「LIN-NET 第5回」集会の報告
- 2023年 11月 3日
- 評論・紹介・意見
- LINE-NET地域主権池田祥子
「LIN-NET」とは?
それは、Local Initiative Network(ローカル イニシアティブ ネットワーク)
の頭文字を取ったものである。
発足は、2022年11月。スローガンは「ボトムアップ型の政治をめざす!」その趣旨に賛同する自治体の首長、自治体議員および市民が集って、ネットワークを形成して始まったという。
そして、具体的な焦点は、間近に迫っていた「2023年4月」の統一自治体選挙である。それに向けての「よびかけ」を元に、第2回目の「Local Initiative Meeting」が開かれ(12月9日)、そこには、5人の区長・市長と自治体議員および予定候補者約30人および市民が結集した。続いて、統一自治体選挙の直前に第3回目「Meeting Ⅲ」が開かれ、この時はオンラインも加えて、参加者は全国に広がり、500人を超えたそうだ。
この「Meeting Ⅲ」で、「LIN-NETがめざすもの(地域主権でコモンの再生を)」と銘打つ重点政策5項目を決定し、公表している。
1 「地域主権と民主主義」を実現します
2 気候危機をストップするため、自治体と地域の力で取り組みます
3 「ケアを社会の真ん中に」位置づけます
4 人権を尊重し、多様性を認め合う社会をつくります
5 市民と行政が共に参画する街づくりを進めます
続く6月27日夜、中野区のゼロホールを会場にして、第4回の「Meeting」が開かれている。私は、この時初めて、A子さんに紹介されて参加した。その時は、4月の統一自治体選挙の後であり、とりわけ杉並区では、能條桃子さん代表の「FIFTYS PROJECT」から、新しい区議候補者29名の内、24名当選という「成果」もプラスして、全体で600名余りの参加者となっていた。
今回は、それに続く第5回目の「LIN-NET」である。やむを得ない理由のため出席できなかったA子さんに代わって、当日の内容を簡単に紹介しておこうと思う。
「LIN-NET Ⅴ」の内容
今回の第5回ミーティング(Meeting Ⅴ)は、会場は杉並区の「セシオン杉並」、前回と変わらぬ500名あまりの参加者、プラス国内はもちろん、海外からのZOOM参加者も加わっていた、という。
内容は大きく分けて3つのセクションである。
Ⅰ ミュニシパリズム杉並 NOW!
Ⅱ これがコモンだ!
Ⅲ シンポジウム:「LIN-Net」と私たちが進む道
以下、それぞれのセクションの主な内容を簡単に報告しておこう。
「ミュニシパリズム杉並 NOW」
「ミュニシパリズム」は、少々唇を嚙みそうな、未だ十分にみんなのものになってはいない言葉のようではあるが、「LIN-NET」などを中心にして広まっていくことを期待したい。つまり、「ミュニシパリズム」とは、「地域主権主義」である。
もちろん、近代の「国家」においても、それは理念や理論としては「国民=人民主権」を前提にしているが、「国民=人民」はどうしても抽象度が高くなる。それに対して、「地域」は、私たちの日常の生活空間でもあり、より具体的に掴まえやすい。
ただ、今回は、当選を果たした酒井大史立川市長、および松下玲子武蔵野市長からの映像を通しての挨拶があり、前者酒井大史立川市長は、「子どもたちの居場所問題」を当面の課題として掲げていた。
いずれにしても、「地域主権」に基づく政策展開は、今後に期待されるとして、このセクションの司会役だった中島岳志氏は、これまでの「保守/革新」の対抗関係をズラして、「自由にリベラル」さらには「漸進的な改革」こそが求められているのではないか、と述べていた。
これがコモンだ!
このセクションでのキーワードは「コモン」である。これも、斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』で強調されている概念である。これまでの典型的な「マルクス主義」では、ロシア型レーニン主義と一体化されて、「資本主義社会」の打倒!がまずもっての課題にされてきたが(「革命」)、斎藤幸平氏は、目前の資本主義社会の下でも、「コモン=公共」の重要性を説き、「コモン」を現実的に創り上げ続けることで、これから先の展望も引き寄せられるのではないか、と説いている。これまた、やや抽象的な理論展開であるが、ここでは、ほぼ全体的な了解がなされている感じであった。
壇上での発言者は、まずは豊泉惣子さん。1992年、生活者ネットクラブの活動から生まれたACT(NPO法人アビリィティ・クラブ・たすけあい)の簡単な実践報告である。
成田西での「なかまの家」のランチとこども食堂、上井草の「すてっぷ&すきっぷ」(親子ひろば)での手作りランチの実践など。
続いて、児玉奈輔氏。2006年4月に「公契約推進世田谷懇談会」が設けられ、「公契約条例」で、建設業界などでの働き手の公正な労働報酬の確保を目指しているという。
三人目、最後は桃井和馬氏による多摩地方の実践報告である。
2012年5月に、「多摩循環型エネルギー協会」が発足。「地産地消」の再エネルギー活用で、現代社会の大きな問題である「脱炭素」を少しでも目指せれば・・・ということである。
ただ、以上の3つの事例とも、必ずしも「広く知られている」わけではない。しかも、建設業界での「公正な労働報酬」の獲得のために世田谷区で頑張っている児玉奈輔氏は、「せっかく運動しているのだが、残念ながら建設業界になかなか若い人が入って来ない」と現実を嘆いていた。
シンポジウム「LIN-NET」と私たちが進む道
最後は、能條桃子氏、杉並区長・岸本聡子氏、世田谷区長4期目の保坂展人氏によるシンポジウムである。
能條桃子氏は、先に紹介済みではあるが、昨年4月の統一自治体選挙にあたって、杉並区で29名の女性候補者を立ち上げ、24名の当選を実現した「FIFTYS PROJECT」の主宰者である。若いし、元気だし、今後は他の市や区の人々も加えて、さらに「私たちの手で地方・地域の政治を!」と、その活躍が期待される。また、新しく杉並区議になった24名のそれぞれの活動とその結果の報告も、楽しみに待たれるところである。
岸本聡子杉並区長は、今更ながらではあるが、前区長田中良氏との投票結果の差が「187票」!というので驚かされたが、さらに、区長に立候補する前は、外国(オランダ・ベルギー)で働いていたという事実、さらに、この日は区長になって1年3カ月だという、何とも話題満載の新区長ではある。
もっとも、「新しい区長を!女性区長を!」と少し前から運動していた人々に支えられての立候補決断と際どい当選だった訳であるが、実は、これからが本当に新しい区長としての実績が問われていくことになるであろう。
保坂展人世田谷区長は、当初は混乱を極めたコロナ対応をこなし、改めて、ベテラン区長と評価されての4期目だと思われるが、しかし、「長期区長」としての課題も多いのではないか。
東京都の西部では、さらに、酒井直人中野区長、阿部裕行多摩市長、白井亨小金井市長など、非自民党の区長・市長も目立っている。これらの区長・市長とも改めて共同し、具体的なテーマで議論し、「LIN-Net」を確かなものに育ててほしい。まだまだとば口だと思うからである。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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