Global Head Lines:ガザ紛争についての海外論調(16)ドイツ日刊紙Tageszeitung 1/7号
- 2024年 1月 10日
- 評論・紹介・意見
- ガザ紛争野上俊明
ガザ紛争の専門家へのインタビュー:ハマスへの勝利は不可能
――アブダルハディ・アリジャ氏は、テロリスト集団を壊滅させることは非現実的だと考えている。彼は、ハマスが支持される社会的理由を分析するよう求めている。
※アブダルハディ・アリジャ氏は、パレスチナの社会・政治科学者で、ヨーテボリ大学などに在籍。
原題:Experte zum Gazakrieg:„Sieg über die Hamas ist unmöglich“
https://taz.de/Experte-zum-Gazakrieg/!5982104/
“ハマスが悲嘆にくれる”:ラファ(ガザ)で喪に服すパレスチナ人たちFoto: reuters
taz: あなたは2007年以来、つまりテロ組織がイスラエル封鎖下のガザ地区を支配して以来、ハマスの観察を続けてきました。イスラエルの現在の戦争内閣は、ハマスの「壊滅」を目標としている。それは成功するでしょうか?
Abdalhadi Alijla: それは非現実的で、狂信的で、不可能なことだ。ファシスト政権のレッテルを貼られたイスラエルの右派は、現地の現実を知らない。イスラエルはハマスの軍事部門を倒すことができない。なぜなら、それはゲリラ戦争、市街戦だからである。 そしてハマスも、イランから資金援助を受けている民兵の地域ネットワークの一部である。イランはハマスの敗北を許さないだろう。ハマスに対する軍事的勝利が不可能な理由は他にもたくさんある。
taz:たとえば?
Abdalhadi Alijla: たとえば、ハマスの戦闘員の民族主義的動機と宗教的動機の混合、彼らの戦術とトンネル、長期戦によるイスラエル経済の圧迫などである。
taz: 西側諸国はハマスの何を誤解しているのでしょうか?
Abdalhadi Alijla: 私はイスラエルや西側の政治家を笑いたい。彼らは明らかにイラクやアフガニスタンの歴史から何も学んでいないからだ。彼らはこれらの社会の地域政治について何も知らない。ジョージ・W・ブッシュはカブールに立ち、「我々はタリバンを倒した」と言った。20年後、アメリカは世界で最も近代的な軍隊を持っているにもかかわらず、タリバンが戻ってきた。ハマスを社会運動およびネットワークとして研究する研究者はほとんどいないが、私の意見では、これがこの運動を理解する最良の方法である。
taz: ガザ地区におけるハマスの社会政治構造はいかなるものですか?
Abdalhadi Alijla: ハマスはNGOとして設立された。1980年代初頭の社会運動は、世俗的で民族主義的な運動の失敗に対する反動だった。彼らは信仰に基づく組織として、サービス、教育、医療を提供した。これこそがハマスの核であり、人々と接触し、質の高い基本サービスを提供する強力な草の根組織なのである。彼らは社会のさまざまな階層にアクセスできる。ネットワークは非常に発達している: ハマスのメンバーの多くは、非常に有名な大家族の出身で、彼らは他のメンバーを動員している。部族のネットワークが政治と絡み合っているため、ハマスをパレスチナ社会の社会構造から切り離したり分離したりすることは非常に困難になっている。
taz: 現在の戦争状況において、それは何を意味するのでしょうか?
Abdalhadi Alijla: ガザ地区のほぼ全員が、この戦争で誰かを失っている。ハマスが彼らの悲しみに寄り添っている。だからこそガザのパレスチナ人の大半が武装抵抗を支持しているのだ。 これは、彼らがハマスに属しているとか、ハマスのシンパであるということを意味するものではない。
taz: ファタハや左派など、政治的アクターは他にもいます。なぜ大多数は彼らに頼らないのでしょうか?
Abdalhadi Alijla: パレスチナ解放戦線のような左翼組織もある。彼らは活動しているが、財政的・社会的資源が不足している。彼らを支持しているのは、おそらく3パーセントである。
taz: ファタハはどうですか?
