21世紀の日本は、毒性健康食品や時代遅れの政党をうむ怪物になったのか?
- 2024年 4月 2日
- 時代をみる
- 「京城クリーチャー」アベ共産党加藤哲郎裏金
2024. 4.1 ●いつの頃からでしょうか、日本の大きな新聞広告やテレビCMと言えば、自動車か家電製品・化粧品だった世界に、健康食品がやたら目立つようになり、定着しました。高度経済成長の時代は、家庭電化の「三種の神器」(白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫)から3C(カラーテレビ、クーラー、マイカー)へという消費文化の充実で、近代化による物質的価値の充足がうたわれました。それがほぼ1975年頃、石油危機で国際環境が揺れて安定成長の時代に入ると、「大量生産から多品種少量生産へ」「モノの価値からココロの価値へ」「スモール・イズ・ビューティフル」といった謳い文句に合わせて、「健康」「環境」「美」「生きがい」といった脱物質主義的・主観的価値をも組み込んだ商品市場が、冷戦崩壊でグローバル化した世界に広がっていきました。政治の世界にも、ドイツ「緑の党」に始まる社会構造と価値観の変化と多様性を反映した動きが現れ、そうした動きに取り残されたモノクロのソ連・東欧社会主義は崩壊しました。とりわけ「エコロジー」「女性・ジェンダー」や「マイノリティの承認」は、社会運動から既存の議会政治・政党政治にも浸透し、21世紀の民主主義として、地球大に広まりました。
●「健康」「美容」価値が商品化して、医薬品でなくても大きな市場ができると、広告も、効用ばかりでなくイメージで売ることになりました。「栄養成分を補給し、 または特別の保健の用途に適するもの、 その他健康の保持増進及び健康管理の目的のために摂取される食品」というサプリメントが、医薬品と日常的食品の隙間に、入り込みました。本来「supplement 補助・補完」の役割とされていた健康食品市場が広がると、朝食はサプリメントだけといったライフスタイルも生まれ、日本では、安倍晋三内閣の「アベノミクス」のなかで、もともと1991年施行の「有効性や安全性について国が審議を行い、消費者庁長官が許可を与えた食品」である特定保健用食品(トクホ)のほかに、2015年から「事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに 機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた」機能性表示食品という新たなカテゴリーが作られ、老舗の大手医薬品企業も「健康食品」市場に進出することになりました。そこがいま、小林製薬の「紅麹」製品への毒性物質混入によるとみられる服用腎臓障害で、3月末現在5人の死亡と100人以上の入院です。被害者は、日本国内にとどまりません。台湾など海外にも広がって国際問題です。
● 安倍晋三が政治的に作り出した「機能性表示食品」は、医薬品と食品のあいだのファジーな領域を、企業利益を産む市場にして投資をよびこもうとしたものです。その政界では、政党助成法と政治資金規正法のはざまの裏金ビジネスが暴かれ、自民党旧安倍派等の金権議員たちが、次の選挙での国民の審判を受けようとしています。旧田中派の末裔・二階俊博の政治とは、記載漏れの政治資金から3500万円を書籍代を出したというのですが、どうやら政策研究や知性の研鑽のためではなかったようです。5000冊・1045万円も購入した二階ヨイショ本に書かれた人心掌握の極意とは、「GNP=①G義理と②N人情と③Pプレゼント」なそうで、党幹事長時代の50億円もの「政策活動費」の使途も、大同小異であったでしょう。政治と社会の架け橋である政党は、本来社会構造と価値観の変化にあわせて、たえずメタモルフォーゼ=形態転換していかないと使命を果たせないはずですが、支配政党の自民党は、どうやら20世紀の大量生産・物質的価値観時代の手法でファジーな領域まで埋め合わせ、行き詰まりつつあるようです。
