欧州はユダヤ人問題をパレスチナへ厄介払いした――欧州の罪は重い――(その三)
- 2023年 12月 2日
- 評論・紹介・意見
- パレスチナユダヤ人問題柏木 勉
前回の最後では次のように述べた。
「欧州はユダヤ人問題をつくり出した、いわば下手人である。であるからこそ、自らが生み出した国民国家イスラエルがどのような蛮行を繰り広げても、それに声をあげられない。彼らのいう普遍的価値や民主主義がいかに欺瞞的なものであるか、ダブル・スタンダード、二重基準として明確になっている。」 今回はその続きである。
パレスチナ・アラブから見たイスラエル建国
まず、パレスチナ・アラブから見た戦後のイスラエル建国はどのようなものであったか、そしてどのようなものであり続けているか。その答えは、当たり前だが次のようなものである。
「ヨーロッパ人の問題に対するヨーロッパ人流の解決策がアラブ人に押し付けられようとしている。より正確にいうなら、ヨーロッパ人がヨーロッパ人に対して犯した犯罪の賠償として、アラブの土地を犠牲にしろと言われている」、
「ナチスの恐怖はユダヤ人に安全な避難場所が必要であることを証明したが、彼ら(ユダヤ人―引用者)は避難させてほしいと懇願するどころか、パレスチナに住む権利を要求した。そう、我々は好意を求めているのではない。本来、我々のものである祖国に帰るのだ、と。彼らはその根拠として、祖先が西暦135年までパレスチナに住んでいたことと、離散の間ですら一度も帰郷の望みをすてなかったことを挙げた。」(タミム・アンサーリ 「イスラームから見た「世界史」」(株)紀伊国屋書店 2011年 p181―183)
パレスチナ問題の本質は以上につきる。
欧州は、自らが犯したホロコーストのツケをパレスチナ人に負わせ、「自分たちの責任を取らずに、現在のパレスチナ人に立ち退いてもらって自分たちの身はキレイにしようとしたのです」(注1)。パレスチナ人には何の責任もないにもかかわらず。
1947年に国連総会決議によってパレスチナはユダヤ人(シオニスト)国家とアラブ人国家に分割された。しかし、それは圧倒的にシオニスト側に有利なものだった。しかも、この分割はパレスチナ・アラブ人たちの意思とはまったく無関係のものだった。そもそもパレスチナ人という当事者抜きの、国連加盟国のみの議論自体が不法・不当であった。さらには国連憲章自体が、住民の同意なしに委任統治下の領域を分割する権利など存在しないと定めていたのだ。
要は、弱者であるパレスチナは全く無視され、強国によって放逐されたわけである。
イスラエルは欧州による二重の犯罪国家
と、いうことで、むずかしいことは何もない。
つまりイスラエルという国民国家は、ユダヤ人問題の極点・ホロコーストという犯罪の上に、更にパレスチナ人の追放・放逐という、欧州の二重の犯罪を利用して成立した国家なのだ。イスラエルは自らの建国が不正なものであること、従って現在も正当性を持てず、かつ今後も持てないだろうという意識的・無意識的不安を絶えず抱えている。この不安を薄めて忘れるためには、暴力をもって相手を屈服させ正当性を押し付けるしかない。このため、生まれながらのイスラエルの犯罪性は異常な攻撃性・好戦性を形成して、世界にもまれな軍事依存体質を生んできたのだ。このような攻撃性、軍事依存が国際法を犯すことは必然の成り行きである。従ってイスラエルの支配層にとって、国際法などは何ほどの意味もないのである。
そして、国民国家イスラエルは軍事依存を増大させながら、自らを新たなユダヤ人ゲットーにして、そのゲットーの防御壁を暴力的に押し広げつつ安全・生存圏を確保しようと躍起になってきた。だが周知のように、すでにその試みが失敗することは予言されて久しい。
「イスラエルは真の意味で規範的な(正常な)国にならなかった。それは、諸々の民を照らす光にならなかったのである。皮肉なことに、ユダヤ人を反ユダヤ主義とゲットーのような生活から解放し、彼らに安らぎの地を提供するために創られたはずのイスラエルが、まさに軍の駐屯地のような国家となり、敵意に満ちた隣人たちに包囲される地上のゲットーにも似た国になってしまった。・・・・・
数々の不吉な予感は・・・・・今なおシオニストたちの脳裏にまとわりついて離れない。」(注2)
