くらしを見つめる会つーしん NO.228から 2023年10月発行
- 2023年 12月 11日
- 交流の広場
「汚染水」をタブーとする大本営報道
福島原発事故の放射性処理水放出についての報道の中で、とても問題だと思うことが2つある。1つは、放出されるものは安全であるとし、不安を言うことや「汚染水」と呼ぶことは「風評を広げる」許せない言動のように報道されていること。処理しているといえ、放出されるのは事故原発の溶け落ちた燃料デブリに触れ多種の核種も含まれた汚染水であり、通常原発からのものとは違う。全ての放射性核種を計測しているわけでもなく、トリチウム自体、生態濃縮されて危険という学者もいる。データも万全でなくわからないことがたくさんあるのに、不安や異論を科学的でないと切り捨てるのは言論封じではないか。もう一つ、中国が日本の水産物輸入を全面禁止にするとしたことについて、敵対心を煽るかのような報道がされていること。汚染水放出を不安・不快に思っているのは中国だけでない。日本と中国を逆の立場で考えたら、日本の上から目線の物言いは失礼だろう。日本は原発事故を起こして世界に迷惑をかけている加害の立場だ。内向きの姿勢を改めないと国の信用を失う。マスコミも風評対策でなく実質の汚染除去・封じ込めに最善を尽くすよう政府に求め、多様な議論を喚起してほしい。
以上は今年9月3日に朝日新聞の声欄に投稿しボツになったものです。あえて紹介するのは、こうした「声」がなかなか取り上げてもらえないことも、「風評につながることは伝えない」といった、特に東京に本社を置くマスコミ内のタブーのようなものがあるのかと思えるからです。福島原発事故以来、明らかに被ばくの影響と思われる小児甲状腺がんでさえ因果関係は認められないとされ、その他の体調不良も全て「被ばくとの因果関係は無いこと」にされています。汚染水の影響も無い。「無い」とマスコミが報道することで、被害を受けた人の苦しみも無いことにされ、明らかにすると「風評加害」などと叩かれる。マスコミという本来弱い立場の側に立つべき存在が政府や権力を持つ人々によって支配されたような現状は汚染水問題に限りません。マスコミが一斉に同じことを報じている時はその内容や他に隠したい別の問題があるのではないかと疑うことも大事、と、大本営報道に思う昨今です。 きくこ)
・・・中略・・・
♪こんな本いかが?
『マンガでわかる日本の食の危機』 鈴木宣弘著
日本の本当の食料自給率は現時点でも10%程度。肥料も種も畜産のための飼料も輸入に頼っている現状で、お金を払えばいつでも食べ物が買えると思うのは大間違い。おまけに質も悪く、米国やグローバル企業の求めるまま、欧米が禁止した農薬や抗生物質が多投された穀物や肉が規制無く輸入されている。危険性が指摘されているゲノム編集食品も日本は先端を切って推進。農家は高齢化して減り続けているのに、他国が当たり前にしている農産物の買取制度も農業保護のための補助金もほぼ無く、日本の農家は万年赤字に苦しんでいる。現在、危機にあってもまだ政府は米国の顔色を窺い、日本農業を潰すかのような政策ばかり。日本農業が崩壊すれば日本に住む人々の命が脅かされ暮らしも崩壊する。食料問題解決のためと、命とは程遠い培養肉やゲノム編集など一部の大企業に食を支配されるような方向でなく、有機農業や協同組合を広げることで未来へつなげたいと著者。自分の食を選ぶことも含め考えたい。
(合わせて、同著者の「世界で最初に飢えるのは日本」も!)
〈編集後記〉
森達也監督の映画「福田村事件」を観てきました。映画館に行くのは久しぶり。行きたい時に行けば観られると思っていたら、福田村事件は好評で満席が続出。ネットに疎い私は早めに出かけて席を確保しました。映画は、関東大震災直後、混乱に紛れてデマが流され何千人もの朝鮮人が虐殺された時、四国から行商に来ていた被差別部落の妊婦を含む10人が虐殺されたという歴史的な事実に基づいて制作されたものです。視聴前に事実は知っていたものの、観終え、「人は何で無抵抗の人を(子どもや妊婦さんまで!)あんなに残酷に殺してしまえるのだろう」との疑問が、頭の中でグルグル回っています。自分たち日本人がずっと朝鮮の人たちに酷いことをしてきたことから仕返しをされる恐怖。戦争時、相手を同じ人間と見たら殺せないので、虫けらのように思わせる権力者によるプロパガンダ。日本だけでなく世界中で起きている「善良な人による虐殺」は「恐怖と憎しみ」が大きなキーワードのように思えます。そこに向き合うことがなければ、次の福田村事件も防げません。その意味からも問題なのは「起きてしまった酷い事実を直視しない」こと。松野官房長官は「朝鮮人虐殺の政府資料は見当たらない」と言いました。歴史的事実を「無いこと」にしてしまっては問題を考えることも反省することもできません。政府がこの態度ではヘイトスピーチを後押しするようなもの。一方、映画製作に当たった森達也監督は「反日と言われ、誰も来ないのではないか」と懸念していたそうです。連日満席となった「福田村事件」。「朝鮮人虐殺を直接的に描いたものでない」という評もありますが、朝鮮人虐殺の中で起きた事件であることは事実です。映画の中で行商人のリーダーが「朝鮮人なら殺してもいいのか!」と叫ぶ場面も印象的でした。NHKはじめ多くのメディアがこの映画を紹介し、多くの人が観に出かけたということに、希望を感じます。 (きくこ)
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