● 同様の時代遅れと行き詰まりは、20世紀のロシア革命・コミンテルン以来の伝統に固執する「革命政党」=共産党にも顕著です。「党の上に個人をおかず」の民主集中制組織から脱しきれず、ようやく女性委員長を立てたのに、高齢幹部たちの院政とセクハラ・パワハラが横行、基本的人権である「個人の言論・出版の自由」を「組織の結社の自由」で押さえ込む、旧ソ連東欧・現代中国・北朝鮮でおなじみの悪弊を、繰り返しています。先月も書きましたので繰り返しませんが、20世紀のレーニン由来の暴力革命に即した軍事的規律=「民主集中制」は、もともと19世紀前半のブランキ派秘密結社の組織原理の復活でした。秘教的な入党儀式と権力者の暗殺・テロル実行も辞さない権力破壊、「裏切り者は死刑」の指導者独裁組織に対して、選挙で選ばれる代議員による立法機関「大会」と大会決定の執行機関である中央委員会を分離し、「裏切り者は死刑」を廃して指名手配の「除名」を最高刑にし、再入党可能な「除籍」制度を設けたのは、ほかならぬマルクス・エンゲルスの共産主義者同盟でした。敵権力指導者の暗殺テロルを、労働者の階級闘争による国家権力奪取に改めたのが、その綱領「共産党宣言」でした。以後のドイツをはじめとしたヨーロッパの社会主義勢力の主流は、複数指導者制、任期制、集団合議制、仲裁裁判制度など党内立法・司法手続きの導入による権力分立と党財政透明化、中央上納額制限を含む中央指導者の定期的監視・制御、党議員団と党官僚制の相互規制、機関紙編集の独立性と地域・工場基礎組織の自立性・財政自主性・ローカル新聞発行権など、総じて「党員主権」「社会主義的民主主義」の方向に向かっていきました。
● 今日のEU議会における有力潮流である社会民主党など社会民主進歩同盟と旧共産党を含む欧州左翼党は、ともにそれ自体多元的・重層的な政治組織ですが、おおむね「党員主権・民主主義」にメタモルフォーゼしています。ブランキ型秘密結社を直接継承したロシア・ナロードニキの地下活動の流れから生まれ、レーニンのボリシェヴィキがロシア革命の「勝利」により歴史を反転させた20世紀「民主集中制」=コミンテルン型共産党は、二つの世界大戦を含む「戦争の時代」に一時的隆盛でしたが、アジアのわずかな共産党・労働党を除いて、1989-91年にかけて総崩れになったのです。こういう歴史の語りが得意だったはずの日本共産党の、今日の理論的頽廃・貧困は、驚くべきものです。日常的に地域住民に接する地方党議員に対する中央党官僚によるパワハラ・セクハラを含む抑圧的統制、制御不能なSNS上での、トップの「赤い貴族」告発と中央指導部批判の氾濫、「さざ波通信」に続く、86歳の宮地健一さんの「共産党・社会主義」問題サイト復活をはじめ、平山基生さん、大窪一志さん、高橋祐吉さんら実名での古参社会主義者のつぶやき、「野党共闘」で最も頼りにしてきた西郷南海子さん、山口二郎さん、上瀧浩子さんらの苦言と提言が続いています。中央指導部の無為無策と、機関紙財政危機、低賃金専従労働者の無権利・過剰と老齢化・過労死により、溶解が始まったようです。
● 昨年クリスマスの頃から、韓国と日本の若者のあいだで、時ならぬ731部隊ブームだといいます。NETFLIXの韓流ドラマ「京城クリーチャー」が上映され、1945年5月、日本敗戦直前の植民地ソウルの病院で、731部隊の医師がひそかに炭素菌の人体実験で怪物を作りだし、病院からあばれだして危害をくわえるようになる、というストーリーです。パク・ソジュンら観流ドラマのスターたちが出演し、クリスマスから新年に全10話のドラマがアップされ、NETFLIXとしても話題のヒット作となったそうです。私は実は、731部隊の研究者として、ハフポストの取材を受け、3月30日にウェブ上に掲載された長文の記事「731部隊を描いた韓国ドラマから日本人は何を学ぶか。パク・ソジュン主演京城クリーチャーが問いかけるもの」中で、インタビューに答えています。ただし、ソウルで731部隊が人体実験をした事実はなく、ハルビン郊外平房本部での人体実験でもこれまで資料で裏付けられた朝鮮人「マルタ」犠牲者は4人のみといいますから、ドラマ自体はフィクションです。大ヒットによって、すでに第二シリーズ制作も決まっているようです。
