1/4ミャンマーの独立記念日にあたって 2024年、全国民の望む軍事独裁の崩壊
- 2024年 1月 10日
- 評論・紹介・意見
- ミャンマー野上俊明
1948年1月4日、旧ビルマはイギリスの植民地支配から脱し独立を遂げた。しかし独立の英雄であったアウンサン将軍は、前年政敵に暗殺され(享年31歳)、この独立記念日に立ち会うことはなかった。100年近い植民地支配とアジア太平洋戦争で完膚なきまでに荒廃した国土を復興させ、近代国家を建設するという困難な事業に際して、この国はいわば舵取りが不在なまま船出しなければならなかった。アウンサン将軍が生きていたらと、独立後のこの国の迷走ぶりを目にして外国人ですらもが幾度つぶやいたか知れない。しかし1988年の国民的決起を起点に、多大な犠牲を払いながら前進と後退を繰り返し、ようやく自力で軍事独裁体制を打倒する展望が切り拓かれようとしている。多元主義的な統治システムに立脚する「民主的な連邦国家」という綱領的スローガンのもと、現下の内戦を通じて、アウンサンスーチー※らの旧指導部を超えるイニシアチブを国民統一政府の新リーダーたちが発揮できるかどうか、抵抗勢力側にとっても本年は大きな分岐点となるであろう。
※ミャンマーの体制変革の運動に「民主化」というフレーム・ワークを与えたのは、スーチー女史の最大の功績であろう。往時、低開発国に西欧的な価値は間尺に合わないと、多くの人が見下すのが通例だった。
独立記念日のさびしいレセプション! 民族衣装はミンアウンフライン イラワジ
本年の独立記念日は、76周年に当たった。しかしこの日にミャンマー政府に祝賀メッセージを送った国は、カンボジア、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリアなどの「パーリア(のけ者・鼻つまみ)国家」と揶揄される独裁国家群でしかなかった。隣国の大国である中国、インド、タイは、祝電すら送らなかったのである。昨年来の反軍抵抗勢力の秋季攻勢の成果を見せつけられ、安易に祝電など送っている場合ではないと思ったのかもしれない。中国は「一帯一路」関連の中国・ミャンマー経済回廊の事業化をせかす一方で、しかし信じがたいことに、昨年北京で開催された「一帯一路」構想10周年記念式典にミンアウンフライン最高司令官を招待しなかった。ミャンマー内戦を注視して飴とムチ(というか、いたぶり)を使い分け、ミャンマー軍部がおのれの覇権に屈するのを待っているかのようである。中国は、伝統的なミャンマー軍部の嫌中感情を十分頭に入れて、最大利益を引き出せる落としどころを探っているのであろう。
この3年間、東南アジアの重要なアクターであるアセアンはミャンマー危機になんら実効ある手を打つことができず、国際的な評価はガタ落ちであった。そのなかにあってアセアン加盟目前の東チモールの動きは、胸のすくような鮮やかさであった。なんとジョゼ・ラモス=ホルタ東ティモール大統領は、ミャンマーの軍人たちにレジスタンスに参加するよう促したのである。それに激怒した軍事政権は、東ティモール大使館の代理大使をただちに国外追放したが、過酷な独立戦争を勝ち抜いた経験と自信と信念が、かく言わしめたのであろう。われわれも国際連帯の一助となるよう、内戦勝利にむけて政治的軍事的な必要十分条件は何なのか、そのために我々は何をなしうるのか、あらためて熟考していきたい。
反体制ポータルサイト「イラワジ」1/2が、2024年を迎えるにあたってまちの声を拾っている。以下そのままご紹介する。
<新年のインタビュー>
ミャンマーが軍事政権下で3年目を迎えた2023年は、経済的、社会的、人道的危機が深刻化し、ミャンマーの人々にとって厳しい年となった。しかし2023年は、革命グループが新たな勢いを見せ、10月以降に政権から町を奪取したことで、勇気づけられた年でもあった。市民や革命グループのメンバーは最近、新年の抱負をイラワジ紙に語った。
★マ・トゥーザ(女)/27歳、商人、ロイカウ、カレンニ(カヤー)州
2023年の商売はむしろ好調だった。新しい家も手に入れた。物事が良くなり始めたとき、年末に戦闘が勃発し、私たちは逃げなければならなかった。平穏なまちに戻りたい。安全で自由でありたい。
★ドー・ミョミョエィ(女)/ミャンマー連帯労働組合
昨年は労働組合に対する弾圧が行われた。食品価格は高騰したのに、工場での給与は上がらなかった。雇用主は最低賃金が上がっていないと言って給料を上げなかった。新しい最低賃金については、いまだに明確な回答がない。労働者が労働組合を結成し、加入するための法的保護もない。2024年の安定を願っている。安定がなければ、すべてが揺らいでしまう。