Abdalhadi Alijla: かれらはハマス同様、腐敗した政党である。ファタハは1994年から政権を握っており、ヨルダン川西岸地区ではイスラエルと安全保障協力協定を結んでいる。この協力関係はパレスチナ人にとって大きな問題である。ファタハもハマスと同様、その政府には権威主義的な慣行がある。アラブ・バロメーターやパレスチナ調査研究センターの最近の調査によると、パレスチナ人の約25%が自らをファタハのシンパあるいはメンバーだと述べている。ファタハには軍事部門もある。このままいけば、ファタハは近いうちにヨルダン川西岸で軍事的抵抗を開始するだろう。
taz:どうしてでしょう?
Abdalhadi Alijla: 希望を失うことは危険だ。2007年、ハマスがガザ地区を掌握し、ファタハの活動を禁止したとき、ファタハの軍事組織の多くがイスラム聖戦に鞍替えした。今後、ハマスよりもイランに近いイスラム聖戦が強くなる可能性もある。ハマスがなくなれば、ハマスよりも過激なものが出てくると予想される。
taz: アラブ・バロメーターが10月7日直前にガザ地区で399人に行ったインタビューでは、44%がハマスにまったく信頼を置いていないと答え、23%はいかなる政権にも信頼を置いていないと答えた。この不信感は和平プロセスにとって何を意味するのでしょうか?
Abdalhadi Alijla: 過去10年間、ガザ地区ではハマス政権に対する抗議デモが頻繁に行われてきた。国民の大多数はハマスの統治機構に不満だった。彼らは新しいアジェンダ、現状を変える新しい政治勢力を待っていた。政党、エリート、市民社会組織はパレスチナ人のニーズに応えることができていない。信頼は社会資本の本質である。イスラエルは1991年以来ガザ地区を包囲しており、いかなる政治的代替案もパレスチナ人に希望を与えるものでなければならない。 占領が続く限り、トラウマは続く。占領がある限り、軍事的抵抗はある。ハマスが弱体化するのは平和な時代だ。
taz: かれらは永続的な平和へのビジョンを持っているのでしょうか?
Abdalhadi Alijla: 違う。私は一国家解決策を最も楽観的に支持していた一人だ。つまり、ユダヤ人とパレスチナ人、イスラム教徒とキリスト教徒が対等な立場で共存し、同じ市民的、リベラルな、政治的権利を有する二国籍binational国家である。ガザで起きていることは大量虐殺だ。今は何も想像することができない。まずは大量虐殺を止めなければならない。将来のことを考えるのは、それからだ。
taz: なぜ大量殺戮をジェノサイドと表現するのですか?
Abdalhadi Alijla: そう、私はそれを大量虐殺と定義しているわけではない。 民間人3万人が殺されて、そのうち10歳未満が1万3千人ならば、それは大量虐殺だ。学校、病院、家屋が爆撃されれば、それはジェノサイドだ。ガザ地区からパレスチナ人を追放するというような民族浄化に関するイスラエルの公式声明も、ジェノサイドである。 これは国連の専門家グループや他の国際的なプレーヤーたちの意見である。
taz: あなたはヨルダン川西岸地区の占領とガザ封鎖を終わらせなければならないと言う。それはどういう意味ですか?壁を取り壊し、入植者を呼び戻し、イスラエルの刑務所からパレスチナ人囚人を解放する……?
Abdalhadi Alijla: あなたは少し細かい話をしている。要するに、1967年以前の国境線[イスラエルによるパレスチナ自治区占領以前;編集部注]への撤退についてです。パレスチナ難民の帰還権。東エルサレムはパレスチナ人のもの。ヨルダン川西岸とガザの資源はパレスチナ人のものである。
taz: しかしイスラエルは、ハマスによる新たな攻撃を恐れています。
Abdalhadi Alijla: となると、残された選択肢はただ一つ、この状況を続けることだ。ボールはイスラエル、そしてもちろん西側世界のコートにある。
taz: 疑問は残ります。誰が統治できるのか、誰が統治したいのでしょうか。
Abdalhadi Alijla: まず、占領を終わらせなければならない。そうすれば、パレスチナ人は誰が統治し、自分たちの国家をどうするかを自由に決めることができる。それが自決の概念だ。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13480:240110〕
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