青山森人の東チモールだより…国会で怒ったシャナナ、訪日へ
- 2023年 12月 14日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
総額19億ドル5000万ドルの2024年度国家予算
12月12日、総額19億ドル5000万ドルの来年度(2024年度)国家予算の審議が東チモール国会で始まりました。
2021年の国家予算額は約19億ドル、2022年度は約21億ドル、2023年度は約21億ドル6000万ドルでした。2024年度は3年ぶりに20億ドルを下回るレベルに抑えられています。
しかしながら、保健・教育・水・農業など、庶民の生活を支える重要事項部門は全体の19%に抑えられ、84%が「石油基金」に依存しているという、これまでの予算体質を踏襲しているのが憂慮されます。
シャナナ、烈火のように怒り、失言
「石油基金」の残高が減少の一途をたどり始めたいま、政府は従来の予算体質からの脱却に取り組まなければならないはずです。しかし「グレーターサンライズ」ガス田の開発に勝負をかけるシャナナ=グズマン首相は中国からの投資をあてして、どうやらその気はないようです。今わたしはつい「勝負」と書いてしまいましたが、それは「グレーターサンライズ」ガス田開発を大前提とした南部沿岸地方開発計画「タシマネ計画」は、詳細な計画と分析がなされておらず、海のものとも山のもともはっきりせず、本当に東チモールを支える利益に結び付くのかどうか?まったく不確かだからです。「グレーターサンライズ」ガス田開発にかんしては当ガス田からパイプラインを自国にひくことが東チモールの悲願であるとするナショナリズムの高揚が、冷静な議論と分析の邪魔をしているのです。
シャナナ首相の目にとって、ガス田開発へ冷静な分析を求める態度とはまるでパイプラインを自国にひくことに賛成しない態度と映るのでしょうか。シャナナが強引に開発に突き進もうとすることにたいし正当な手続き求めるフレテリン(東チモール独立革命戦線)のマリ=アルカテリ書記長を、パイプラインを自国にひくことに賛成していない、と去年の大統領選や今年の議会選挙の活動のなかで公に非難していました。マリ=アルカテリもフレテリンもパイプラインが自国にひかれることを望んでいると公言しているにもかかわらずです。
12月12日、国家予算の審議が始まった国会でシャナナ首相は国家予算案を提示しました。その演説のなかで、前政権は「グレーターサンライズ」ガス田の開発に熱心でなかった、と原稿を読みながら柔らかい口調で前政権与党(フレテリンやPLP[大衆解放党]など)を批判しました。
これにたいしフレテリン(現在は野党)のマリア=アンジェリカ議員は、「タシマネ計画」の一環として建設された南部の地方都市スアイの国際空港が使われていなかったり、高速道路がすでに傾いていたりする状態などにかんして監査がされていない、と反発しました。そして、マリア=アンジェリカ議員は、国境交渉団の長であったシャナナは交渉の報告を国会に来て報告せず自分の率いるCNRT(東チモール再建国民会議)にだけして、国境交渉を政治利用していると批判しました。するとシャナナ首相は机をドンドンと叩きながら烈火のように怒りました。シャナナ首相は、国境交渉の報告は評議会でされておりマリ=アルカテリがそれに出席している、政治利用しているとは何事だ、バカめ、とマリア=アンジェリカ議員にたいして「バカ」(stupida, ポルトガル語ではestúpida)とののしったのです。
「バカ」という表現が使われたことにたいし、国会は騒然となりました。それはまるで日本の国会の予算委員会で議員たちが議長席を取り囲むような図です。もし「バカ」をstupido / estúpidoと男性形の形容詞として使えば、アンジェリカ議員の発言内容が「バカげている」という意味であるという解釈が可能かもしれませんが、stupida / estúpidaと女性形の形容詞として使ったのですから、この形容詞が何を修飾するのかというと、女性のマリア=アンジェリカ議員にたいする表現であると限定されてしまうので、シャナナといえども言い逃れはできません。結局、シャナナ首相はこの失言にたいして、国民とマリア=アンジェリカ議員へ「わたしがバカ(テトゥン語のbeikを使用)だった。謝る」と謝罪をし、その場が収まりました。
日本の政治家だったら、「このような言葉遣いが誤解を招いたとしたら遺憾であり、二度とこのようなことが起こらないように任務を全うしたいと承知しております」というのでしょう。潔く謝罪したシャナナ首相は立派といえます。しかし感情を抑えられないように机をドンドンと叩きながら烈火のような怒り方を国会でするシャナナ首相の精神状態は少し不安を抱かせます。
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『インデペンデンテ』(2023年12月13日)より。
「シャナナ首相、バカという言葉遣いにたいして謝罪する」(見出し)。
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シャナナ首相、ぐじゃぐじゃの日本へ
一方、日本の国会に目を移すと、秋の臨時国会が12月13日に閉会されます。国会が閉じれば国会議員に不逮捕特権がなくなり、さあ、東京地検は政治資金パーティ券の裏金をめぐって安倍派の大物議員に任意聴収をするのか、あるいはいきなり逮捕に踏み切るのか、Xデーはいつか、岸田首相は安倍派の大臣・副大臣・政務官の15人全員あるいは部分的に更迭・交代させる人事に着手するのか……などなど、日本は大変なことになっているようです。
よりによってこんな状態の日本に、12月14日、シャナナ=グズマン首相は発ちます。何もこんな時に東チモールの首相を日本に呼ばなくてもいいではないか、東チモールに失礼ではないか、と想ってしまいますが、日本・アセアン友好協力50周年記念行事としてミャンマーを除くアセアン加盟国9ヶ国と加盟予定国である東チモールの合計10ケ国の代表が参加する国際会議が東京で12月16~18日に開かれるので、こんな日本にやって来るのは、シャナナ=グズマン首相だけではなく、ミャンマーを除くアセアン加盟国9ヶ国の大統領・首相あるいは国王も訪日するようです(外務省のホームページによる)。しかし岸田首相はいまそれどころではないはずです。大丈夫でしょうか。岸田首相はアジアの友人たちを失礼にならないように迎え入れることができるでしょうか……。
せめてシャナナ=グズマン首相には日本での政治と金の問題と権力の腐敗ぶりをじっくりと観察してもらい参考にしてもらいましょう。そして日本の国力の凋落ぶりを東チモール国民に報告してもらおうではありませんか。それが日本と東チモールの真の友好関係のための寄与となるというものです。
青山森人の東チモールだより 第505号(2023年12月13日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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