●詳しくはぜひドラマそのものを見て、ハフポストの記事にも注目してほしいのですが、インタビューで語っていないことを付け加えると、私はこの映画に、かつて日本映画が、原爆が産んだ怪獣として「ゴジラ」を描いたことを想い出しました。「反日プロパガンダ・ドラマ」などという日本人の感想もあるそうですが、往々にして加害者は、被害者の苦しみや恨みをなかなか理解できず、すぐに忘れます。「京城クリーチャー」は、植民地時代の日本軍の横暴、暴虐を、クリーチャー=妖怪・怪物にシンボライズしたものでしょう。私個人は同姓で複雑でしたが、炭素圏人体実験でバイオテロの怪物をつくりだす日本人医師が「加藤中佐」なのは、明らかに朝鮮半島史上の日本侵略の象徴「加藤清正」をイメージさせるためでしょう。歴史的事実と異なるにしても、こういうドラマからでも若い世代が731部隊や日本の戦争加害に関心を持ってくれるのは、好ましいことです。
●同様なことは、話題のアカデミー賞映画「オッペンハイマー」についても、いえることです。広島・長崎の原爆被害が描かれていないから日本人にとっては好ましくないと言った「被害者日本」を強調する批判もみかけますが、人類絶滅兵器を作ってしまった科学者の苦悩を描いたものと素直に受け止めれば、学ぶところが多いはずです。ゾルゲ事件関係では、尾崎秀実を主人公にした1962年の木下順二「オットーと呼ばれる日本人」を、久方ぶりに劇団民芸が5月に新宿紀伊國屋サザンシアターで上演するそうです。今日のゾルゲ事件研究から見れば、木下順二の描く1932年上海のベースが川合貞吉回想なので、ゾルゲ・尾崎秀実、スメドレーの宋夫人=スメドレー宅会合は歴史的事実として疑わしいのですが、木下順二「オットーと呼ばれる日本人」は、2009年に米国の日本文学研究者たちによって英訳されて、「Patriots and Traitors(愛国者と裏切り者)」と題するゾルゲ事件に関する論集に収録されました。米国では主流の陸軍ウィロビー報告『赤色スパイ団の全貌』や、それを継承するプランゲ『ゾルゲ 東京を狙え』ではなく、米国ではマイナーな、ゾルゲではなく尾崎秀実が主人公で東アジアを見つめたチャルマーズ・ジョンソン『ゾルゲ事件とは何か』を下敷きにしているのが、「Patriots and Traitors」のユニークな特徴で、ピッツバーグ大学の米国人日本文学研究者たちは、日中戦争のなかでの尾崎秀実の思想と行動を、マッカーシズム最盛期米国でのオッペンハイマーの苦悩と対比しています。
●「京城クリーチャー」とも関わるNPO法人731部隊細菌戦研究センターの総会が、4月13日(土)午後、東京田町の港区立男女平等参画センター(リーブラ)・学習室Cで開かれます。日本における731部隊研究の最新の論点である長野県飯田市の平和祈念館における細菌戦・人体実験関連展示パネルの自治体による扱いの問題など、全国の731部隊研究者と中国からの研究者も集って討論します。4月20日(土)は午後3時から、霞ヶ関ビルの愛知大学東京センターで尾崎=ゾルゲ研究会例会があり、「オットーと呼ばれる日本人」とも関連するジョーこと宮城与徳を日本に送り出した米国共産党について、京大・進藤翔大郎さんと私が報告します。どちらも公開で、尾崎=ゾルゲ研究会はオンラインも可能ですから、ご関心の向きはどうぞ。私もリハビリしつつ参加します。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye5223:240402〕
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