米国のジャーナリストが書いた 「ガザの子どもたちへの手紙」
- 2023年 11月 13日
- 時代をみる
- ガザ問題グローガー理恵
はじめに
2023年10月28日、国連人権高等弁務官事務所のニューヨーク事務所長・クレイグ・モクヒバー氏が辞任した。彼は 「ガザで展開されている 『ジェノサイドの教科書のような事例』に国連が対処していない」と非難し、米国、英国、多くの欧州諸国が恐ろしい攻撃に加担していることを指摘した。
11月8日、米国のジャーナリスト・クリス・ヘッジス氏はエジプトへ向かう飛行機の中で、ガザの子どもたちに宛てて手紙を書いた。 ガザで起こっている人道危機を目のあたりにして、ヘッジス氏は、ジャーナリストとして自分のやれることは現地に行ってそこで何が起こっているのか、その事実を世界に伝えることであり、それが自分の役目であると決心し、ガザの国境にあるエジプト側のラファに向かっているのだった。
手紙の中で、ヘッジス氏はこう述べている:
「….私たちはラファに行く。私たちの多くが。記者たちが。 ガザの国境の外に立って抗議する。 私たちは記事を書いて、撮影するのだ。これが私たちの仕事だ。 大したことではない。でも、少なくとも何かだ。私たちは再び、君のストーリーを伝えるのだ。」
戦争特派員として戦争を経験されているヘッジス氏の手紙は、ガザの子どもたちの苦しみを深く理解し、子どもたちへのエンパシーに満ちていて、読む人の心を打つものだと思う。
クリス・ヘッジス(Chris Hedges)氏について:
アメリカのジャーナリスト、著述家。フリーランスの戦争特派員として、クリスチャン・サイエンス・モニター、NPR、ダラス・モーニング・ニューズなどで中米を取材。1990年から2005年までニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、旧ユーゴスラビア紛争時にはタイムズ紙の中東支局長およびバルカン支局長を務めた。2001年、ニューヨーク・タイムズ紙のスタッフエントリーに寄稿し、同紙の世界的なテロリズムに関する報道が評価され、2002年のピューリッツァー賞(解説報道部門)を受賞した。
* * * * * * * ガザの泣く子 ソース: jhelumupdates.com.pk
ガザの少年 ソース: nachdenkseiten
ガザの子どもたちへの手紙
2023年11月8日
著者:クリス・ヘッジズ (Chris Hedges)
〈翻訳:グローガー理恵〉
大切な子に。
今、真夜中を過ぎている。 私は、暗闇の中、時速数百マイルのスピードで、大西洋から数千フィートの上空を飛んでいる。私はエジプトに向かっている。私はガザの国境ラファに行くのだ。君のために、私は行く。
君はまだ飛行機にのったことなんかない。 ガザから出たこともない。君が知っているのは、密集した通りや路地だけだ。コンクリートの粗末な建物。 君が知っているのは、警備バリアや兵士が巡回するガザを取り囲む柵だけ。
君にとって、飛行機というのは、ぞっとする恐ろしいものだ。 戦闘機。攻撃ヘリコプター。 ドローン。 それらが君の頭上を旋回する。そしてミサイルや爆弾を投下する。 耳をつんざくような爆発音。 地面が揺れる。 建物が倒壊する。死人。悲鳴。 瓦礫の下から、かすかに聞こえる助けを求める声。 それは止むことがない。 夜も昼も。 崩壊したコンクリートの山の下に閉じ込められてしまう。 君の遊び仲間。 学校の友達。 近所の人たち。 彼らはあっという間に消えてしまった。 彼らが掘り出されたとき、君は彼らの白亜の顔とぐったりとした体を見る。 私は記者だ。 これを見るのは私の仕事だ。君は子どもだ。君はこれを決して見るべきではないのだ。
死臭。 崩れたコンクリートの下の腐敗した死体。 君は息を止める。 君は布で口を覆う。 君は早足で歩く。君の近所は墓場と化してしまった。見慣れたすべてのものがなくなってしまった。君は驚きの目で見つめる。 君は思案する。「自分はどこにいるのだろうか」と。
君は恐れている。爆発に次ぐ爆発。君は泣き叫ぶ。君は、母さんと父さんにしがみつく。君は耳を塞ぐ。 君はミサイルの白い光を見て、爆発を待つ。 どうして彼らは子どもたちを殺すのか? 君が何をしたというのか? どうして誰も君を守ることができないのか?君は怪我をするのだろうか?君は足や腕を失うのだろうか? 君は盲になって車椅子に座るようになるのだろうか? どうして君は生まれてきたのだろうか? 何かよいことのために? それとも、このために? 君は大人になるのだろうか? 君は幸せになるのだろうか? 友達もいなくなり、君はどうなるのだろうか? 次に死ぬのは誰なのか? 君のお母さん?君のお父さん? 君の兄弟姉妹? 君の知っている誰かが怪我するだろう。もうすぐ。 君の知っている誰かが死ぬだろう。 もうすぐ。
夜、暗闇の中で、君は冷たいコンクリートの床に横たわる。 電話はつながらない。インタネットはオフ。 君は何が起こっているのかわからない。 閃光が走る。爆風の波。悲鳴。 それは止まらない。
君の父さんと母さんが、君の欲しがっている食べ物や水を探し求めているとき、君は待っている。君の胃の中で起こる恐ろしい感覚。 父さんと母さんは戻ってくるのだろうか?父さんと母さんにまた会えるのだろうか?次は君の小さな家が爆破されるのだろうか?爆弾は君を見つけるのだろうか?これが地球における君の最後の瞬間となるのだろうか?
