中国が見た「パーティー券」スキャンダル
- 2023年 12月 20日
- 評論・紹介・意見
- パーティー券中国自民党阿部治平
――八ヶ岳山麓から(453)――
自民党派閥の政治資金パーティー券を巡る疑惑で、安倍派と二階派の派閥事務所が12月19日、東京地検特捜部の強制捜査を受けた。安倍派の裏金は最近5年間で約5億円に上る可能性があり、二階派の不記載も億単位に上るとみられる。
世論調査では、岸田内閣と自民党の支持率の低下は底抜け状態になっており、これに対して岸田首相は、支持反転を見込んだ経済政策も不評で、指導力不足が指摘され、裏金疑惑で身動きができない状態だ。
これから注目したいことの一つは、東京地検特捜部はどこまで不正を追及するか、という点だ。家宅捜索は遅かったのではないか。果たして、徹底的に複数の大物政治家起訴までやる覚悟があるのか、どうか。
この問題は、「しんぶん赤旗」の記者の取材がきっかけで、神戸学院大学上脇博之教授が刑事告発した。メディアは今、したり顔で報道しているが、番記者など自民党と関係の深いジャーナリストは、ジャニーズ問題同様、今回の悪事を以前から知っていたのではないか。
ジャーナリズムの在り方も問われている。
もう10日近く前の12月11日のことになるが、人民日報国際版の環球時報に裏金問題に関する廉徳塊氏の論評が出た。内容に一部誤解と不正確なところがあるが、「小石河」などという言い方をもちだした例でも分かるように、よく日本の政治状況を見ていると思う。参考までにほぼ全文を訳出する。文中〈 〉内は阿部。
「パーティー券」スキャンダル、岸田内閣を直撃
廉徳塊 (上海国際大学日本研究センター所長 環球時報2023・12・11 )
日本では自民党の「闇金政治」は公然の秘密である。最近では「パーティー券」問題が暴露されたが、これは主に安倍派国会議員による政治資金規正法違反となる可能性がある。この事件が発行し続ければ、日本の政界に大きな衝撃を与え、1988年の自民党闇金スキャンダル「リクルート」事件以来の大きな腐敗事件になるかもしれない。
第一は、「パーティー券」問題が派閥政治を直撃する。自民党の派閥は党の政治運営の基本形式であり、役職の分配や政治資金の収集は派閥単位で行われる。各派閥はメンバーに通常5万円の会費を要求する〈ママ〉。その見返りとして、議員は政治活動に対して派閥の支援を受けるほか、政治資金集めのノルマを達成することでリベートを受け取ることができる。
「パーティー券」販売は派閥の政治資金集めの一般的な形であり、当選回数によって議員のノルマが60万円、120万円、あるいは400万円などとランク付けされる。ノルマ達成後、ノルマを超過した分は政治資金規正法に違反するものであるが、記帳・申告は行わないので、灰色収入となり、最終的に政治家の懐に入る。
国会議員が派閥に入るのは、地位を得るためだけでなく、「パーティー券」のノルマ達成後のキックバックなど、金銭上の利益が得られからでもある。安倍派の中心人物である官房長官松野博一、政調会長萩生田光一、国会対策委員長高木毅、経済産業相西村康稔、自民党参院幹事長世耕弘成らがみな事件に絡んでいることが明らかにされたことで、世論は重大な横領疑惑を抱いており、かれらが辞任を迫られるのは必至である。東京地検特捜部は被疑者への事情聴取と捜査に乗り出すが、捜査が突破口を開けば、自民党議員はおそらく大崩れとなる。この事件は重大汚職事件の「爆雷」となる可能性が高い。
第二に、「パーティー券」問題は岸田内閣を危うくしている。日本首相岸田文雄は当初、「パーティー券」問題との関係は知らんぷりして安倍派だけの問題にしようとした。しかし、松野博一官房長官に対するメディアの責任追及に伴い、岸田内閣も攻撃にさらされている。「朝日新聞」は、先日松野博一が1000万円のキックバックを受け取っていたと報じたが、これは官邸を震撼させ、岸田内閣にとっては青天の霹靂だったといえよう。
実際、安倍派は岸田派にとって「両刃の剣」である。岸田は組閣した当初、党内最大派閥の安倍派の支持を必要としていたが、安倍派の政治スキャンダルが岸田内閣の足を引っ張った。日本の内閣では、官房長官は「内閣大総管〈「総管」は総務・執事〉」に相当し、首相の信任が厚くなければならない。
当時、安倍は党内で絶大な影響力を持っていたため、岸田は、結局安倍側近ではなかった松野博一をこの職務に任命したという。これ以前、自民党総裁選で安倍は側近の高市早苗を強く支持し、松野博一は安倍派の一員でありながら岸田文雄に投票した。そのため、松野は官房長官になることができたのだが、これは、岸田が一方で安倍のメンツを立てたためであり、他方では、松野博一への返礼でもある。
しかし松野博一は、いずれにせよ安倍派のメンバーであり、この「パーティー券」スキャンダルから抜け出すことは難しい。同時に岸田内閣の中核メンバーである彼が官房長官を辞任すれば、岸田内閣にとって大きな痛手となる。
それだけでなく、松野博一のほかにも、安倍派の萩生田光一、高木毅、西村康稔、世耕弘成などが要職に就いており、彼らの有罪が立証されれば、岸田内閣も深刻な危機に直面することになる。10日のニュースは、岸田は安倍派閣僚を更迭するという。
第三、「パーティー券」問題は日本の政界をかき回している。自民党内の一連のスキャンダルの結果、岸田文雄の支持率は低下し、日本のメディアはポスト岸田の日本政治の方向性について公然と語り始めた。有権者は政治にも自民党にも信頼をおいていない。だが、日本の野党は連合できず、自民党に取って代わることはできない。
従って、自民党の問題が続いているにもかかわらず、ポスト岸田の日本の政治は、おそらく自民党内の各派閥の間でたらい回しになるのではないか。もともと岸田内閣は、宏池会を基盤にした岸田派と、麻生派、茂木派が主導権を握り、それに安倍派の支持が加わり、比較的安定しているかに見えた。だが、「パーティー券」スキャンダルが発酵しつづける中で、わきにおいておかれた菅義偉元首相と二階派が支持する小泉進次郎、石破茂、河野太郎にも政権奪取のチャンスが巡ってきたようだ。
「小石河」の三人は有権者に見直されている。特に石破茂は、自民党派閥の中では比較的孤立しているが、一般党員の間では人気があり、彼が菅義偉や二階俊博の支持を得ることができれば、頭角を現す可能性は極めて大きい。もちろん、岸田派が宏池会の主導権を維持できれば、意中の人を候補者に押すこともできよう。
ようするに、麻生派、茂木派、岸田派は、なお自民党の主流派閥であり、自発的に退くことはありえない。しかし、安倍派の黒い金権政治は、すでに岸田内閣を巻き添えにしている。このため、日本のメディアは岸田ののち、誰が日本政治の主導権を握るかを議論し始めたのである。安倍派とは関係のない宏池会か、無派閥の「小石河」か、人々は注目している。(了)
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