オバマは正真正銘の帝国主義者 「協調」と言いながら同盟国を支配
- 2010年 6月 13日
- 評論・紹介・意見
- オバマ伊藤力司帝国主義者
筆者は前回6月2日のエントリーで「オバマはやはり『米帝』の最高司令官か」とのタイトルの下で5月末に発表されたオバマ政権の「国家安全保障戦略」を紹介した。オバマ政権は確かにブッシュ政権の単独行動主義から国際協調主義に転換したが、アメリカの国益と覇権を追求する基本方針に変わりはないのではないかと論じたわけだ。このオバマ戦略を詳しく分析してみると、アメリカ大統領は同盟国との協調を強調しながら、同盟国に米国の方針を押し付けるなど実質は帝国主義路線を進めていることが分かる。
最も卑近な例は、日米同盟の深化を訴えた鳩山前首相を普天間基地問題で辞任に追い込んだことだ。鳩山氏は昨夏の衆議院選挙で普天間基地の辺野古移転計画に反対して「国外、最低でも県外へ」を公約して沖縄県民の支持を集め、政権交代を実現した。オバマ政権はこのことを充分承知しながら辺野古移転に固執し、鳩山氏は結局公約違反の責任を取って辞任せざるを得なくなった。普天間基地を利用する米海兵隊ヘリ部隊の都合を優先して沖縄の民意を拒否したこと、これこそ民主主義に反する帝国主義ではないか。
普天間基地はもともと沖縄占領直後、住民が戦火を避けて疎開した町を米海兵隊がブルドーザーで押しつぶして建設したものだ。このこと自体戦時に関する国際法違反だ。疎開から戻った住民は基地の周辺に住む以外になかったから、飛行場の周りに住宅や公共施設がびっしり立ち並ぶという「最も危険な飛行場」になってしまった。以来65年間、普天間の住民は基地公害に悩まされ続けてきた。中でも1995年の米兵による少女レイプ事件は、沖縄全土を巻き込んだ大規模な反基地闘争を呼び起こした。恐れをなした当時のクリントン政権は、45㍍のヘリ発着帯を持つ代替施設を用意してくれれば、普天間飛行場を返すところまで譲歩した。
以後日米間での交渉の結果2006年、辺野古の沖合を埋め立て1800㍍の滑走路2本を建設して普天間基地を移設、それを条件に沖縄駐留米海兵隊の主力をグアムに引っ越し、嘉手納以南の米軍施設を返還させるという日米ロードマップが合意された。しかし新しい基地はごめんだ、ましてジュゴンの生息する辺野古沖に基地を造らせないとする地元の粘り強い反対運動が続いたため、辺野古沖合埋め立て工事はまだ着工できていない。
それぞれの選挙で大勝して2009年1月登場したオバマ政権と、同年9月に登場した鳩山政権がこうしたいきさつを知らなかったはずはないし、これが難問であることは双方とも分かっていた。にも拘わらずオバマ政権は、ブッシュ・小泉政権時代に合意された普天間基地の辺野古沖移設が最善だとして、国外、県外移転を模索する鳩山氏の希望をことごとく撥ねつけた。それでも「ジュゴンの住む海を埋め立てるのは冒涜」とまで言って抵抗した鳩山氏だったが、首相を支えるべき岡田外相、北沢防衛相、前原沖縄担当相の3閣僚は対米盲従の外務・防衛官僚に丸めこまれて、早々とアメリカに降参していた。
長年の自民党政権下で対米折衝に当たってきた外務・防衛官僚は、米国の意向に盲従することが出世につながる道であり、日本政府に米側の要求を呑ませることが仕事だった。1950年代の岸信介首相時代以降、国民に黙って米核兵器の持ち込みを認めるなどの日米秘密合意の存在を隠すのに暗躍した連中である。彼らは、米側の「日本通」と称するリチャード・アーミテージ氏(元国務副長官)やマイケル・グリーン氏(前米安全保障会議日本部長)らと謀って、辺野古沖を埋め立てて新基地を建設するとの日米合意を作り上げた。
1995年に米側が要求した45㍍のヘリ発着帯が、1800㍍の滑走路(複数)を備えた新基地(今回公表された「2プラス2の日米合意」)にまで拡張したのは、米海兵隊が新型の垂直離着陸機オスプレイの2012年就役を想定したもので、ここでも海兵隊の強欲さが目立つ。オバマ政権は海兵隊の要求をそのまま日本側に要求し、日本側も受け入れた。日米政府は8月末までに辺野古新基地建設の態様を決めることになっているが、埋め立て方式で複数の滑走路を造る土台を築くとすれは、総工費は1兆円はかかるだろうと推算されている。菅新首相は「日米合意を踏襲する」と明言しており、政赤字に苦しむ日本政府がさらに巨額の支出を迫られることになる。
こう見てくると、鳩山氏もどうせ辞任するならオバマ政権の帝国主義的な要求をきっぱり断り、その責任を取って辞めたらよかったのに、と言いたくなる。そうすれば辺野古移設はご破算になり、日米同盟は本当の危機を迎えただろう。そこでこそ沖縄県民だけでなく日本国民全体が米軍基地の問題を考え直し、日米安保条約そのものを真剣に考えるきっかけになったろう。鳩山氏の「迷走」のおかげで、本土国民もようやく沖縄の基地問題の深刻さを考え始めたところだった。その気運が鳩山辞任で消えてしまった。
