「野田佳彦氏が民主党新代表に―30日にも首相に選出、焦点は幹事長人事」
- 2011年 8月 29日
- 時代をみる
- 瀬戸栄一
民主党は8月29日、衆参両院の国会議員総会を開き、菅直人氏の後継代表に野田佳彦財務相(54)を決選投票で選出した。翌30日にも開かれる衆院本会議で野田氏は内閣総理大臣に選出される。
野田新代表の当面最大の課題は民主党の幹事長人事だ。野田「新首相」の課題は、9月2日ごろとみられる財務相、外相など重要閣僚の人選であり、何よりも東日本大震災の復旧・復興、円高対策をはじめとする日本経済の早急な立て直しである。
党内的には海江田万里経済産業相を担いで第一回投票で1位に押し上げた小沢一郎元代表の陣営への対応、自民党など野党との協調など、ねじれ国会対策である。大震災対策の本命である20兆円近い第3次補正予算の早急な編成と財源捻出、関連法案の成立、米欧諸国との財政運営上の調整、中国との全面的な外交調整など、菅政権が取り残した重要課題はどれを取っても、ひたすら議論ばかりしている余裕は乏しい。早期に臨時国会を召集しなければならない。
それにしても5人が立候補した民主党代表選の、決選投票に至る推移は政権与党内部のトップ争いとはいえ、民主政治のダイナミズムを鮮烈に示した。
▽劇的な逆転劇
海江田万里氏との決選投票はいわゆる2―3位連合どころか、2位の野田佳彦氏が第1回投票の2倍以上の票を獲得するという、戦後日本政治でも前例を見ない驚異的な逆転劇だった。海江田氏の支援を決断し、自ら選対本部に乗り込んで陣営の面々に号令をかけた小沢一郎氏の劇的な敗北でもあった。
小沢氏と終始スクラムを組んで海江田勝利に動き回っていた鳩山由紀夫前首相は、姿の見えない小沢氏を「置き去り」にして「野田さんは素晴らしい。スクラムを組む」と体を交わした。
票の動きを追ってみる。第1回投票の結果は多い順に、海江田万里143、野田佳彦102、前原誠司74、鹿野道彦52、馬淵澄夫24。有効投票は395で、海江田氏はトップの座を獲得したとはいえ過半数(198)に届かない。
▽事前に「海江田以外」固める
決選投票の最中に、鹿野グループは決選投票になればそれぞれ「一致して野田氏に投票すること」、前原、馬淵両グループは「決選投票では海江田氏以外の2位候補に投票すること」を既に確認済みであるとの情報が代表選会場にサーッと流れた。決選投票に残れなかった3候補の陣営で、小沢一郎―鳩山由紀夫ラインが支持する海江田氏への投票は事前に封じ込められていたのだ。
それでも海江田氏は第1回投票で143、決選で177と票を伸ばしたが、わずかに34票上積みで、野田氏の102から215への大ジャンプには遠く及ばなかった。不本意なのは野田氏と同じ道を歩みながら3位に甘んじた前原誠司前外相だが、在日外国人からの献金受け取りが当初発表の計25万円ではなく、計59万円だったことを代表選直前の記者会見で発表するなど、誠実味一筋の野田氏とはやや違った脇の甘さが災いして74票しか獲得できなかった。
それでも前原氏は各社世論調査での「首相にふさわしい人物」では、野田氏を含む他の候補を大きく引き離し、来るべき衆院選(あるいは衆参ダブル選)の顔としては第一級であることが証明され、選挙結果に不満はない様子だ。こうした調査では前原氏は30―40%、野田氏らは4―5%と桁違いである。
▽角栄方式の限界
もちろん、自分が強制起訴されて始まる裁判を10月に控え、無罪判決を確信する小沢一郎氏が、代表選のこの結果で「おとなしくなる」とはだれも思わない。来年中に無罪判決が出れば、再び「暴れ始める」と多くの政界関係者は観測する。
だが、小沢一郎ファンは消えないにしても、今回の代表選で西岡武夫参院議長や輿石東・参院議員会長に出馬を打診して固辞され、第三の候補として海江田万里氏に白羽の矢を立てたあたりに、69歳の小沢氏の「限界」を感じた関係者は決して少なくなかった。100人を超えるグループを引き締めながら他のグループ(海江田氏は鳩山グループ)の候補を担いで政局の主導権を握るというのは、今は亡き政治の師・田中角栄元首相を見習った手法だが、今回は「二重支配」につながるこのやり方が多くの民主党議員の反発を買った様子だ。
▽誠実な雄弁家の素顔
さて見事トップの座に座った野田佳彦氏は、財務相としては口下手風で、選挙の顔としても地味過ぎると見られてきたが、代表選が始まると、なかなかどうして自信満々で派手な前原誠司氏を上回る雄弁家ぶりを全面展開した。20数年間、駅前の演説を欠かさなかった松下政経塾第一期生の面目駆除というべきか。
自民党の幹部連中の受けも悪くない。野田「新首相」がとつとつとして、法案の重要性とねじれ国会の苦境を説き続ければ、野田民主党政権が生き延びる展望は開けるかもしれない。
外交や安全保障面では実績は未知数だ。野党の自民党を説き伏せるのと同じ「誠実一筋」で米国や中国とひたすら話し合うしか、道はなさそうだ。さらに「財務官僚の言いなり」という野田批判に対しては、それこそ財務官僚を「うまく使う」やり方こそ、ベターであろう。(了)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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