天皇の血統が途絶えたところで、憲法の人権も民主主義も平和主義も何の影響も受けはない。当然のことながら、天皇がいなくなっても日はまた東から昇るのだ。
- 2024年 5月 5日
- 評論・紹介・意見
- 天皇制澤藤統一郎
(2024年5月4日)
産経の社説は「主張」という。産経自らが、「憲法改正、靖国神社参拝、領土問題などについて、日本の国益のもとにハッキリとした論説を展開しています」と、その姿勢を説明している。「日本の国益のもとにハッキリとした論説」とは、「真正右翼の言説」という意味。「これがハッキリとした右翼の主張」なのだ。ときおりこれを見ていれば、いま右翼が何を問題とし何を言いたいのか、ほぼ見当がつく。その意味で便利で存在価値ありなのだが、カネを払って読むほどの内容はない。ネットで斜め読みするだけで十分である。
最近、産経らしい「主張」のタイトルが以下のように続いている。安倍なきあとの右翼の危機感の表れなのかも知れない。
(4月27日)皇位継承と皇族数 「正統の流れ」確認された
(4月29日)昭和100年式典 日本を挙げて開催したい
(5月1日)天皇陛下即位5年 重きお務めに感謝したい 伝統守り男系継承を確実に
(5月3日)憲法施行77年 国会は条文案の起草急げ 内閣に改憲専門機関が必要だ
内容はタイトルだけで推察なとおり。基本姿勢の一つは「国体思想」であり、もう一つが「軍事大国化」。これが、両々相俟って「国益論」となり、「改憲・靖国・領土」という具体的トピックに盛り込まれる。
「国体思想」とは、愚にもつかない天皇崇拝のこと。「思想」というほどの論理性も体系性もなく、今の世にはアナクロニズムというしかない代物。天皇教というべき蒙昧な信仰であって、統一教会の原理講論と五十歩百歩のカルトである。
天皇とは、調和のとれた美しい憲法体系中に埋め込まれた、本来あってはならない異物である。体系に馴染みようがない。憲法体系を人体になぞらえば、盲腸か腫瘍にあたると言えよう。憲法体系の調和を撹乱し、これを摘出しない限りは憲法の体系性が完成しないのだ。
憲法は、すべての人の生まれながらの平等を基本原理として体系化されている。しかし、天皇は生まれだけでその地位に就く。人の平等性という原理を破壊する存在なのだ。天皇を貴しとするところから、相対的な賤なる存在が生まれる。その意味で天皇制は差別の根源である。あらゆる差別の廃絶のために、天皇制を廃棄しなければならない。
「軍事大国化」は、富国強兵のスローガンをもって語られた大日本帝国の国是であった。大日本帝国は、「軍事大国化」の大方針を掲げて、台湾・朝鮮・満州へと侵略を重ねた。平然と、他国の領土を「日本の生命線」とうそぶいて恥じなかった。対中戦争の膠着を打開するとして対英米蘭にまで戦争を仕掛けて、壮大な失敗を犯した。日本国憲法はその失敗の教訓から生まれ、徹底した平和主義・国際協調主義を採用した。これを再び戦前に戻してはならない。
ところで、最近の産経社説の中で、最もあからさまに国体思想の臭みを放っているのが、5月1日掲載の「天皇陛下即位5年 重きお務めに感謝したい 伝統守り男系継承を確実に」である。
産経は天皇を、あたかも主権者の如く、またあたかも聖なる存在の如く、崇め奉っている。これは、危険な兆候と言わねばならない。
産経は、「天皇は、憲法第1条で「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」と定める日本の立憲君主の立場である。国と国民の安寧を祈り、さまざまなお務めに励まれてきた陛下に深く感謝申し上げたい」と言う。ことさらに、憲法第1条の後段、「この(象徴たる)地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」を引用から省いての作文が解せない。天皇の地位は、飽くまで主権者である国民の意思にもとづくもので、言うまでもなく天皇制廃絶の憲法改正は可能である。このような政体をことさらに「君主制」という必要はない。
産経社説から伺える右翼の問題意識は、男系男子としての天皇の「正統性」への固執と、血統の断絶に対する恐れとである。つまらぬことではないか。天皇は、人権と民主主義、そして平和と国際協調を調和のとれた体系とする憲法に必然の存在ではない。天皇の血統が途絶えて天皇制がなくなっても、憲法の人権も民主主義も平和主義も、何の影響も受けることはない。当然のことながら、日はまた東から昇り、季節はめぐる。稲も枯れることはなく、鳥もさえずり続けるのだ。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記 改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。」2024.5.4より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=21501
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13694:240505〕
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