「イスラエル国」は生き残れない:「アメリカ=イスラエル同盟」の退場へーー12.8アメリカの国連安保理拒否権行使の歴史的意義
- 2023年 12月 13日
- 評論・紹介・意見
- アメリカ=イスラエル同盟イスラエル国矢沢国光
●12.8アメリカ拒否権行使の意味するもの
12月8日、国連安全保障理事会で、パレスチナ自治区ガザ地区での人道目的の即時停戦を求める決議案が、日本を含む13カ国の賛成にたいして、アメリカが拒否権を行使して、否決された(イギリスは棄権)。
ドイツは、ナチスのユダヤ人ホロコーストの当事国として、イスラエルのいかなる行為も非難しないという姿勢であったが、今回は、決議に賛成した。
アメリカ追随一辺倒の日本も、今回は、アメリカに追随しなかった。
12月8日の「事件」は、二つのことを示した。
第一に、アメリカがEU・日本からも孤立し、国際政治の主導国の地位から転落したこと、第二に、そうしたアメリカの転落によって、これまで一切の国際規範や人道を無視して傍若無人に国家暴力を行使してきた「超主権国家イスラエル」が、その唯一の「支え」を失って、国家としての存亡の危機に陥ったこと、これである。
12月8日の決議案は、グテーレス国連事務総長によって準備された。
グテーレス事務総長は、国連憲章99条を発動し、安全保障理事会に対してガザ地区での人道的停戦を宣言するよう要請した。これを受け、アラブ首長国連邦(UAE)が決議案を策定・提出した。決議案は国連加盟国97カ国が支持を表明していた。
アメリカは、決議案が「無条件停戦」を求めているのはハマスに立て直す時間を与えるだけだと反対し、拒否権を行使した。
[決議案の提出と否決の経過については、BBCニュース]
●イスラエルは「超主権国家」
1948年4月8日に独立宣言したイスラエルは、米ソ英仏等の国家承認を経て、1949年5月11日の国連総会で、賛成37、反対10、棄権9で主権国家として認められ、国連加盟が承認された。
イスラエルの建国過程の際立った特徴は、建国したあとアラブ諸国との戦争に突入したのではなく、建国以前から軍事力によって「領地」の確保を推し進め、「建国」の成否そのものがアラブとの戦争の帰趨に依存していたことである。
第二次大戦末期には、ベングリオンは英国チャーチル首相に頼み込んで「ユダヤ旅団」を結成した。ユダヤ旅団は、ムソリーニ軍撃破に携わった。
終戦直後、ベングリオンはアメリカに行ってユダヤ社会の指導者たちに会い、武器を製造する機械の購入資金の提供を求めた。
1946年12月バーゼルでの第22回シオニスト会議で、ベングリオンは国防問題の担当者となり、武器の調達に奔走した。
ベングリオンが建国宣言を発して最初にやったことは、「エレサレム街道」を開通させ、エレサレムに軍隊を送ることだった。というのは、エレサレムのユダヤ人居住区がアラブ人軍隊の脅威にさらされていたからだ。
イスラエル「建国の父」ベングリオンの書いた『ユダヤ人はなぜ国を創ったか』(サイマル出版会1971)は、「建国」即「戦争」であったことを示している。
「主権国家」は、国際政治学的には①領土があり②国民があり③領土内において排他的な権力を持つ国家、と規定される。さらに、④主権国家の集まりは、相互に他の主権国家の主権を尊重する、という「主権国家システム」を形成することも含意されている。
ところが、イスラエルには、建国のときから領土を規定する「国境」がない。
毛沢東の中国のような「革命国家」は、国境なしに出発し「革命」の進展とともに支配領域も拡大する。やがて「革命」が建前だけになっておちつくと、周辺諸国との国境線を画定し、「主権国家」になる。文革終結後の中国がそうであり、いまでは「主権国家」となっている。
これにたいして、イスラエルは、建国後70年を経た今日も、国境線がなく、アラブ人居住地域への「入植」によって、「領土」が年々拡張している。永遠の「革命国家」なのだ。
●「超主権国家」
[パレスチナのアラブ人集団は主権国家ではないが]イスラエルは、他の主権国家に対して公然の主権侵害を「堂々と」繰り返してきた。
イスラエルの秘密諜報組織「モサド」は1960年、アルゼンチンでアウシュヴィッツ強制収容所所長アイヒマンを逮捕し、死刑にした。
1981年、イスラエルは、イラクの核開発を阻止するために、空爆によって原子炉を破壊した。国連はイスラエル非難決議を採択した。
北朝鮮やイランの核開発に対して西側諸国は、外交による制止を働きかけ続けている。国交のない相手であっても、いきなり「空爆」で原子炉を破壊することはしない。それをやってしまうのがイスラエルだ。
イスラエルは、いま「ハマスの壊滅」という軍事目標の達成に突進している。ガザの人々やイスラエルの人質の生命は、眼中にない。世界中がイスラエルの血も涙もないガザ地区民間人皆殺し戦争を非難し、「人道支援」と即時停戦を要求している。12.8決議に棄権したイギリスでも、ロンドンで10万人がパレスチナ支持のデモに立ち上った。
こうした非難と停戦要求に、イスラエルのネタニヤフ政権は、一切耳を貸すことがない。イスラエルの「超主権国家」の暴走・傍若無人は、ここにきわまった。
●「アメリカの支持」はいつまで?
イスラエルが「超主権国家=傍若無人の軍事行動」をこれまで続けられてきたのは、欧米の「支持」による。アメリカは、[在米ユダヤ人の強力な政治力経済力を背景として]巨額の経済援助をイスラエルに続けてきた。
だが10月7日に始まったガザ・イスラエル戦争が、こうした「欧米による無条件のイスラエル支持」という構図を覆した。
アメリカでは、若者たちがイスラエルのガザ地区壊滅戦争に反対の声を上げており、イスラエル支持の民主・共和両党の既成勢力との亀裂が深まっている。
アメリカ政治の地殻変動は、すでに「トランプ現象」として顕在化していたが、イスラエル・ガザ戦争は、それをさらに推し進めている。
アメリカを唯一の支えとしてきた「超主権国家イスラエル」は、もはや存続できないであろう。
「アメリカ=イスラエル同盟」の退場が、18世紀以来今日に続く「世界戦争の時代」の終わりの第一歩となるよう努める――これが、ガザの子どもたちにわたしたちが応える道ではないか。 (2023年12月13日)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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