子炉【ウォルター・デトリッチ氏】:「これは原子力発電の研究が始まった当初に作られた古い原子炉です。日本にもあるマークIの原型です」【解説】:この実験炉から、マークIがどう開発されたのでしょうか?内部のイメージ図です。【テロップ】:圧力容器【解説】:真ん中が燃料を入れた圧力容器。その外側には格納容器があり、万が一の事故の際、放射能を外に出さない様にしています。当初は、この格納容器を大きくした方が安全と考えられていました。マークIを実用化するに当たっては、圧力容器は大きくしました。多くの核燃料を入れるためです。一方、格納容器はコンパクトにして、下に圧力抑制プールを作り、水を貯め、事故の際に高温の蒸気が発生しても、ここで対応出来るよう工夫しました。【テロップ】:圧力抑制プール【解説】:GE がアメリカで最初にマークIを建設したのは、1965年。その後、マークIは量産され、アメリカ[◆註:08]、スペイン、日本等に30機以上建設されました。福島でマークIの建設が始まったのは1967年でした。それは、東電の始めての原子力発電所でした。[◆註:08]アメリカにある104の原子炉のうち23(約4分の1)が福島原発とほぼ同じマークI型。イリノイ州のクオード市とドレスデンの原発、バーモント州のバーモントヤンキー原発、ニュージャージー州のオイスタークリーク原発、マサチューセッツ州のピルグリム原発など。【テロップ】:1967年 福島第一原子力発電所 着工【解説】:アメリカで建設が始まって、僅か2年後のことでした。【テロップ】:東電福島第一原発建設中の格納容器の画像【解説】:アメリカで建設が始まって僅か2年後の事でした。アメリカで営業運転も行われていない段階で日本に導入されたのでした。【テロップ】:運び込まれる圧力容器【解説】:この時、東電はGEと「フルターンキー」と呼ばれる契約を結んでいました。【テロップ】:フルターンキー【解説】:設計から建設に至る全てを GE に委かせ、完成後に日本に引き渡す契約でした。[◆註:09][◆註:09]福島第一原子力発電所の1号機と2号機はGEが設計・製造から据え付け・組み立て・試運転指導・保証責任まですべてを請け負い、キーを回しさえすれば設備が稼働する状態で引き渡したことから「フルターンキー」方式の契約と言われる。【テロップ】:元 東京電力 副社長 豊田正敏さん【解説】:東京電力の元副社長豊田正敏さんです。福島第一原子力発電建設の時は原子力本部の第一線にいました。【元東京電力副社長豊田正敏さん】:「軽水炉についてはほとんど経験が無かった。それでメーカー(GEの下請けをした東芝や日立)自身もね、原子炉の設計すらほとんど出来ないという‥‥そういう状態だったので、そこで、GE に発注した時にメーカーに対して、原子炉の設計と、その機械をどうやって作ったら良いのかを教えてやってくれと、そういうことでGEに発注したわけなんですね。まぁ1号機は、そういうことで勉強段階だったのですよね。いやもう GE がやっていることだから(原子炉の安全性に関しては)大丈夫だから‥‥ということで。GE側の設計の安全性を解析、チェックする能力が日本側には全然無かったんですよね」[◆註:10][◆註:10]原発や放射能問題に限らず、専門家、民間人、一般市民を問わず、日本では、専門家の無能力、無責任さ、いわゆる「専門馬鹿」を、市民感覚から、市民自らが自主的にチェックし再点検、判断しようとする動き(気力)が殆ど生まれてきていない。これは専門的知識の有無といった問題ではなく、人間性の感覚、生きるということへの根元的センスの欠如に起因する問題である。常識さえあれば、いかに高度な専門的分野の問題であっても、オカシイものはオカシイと明白に誰もが指摘し得るものである。専門的領域の事柄は専門家に任せておけば安心だ‥‥とする我が国市民の思考の危険性も、ここでハッキリ指摘しておく。【テロップ】:チェックする能力が日本側になかった。【解説】:建設を請け負った GE は、当時、原発の輸出に力を入れていました。日本はアメリカに次いで二番目に多くマークIを導入しました。【元 GE 原発部門の幹部】:「日本での仕事はとても良いビジネスでした。