Global Head Lines:ポーランドはウクライナの最も強固な同盟国だった。それがなぜ今、仇敵と化しているのか
- 2023年 10月 14日
- 時代をみる
- ポーランドとウクライナ青山 雫
英大手紙The Guardianサイトに10月6日に掲載された記事。ウクライナへのロシアの侵攻に対して先頭を切って批判し、ウクライナを支援してきたポーランドの唐突(に見える)
武器支援停止表明の政治文脈についての分析。以下はその要約。ポーランドはそれまでの断固たるウクライナ支援にスタンスだけをとらえると、一見大変リベラルな国のように思えるが、その実体は記事中にもあるようにポピュリスト政権の強権政治が支配している。NATOやEUからはその点についての改革をこれまでも強く要請されている。
ポーランドの政治状況は、同じくソ連の軛のもとに呻吟してきたハンガリーやスロバキアなどの新ロ派政権の存続・登場に通底したものがあるのだろう。
原記事URL
Karolina Wigura and Jarosław Kuisz
ポーランドはウクライナの最も強固な同盟国だった。それがなぜ今、仇敵と化しているのか。
戦争疲れ – 国粋主義的ポピュリストは、再選のための残忍なキャンペーンで国境を越えた敵意を煽っている。
10月15日にはポーランドの総選挙が挙行される。
ドナルド・トゥスク首相に率いられる野党市民連合への支持は堅固なものでありながら、右翼ポピュリストの政権与党「法と正義」によるポーランドの権威主義的な軌跡はかつてないほど強固なものとなっている。過去8年間、EU加盟国の政府は絶え間ないポピュリズムに支配されてきた。自由民主主義体制の制度的要素はますます削ぎ落とされ、独立メディアは標的にされ、マイノリティの権利は著しく弱められた。
今回の選挙戦は、民主主義的な戦いではなく、非自由主義の新たな表現となっている。民主主義への脅威についての野党の警告は、嘲笑されたり、否定されたりした。法と正義に乗っ取られた国家機構全体が、党に有利なように天秤を傾けるために使われている。あらゆるソーシャルメディアから政府寄りのプロパガンダが溢れ出し、ハイテク権威主義への道を突き進んでいる。
暴力も選挙戦に影を落としている。1989年以来、選挙前にこれほど残忍なことはない。調査対象の64%以上の人々が、今回の選挙戦は以前の選挙戦よりも暴力的であり、58%の人々が、この悪化は与党に責任があると考えている。野党議員は逮捕され、一般市民は、野党のシンボルマークを身に着けているだけで路上で殴られている。
さらに、ウクライナ戦争という側面もある。近隣諸国は戦争の影響を深く受けており、交戦状態は直接的にも間接的にも日常的な体験の一部となっている。紛争が国境を越えて波及することへの恐怖が、ウクライナ難民に対するポーランドの連帯の最初の波を後押しした。この地域の国々は何度も地図から消し去られてきたため、主権に対する態度はトラウマの後遺症のようなものだ。
そのため、ポーランド人はウクライナ難民を自分たちの家に迎え入れようと躍起になり、自分たちが将来ロシアの犠牲になる可能性があることを認識した。「次は我々の番だ」という言葉は、侵略に対するキャッチフレーズとなり、ウクライナとの連帯を呼びかける言葉となった。歴史上、ポーランドとウクライナは長い間分断されてきたが、ソビエト連邦崩壊後は、ロシアへの恐怖を共有したこともあるが、両国が共催したユーロ2012サッカー大会や、翌年のユーロマイダン運動へのポーランドの支援などの出来事もあり、和解が優勢となっている。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻から1年半が経過し、ポーランドの東部国境の向こう側で繰り広げられている戦争は常態化している。これは、ウクライナの並外れた軍事的回復力の逆説である。ウクライナの反攻は現在停滞しているかもしれないが、ロシアの進撃は少なくとも当面は止まっている。しかし、差し迫った脅威としてのモスクワへの恐怖が薄れ、戦争疲労がポーランド国民だけでなく政府関係者にも広がるにつれ、連帯感も低下している。政権内のポピュリズムは、純粋なポーランド中心主義という信頼できる「自然な」軌道に戻った。
これが新たな地政学的背景であり、「法と正義」(戦争初期にはキエフに対する西側の軍事援助を声高に主張した一人)は、ウクライナの穀物輸入がポーランドの農民の価格を押し下げていることをめぐる争いの一環として、ウクライナに対するポーランドの武器支援を停止すると言うに至った可能性がある。厳しい選挙で、与党はナショナリストの票を必死に追いかけている。低価格のウクライナ産穀物は、この地域のあらゆる農家の間で物議を醸していた。しかし、ワルシャワとキエフの間でこのような論争が起こることは、ほんの数カ月前には考えられなかったことだ。2023年秋、ポーランドの与党にとって、政権を失うことへの恐怖は、ロシアへの恐怖よりも強いようだ。
ウクライナへに世界の関心が集中している中、両国は緊密な同盟国というよりも、地域のリーダーとしての役割を争うライバルのように見える。EUの最大加盟国のひとつであり、Natoの加盟国でもあるポーランドの重要性は明らかだが、もしウクライナがどちらの組織にも加盟することになれば、パワーバランスは一気に変化するだろう。
現政権の右翼ポピュリスト政党「法と正義党」が勝利すれば、ウクライナを含むEU拡大への支持は確実に後退するだろう。また、保護主義、主権主義、近隣諸国に対する妥協のないアプローチの新たな波も予想される。
ポーランドの国内問題は、今や世界的なものではないにせよ、ヨーロッパ的なものとなっている。ポピュリスト支配下のポーランドは、欧州の共同アジェンダのために働くことはなく、ヴィクトル・オルバン政権下のハンガリー、ロバート・フィコ政権下のスロバキアなどとともに、国民国家の優位性のために働くだろう。非自由主義的な軌跡は、ほとんどの場合、国家のエゴイズムと国際的な対立につながる。
記者紹介
Karolina Wigura歴史学者、ワルシャワのクルトゥラ・リベラルナ財団理事、ベルリンのリベラル・モデルンセンター(LibMod)シニアフェロー。政治アナリスト、ポーランド週刊誌『クルトゥラ・リベラルナ』編集長。著書に『ポーランドの新しい政治』:A Case of Post-Traumatic Sovereignty(ポストトラウマ的主権のケース
Their book Posttraumatische Souveränität (Post-Traumatic Sovereignty) is out this month
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye5127:231014〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。