ミャンマー、国民統一政府NUGと3つの革命グループが共同声明を発表
- 2024年 2月 15日
- 評論・紹介・意見
- ミャンマー野上俊明
ミャンマーの軍事政権は、2021年2月1日のクーデタから3年目にあたるこの日、5度目の非常事態宣言の延長を発表した。非常事態宣言を延長した場合でも、憲法の規定では、2023年8月1日までに総選挙を行なわねばならなかった。しかし法令無視はお手のもの、厚顔無恥を地で行く一方で、実際は多くの戦線での敗北が重なって治安が悪化、選挙に向けての世帯調査もままならず、野党抜きの翼賛選挙すらその見通しはますます遠のいていく。軍事政権が打ち出す政策はますます非常識で、法理とは縁のないものになっている。外貨払底から、海外で働くミャンマー人すべてから所得税を強制徴収する。海外にいるので納税の対価・恩恵はゼロであり、かつ当該国との二重課税となる。さらに負け戦と脱走による兵員損耗を補うべく、強制的徴兵にこの2月から踏み切った。脱走者や抵抗勢力に寝返る兵士を増やすばかりではないか、愚かなミンアウンフラインよ、と陰口がやまず、民心の離反がますます加速する。※
10月21日、タイとの国境であるモウタウン付近の前線に向かうボートに乗り込む
タニンターリ(南部ミャンマー)PDFの戦闘員たち。イラワジ
そのようななか、昨年の10月以来、シャン州北東部を中心に全土で攻勢に転じている反政府抵抗勢力に新しい重要な政治的動きがあった。軍事攻勢に対応する政治的攻勢として、軍事政権に対する併行政府たる国民統一政府(NUG)と、それと同盟関係にある3つの武装組織―チン民族戦線(CNF)、カレンニ民族進歩党(KNPP)、カレン民族連合(KNU)―が、共同声明を発表した。※多数派ビルマ族勢力と少数民族勢力が、同一の政治・行動綱領のもと、軍事政権を打倒し、新しい連邦制の民主連合(政府)a Federal Democratic Unionの樹立を目指して、共同戦線のもとに闘うことを宣言した。反軍事独裁闘争史上、これは初めての画期的な政治的達成であり、闘争が反軍抵抗運動から革命政府樹立をめざす新しいフェーズに突入したことの証である。その他、共同声明に加わらなかったが、実質NUGと協同して作戦を展開しているカチン独立機構(KIO)やビルマ族主体のビルマ人民解放軍(BPLA)も仲間とみなしていいだろう。
2023年10月、レジスタンスの支配下にあるタニンタリー郡区のバン・ロー村に向かって行進する人民防衛隊PDF。タイとの国境に近く、ゴム園が広がっている。Frontier Myanmar
以下、簡単に声明が掲げる6つの目的ついて触れる。
――第1の目的は、軍事政権を打倒すること、第2に国軍の政治への関与を排除し、文民統制を徹底すること、第3に2008年憲法を破棄すること、第4に連邦主義と民主主義の価値を体現する新憲法を起草し制定すること、第5に新憲法(案)に従って新たな連邦民主連合(政府)a new federal democratic unionを樹立すること、第6に移行期正義の制度を制定すること。
細かいことを言えばきりがないが、若干の問題点を指摘しておこう。2点目に関わることでは、国軍の扱いである。解体して、新しい軍を創設するのかどうか。既存の軍機構や指揮系統を温存したまま、人だけ入れ替えるというやり方では、改革は中途半端に終わるのではないか。「ミャンマー国軍指導部が6つの政治目標を無条件に受け入れれば、軍政を終結させ平和的な政権移行を促進するための交渉が行われる可能性がある」としているが、これはあまりに甘すぎる見通しであろう。平和的な権力移譲がありえないが故の武装闘争ではなかったのか。スーチー氏が主導した非暴力の抵抗運動が、クーデタによって挫折させられた事態の政治分析を深める必要がある。私見であるが、武装闘争の不屈の継続と非暴力の抵抗運動や人権や民主主義的価値の重視との柔軟な組み合わせこそ、ミャンマーにおける闘争に個性的な色合いを与えるものである。
二点目として、新憲法制定にあたる組織母体はどこなのであろうか。臨時政府のもとでの憲法制定議会選挙の実施とその議会による決定が考えられるが、いずれにせよ、多民族国家により適合した憲法制定の在り方が探求されるべきであろう。6点目の「移行期正義」の実現とは耳慣れない言葉で内容が判然としないが、おそらく移行期に権力の空白をつくらず、法の支配を貫徹させて人権や権利の侵害を許さないよう、体制を整えるということではないか。
さて、共同声明の内容以外で重要な諸点について触れておこう。まずは共同声明に参加した諸団体が少数すぎるという批判や危惧について。大まかに少数民族武装グループを区分けすると、以下のようになる。