君は塩っぱい汚い水を飲む。 君はとても気分が悪くなる。 君の胃が痛む。 君は腹が空いている。パン屋は破壊されてしまった。 パンはない。 君が食べるのは一日一回。パスタ。 きゅうり一本。 もうすぐこれがご馳走のように思えてくるのだろう。
君はボロ布で作ったサッカーボールで遊ばない。 君は古新聞で作った凧をあげない。
君は外国人の記者を見たことがあるだろう。 私たちはPRESS [報道陣] と書かれた防弾チョッキを着ている。ヘルメットもある。 カメラを持っている。 ジープを運転する。私たちは爆撃や銃撃のあとに現れる。 私たちは座ってコーヒーを飲みながら長い間、大人たちと話をする。 そして姿を消す。 普通、私たちは子どもたちにインタビューしない。でも、私は君たち子どものグループが私たちを取り囲んだときに、君たちをインタビューしたことがある。 君たちは笑って。 指さして。 私たちに写真を撮ってくれと頼むんだ。
私はガザでジェット機に爆撃されたことがある。 他の戦争でも爆撃されたことがある。 君が生まれる前に起こった戦争でね。 私は、とても、とても怖かった。 今でもその夢を見ることがあるんだ。 ガザの写真をみると、これらの戦争のことが雷や稲妻のような勢いで蘇ってくる。 私は君のことを考える。
戦争に行ったことのある私たちは皆、戦争が子どもたちに何をもたらすのか知っているから、何よりも戦争を憎むのだ。
私は君たちのストーリーを伝えようとした。 私は、「毎週毎週、毎月毎月、毎年毎年、年々歳々と、人々を虐待し、人々の自由と尊厳を否定し、屈辱を与え、天井のない監獄に閉じ込め、あたかも彼らが獣であるかの如く殺すのなら、人々は激怒する」と、世界に告げようと努めた。 彼らは自分たちがされたことを他人にするのだ、と。 私は、そのことを何度も何度も繰り返して告げた。 このことを7年間、伝えてきた。 耳を傾ける人は、ほとんどいなかった。そして今、こうなった。
とても勇敢なパレスチナのジャーナリストたちがいる。 爆撃が始まって以来、39人のジャーナリストが殺された。彼らは英雄だ。 君たちの病院のお医者さん、看護師さんたちもそうだ。 国連の職員もそうだ。 そのうちの89人が亡くなった。救急車の運転手さんや救急救命士さんもそうだ。 コンクリートのスラブを手で持ち上げる救助隊の人たちもそうだ。 君たちを爆弾から庇う父さんや母さんもそうだ。
でも私たちはそこにいない。今回は。入れない。締め出されているのだ。
世界中の記者がラファの国境に向かう。私たちは行くのだ。 なぜなら私たちはこの大虐殺をじっと見ているだけで何もしないようなことはできないからだ。 私たちは行く。なぜなら一日に何百人という人々が死んでいるからだ。その中には160人の子どもたちがいるのだ。私たちは行く。 なぜならこの集団虐殺を止めなければならないからだ。 私たちは行く。 なぜなら私たちには子どもがいるからだ。君たちのような。 尊い。 あどけない。愛されている。 私たちは行く。 なぜなら私たちは君たちに生きてほしいからだ。
私はいつの日か君と会えることを望んでいる。君は大人になる。 私は老人となる。君にとって私は、もうすでに年老いているのだけれど。 私が夢の中で見る君は、自由で安全で幸せな君だ。 誰も君を殺そうとしない。君は爆弾でなく、人々で賑わった飛行機にのって旅をするのだ。 君が強制収容所に閉じ込められるようなことはなくなるのだ。君は世界を見るのだ。 君は成長して子どもを持つだろう。君は年を取るだろう。 君はこの苦しみを思い出すだろう。でも君は、その苦しみは、君自身が苦しんでいる人々を助けなければならないことを意味するのだということを分かるだろう。これが私の望みだ。私はそう祈る。
私たちは君を見捨てた。これは私たちが背負う恐ろしい罪悪感だ。 私たちは努力した。 でも私たちの努力は充分でなかった。私たちはラファに行く。私たちの多くが。記者たちが。 ガザの国境の外に立って抗議する。 私たちは記事を書いて、撮影するのだ。これが私たちの仕事だ。 大したことではない。でも、少なくとも何かだ。私たちは再び、君のストーリーを伝えるのだ。
もしかしたら、これは君の許しを請う権利を得るのに充分かもしれない。
ー翻訳終わりー
以上
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参考にした記事:
https://www.democracynow.org/2023/11/1/craig_mokhiber_un_resignation_israel_gaza
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye5148:231113〕
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