青山森人の東チモールだより…日本滞在の東チモール人、全員無事
- 2024年 1月 6日
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大晦日はニコラウ=ロバトの命日
東チモールの大晦日・12月31日は、東チモールで最大級に英雄視されているニコラウ=ロバトの命日にあたります。ニコラウ=ロバトはフレテリン(東チモール独立革命戦線)の第二代目の議長で、1978年12月31日、侵略軍との戦闘で亡くなりました。首都の「ニコラウ=ロバト議長国際空港」のすぐ近くにある環状交差点にニコラウ=ロバトの巨大な銅像が建立されて以来、その銅像前で追悼行事が行われるようになり、去年の大晦日も行われました。最近はこの「12月31日」が「英雄の日」と呼ばれるようになっています。
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「12月31日」の政府看板、ベコラ大通りの交差点にて。
2023年12月27日、ⒸAoyama Morito.
「英雄の記憶は世代を継ぐ者への鏡そして光明となり、若い世代が愛国精神と愛国心を堅固にする。自らを備えよ…! 新たな英雄となれ…! 2023年12月31日」
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仇敵が次期大統領の有力候補
東チモール国会ではニコラウ=ロバトの遺体の返還をインドネシア政府に要求するように自国政府に呼びかける声がときどきあがりますが、いまのところ成果はありません。はたしてニコラウ=ロバトの遺体についてインドネシア側に記録があるのかどうか、定かではありません。
ニコラウ=ロバトと戦闘したのがプラボウォ=スビアント司令官率いるインドネシア軍特殊部隊でした。ニコラウ=ロバトの死に直接関与しているのがプラボウォ=スビアント、独裁者・スハルト大統領のかつての娘婿、現在はインドネシアの国防大臣、そして今年2月に予定されるインドネシア大統領選挙の最有力候補です。報道によれば、プラボウォ=スビアントは現大統領ジョコ=ウィドドの長男を副大統領候補にたてて大統領選に臨むようです。二度にわたって大統領選の決選投票で競ったジョコ=ウィドドとプラボウォ=スビアントの二人は、何らかの合意を結ぶまでの仲になったようです。
もしプラボウォ=スビアントがインドネシアの次期大統領になったら東チモールとインドネシアの外交関係にひびがはいるのでしょうか。ニコラウ=ロバトの死に直接関与するプラボウォ=スビアントにたいし遺体を返せという声が高まり、外交政治に遠慮することなく戦争責任を問う声をあげる人たちがでるかもしれません。しかし東チモールの指導者たちも、かつてプラボウォ=スビアントの特殊部隊と闘った東チモールの戦士たちも、そして一般庶民も、現在の友好的な外交関係に悪影響を及ぼすくらいに戦争責任を問う姿勢を前面に出すことはしないでしょう。東チモールの指導者たちは念願のASEAN(東南アジア諸国連合)加盟が目前に控えている状況を最優先に考えるであろうし、庶民は毎日の暮らしにきゅうきゅうとしてそれどころではありません。ただし東チモール人にたいして歴史的な恨みを呼び起こすような失言がもしプラボウォ=スビアントの口から飛び出たなら、どうなるかわかりませんが。
とんだ日本の年明け
1月1日、元旦、日本で午後4時過ぎ、最大震度7の能登半島地震が発生しました。とんだ年明けです。わたしは午後4時20分ぐらいにこのニュースを知りました。わたしの滞在する同じベコラ区域に住む近所の娘さんが新潟県にある大学に留学中で、この地域は震度5~6の揺れを記録しました。これはたいへん、午後4時30分ごろ(東チモールと日本に時差はない)、この娘さんに連絡をとりました。無事でした。声は明らかに動揺を隠せない様子で、物凄い揺れだったといいます。彼女の大学には他にも東チモール人がいるので、他の人も大丈夫ですか?ときくと、外出しているのでわからないと不安そうに応えました。その後、日本の東チモール大使館は日本に滞在する東チモール人は無事であることを確認したという報道がありました(『タトリ』、2024年1月3日)。この報道によると、日本に在住している東チモール人の内訳は、留学生が47人、そして働いている人が7人(おそらく〝技能実習生〟)とのことです。日本在住の東チモール人全員が無事とみてよいでしょう。
気がかりな志賀原発
気が気でないのは原子力発電所です。今回大きく揺れた能登半島には稼働停止中の志賀原発があります。原発にもしものことがあったらそこから遠くない新潟県にある大学で勉強している東チモール人たちにも健康被害を及ぼすことになりかねません。六ケ所村の核燃料サイクル施設の動向をみてきた青森県民としていわせてもらえば、日本の原発政策とは噓とごまかしで成り立っているといわざるをえません。日本の原発政策とは何の関係もない海外からの留学生そして働く人たちが原発事故のとばっちりをうけるという事態は決して許されることではありません。
1月4日の『毎日新聞』によると、「北陸電力は2日夜、停止中の志賀原発2号機(石川県志賀町)にある主水槽の水位計の数値が能登半島地震の後、一時的に約3㍍上昇していたと発表した。原発への影響は今のところないという」。「今のところない」というのは、後になって影響が出てくる可能性があると示唆しているようで不気味です。もし影響が出た場合、何がどうなるのか、最悪の事態を想定して正直にそして正確に発表してもらわないと困ります。また同記事には、「北陸電によると、2日午前に開いた記者会見では『水位計に有意な変動はない』と説明していた」のに、「改めて記録を確認したところ、……(省略)……水位の上昇を観測していた」のです。「有意な変動はない」という2日午前の発表は一体何だったのでしょうか。2日午前と2日夜の発表の違いはどこから来るのでしょうか。電力会社側の発表に信憑性を感じることはできません。
電力会社側のこのような発表が、岸田政権が「3.11」を忘れて原発再稼働・増設に舵を切ったことに反映しているとしたら、政府と電力会社の癒着が人災を引き起こすのではないかという嫌な感じを抱かせます。岸田首相は4日の官邸での年頭記者会見の場で指名されない記者から、原発についてひと言もコメントしないのは異常です、と声があったのに岸田首相はそれに応えなかったという報道があります。地震による被災者救済とともに国民が最も注視しているのが原発の情報です。原発について首相が年頭記者会見の場で何も説明しないというのは、何かを口に出せばそれが引き金となって反原発の世論が再燃するかもしれないと懸念するからか、それとも何かを隠したいからか、まさしく「異常」そのものです。噓とごまかしでしか進められない日本の原発政策の「異常」さが年はじめ早々明らかになりました。
青山森人の東チモールだより 第508号(2024年1月5日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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