何故なら、日本人たちはとても良い人たちです。設計変更で契約にないコストが発生しても、説明をすれば(その変更に伴うコストも)払ってくれましたから。アメリカでは一旦契約を結ぶと規制の変更などでコストが上がっても払ってくれません。アメリカでは契約に入っていない変更は GE が支払うべきだとされます。QE の開発ビジネス(フルターンキー)はアメリカでは赤字でした。しかし日本では儲かったのです」【解説】:マークIが日本に導入されてからおよそ十年後、アメリカで元技術者の発言が注目を集めることになります。【テロップ】:元 GE 主任技術者 デール・ブライデンボウさん【解説】:デール・ブライデンボウさん。GE の元主任技術者です。現在住まいのあるカルフォルニアにも9月11日の大震災の翌日、津波が来たと言います。【元 GE 主任技術者 デール・ブライデンボウ】:「25~30隻のボートが津波の被害を受けました。けが人はいませんでした。津波は1メートル以下だったと思います。日本に対して申し訳ない気持ちでいっぱいです。とても厳しい状況です。1976年からこんな事が起きるのではと恐れていました」【解説】:ブライデンボウさんは1976年、二人の技術者と共に、マークIの構造について問題提起を行いました[◆註:11][◆註:12][◆註:11]ブライデンボウ氏が米メディアで「原子炉構造に欠陥あり」と告発したことは福島原発事故発生後1ケ月半後に発行された『週刊朝日』(3月28日月曜17時27分配信)記事でも詳細が報道されたが、我が国では。それを大きく取り上げた報道はその後も無かった。[◆註:12]アメリカでのマークI型原子炉の設計、格納容器の設計問題は、NRC(米原子力規制委員会)が1972年に「我々はこの格納容器の使用を決して許可すべきではなかった」と言明した。1985年にもNRCは「当委員会としては、およそ90%の確率でこの格納容器が駄目になるという深刻な事故が起きる、と想定している」と公表していた。【画面】:サンフランシスコ英字新聞紙面(1976年2月3日付記事) Nuclear Shocker と題するブライデンボウ氏と他の二人の技術者の顔写真入り記事3 Engineers Quit G.E. Reactor Division And Volunteer inAntinuclear movement【解説】:その行動は新聞でも取り上げられ、大きな感心を集めました。【テロップ】:ブライデンボウさん【ブライデンボウ氏(1976当時のインタビュー映像)】:「私は20年以上GE社で仕事をして、危険性について、自分の考えを公表すべきだと思った」【解説】:当時、ブライデンボウさんはマークIの安全性を検証する社内チームの一員でした。検証チームが注目したのは、独特の形をした格納容器で、それが議論の的になりました。【画面】:マークI型原子炉の炉心内の鳥瞰図【ブライデンボウ氏】:「これがマークIです。福島第一原子力発電所の1号機から5号機は同じ設計です。この写真はマークIの格納容器です。このドーナツの様な形のものが圧力抑制プールです。独特の形は格納容器を小さくし、全体をコンパクトに建設する為でした。格納容器を小さくしたのは建設のコストを下げ、市場での競争力を高めるためでした」[◆註:13][◆註:13]市場競争原理を最優先させ、安全性が二の次とされ、結果的に、その商品の直接的購入者だけでなく、問題の「欠陥商品」を購入しなかった消費者や一般市民までもが、その欠陥商品故に発生した大事故の最終的犠牲を強いられるという、資本主義社会の資本の論理の冷酷さが端的に示されている。【解説】:ブライデンボウさんは、万が一の重大事故の時、圧力抑制プールは十分に耐えられるか、問題意識を持ちました。【ブライデンボウ氏】:「圧力抑制プールの内部の写真です。このパイプがある所で撮影されています。これらの写真は建設中に撮られたのでまだ水は満たされていませんが、人の比べるとその大きさが分かります。運転中はこの辺りまで水が入っています[◆註:14]。とても大きな構造物です」[◆註:14]圧力抑制プール内の底板から、7~8メートル以上も高い箇所を指さして示しながら。