鳩山氏は米側の要求に屈した理由を、米海兵隊の沖縄基地駐留が抑止力になっていることを学んだからと釈明した。しかしこの説明では普天間住民の疑問を説得できない。海兵隊というのは、米軍が敵地に侵攻する時の「殴りこみ部隊」であって、現にイラクやアフガニスタンに交代で出かけて行っている。フィリピン南部のイスラム過激派討伐にも出かけている。その他に沖縄内外の演習場へ訓練に出かける部隊もいて、普天間基地に常時駐留している海兵隊は定員の半分もいないという。こうした事情を知っている住民は「抑止力」の説明を信じない。
日本に対する軍事的脅威と言えば、核兵器や弾道弾ミサイルを開発している北朝鮮がまず浮かぶ。しかし在日米軍、在韓米軍、横須賀、佐世保を母港とする米第7艦隊が北朝鮮を標的にして訓練を重ね、核兵器を含む最先端の攻撃システムが四六時中北朝鮮を睨んでいる現状を検討し、米朝間の軍事力を比較してみれば、北朝鮮脅威論が紙上の空論であることが分かる。現に米太平洋軍司令部では北朝鮮の軍事力など歯牙にもかけていない。
他方北朝鮮は、金王朝2代目の金正日総書記から3代目への権力継承を円滑に行うことが最大の課題であり、そのために朝鮮戦争の休戦協定しか結んでいない米国と平和条約を結び、南からの脅威をなくそうとして躍起になっている。厳しい食糧不足に苦しむ国民をしり目に、巨額のコストをかけて核・ミサイルの開発を続けているのは、米国に馬鹿にされたくない一心からである。
中国の軍事力拡張が日本に対する脅威だという説も横行している。しかし当サイトで田畑光永氏が、3回にわたって中国脅威論の正体を詳述(4月20、22日、5月6日)しているのをお読みいただければ、中国の脅威なるものがいかに根拠薄弱かお分かりになろう。ちなみにストックホルム国際平和研究所の調べでは、中国の軍事費支出は2008年636億㌦で世界第2位となったが、第1位のアメリカの5485億㌦の12%にも及ばない。そしてオバマ政権は中国封じ込め政策は執らないことを確約し、米中間で閣僚レベルの戦略・経済対話を毎年開いているのだ。
中国は台湾独立論に極めて神経質だが、台湾で国民党政権が復活して以来中国と台湾の関係は密接になり、中台とも台湾の現状維持に満足している。こうした現状から、中国が台湾の武力統一に走ることなぞ想定できようか。オバマ政権は長期的な米中関係の緊密化を念頭に、東アジアサミットと、中国の主導権でつくられロシアと中央アジア諸国が加盟している上海協力機構に米国も加盟したいとの希望を明らかにしている。こうしたオバマ政権の対中姿勢からみても、沖縄駐留の米軍が中国を現実的脅威と認識しているとは到底思えない。
今年は1960年の日米安保条約改定から50年。安保条約を見直す良い機会だ。実はこの半世紀の間に、日本国民の大多数が気づかないうちに安保条約の中身が改変されているのだ。クリントン政権と橋本政権当時の1997年、「日米防衛協力のための指針の見直し」いわゆる新ガイドラインが合意された。安保条約は「日本が米軍に基地を提供する代わりに、米軍は日本及び極東の安全保障に責任を持つ」ことが明記されている。ところがこの新ガイドラインは条約の責任範囲を「極東の安全保障」から「アジア太平洋地域の平和と安全」に拡大したのである。
さらにブッシュ・小泉政権時代の2005年10月には「日米同盟:未来のための変革と再編」という合意文書が採択された。「日米同盟は世界における課題に対処する上で重要な役割を果たす」との文言は、日本防衛が目的であった日米安保条約を根底から変え、日本をアメリカの世界戦略に組み込むことを意味した。本来なら国会に批准を求め新たな条約とすべき内容なのに、日米双方の外務、防衛担当閣僚が署名するだけの、いわゆる「2プラス2合意」で処理された。
このふたつの日米合意文書によって日米安保条約は変質したのだが、国会で内容が審議されないこともあって、主権者たる日本国民はほとんど変質に気付かなかった。アメリカは、北東アジア、東南アジア、南アジア、中央アジアから中東、地中海沿岸を経てアフリカまでひろがる地域を「不安定な孤」と呼んでいる。アフガン、イラクだけでなく紛争が発生する恐れの強い地域を指す言葉だ。米国はこの「不安定の孤」で、米国の国益が脅かされれば軍事介入する。その時は在日米軍基地から米軍の出動が自由気ままに行われることを、日本政府は認めていたのだ。
オバマ大統領は普天間問題で鳩山首相を辞任に追い込んだことで、実質的に米軍最高司令官であることを米4軍(陸、海、空軍、海兵隊)認めさせた。史上最悪の財政赤字に苦しむオバマ政権は軍事費の削減を進めなければならない立場にあるが、これに不満を鳴らす制服組や軍産複合体に対処するためにも、さらに帝国主義路線を強めざるを得ないだろう。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion015:100613〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。