共産党のもう一つの衰退現象
- 2023年 10月 24日
- 評論・紹介・意見
- 不破哲三共産党阿部治平
―八ヶ岳山麓から(446)―
さきの、第9回中央委員会総会での志位和夫幹部会委員長の挨拶は、著しい党勢後退のために焦慮に満ちたものになった。共産党はいま、党員、機関紙「赤旗」の読者、支持者の減少、それから来る財政難に悩まされている。だが、わたしは、共産党の衰弱は党勢だけではないと思う。
共産党は21世紀に入ってからも何度か大きな政策上・理論上の転換をした。ところが、過去の党大会や中央委員会の「報告」には、これに関する討論らしい討論がない。党大会代議員の発言は100%党中央の議案を支持するものである。これは最近の第9回中央委員会総会も同じことであった。
以下、絶対に討論の必要があった、それなしには党指導部が鼎の軽重を問われても仕方がないと思われる事例を二つ上げる。いままでの繰り返しになるところがあるがお許しを乞う。
ウクライナ戦争がはじまると、2022年4月に志位氏は、急迫不正の侵略には現行法にもとづいて安保条約第5条で対応すると明言し、自衛隊と在日米軍の共同作戦を容認した。
ところが今年2月9日の「かもがわ出版」編集主幹松竹伸幸除名についての記者会見での志位氏の発言は、以下のようなものであった。
「在日米軍というのは、その部隊の構成を見ても、海兵隊と、空母打撃群と、遠征打撃群と、航空宇宙遠征軍ですから、どれも遠征部隊ですよ。海外に『殴り込み』をかける部隊が中心です。日本を守っている『抑止力』だという考え方は根本からとっておりません」
だれが考えても、志位氏ははなから日米安保条約第5条の発動など勘定にいれていないという趣旨である。この突然の論理の飛躍に対する説明はない。
これを知り合いの党員に聞くと、国民連合政府のもとでは、安保条約第5条の発動も自衛隊の動員も認められるが、自公政権下では認められないのだという。これは理解に苦しむ。
もっとも考えられるのは、もともと幹部会員など党中央の多数が安保条約容認と自衛隊の活用、日米共同作戦という、昨年の志位氏の発言に内心反対であって、松竹除名問題を機に破裂し、不破氏もそれに従わざるを得なかったというシナリオである。
もう一つ。日本共産党は2005年から2009年まで3回、最高権威者である不破哲三氏を中心に中国共産党と友好的な「理論会談」をおこなった。不破氏は、2009年4月の「理論会談」で、2008年に胡錦涛政権がリーマン・ショックに際して取った4兆人民元の財政投資を高く評価し、さらに中共は中国経済の瞰制高地(かんせいこうち・戦場を支配する拠点)を、その手に握っていると称賛した。
「(中国政府は)市場経済の無政府性に流されないで、経済全体を方向付け、危機やさまざまな問題に対処する、その点であなた方が、マクロコントロールの陣立て、つまり計画経済の陣立てを持ち、それを十分な財政的・経済的裏付けをもってにぎっていることは、今回の世界経済危機への対応でも非常に大きな力になっている、と見ています(不破哲三『激動の世界はどこに向かうか――日中理論会談の報告』 p166新日本出版社 2009年)」
一方、2020年の28回党大会の中心議題は、中国・ベトナム・キューバに対する「社会主義をめざす新しい探求が開始された国」という2004年綱領以来の規定を削除することであった。その理由を不破氏自身が説明している。
不破氏は、1998年に中国共産党は日本共産党に対しておこなった干渉への反省の態度を表明した。その流れで両党関係が正常化したとした後、こう発言しているのである。
「しかし、その数年後に事態が変化しました。2008年12月、機関銃で武装し中国の公の船団、いわゆる公船団ですが、これが日本の領土である尖閣諸島の領海を侵すという事態が起こったのであります。最初は偶発的な事件かともみられましたが、その後、中国の侵犯行為は拡大する一方でした。この根底にあるのは、国際的な道理も、他国の主権も無視した領土拡張主義にほかならなりません。この領土拡張主義は、いま南シナ海方面、東南アジアではよりあからさまな、乱暴な形で発動されています(「前衛臨時増刊--日本共産党第28回大会特集」p228,229)
不破氏は2009年の「理論会議」で中国共産党の支配体制をほめちぎっているのだが、党大会では、2008年に大国主義・覇権主義を発動したとして厳しく非難しているのである。
この二つの発言を普通の人が読めば混乱する。28回党大会から今日まで、この不破氏の発言に疑問を提起したり、異議を唱えた人が党内から出なかっただろうか。出なかったとしたら、だれも不破氏の上記の著書や「前衛」の大会特集を読まなかったからかもしれない。またつじつまが合わないと知っても、意見を言えば「反共攻撃」に同調したものとされるおそれがあったからかもしれない。
共産党員も日本人の例外ではなく、孤立を恐れて(空気を読んで)発言を控えることが多いのだろうか。しかし、必ずしもそれだけではないらしい。
党大会に代議員として出席した人の話では、代議員の7割くらいは党役員兼専従職員だという。この人々は、党中央から給与を受け取っている。だから、なまじ批判的な意見を言って次期役員推薦名簿から外されたら直ちに生活できなくなる。同じことは国や地方の議員にもいえる。党公認でなかったら、選挙で当選はできないからだ。
さらに、討論が起こらない原因の一つに、共産党の厳格な民主集中制がある。もし、党員が自分の意見を全国の党員に知ってもらいたかったら、党中央に上げるほかない。党中央が彼の要望を拒否したら、規律違反を承知のうえで他の支部・地区組織に働きかけるか、党外で発表するしか方法がない。実際にこれをやって除名された人もいる。
わたしは現執行部では不可能と思いながらも、くりかえされる「130%の党勢拡大」方針や不破氏独特の理論に対する批判的検討の声が党内から上がらないものかと期待している(注)。
多様な意見の交換と対立といった緊張がなければ、正しい理論でも衰退することがあると思うからである。
(注)専門的知識を必要とする分野に限れば、川上則道氏に『本当に、マルクスは書いたのか、エンゲルスは見落としたのか――不破哲三氏の論考「再生産論と恐慌」の批判的検討』(本の泉社 2022)という優れた論考がある。
氏によると、谷野勝明氏にも著書『再生産・蓄積論草稿の研究』(八朔社 2015)のほか、不破理論の批判的検討をした論文があるとのことである。 (2022・10・19)
初出 :「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion13332:231024〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。