ところでゲットーと云えば、まさにガザはゲットーである。壁で包囲されたゲットーである。「天井のない監獄」として、イスラエルが壁で囲んで自由に行き来させず、悲惨な状況を作り出してきた。
ここで、直接的には結びつかないのだが、壁ということからどうしても頭に浮かんでくるのがベルリンの壁である。西欧はベルリンの壁に対しては非難し続けた。ベルリンの壁にはあれほど非難し続けたにもかかわらず、ガザの壁(ガザのゲットー化)に対しては沈黙するのみであった。そして今回の惨劇、壁で包囲されたままで空爆される惨劇に対しても沈黙するのと同然の、ほとんど無力・無責任というしかない声明を出している。
パレスチナの抵抗が消滅することを願っていた欧州
駐日EU代表部声明の後半部分は以下のとおりだ。少し長いが引用する。
「・・・・・あまりにも長い間、われわれはパレスチナ問題がもはや存在しない、あるいは自然に解決するかのように、この問題を切り捨ててきた。
EUもその一員である国際社会は、30年前のオスロ合意を履行するためになすべきことをなさなかった。オスロ合意以降、占領地でイスラエル人入植者の数は3倍に増加した一方、実現可能とされたパレスチナ国家の領域は、迷路のような相互につながっていない地区群領域へと後退してきた。われわれは、毎日のように二国家解決を求める呼びかけを続けているが、国連総会でパレスチナ代表が私に言ったように、『それを呼びかける以外に、その実現に向けて何をしているのか?』
和平はひとりでに訪れるものではない。それは作りあげるものだ。最も困難な決断が下されるのは、常に危機に瀕している時である。そして今、われわれはそこにいる。解決策がいかに遠く、困難なものに見えようとも、二国家解決がわれわれが知る唯一の実行可能な解決策であることに変わりはない。そして、解決策が一つしかないのであれば、その実現のために政治的エネルギーの全てを注がなければならない。・・・・・われわれは既に昨年、サウジアラビアやエジプト、ヨルダン、アラブ連盟と連携して、中東和平および二国家解決の再生に向けて取り組んできた。最近の情勢を受け、もちろん、このアプローチを根底から見直す必要がある。EUは、同地域内外のパートナーとともに、取り組みを強化していく。この危機にどのように対処するかによって、今後何年にもわたるEUの信頼性と世界における役割が決まるだろう。」(注3)
「・・・・・あまりにも長い間、われわれはパレスチナ問題がもはや存在しない、あるいは自然に解決するかのように、この問題を切り捨ててきた。・・・・」?
反省の弁のように見えるが、何を人を馬鹿にしているのだろうか?正直と云えば正直なのだが、このような愚かな認識を公開できるのはなぜだろうか?
2008年の壁包囲、それ以前のインティファーダ、自爆テロ、2014年のガザ地上侵攻(地上侵攻はすでに4回)等々、誰でも知っていることではないか。彼らEUは、イスラエルがガザを包囲しハマスを無力化し、「サウジアラビアやエジプト、ヨルダン、アラブ連盟と連携して」パレスチナの抵抗が消滅することを願っていたのだ。
ユダヤ人問題、イスラエル建国の自らの責任について、彼らは何も考えていない。本音は、過ぎ去った既成事実として流れていくこと、それが願いなのだ。 (続く)
(注1:板垣雄三 「パレスチナ問題とユダヤ人の起源~神話の歴史化に抗して~」 シンポジウム抄録 京都大学新聞 2010.06.23 )
(注2:ヤコブ・M・ラブキン 「トーラーの名において」 株・平凡社 2010年 p357-358)
(注3:駐日EU代表部「イスラエル・パレスチナ紛争においてEUが支持していること」
ジョセップ・ボレル欧州連合外務安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長
23.10.2023 Josep Borrell, High Representative of the European Union for Foreign Affairs and Security Policy / Vice-President of the European Commission
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13408:231202〕
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