Global Head Lines:ガザ紛争についての海外論調(6)――ドイツの左派系日刊紙Tageszeitung 10/31の特集記事から
- 2023年 11月 3日
- 評論・紹介・意見
- ガザ紛争野上俊明
どう考えても、つまるところパレスチナ紛争には「オスロ合意」の精神である、イスラエルとパレスチナの「二国家間の平和共存」以外の解決法はないであろう。だとすれば、現に進行しつつある民族浄化の色さえ濃いガザ地区へのイスラエルの攻撃を止めさせなければならない。そのあまりの非人道さに加え、相手方の殲滅を最終目標とする攻勢は、「オスロ合意」の精神とは真逆だからである。なるほど問題の根源には、イスラエルを自らの中東支配の要役として利用するため超優遇してきた―核兵器の保有すら黙認―アメリカの中東政策の決定的誤りがある。今はそこまで言わないにしても、アメリカ(プラス欧州)がイスラエルのガザ地区攻撃のなんらかの歯止めとならなければ、中東アラブ諸国だけでなく国際世論からも孤立し、ひいてはウクライナ支援の国際連帯をも乱すことになる。パレスチナ紛争の火種が残る限り、中東の安定もないし、「文明の衝突」の策源地として世界平和の脅威であり続けるであろう。
ガザ地区での戦争:ミッション・インポッシブル
――10月7日以降、ハマス壊滅の意思は理解できる。しかし、それは現実的な戦争目標なのだろうか?その後どうなるのか?
原題:Krieg im Gazastreifen:Mission impossible
https://taz.de/Krieg-im-Gazastreifen/!5966719/
ガザへの爆撃、住民は家を捨てる 2023.10.30Foto: Abed Khaled/ap
1,400人のイスラエル人が無残に殺され、230人以上が拉致された10月7日の恐怖の後では、加害者であるハマスの壊滅を求める声が大きくなるのは当然だ。これは、数週間にわたって続くガザへの大規模な砲撃と地上攻撃によって達成されるはずであり、それなしでは海岸地帯の制圧は不可能である。しかし、ハマスの壊滅は現実的な戦争目標なのだろうか? ガザ地区の長期的な未来はどうなるのか?イスラエルはハマスの指導部とその戦闘員の大部分を殲滅することに成功するかもしれない。イスラエル軍は、ハマスのトンネルや兵器システム、建造物を破壊することにも成功するかもしれない。しかし、それでもハマスは残るだろう。
ハマスは単なる組織ではなく、イスラエルに対する戦闘的イデオロギーなのだ。ハマスは、自らの生活環境、イスラエルの占領、そしてガザ地区の包囲に反抗するーテロをもともなうーパレスチナ人の最も過激で残忍な形態なのである。根本問題は、仮にハマスの物理的な部分を排除することに成功したとしても、ガザに爆弾が落ちるたびに、ガザの瓦礫から人が引きずり出されるたびに、暴力的な抵抗という考え方がさらに強まるということだ。「ハマスはわれわれに罠を仕掛けた」と、元フランス首相ドミニク・ド・ヴィルパンは言う。「最大限の恐怖と最大限の残酷さの罠だ。まるでパレスチナ問題のような深刻な問題を軍隊で解決できるかのように、軍国主義がエスカレートし、さらなる軍事介入が起こる危険性がある」
米国のイラク占領の記憶
その結果は、さらに過激化することになるだろうし、それはガザだけのことではない。 ヨルダン川西岸地区やイスラエル国籍を持つパレスチナ人の間でも怒りが高まるだろう。パレスチナ問題が最近ほとんど議題に上らなくなっていたアラブ世界でも同様である。その意味で、現在のガザでの戦争はハマスと戦うためのプログラムではなく、逆にハマスを強化するものだ。事後の問題もある。イスラエル軍がガザ地区の少なくとも一部を実際に支配したらどうなるのか?過去に双方にとって悪夢であったことがすでに証明されている、イスラエルによる直接占領の時代に戻るのだろうか。イスラエル軍によって実行される「脱ハマス化」は、おそらく1990年代のイラクにおけるサダム・フセイン率いるバース党に対する措置である、アメリカの「脱バース化」と同様の結果―米国占領に対する抵抗の激化―をもたらすだろう。