1、軍事政権と武力対決し、かつ親NUG・・・チン民族戦線(CNF)、カレンニ民族進歩党(KNPP)、カレン民族連合(KNU)、カチン独立機構(KIO)、ビルマ人民解放軍(BPLA)など
2、軍事政権と武力対決し、親NUGであるが、中国の影響を受けている・・・タアン民族解放軍(TNLA)、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)
3、軍事政権と武力対決するが、NUGには不信感をもつ。めざすのは連邦連合federal unionではなく、より独立性の高い連合confederationであるという。・・・アラカン軍(AA)
4、最大の武装勢力で、中国の圧倒的影響下にあり、軍事政権とは争わない・・・ワ州連合軍
5、シャン州に拠点を置くシャン族グループがいずれにも加わっていない。シャン州進歩党(SSPP)やシャン州復興評議会(RCSS)、民族民主同盟軍(NDAA)などは、比較的規模の大きな組織である。植民地時代は藩王国であった地域なので、当然独立志向は強いであろう。いまのところ動静は不明である。
さて、軍事政権を打倒して民主的な連邦連合国家をつくるにあたって、最も困難なのは、自治権を有する少数民族の同定である。ネウイン以来の国籍法では、135の民族により構成されているとされたが、これにはロヒンギャは含まれないという重大な欠陥を持つ。では136の少数民族に辺境地域を分割して自治権をゆだねるというのも現実的ではなかろう。自治権をあたえる民族を同定し、それぞれの自治領域=州を確定する(=内部境界線の線引き)という難事を解決しなければならない。シャン州では、政府軍に対してだけではなく、少数民族同士が領土をめぐって武力闘争が行なわれてきた。辺境地域には地下資源が豊富にあるだけに、その帰属は紛争の種になりうる。
「春の革命」の使命は、軍事政権を倒して民主主義的な国民国家を建設することに尽きる。ただ多民族多宗教の複雑な構成をとる国家だけに、連邦制という構造のなかで国民的な統一意識を育むことになる。国民は一方でエスニックなアイデンティティを持ちながら、他方でミャンマー国民としてのアイデンティティを持つ。つまり対外的にはミャンマー国民としての顔を持ち、対内的にはエスニックとしての主体性を保持する――現に少数民族の活動家に話を聞くと、そういう使い分けを自分の中でしているという。したがって諸民族統合のためにナショナリズムを鼓吹することは避けるべきである。より自由化民主化されれば、市民社会という諸民族共通の公共空間が拓かれて、自発的に共通意識の形成が進むであろう。
言わずもがなかもしれないが、ミャンマーにおける諸民族社会は家父長的な支配など多くの後進的な要素を残している。PDF(国民防衛隊)に多くの若い女性が参加する現象も、裏を返せばそれだけジェンダー差別が深刻で、それと闘うために敢えて武装闘争に参加したと告白する女性が珍しくはないのである。軍事政権との闘いは、ひとり国軍の暴力との闘いであるだけでなく、自身が属するミャンマー社会の差別と抑圧との闘いである――そういう二重の意味での民主主義のための闘いなのである。
※戦場での敗北と脱走兵の増加は、退役軍人、囚人、消防士、鉄道員などによっては穴埋めできないほど。兵員不足を深刻化させてきた。そのためこの2月10日より国民兵役法を復活・施行させ、18〜35歳の男性と18〜27歳の女性は、2年間の兵役につく。これを拒否すると最高5年の懲役刑に処される。医師、エンジニア、技術者などの専門職も、男性は18歳から45歳まで、女性は18歳から35歳まで兵役に就かなければならないとしている。
これ以前から、軍事政権は村ごと男性を民兵組織に強制入隊させてきた。村の通行人をすべて捕まえて、強制的に軍事訓練を施して、戦闘に駆り出しているという。巨額の罰金、保釈金を払って釈放されたものもいる。こうして町村の貴重な労働力、専門職の貴重な技術力を戦場に動員して、ますます社会の疲弊は深刻化させている。現在、地方からヤンゴンやマンダレーにいく航空便のチケットは、地方の行政管理者の許可を得なければ、手に入らなくなっている。脱走や国外逃亡を怖れているのであろう。ますますロシア社会の銃後の様相に似てきている。
ミャンマー北西部サガイン管区ルキー村で軍事訓練に駆り出された人々。 RFA
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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