デマ:ゼレンスキーが義母にエジプトの豪邸を買った
- 2023年 11月 15日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
九月二十四日(日)、いつものように昼前に起きて、海外から入ってきたニュースレターの処理をしていった。週末ということもあって大した量じゃない。あちこち飛んでいっても一時間ほどで片付いてしまった。YahooメールからYahooニュースに入った。そこには話題になっているニュースがならんでいるだけで、これはという記事で出くわすことはめったにない。慣れてはいても、英語の記事は日本語のようにはいかない。トルコ語を始める前に日本語の三面記事でひと息いれている。何があるわけもないと思ってみていったら、ひっかかるものがでてきた。
「『事実関係の確認が不十分だった』JBpressがゼレンスキー大統領に関する記事削除 在日ウクライナ大使館が抗議」
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2309/24/news039_2.html#utm_source=yahoo_v3&utm_medium=feed&utm_campaign=20230924-047&utm_term=it_nlab-sci&utm_content=rel1-0
ニュースサイト「JBpress」は9月23日、「ゼレンスキー大統領にもう一つの顔か、西側の支援金で私腹肥やしたとの疑惑」とする記事を、事実関係の確認が不十分だったとして削除して謝罪しました、在日ウクライナ大使館が当該記事に抗議していました。
題からだけでは、削除した記事が何を伝えていたのか分からない。ただあのJBPressことだから、ウクライナのことにしても大したことでもないだろうと思った。スルーしてしまうかと思いながら、削除された記事はなんだったんだろうと気になった。
削除されてしまったんだし、探したところで見つかりっこないだろうなと思っていたが、削除されたはずのもが出てきた。記事がガセなら、削除したというのもガセなのか?それとも削除したら、どこからか指導が入って再掲載したのか?
「ゼレンスキー大統領にもう一つの顔か、西側の支援金で私腹肥やしたとの疑惑」
https://web.archive.org/web/20230901054115/https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/76759
「エジプトの“ベニス”に義母名義で大豪邸購入との報道」
2023.9.1(金)
米ハーバード大学ウクライナ研究センターのセルヒー・プロヒー所長は、「ゼレンスキー氏は驚くほど優秀な戦時の大統領であり、平時よりもはるかに機能的に力を発揮している」と評価した。
一方で、ゼレンスキー氏の「別の顔」がいま表出してきてもいる。
同氏は今年5月、エジプトのベニスと呼ばれるエル・グーナ別荘地に、1億5000万エジプト・ポンド(約7億1100万円)の別荘を購入したとの報道が飛び出した。
エジプトの“ベニス”に義母名義で大豪邸購入との報道
大統領という一国のトップであれば、それくらいの資産はあるとも思えるが、実はこの資金の出所は西側諸国からウクライナに寄せられた金融支援パッケージであることが分かってきたという。
エジプト人ジャーナリストのモハメッド・アル・アラウィ氏が行った調査報道によると、ゼレンスキー氏は義母の名義で同物件を購入し、資金の出所は欧米諸国から寄せられたものであるという。
しかも、アル・アラウィ氏は別荘を購入したことを証明する文書を入手して公開。それによると、複数の文書には住所や価格、さらに契約者などが記されている。
欧米メディアはすでに同件を報道しており、ゼレンスキー氏をよく知る人物から、別荘購入に充てた資金は本人のものではなく西側諸国からの援助資金にほかならないとのコメントも出ている。
ああだのこうだのと書いてはあるが、情報の中核はここまでで十分だろう。
「欧米メディアはすでに同件を報道しており」といっているが、ググったかぎりでは欧米メディアの報道は見つからない。
ここまで読んできて、どうにもひっかかる。JBPressの記事には記者名が書かれているが、記事の日本語が翻訳くさい。例えばだが、次の一文、日本語になっていない。
「同氏は今年5月、エジプトのベニスと呼ばれるエル・グーナ別荘地に、1億5000万エジプト・ポンド(約7億1100万円)の別荘を購入したとの報道が飛び出した」
主語は「同氏(ゼレンスキー)」だが、述部は「購入したとの報道が飛び出した」になる。とても国際関係を扱うジャーナリストの文とは思えない。
記者が直接プロヒー所長にインタビューして書いたのではなく、どこかのニュースを、それも外国語の記事を翻訳して、訳したものをベースに日本語にまとめたではないかと想像している。
「エジプト人ジャーナリストのモハメッド・アル・アラウィ氏が行った調査報道によると」とあるから、アラウィ氏を検索すればとググってみたが、アラウィ氏はでてくるものの、モハメッド・アル・アラウィ氏が見つからない。それではと、Zelensky Egypt Mansion(英語では豪邸の意味になる)と入力してググったら、これはというのが二つでてきた。
ひとつ目は、「Fake Zelensky’s mother-in-law bought a villa on the Egyptian coast with Western humanitarian aid to Ukraine」
28 August 2023 01:04
機械翻訳すると、下記になる。
「フェイクニュース:ゼレンスキーの義母、欧米のウクライナ人道支援でエジプト沿岸に別荘を購入」
https://disinfo.detector.media/en/post/zelenskys-mother-in-law-bought-a-villa-on-the-egyptian-coast-with-western-humanitarian-aid-to-ukraine
記事の主要部を機械翻訳すると、下記になる。
このような情報はナイジェリアのメディアで流布されている。報道によれば、ヴォロディミル・ゼレンスキーは義母オルハ・キアシュコのために別荘を購入したとされている。その資料の中で、メディアは別荘購入の証拠を提供しており、特に購入に関する関連書類を示している。また、「調査ジャーナリスト」モハメド・アル・アラウィのビデオも追加されている。その後、この情報は匿名のロシアのプロパガンダ・テレグラム・チャンネルによって拡散され、ゼレンスキーはすべての購入を「納税者のポケットから」行っていると報じた。嘘だ。
