■本の紹介 『ちょっとうるせぇ障害者』三木由和著、社会評論社 の編集にかかわって
- 2023年 12月 20日
- 評論・紹介・意見
- 石川愛子障害者問題
障がい者といっても、障害部位は視覚、聴覚、肢体・・・、とさまざまで筆者三木由和さんは、脳性小児麻痺による肢体不自由である。脳性麻痺というと、車椅子の人を想像される方も多いと思うが、程度もさまざまで、彼は右手足に不自由がありひきずってはいるが、車椅子を使用するほどではない。言語障害もあるものの、ゆっくりならコミュニケーションは十分可能である。
直腸がん、転移で余命宣告
60歳となった三木さんは、直腸がんで、余命8か月の宣告を受けた。それ以前からこれまで『人権と教育』に書いたものに付けたして、続きを書いておいたほうがいいと勧めていたが、なかなか進まず、彼が本気になったのは余命宣告を受けてからだったと思う。その後、社会評論社との間で具体的な話となった。
私は、障害者の教育権を実現する会(1971~2016)の市民運動に参加していて、その機関紙月刊『人権と教育』や雑誌『人権と教育』(年2回刊)の編集を担当していた。三木さんとは、彼が20代半ばで箱根のひと塾に参加したとき出会った。彼は実現する会の会員となり、たまに「実現する会」の集会などで顔をあわせるくらいだったが、月刊『人権と教育』に彼に生い立ちの執筆を依頼し、連載してもらった。雑誌の方にも、結婚や不登校の特集テーマの際にも書いてもらった。
彼は、書き始めると早いし、長い。その記憶力には度肝を抜かれる。私も知らないことばかり、いろいろありすぎて、1冊では納まりきれない。やむなく、幼児期、小中学校、余命宣言、大幅に削らせてもらい、ここでは三木さんが自分で人生選択を始めたところからの記録となった。
定時制高校ですごい先生たちに出会えた
三木さんは、4、5歳時に肢体不自由児訓練施設に預けられ、親元から離される恐怖を知った。小学校・中学校は地元の特殊学級に通った。そのことでうけた差別や、学習の遅れ(テレビを見てる時間が多かった)がいろいろ響いてくる。
たまたま知った定時制高校に進学するも、低学力で、授業も何もわからないし当てられるのは恐怖だし、進級もできそうもない。そこで、彼は「本も読めないし、授業中ビクビクしている」と先生に訴える。すると、その先生はほかの先生にも話して三木さんに当てないようにしてくれた。先生なんてそんなものか(私も元教師だが)と読み進めるとなんと、個別指導してくれる先生が現れた。しかも、4年間毎日である。すご~い! 千葉県立木更津東高校定時制は、人権感覚に優れた面倒見のいい先生方がいる学校だった。三木さんのやる気もあって、低学力を克服できたし、ここで彼の生き方の土台ともいえるものができたのではないかと思う。
三木さんを毎日教えてくれた先生は、学習院大学で研究も続けている方で、何と浩宮殿下(当時)も教えていた。その先生に、三木さんは「俺と浩宮殿下とどっちができる?」と聞いて「おまえのほうがやる気がある」と応えてもらっている。そんなことを、あっけらからんと聞けるその性格が、三木君のその後を切り拓いたのだろう。
新宿区の職員として、小学校用務員
その後、東京都立の職業訓練学校に進み、新宿区の小学校用務員となる。上司からのパワハラに苦しみ、その頃の記憶はなくしているという。障がい者差別に加えて職業差別、それでも彼はへこたれない。以前からの目標だった教師をめざす。
用務員は続けながら、夜間大学に通い、自分を取り戻す。社会科教師の単位を取得のための、教育実習で、他の先生方も「生徒が集中して聞いている。なぜこんなに集中しているのか。・・・それは三木先生の言語障害である。聞き逃してしまうと授業がわからくなってしまう。・・・言語障害は教師にとってマイナスではなく、むしろプラスです」と。校長先生にも「あんたはよー、教師にむいてるよ。努力もあるが生まれもったものだと思う。・・・ぜひ教職についてほしい」と言わしめる。これらの言葉は、言語障害への認識を変えるものだ。
ところが、何度も受験するも、養護学校教師資格をとっても合格できない。全盲の教師は、何人か知っているが、脳性麻痺の教師は聞かない。まだまだ無理解で偏見がある。
障害ある人も働ける制度に
日本の制度は、障害ある人の力を生かせるようにできていない。私の教え子にも不安神経症で精神障害の認定を受け、生活保護を受けている人がいる。今でも私のパソコンやスマホの師でもあるし、植物の世話などプロ並みにできるのにもかかわらずだ。本人も不満だし、税金も無駄遣いこのうえない。
三木さんは、年齢制限で教員採用試験を受けられない間も、昼は用務員として働きながら、いくつもの資格をとったという。それだけの努力もできる人材を、何とももったいないことだ。40年勤め上げ、退職年齢となって、用務員の再任用を続けながら、東京都の公立学校時間講師に合格した。何とか、夢が叶いそうである。健康上の心配はなくなっていないが・・・。
では、何で表題の『ちょっとうるせぇ障害者』なのか? キャプションの「人に寄り添う心、ひるまぬ行動力、負けん気が火を噴く!」は? それは、読んでのお楽しみに!
目次 第1章 就職がダメでも定時制高校があった!
第2章 いろいろな体験、さまざまな人との出会い
第3章 職業訓練学校
第4章 新宿区の職員、小学校用務員として
第5章 教師をめざす
第7章 用務員としてのモチベーション
第8章 私の結婚そして子どもたち
『ちょっとうるせぇ障害者』三木由和著、社会評論社
四六判300ページ、ソフトカバー、定価2000+税
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13444:231220〕
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