★マー・エイモン(女)/サガイン管区ディぺイン郡17番地
2023年には多くの困難があった。勉強もろくにできなかった。兵士が来たときも、軍がイェウから砲弾を撃ったときも、私たちは教室から逃げ出した。恐怖の中で一年を過ごしました。2024年、私はもう恐怖の中で生きたくありません。平和に暮らし、勉強したい。
★コ・ウィンミンウー(男)/ヤンゴン在住
私たちは2023年、生計を立てるために苦労しなければならなかった。何人かはシンガポールや日本で働くために去った。彼らは働きながら、可能な限り革命を支援している。残された者たちもまた、生計を立てながら革命を支援している。しかし、私たちは落ち込んでいない。独裁政権に対する反乱が2024年についに成功することを願いながら、耐える覚悟はできている。私は革命で戦う若者たちを心配している。戦いを長引かせたくない。2024年に一緒に祝えることを緊張しながら願っている。
★ドゥワラシラ/国民統一政府大統領代行(少数民族カレン族出身)
2023年にわたる我々の行動と努力を見直し、欠点と弱点を分析する特別な必要性がある。2024年には多くの新たな挑戦や軍事的転換点が待ち受けている。新しい年が始まるにあたり、先見の明を持って準備しなければならない。――影の政府のトップとしてもっともっと指導力を発揮してほしい人である(N)。
★サライ・ヒテット・ニー(男)/チン民族軍報道官
われわれは、2023年にわれわれの軍隊と敵の軍隊の長所と短所を見極め、2024年に戦闘をエスカレートさせようとする。すでに革命に参加している武装組織だけでなく、他の武装組織も積極的に革命に参加し、政権を根絶してほしい。2024年には、軍事作戦と調和した文民政権が発足すると信じている。
★ジュリア(女)/ダイバーシティ・ネットワークのスポークスウーマン
厳しい年だった。食用油危機で始まり、燃料危機で終わった。20,000チャット]の新紙幣の導入が予定されているというニュースを受けて物価はさらに上昇し、年末まで物価は下がらなかった。2021年のクーデター以降、商品価格が4倍になったものもある。強盗や置き引きが増える中、私たちは生活費を稼ぐのに苦労している。逮捕や殴打、殺人に常に怯えて生活してきた。良いことは何もなかった。私たちは、何が起ころうとも最後まで独裁政権と闘うという決意をもって、これに耐えてきた。2023年、人権は低下した。私たちは表現の自由を失い、軍事政権のテレグラム・チャンネルによって個人情報が暴露されたとき、フェイスブックのプロフィール写真を黒に変えただけで多くの人が逮捕された。 人々は、自宅に飾る花を買うために市場に行くと、フラワー・ストライキに参加したと疑われ、取り調べを受けた。民間人として、私は2024年に軍事独裁政権をすべて一掃してほしい。別れた人々と再会したい。帰国する人々を勝利で迎えたい。人権を尊重する文民政府のもと、社会がまとまった平和な国ミャンマーになってほしい。
★コー・ナン・リン(男)/反軍同盟、ヤンゴン
2023年には政権の失策がはっきりと見え、軍は強く、最後には支配権を獲得するだろうという一般的な見方は払拭された。同時に、人々の苦難は日に日に悪化している。こうした危機にもかかわらず、ミンアウンフライン軍事独裁政権を終わらせ、新時代の新体制で国を再建するための最良の機会を、すべての人が一緒に形作ることができた。
2024年には政権の敗北がより明確になり、私たちは革命の最も厳しい時期を過ごさなければならなくなると思う。勝利に近づけば近づくほど、戦いは激しくなるだろう。我々は必ず勝利を達成しなければならない。独裁政権を終わらせ、連邦民主主義を構築することが我々の目標だ。軍事独裁政権と戦う一方で、現実主義と連邦主義に基づく行政システムを体系的に確立し、抵抗勢力の支配地域で人道支援を行う必要がある。私は、国民統一政府NUGと革命組織が軍事独裁政権を排除するための戦略を持ち、移行期間に向けて両者の間でより明確な政治的合意がなされることを願っている。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13482:240110〕
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