オルバン首相(ハンガリー)、EU輪番議長でなにを企む? ―ロシア主導の停戦論はウクライナの降伏停戦
- 2024年 7月 10日
- 時代をみる
- 「リベラル21」オルバンハンガリー盛田常夫
先週、ハンガリーのオルバン首相は2日(火曜)にウクライナを、5日(金曜)にロシアを訪問しました。
一昨年2月のロシアの侵略戦争勃発以後、EU首脳の中で一度もウクライナを訪問しなかったオルバン首相がなぜ今、ウクライナを訪問したのでしょうか。オルバン首相にはウクライナ国民へのシンパシーは一切ありません。それだけでなく、侵略開始以後、ロ シアとプーチンに忖度する姿勢を変えていません。にもかかわらず、なぜ今、ウクライナを訪問したのでしょうか。
オルバン首相は輪番制の議長国就任という機会を利用して、自らの権威の箔付けと、来週に予定されている欧州議会での新たな右派会派の結成のデモンストレーションとして、今回の訪問を実行したと私は考えています。
オルバン首相が提唱する「即時停戦論」は侵略者(ロシア)の行為を容認した上での事実上、ウクライナの降伏停戦です。言葉では自らを「和平派」と呼んでいますが、無内容な侵略容認論以外の何物でもありません。
欧州議会内で孤立したオルバン首相は、今次の欧州議会選挙で右派勢力が伸長したのを契機に、自分と同様な主張を展開する各国の極右勢力と独自の会派を結成し、欧州議会内で影響力を行使することを考えています。新たな右派勢力の結成大会は9日に予定されており、どのような顔ぶれが集まるのか注目されます。
この新たな右派会派の結成に合わせて、ロシア主導の停戦論と歩調を合わせることに、今回のロシア訪問の意図があったと考えるべきでしょう。しかも、先にウクライナを訪問したのは口実のためで、狙いはあくまでロシア訪問です。
ロシアにたいしてウクライナ訪問を事前に伝えながら、ウクライナへはロシア訪問の意図を伝えていないことからも、主たる訪問の狙いがロシアにあったことは明らかです。ロシア側と事前に話し合った上で、今回のオルバン首相のウクライナ訪問とロシア訪問が企てられたと考えるのが自然です。
ロシアとプーチンに肩入れするオルバン首相の行動は、今後、EU内で問題を惹き起こすでしょう。議長国としての信頼喪失につながりかねないスタンドプレーです。議長国としての役割を認めない国が出てきても不思議ではありません。
6月の欧州議会選挙で右派が伸長したのは、明らかに左派系の移民政策の失敗の結果だと私は考えています。難民と移民を区別することなく、すべての不法入国者を「難民」扱いしたために、それぞれの国の社会的安寧と平和が脅かされ、一般の住民が政府に反旗を翻した結果です。
古い観念に憑りつかれた左派が住民の反撃を受けたと考えます。無条件の移民受入れ政策はありえない政策です。欧州の旧左翼はナチスによる民族浄化の亡霊に憑りつかれたまま、自らの社会の安寧と平和に注意を払わなかったことへの、住民の意思表示だと考えるべきでしょう。
旧左派系の低迷は日本だけでなく、欧州でも観察されます。現実を直視しない理想論では国民を説得することはできません。
初出:「リベラル21」2024.07.10より許可を得て転載
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