ドーナツ型の圧力抑制プール内部には、直径1メートルほどの巨大な円筒が数多くプールの外側から挿入され、その先端が圧力抑制プール内の天井付近から下へ垂れ下がっている。このように原子炉内部は大小無数のパイプが複雑に挿入、装着された構造になっている。これら配管の溶接部や接合部に大きな負荷が加わわれば、亀裂や破断が生じてもおかしくない。圧力容器や格納容器の厚さが「数十センチもあるから安全」と、事故後も言い張ってきた原子力工学専門家の解説が如何に事実とかけ離れた「安全神話論」でしかなかったかが分かる好例である。【解説】:1970年代の始め、何度も実験が行われました。その結果、重大事故が起きた時、圧力抑制室に想定以上の力が加わる可能性があると考えたのです。そのメカニズムを説明してくれました。事故が発生[◆註:15]。高温になった圧力容器内では冷却水が蒸発します。蒸発した水蒸気によって高い圧力が発生。[◆註:15]非常に重要な点なので再度指摘しておく。NHKはここでも、いきなり何の検証もせず、いきなり「事故が発生」の一言だけでそれ以後の一連の圧力容器の内圧の高まりへ論を進めている。しかし、そもそも「最初に発生した」その「事故」が一体何が原因で発生した事故だったのか?津波もその第一原因に影響を与えていたのか?津波襲来以前に第一原因が発生していたのか?また、それが如何なる形の事故だたのか?配管の亀裂や損傷による冷却水や水蒸気の漏洩だったのか?否か?肝心の点を、意識的に無視している報道姿勢は、科学的検証とはほど遠いと言わねばならない。圧力抑制プール内に貯められた水の中へ、高圧高温水蒸気が注がれる先端部分(Vent Header から更に枝分けれして水中へ付きだしている Down Commer と呼ばれるより細い管)の先端ら放出される高圧高温水蒸気のせいで、圧力抑制プール内の水面が大きく揺れ動き、その水圧が圧力抑制プールの設計限度を超えた力となって圧力抑制プールのどこかを破壊したことも想定できる。この「水力学的動荷重」が2号機の圧力抑制プール(サプレッション・チェンバー破損の原因となたのでは?との問題点指摘は、後藤政志氏も2011年4月4日の京都エントロピー学会での講演会でも指摘している。【解説】:圧力を逃がす為に、水蒸気をここに導きます。しかし、水蒸気の導き方によっては圧力抑制プールが損傷する可能性を考えたのです。水蒸気が流れ込むと内部で泡が発生します。問題なのは水が押し上げられ、強い負荷がかかるかもしれない。圧力抑制プールを壊すかもしれないのです。機能が失われるのです。この事は設計する時には想定していなかった。解ったのは1975年でした。福島の事故では2号機で圧力抑制プールが破損したと聞いています。福島第一原発の事故でも、原因ははっきりしていませんが[◆註:16]、2号機で圧力抑制プールが損傷しています。[◆註:16]ここになって始めて、NHKも「原因ははっきりしていないが」と事故原因が未だはっきりしていないことを認め始めた。【解説】:それによって放射能が漏れだしていると見られています。検証結果を受けてブライデンボウさんは上層部に進言しました。【ブライデンボウ氏】:「いくつかの原発はすぐに運転を停止すべきだと思いました。安全かどうかの調査が終わるまでは電力会社に停止すべきだとの意見を伝えました。GE の上司にも伝えました。電力会社は『運転を停止する権限はない』と言い、上司は『そこまで悪くはないだろう』と言い、『マークIを停止させればGE原子力ビジネスは終わりだ』と‥‥」【解説】:GE 社内でブライデンボウさんの進言は通りませんでした。1967年4月、ブライデンボウさんは会社に辞表を提出します。【画面】:This letter is to advice you that I amresigning from the General Electric Company effectiveimmediately.【ブライデンボウ氏】:「とても悲しかったです。24年も GEで働いて多くの友人もいました。私は”裏切り者”と言われるでしょうし、技術者としてのキャリアも終わると思いました。私には家のローンもありましたし、子どもは3人いました。