それとも、別の誰かがガザ地区を管理し、それを鎮静化させるべきなのだろう。それは、イスラエルによって指示された一種のパレスチナ自治である。例えばパレスチナのアッバス大統領率いるファタハなどの何らかの組織が、イスラエル軍戦車のハッチに乗ってガザ地区に侵入し、その後も230万人の住民の間で正当性のかけらをなお保っているとは考えにくい。ヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治政府(PA)首相であるモハマド・シュタイェは、ヨルダン川西岸地区とガザ地区を含むパレスチナ国家の包括的合意がない限り、PAのガザ地区への復帰はないとすでに断言している。
代替案としては、イスラエルが数週間前からパレスチナ人に南へ逃げるよう呼びかけているガザ地区の北部全体を、巨大な無人化した緩衝地帯と宣言することだ。これは、230万人のパレスチナ人がガザ地区南部に永久に詰め込まれ、世界中から「人道的」ケアを受けることを意味する。ガザ地区は、いまでもすでに世界で最も人口密度の高い地域のひとつとされている。これによって、以前のガザ地区全体よりもさらに圧力がかかる圧力釜ができたことになる。
エジプトは相手にせず
最後に考えられるシナリオは、パレスチナ人がその歴史からよく知っているものである。つまり、ガザからエジプトの北シナイへのパレスチナ人の脱出である。パレスチナ人は歴史上、他国に幾度か逃亡したが、戻ることはできなかった。他方、ヨルダン川西岸では、右翼入植者運動はパレスチナ人をヨルダンに向かわせることを何十年も夢見てきた。イスラエルの右派は、米国と欧州からの追い風を受けて、このようなシナリオを実際に推進できると考えているふしがある。特にこれによってハマスの「考え」を少し遠ざけることが可能になるからだ。
しかし、エジプト大統領アブデル・ファタハ・アル=シシは、これまでのところ、パレスチナ人追放のシナリオに加わることを厳格に拒否している。仮に、多額の負債を抱える彼の国がアメリカやヨーロッパから財政的な優遇措置を受けたとしても、エジプト国内の世論に反して、アル=シシが国内で実現することは難しいだろう。しかもその場合、アメリカとヨーロッパはガザ地区の民族浄化の共犯者となる。これは、アメリカとヨーロッパが世界の大部分で道徳的な先駆者的役割を果たすという考えに別れを告げることを意味する。
いずれにせよ、ハマスの “思想 “は北シナイで生き続けるだろう。エジプトは今後、パレスチナ人とイスラエルとの対立の一部となり、エジプト国内からイスラエルに対するあらゆる種類の過激派行動を起こしやすくなる。おそらく、エジプト国民の一部からの支持もあるのだろう。ヒズボラを擁するレバノンと同様、エジプトはイスラエルに対して過激なグループの人質となるだろう。それは、1億500万人の人口を擁するアラブで最も人口の多い国を不安定にする確実な方法である。
上記のどのシナリオも中東情勢を改善することはないだろう。10月7日以降、ハマスのイデオロギーは、それを求める声が当然大きくなったとしても、軍事的に打ち破ることはできない。唯一の効果的な方法はハマスを政治的に窮地に追い込むことだ。しかし、そのためには、パレスチナ人に真の選択肢、つまり過激主義を排除した視点を作り出す必要がある。そのためには、イスラエル社会も完全に考え直す必要がある。その前提はこうであるべきだ: パレスチナ人の権利を考慮しなければ、イスラエルの安全はない。この時点に達して初めて、「ハマスの思想」は歴史のゴミ箱に入ることになる。
(機械翻訳をベースに、適宜修正した)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13350:231103〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。