まず、この「調査資料」には多くの事実誤認が含まれている。著者は不動産購入に関する文書とされる写真を提供しているが、そこには家の将来の所有者が記されている。つまり、この文書にはオルハ・キヤシュコの家を所有していると書かれているが、国家移民局の現在の基準によれば、すべての文書の音訳はこのようになるはずだ-オルハ・キヤシュコ。著者はこのような「文書」の信憑性を証明せず、どこから入手したのかも説明しなかった。ビデオの下のコメント欄で作者たちが何度も質問されたこと。それは、少なくとも別荘購入の契約は、正確にはオルハ・キアシュコには当てはまらないということだ。
しかも、「ジャーナリストによる調査ビデオ」については、購入に関する情報が捨てられる数日前に作成されたYouTubeチャンネルで公開されたものだ。そして、調査ジャーナリスト自身の投稿は多くの疑問を投げかけている。というのも、検索エンジンでモハメド・アル・アラウィを検索すると、この調査報道記者は別荘購入に関する資料へのリンクを示すだけで、この人物に関する追加情報は一切ない。概して、この文章は価値判断と虚偽の情報に満ちている。
ふたつ目は驚くなかれ、あのMonthly Reviewの記事だ。二十代中ごろ思想問題からニューヨーク支社に島流しにされていた。いつまで経っても半人前以下だったが、一年もすぎればそれなりに格好もつくようになって、気持ちに余裕が出てくる。岩波の「世界」を読んでいて、ポール スウィージーを思い出した。拙い英語で通じるか、そして工員になれなかった半端ものが電話などしていいものかと恐る恐るMonthly Reviewのオフィスに電話した。稚拙な英語にもかかわらず、親切に色々教えてくれた。おかげで賛助会員になれた。翌月からあのくすんだ赤い表紙のMonthly Reviewが届いた。帰任してからも国際郵便で送ってもらった。たまげたことに、畏敬の念をもって崇めていたMonthly Review Pressがガセとしか思えないニュースを配信していた。
七十年代中頃まではロシア革命とソ連という二十世紀の働く人たちの夢を実現した社会が眩しく光り輝いていた。その輝きが創作された虚像にすぎなかったと後になって気がついたが、人によっては半世紀以上経っても残像が抜ききれない染みのように残ったままなのかもしれない。
「Luxurious Villa owned by Ukrainian President Volodymyr Zelenskyy’s family discovered on Egyptian Coast」
「ウクライナ大統領ヴォロディミル・ゼレンスキー氏一家が所有する豪華な別荘がエジプト海岸で発見される」
https://mronline.org/2023/08/30/luxurious-villa-owned-by-ukrainian-president-volodymyr-zelenskyys-family-discovered-on-egyptian-coast/
Originally published: Punch Newspaper on August 22, 2023 by Arthur Nkono (more by Punch Newspaper) | (Posted Aug 30, 2023)
The document indicates that the villa was purchased by Zelenskyy’s mother-in-law in May 2023. According to the document, the price of the villa is 150,000,000 Egyptian pounds or approximately $4,850,000.
Punch Newspaper on August 22, 2023 by Arthur NkonoからMonthly Reviewがいうオリジナル記事を探した。
https://punchng.com/topics/politics/
色々な記事が並んでいるが、「Luxurious Villa owned by Ukrainian President Volodymyr Zelenskyy’s family discovered on Egyptian Coast」の基となった記事は見つからない。
Media Bias/Fact Checkで見たら、Punchはナイジェリアのニュースサイトらしい。
https://mediabiasfactcheck.com/?s=punch
評価は、下記にあるように穏健左派よりで、悪くはない。
The Punch (Nigeria) ? Bias and Credibility
LEFT-CENTER BIAS These media sources have a slight to moderate liberal bias. They often publish factual information that utilizes loaded words
あれこれ見て回ったが、JBPressがそしてMonthly Reviewが伝えてきた内容は常識で考えてあり得ない。
アメリカやイギリスにフランスやスウェーデンにオランダなどの先進国に加えてロシアの諜報機関が目を光らせているところで、くすねた金で義母名義で豪邸を買うなんて愚をゼレンスキーが犯すか?まあ事実は小説より奇なりなんてこともあるだろうけど、奇をはるかに超えている。
ウソをつくにしても、もうちょっと本当らしいウソにできないもんかね?
Monthly Reviewには畏敬の念をもっていただけに、がっかりした。ゲバラは永遠に若いが、年取ったカストロにはがっかりを通り過ぎて、恥ずかしかった。年をとればとっただけ、自分も含めてがっかりすることが多くなる。
2023/9/24 初稿
2023/11/15 改版
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13381:231115〕
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