仕事を辞めれば家族を路頭に迷わせるかもしれません。しかし妻が『あなたの決断を支持する』と言ってくれました。だから決断できたのです」【ブライデンボウ氏の妻】:「私を撮ってるの?」【ブライデンボウ氏】:「彼女は私の戦友だからね」【解説】:ブライデンボウさんの訴えは注目を集め、連邦議会で原発と安全に関する特別委員会が開かれることになりました。【テロップ】:米国国立公文書館【解説】:当時アメリカでは多くの原発建設計画が進められていました。【画面】:INVESTGATION OF CHARGES RELATIONG TO NUCLEARREACTOR SAFTY 3564HEAERINGS JOINT COMMTTEE ON ATOMIC ENERGY CONGRESS OFTHE UNITED STATESNINETY-FOURTH CONGRESS【解説】:原子力発電に自分たちの未来を託して良いのか?原発の安全に大きな関心を持っていました。この委員会の公聴会に呼ばれ、最初に証言したのがブライデンボウさんでした。【画面】:DAIL G.BRIDENBAUGH【テロップ】:デール・ブライデンボウ【解説】:公聴会は五日間に渡って開かれ、原発の安全性について、大勢の科学者や原発関係者が証言を行いました。【公聴会の質問者】:「あなたは『安全ではない』と言うが、他の科学者は『安全性は高い』と言っている。」【ブライデンボウ氏】:「『自分たちが絶対に正しい』と言っているわけではありません。問題を検証し正しい判断を下す基準が見あたらないと言っているのです」[◆註:17][◆註:17]ここでのブライデンボウ氏の指摘は、そのまま、2011年8月19日現在の我が国での放射能汚染問題、とりわけ低レベル晩発性の放射能汚染の危険性の問題にもそっくり当てはまる至言である。京都五山の送り火の薪問題に象徴されるように、放射能汚染は今や全国的レベルにまで、また対象品目も薪や稲藁、茶、汚泥など広範囲な品目にまで拡大し、深刻化の様相を呈しつつある。ICRPやそれを盲信しているだけの我が国政府や全国自治体の言う放射能安全基準値は、低線量被曝の危険性を全く考慮していない。しかし、この低線量被曝危険説が絶対に正しい、と言っているわけではない。低レベル放射線が人体に健康被害は全く及ぼさないとすることを検証し、それを正しい判断とする基準や疫学的臨床事例が見あたらない以上、危険の可能性は否定出来ないということを指摘するものである。大文字保存会のメンバーの下した判断こそ「常識はる正常な判断」であり、科学的に何ら確かな安全性が証明されていないICRPの放射能汚染安全基準地を盲信しているだけの政府、陸前高田市当局、無責任なNOP被災者支援団体、大文字保存会に抗議を寄せた全国の抗議者のほうこそ、非科学的でりあり、その無責任さが指摘されねばならない。安全か、安全でないかが、現時点ではっきりしていない状態の場合は、安全でないと判断するのが常識的で、正常な判断である。放射性の危険性の実態を知らない、知ろうともしない市民大衆の、心情的支援活動には、今後も警戒すべき。【解説】:この委員会で原発は安全だと論陣を張った人物がいます。マサチューセッツ工科大学のノーマン・ラムスッセン教授です。【テロップ】:マサチューセッツ工科大学 ノーマン・ラムスッセン教授【解説】:政府の依頼でラムスッセン教授がまとめた報告書。【テロップ】:原子炉安全性研究REACTOR SAFTY STUDYAN ASSESMENT OF ACCIDENT RISKS IN U.S.COMMERCIAL NUCREAPOWER PLANTS【解説】:およそ10億円の国家予算が投じられ、原子力発電所で起こる事故の可能性を検証しています。詳細な検証の結果、自動車や航空機の事故、竜巻やハリケーン等と比較しても、原発で人が亡くなるような重大な事故が起こる可能性は極端に低い、50億分の1 という天文学的な低さだと発表[◆◆註:13]しました。[◆◆註:13]原発事故の起こる確率を、原発以外の他の事故の発生確率と比較すること、それ自体が、根本的な誤りであることを指摘しておく。他の事故とは違い、原発事故は、事故に遭う被害者が、原発周辺地域の住民だけに止まらない点。また原発は事故が発生せす「安全稼働」状態でも常に環境中へ放射性物質を放出し続け、人間も含むすべての動植物の生命現象を損なうもの、生命そのものを否定する現象である。小惑星や隕石など大気圏外からの落下物の危険と比較するのも愚かなである。大気圏外からの落下物は自然災害であるのに対し、原発事故は人間が作り出した人工物の制御ミスや制御不能が原因の明らかに人間が発生させた人工物の事故である点でも、両者を同一レベルに置き、その確率論的大小で論じること自体、全く無意味である。なによりも、こうした「ラムスッセン的、確率論的事故論」の致命的欠陥は、放射能が、その科学技術を教授する当該世代の人間以外の、子々孫々にまで及ぶ何万年、何億年の歳月に渡って、放射性物質による死の恐怖と危険性を及ぼす(事故発生の有無にかかわらず)という不動の事実を、完全に切り捨てている点にある。以上の点からも「ラムスッセン的、確率論的事故論」の愚かさは明白である。【画面】:1 in 5,000,000,000【解説】:起きうる原発事故の可能性を、詳細に分析したラムスッセン報告は、評価を受けましたが、一方で様々な議論を呼びました。【ラムスッセン氏】:「技術者は自分が想定する範囲でしか事故の可能性を捉えられません。もしかしたら想定外の欠陥や事故があるかもしれません。しかし、そんな”想定外”がおきる可能性は著しく低いというのも真実です。100年近く私たちは似たようなシステムを使ってきました。ポンプ、パイプ、発電用タービン‥‥そうした機器が同時に壊れる事などほとんどないのです」[◆註:18][◆註:18]このラムスッセン氏の指摘も、こと原発に関する限り当てはまらない、筋違いな見方である。個別の家庭や工場などにあるポンプ、パイプ、発電用タービン等‥‥個別分散して使用されている機器が同時に損壊することは起き難いとしても、原子力発電所という敷地内に、しかも極めて複雑なシステム的に管理された状態で複雑に組み合わされて使用されている原子力発電の場合には、システム全体の制御自体に致命的な事故が発生すれば、その影響は、それらと個別に結合されている個々の機器にまで、瞬時に重大な影響を同時に与えてしまうことは、十分想定し得る。全米の家庭のテレビが一斉に故障するような事の起こる確率は天文学的に低いに違いないが、原子力施設内の何百、何千もの機器が一瞬のうちに全て使用できなくなるような事態は(例えば9・11事件のように航空機が突っ込む等の事故は)、十分、想定死得ることだから。【解説】:ラムスッセン報告の陰に隠れて、ブライデンボウさんの発言は、議会で真剣に受け止められることはありませんでした。【ブライデンボウ氏】:「詳細な報告書を作り委員会に提出しました。委員会ではたくさんの質問にも答えました。もちろん GE 原子力産業の人々は反論を行いました。結局、何も起きませんでした。新聞に出て話題になっただけでした」【解説】:しかし、原子力規制委員会(NRC)の中にも、ラムスッセン報告を批判する人がいました。カリフォルニア大学バークレー校のキース・ミラーさんです。【テロップ】:カリフォルニア大学バークレー校 キース・ミラー教授【解説】:ミラーさんは数学の専門家で、原子力規制委員会(NRC)の委員を務めていました。原発で事故や補償、人為的な事故が重なる可能性を憂慮していました。【キース・ミラー教授】:「原発事故で死亡するのは隕石に当たって死亡する確率より低いと言うのです。原発事故の可能性は低く、故障の可能性もとても低いというのです。私は愕然としました。原子力規制委員会(NRC)でラムスッセン報告は多くの人に支持されていました。不具合が起こる可能性を低くし、重大事故が起こる確率を驚くほど小さくした。その為に安全対策がどんどんおろそかにされていった」[◆註:19][◆註:19]これと全く同様のことが、我が国の東電や原子力安全委員会や原子力安全・保安院、原発推進派の御用学者でも発生した。慢心がさらなる慢心を招き、事故隠しの積み重ね、文字通りの「慢心の連鎖反応」状況が出現したことも見逃してはならない。【キース・ミラー教授】:「ラムスッセン報告によれば『事故の可能性が低いので安全研究の必要はない』と言うのです。ラムスッセン報告は聖書のようでした。【画面】:原子炉の安全に関する研究合衆国内商用原子力発電所における事故リスクの評価 概要【解説】:ラスムッセン報告は日本にも紹介され、多くの原子力関係者が参考にしました。原発で重大事故が起こる可能性は極めて低いという考えは、日本にも浸透したのです。しかし、その後、アメリカではラスムッセン報告を見直す一大事故が起きました。【テロップ】:スリーマイル島 原子力発電所1979年のスリーマイル島原発事故です。炉心溶融に至る重大事故でした。死者はありませんでしたが、周辺はパニックに陥りました。原因は機器の故障に、運転員の操作ミスが重なったこと、ミラー教授が警告した通りの事故でした。3年後になってようやく炉心内部の調査が出来ました。カメラを圧力容器の中に入れて見ると、高温で溶け落ちた核燃料が瓦礫のように底に積み重なっていました。重大事故の可能性は低いとしてきたラスムッセン報告は疑問に晒されました。【テロップ】:原子力規制委員会(NRC)UNITED STATES NUCLEAR REGULATORY COMMISSION【解説】:事態を重く見たアメリカの原子力規制委員会(NRC)は、原発の安全性と対策の見直しを始めます。【テロップ】:元 NRC 安全部長 ハロルド・デントンさん【解説】:NRCで陣頭指揮を取ったのが、ハロルド・デントンさんでした。【ハロルド・デントン氏】:「当時NRCが運転免許を与えた原発で重大事故が起きるとは思っていませんでした。何重ものバックアップシステムがあるので大丈夫だと思っていました。メルトダウンするという確率は非常に低いと思っていました。スリーマイルではメルトダウンはきましたが、燃料は圧力容器に止まりました。NRCは重大事故のリスク調査を行うことにしました」【解説】:全米各地の原子力研究所で原発の安全性の再評価が始まりました。マークIもその対象になりました。【画面】:(1)PWR スリーマイル島原発の格納容器と圧力容器の見取り図(2)BWRマークI型 福島第一原発などの格納容器と圧力容器の見取り図[◆註:20][◆註:20]一目して解る両者の構造上の違いの特徴は、(1)のスリーマイル島原発のPWR型の格納容器内の空間の方が、(2)の福島第一原発などのBWRマークI型の原発の格納容器との空間よりも、より広い構造となっている点である。【解説】:原発には格納容器と呼ばれる部分があります。核燃料を入れた圧力容器で、万が一事故が起こって放射性物質が圧力容器の外へと漏れだしても、格納容器で閉じこめるのが、その役割です。一般的には格納容器が大きい方が、閉じこめる空間的な余裕があると言われています。格納容器に注目して十年以上、安全性に注目してきた研究者がいました。【テロップ】:ニューメキシコ州【解説】:国立サンディア研究所の研究員だったケネス・バジョロさんです。【テロップ】:元 サンディア国立研究所 ケネス・バジョロさん(工学博士)【画面】:バジョロさん所蔵のビデオ画像のトップ画面よりSandia National LaboratoriesSANDIA NATIONAL LABORATORIESOrganaization 6517Explosive Dynamics Laboratory (Site 9940)【解説】:バジョロさんはNRCの依頼を受けて、炉心溶融すると、マークIの格納容器がどうなるのか、実験やコンピューター解析を繰り返し行いました。【バジョロ氏】:「最大の問題は格納容器が小さ過ぎる事です。建設後に格納容器を大きくする事は出来ません。補強工事などでは解決しない。最初から立て直す以外に”小さい”という問題は解決できない。炉心溶融がおこると水素が発生します。スリーマイルの(原発のように)大きな格納容器であれば中で水素を処理できます。水素を少しずつ燃焼させればいいのです。それが大きな格納容器の特徴です。しかしマークIの格納容器はとても小さいのです。重大事故が起きれば水素の処理が大きな問題になります。マークIは構造上の問題を抱えています」【テロップ】:圧力容器【解説】:事故の時原子炉では大量の水蒸気と高温の核燃料が科学反応を起こし[◆註:21]、水素が発生します。[◆註:21]この説明は粗雑である。核燃料棒それ自体と水蒸気が反応するのではなく、核燃料を納めている核燃料を被覆しているルジコニウム合金が千度を超える高温の水蒸気の水と反応して水素が発生するのである。なおこの核燃料棒は通称「鞘管」と呼ばれる長さ約4メートルの細長い金属棒。【画面】:圧力容器(鳥瞰図)【テロップ】:大量の水蒸気 高温の核燃料 水素【解説】:水素は圧力容器から外へと漏れ、外に漏れ出すと爆発の危険があります。[◆註:22][◆註:22]原子炉内部の水素が圧力容器から外へと漏れ出る原因、そのメカニズムについて詳しく説明した資料が見当たらない。水素分子は小さく軽い為、圧力容器上部の蓋の接合部のパッキングの微細な隙間から水素ガスが圧力容器外へ(すなわち格納容器内へ)と抜け出し、更に格納容器のどこかの隙間から格納容器外の原子炉建屋の天井部へと、水素ガスが貯まっていった模様。水素ガスが微細な隙間から外部へと漏れだすことを、現在の技術では防ぐことは出来ないのだろうか?水素爆発の原因究明で更なる調査研究の要あり。【テロップ】:圧力容器 格納容器 原子炉建屋【解説】:実際、福島第一原発の事故では、1号機、3号機の建屋で水素爆発が起きました。爆発後の1号機。黄色い蓋のような物が格納容器の蓋です。よく見ると(格納容器の蓋の下部の)ボルトが浮き上がっています。マークI型格納容器に一満になった水素は、格納容器の上部の重い蓋を(充満した水素ガスや高温水蒸気の高圧力に耐えきれなくなって)外へ持ち上げ、(つまり格納容器を更に外側から囲っている原子炉建屋の内部に充満するかたちでして)外へ漏れて(建屋内で)水素爆発したと考えられます。【テロップ】:元 サンディア国立研究所(工学博士) ケネス・バジョロさん【ケネス・バジョロ氏】:「福島の事故は大いなる悲劇です。非常に残念に思っています。その一方で科学者としてとても興味をひかれます。なぜなら。何十年の事故をシュミレーションしてきました。コンピュータ上からも、実験してきました。しかし全ては理論上のことでした。事故の悲劇性と危険性にも関わらず驚きの連続でした。分析した通りに事故が進んでいったのです。爆発は私たちの想定通りに起きました[◆註:23]。[◆註:23]科学技術の国際化、その地球的規模での拡散とは裏腹に、事故予測の科学的知識のグローバルな規模での共有は、全くなされてこなかった事実を、我々は改めて重く受け止めねばならない。いや、地球規模での情報交換どころか、日米間はおろか、日本国内での原発を抱える同じ電力会社相互の間ですら、事故の教訓、その科学技術情報の交流すら、全く行われず個別に事故情報の隠蔽、事故調査結果を隠し続けてきているのが、我が国の原子力の肌寒い実態である!【解説】:1980年代半ばには、NRCは水素爆発に至る可能性を想定していました。【テロップ】:元 NRC 安全部長 ハロルド・デントンさん【デントン氏】:「私たちはこれを電球ドーナツと呼んでいた。他の格納容器と比べて格納容器が小さいのです。米国内で使われている全ての格納容器を比較検討させました。電力会社に想定外の重大事故に耐えられるか調査をさせたのです。電力会社はとても時間のかかる大掛かりな安全研究を行いました。米国内の8つの型を比較検討しました。その内の一つがBWRマークI型の原子炉でした。」【テロップ】:元 サンディア国立研究所(工学博士) ケネス・バジョロさん【ケネス・バジョロ氏】:「米国内ではマークIの安全性について深刻な論争が続きました[◆註:24]。何年もかかって検討し最終的には何もなされなかった。私は”重大な事件”だと思っています。するべき事がなされなかった」[◆註:24]米国内で何年もかかって行われたマークIの安全性についての深刻な論争が、我が国には全く報告もされなかったのは何故だったのか?原発を抱える電力会社が意図的にそうした情報を阻止してきたことは容易に想像し得る。しかし本来学問的に中立客観的である筈の原子力研究学者ですら、そういたアメリカ国内での安全性に関する重大な論争を見逃してきていた責任も極めて大きい。我が国の原子力学会に名を連ねる学者が、「するべき事を何もしてこなかった罪」、研究者としての見識の欠落さが、徹底的に批判されねばならない。【ケネス・バジョロ氏】:「電力会社からの圧力でNRCはこの問題から手をひいた。私は当時とてもいらだっていました。最初は隠し事もなく議論していたのに、研究者に圧力をかけ、業界に有利な結論を作らせるようになった。想定される事故を過小評価しました[◆註:25]。マークIの問題を話し合っても誰も具体的な解決策を提示できなくなりました」[◆註:25]資本主義社会における、こうした「産学協同」「産学癒着」構造を厳しく批判したのが、かっての大学紛争であったのに、現在はそのが完全に空洞化され「産学協同」「産学癒着」現象が、原子力学会のみならず、あらゆる分野の科学研究機関に網羅され浸透しつつある。「研究者に圧力をかけ、業界に有利な結論を作らせる」ような業界からの働きかけや誘いは、今や原子力工学以外でも、医学、薬学、農学・・大学研究の全分野に及んでいる。放射能汚染以外の、農薬や添加物汚染食品、業界と癒着した(遺伝子操作も含む)医学や新薬開発など、「想定される事故を過小評価」し、「安全と生命を脅かす」「研究者村の危険な策動」も留意すべき。【解説】:1989年、NRCはマークIの安全対策をまとめます。【画面】:UNITEDE STATESNUCLEAR REGULATORY COMMISSIONWASHINGTON,D.C.20555September 1,1989ALL HOLDERS OF OPERATING LICENSES FOR NUCLEAR POWERREACTORS WIHT MARA I CONTAINMENTS【解説】:圧力抑制プールという仕組みはありますが、格納容器が高い圧力に晒される可能性を考えました。水素や水蒸気を逃がす為の手段、ベント(BENT)弁という(非常用装置の取り付け)を導入します。【画面】:INSTALLATION OF A HADENED WETWELLVENT(GENERATOR)【テロップ】:ベント 気体を抜いて圧力を下げる操作[◆註:26][◆註:26]またはその為の一連の排気ラインからなる装置のこと。圧力容器に取り付けられた排気弁、排気ライン。排気=ベンチレーション(ventilation)の略語。【解説】:ベントとは新たに付け足した配管で、コントロールしながら水素や水蒸気を外部へ排出する排気ラインのことです。格納容器の蓋が持ち上がったり、破損したりすることを避ける為の装置です。放射性物質を閉じこめる役割の格納容器から、放射能に汚染された水素や水蒸気を外に出すという、矛盾した非常手段でした。[◆註:27][◆註:27]原発会社が常々一般市民大衆に対しては「原子炉は五重の安全な壁で囲まれているから安心です」と強調しておきながら、このベントの存在も、その役目の意味も、完全に市民の目から隠し続けてきていた点も、見逃すことは出来ない。原発推進者にとって都合の良い宣伝だけ大量に垂れ流し続けながら、非常時には、周辺住民や国民全体に放射性物質を浴びせることにもなる「危険な装置」ベントについては、完全に黙秘し続けてきた。こうした「大本営報道」には、大手マスコミも、また原子力工学専門家と自称する学者たちも、同様にベントについて、あらかじめ言及することも一切怠ってきた罪は重い。【テロップ】:放射性物質【質問者】:「ベントを付ければ全ての問題は解決するのですか?」【ハロルド・デントン氏】:「いいえ。しかし役には立ちます。高まった格納容器の圧力容器をベントによって逃がすことが出来ます。放射性物質を大気に放出しますが、より危険な格納容器の破損は免れます。在職中に40基の原発の運転許可を出しました。『合理的な安全基準』は満たされたからです」以下(その2)へ続く**転送転載歓迎**————————————《パレスチナに平和を京都の会》”Peace for Palestine” in Kyoto Movement(PPKM)
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。