青山森人の東チモールだより…非正規公務員を解雇するな
- 2024年 7月 17日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
7月の雨
もう乾季に入ったと思ったこの時期、6月下旬から7月初旬にかけて、やけに湿気が高い日々が続きました。あれっ?いま乾季じゃなかったのか。季節外れのジメジメ感を覚えました。そう思っていたら、7月2日、10時10分ごろ、いつものようにベコラからクルフン地区へ続く大通りを歩いていたとき、勢いのやや強いシャワーのような雨が降り出しました。〝シャワー〟という言葉が浮かんだのは、細い雨であったからです。細い雨であるからして、雨宿りは無用、わたしは小さな折りたたみ傘をリュックから取り出し、それをさして歩きました。
湿気がやや高い日とは、曇りの日です。衛星写真からこの雲の出所を推測するに、雨季のように南部のチモール海から流れて来る雲ではなく、チモール島上空にできた雲か、または北部の島嶼地帯から流れて来る雲です。
7月2日の雨の後、湿気は本来の低さに戻りました。そして実にまたすごしやすい涼しさを味わえるようになりました。明け方、わたしの室温が21~22℃に下がることがあり、寝冷えをしないように注意が必要です。
そしてなんと7月15日、夜8時43分ごろ、雨がパラパラパラ~と屋根をやさしくたたく音がし始めました。この日はそれほど湿気が高いとは感じませんでしたが、夕方、空を覆った雲が雨を降らせました。この雨はすぐに止みましたが、7月の半ばに雨とは……これも気候変動の成せる業かでしょうか。
元契約教師のデモ活動、再び逮捕者がでる
それでなくても教師不足に悩まされている教育事情にあるなかで長年にわたり公立学校で教鞭を執ってきた非正規の教師たちを政府・教育省は2023年12月末をもって契約を終了させ、再契約はしない方針を固めました。これにより生徒たちは授業が受けられない科目を抱える羽目になるほど学校では教師不足が悪化してしまいました。馘首された契約教師たちは怒り心頭に発し、今年2月、教育省の建物前で抗議のデモ活動をしたところ、逮捕者が出る事態に発展しました(東チモールだより 第511号)。捕まった元契約教師たちは釈放されましたが、教育問題は今日まで解決を見ないままとなっています。
5月、国会は教育問題の解決案を採決したところ、賛成59、反対0、棄権0、で可決されました。この解決案とは教師の新規募集に元契約教師たちも応募できるという内容で、教育省が契約教師の評価を行うことも義務付けています。ところが教育省は契約を一度切った教師との再契約は規則で禁じられているとして、国会決議案に難色を示しているのです(東チモールだより 第517号)。
教育省は国会が可決した解決案に敬意を示さず頑なに契約教師を切り捨てる姿勢を固執しています。これにたいし元契約教師たちは再び怒り心頭に発し、7月8日(月)から数日間、教育省の門の前でデモ活動を再開したのです。ニュース映像を見るとデモ参加者のなかには、解雇された教師の一人なのでしょう、赤ちゃんを抱いたお母さんの姿もありました。すると前回と同様に、デモは届け出を出していないとか、建物の柵門から100メートル離れた所でないとデモはできない規則に違反しているとかで、警察はデモ参加者のなかから31人を逮捕し拘束したのです。7月9日、野党議員たちは元契約教師が拘束されている留置場を訪れ、警察の行動と教育省の態度を嘆きました。7月11日、拘束された元契約教師全員が釈放されました。
元契約教師の団体代表のアゴスチーニョ=ピント代表は7月11日、(元契約教師たちが夜に釈放されたことにたいし)夜中に釈放するとはまるで動物扱いで不当だ、教育省は教師の人権と尊厳を踏みにじっている、警察は権力や政治によらず平等に国民の安全を守ってほしい、われわれのデモ活動は国に反対するものではなく、国に貢献するものだ、(5月27日に国会で可決した)解決案が実行されないとなれば、われわれは教育省の前で血を流す、と叫びました。
= = = =
『東チモールの声』(2024年7月11日)より。
「警察が元教師31名を捕まえる
PDHJ(正義と人権の擁護機関)、拘束は遺憾」(見出し)
「警察がデモ活動の規則を破ったとして元教師31名を逮捕した。現在もなお24人を拘束している。ディリ警察署のオルランド=ゴメス署長は、教育省へのデモ活動に規則違反があったから元教師を逮捕したと発表した。『教育省建物の柵門近くでデモをしたが、このことが規則違反である』と7月10日ゴメス署長は警察本部で記者団に述べた」。
= = = =
元契約教師を擁護する人権機関
PDHJ(正義と人権の擁護機関)のビルジリオ=ダ=シルバ=グテレス代表は、警察が元契約教師を拘束したのは遺憾である、市民がデモをする権利は憲法で認められている、警察は法と秩序を守る権限を与えられているが、だからといってデモをする公共の空間を閉鎖してデモ参加者を拘束してよいことにはならない、と元契約教師たちを擁護しました(『東チモールの声』、2024年7月11日)。
教育省を擁護する大統領
一方7月12日にモザンビーク・アンゴラ訪問から帰国したジョゼ=ラモス=オルタ大統領は空港での記者会見で元契約教師たちによる教育省前でのデモ活動について言及しました。そのなかで大統領は、教育省は法律に基づいて行動をしているということで教育省を擁護しました。ラモス=オルタ大統領はこういいます――元契約教師たちは教育分野の改善に取り組んでいる教育省の仕事のじゃまをしてはいけない。教育省に時間を与えてほしい。いま実施されている教師募集によって質の良い教育が行われるであろう――と(『東チモールの声』『チモールポスト』、2024年7月15日より)。
これではまるで元契約教師たちは質の良くない先生だったといわんばかりです。長年学校で教えてきて教育現場を支えてきた非正規の先生たちを馘首にして再契約をしないという方針を固めたことから、教師不足に苦しむという教育現場の実態が大統領には見えていないようです。収入も失い尊厳が傷つけられてしまった元契約教師たちの悔しい思いもまったく意に介していないようにも思える発言です。
それに「教育省は法律に基づいて行動をしている」とラモス=オルタ大統領はいいますが、国会で可決された解決案を無視するという教育省の態度は「法律に基づいて行動をしている」と果たして本当にいえるのでしょうか?
政府省庁は与党関係者の就職先
それにしてもなぜそもそも教育省は教師不足を悪化させてまで契約教師たちを馘首にしたのでしょうか。教育省から視線を少し俯瞰させて政府全体を視野に入れて見てみましょう。すると現政権である第九次立憲政府全体像が見えてきます。
『ディアリオ』(2024年7月12日)の論説が現政権の全体像をよく描写しています。この論説によると、現政権は各省庁の契約公務員を解雇して新たな公務員を雇い入れ、解雇された公務員のなかには長年勤務してきた実績のある公務員もいる一方で、新たに雇われた公務員のなかには役立たずの人材がいたりして、現政権の国の機関は与党幹部の就職先になっていて、そして各省庁は公務員で満杯になっているというのです。
つまり現政権下で起こっていることとは、前政権下で契約を結んだ各省庁の非正規公務員をとりあえず解雇して、現政権与党の関係者・支持者に職を与えるべく、新たな契約公務員を多数雇っているということです。その結果、これまで積み重ねられてきた行政の連続性が絶たれてしまい、各省庁それぞれの行政サービスに弊害が生じているということです。特化して弊害が表面化しているのが、医療と教育の分野なのです。
以上のことから推察すると、現政権下の教育省は他の省庁と同じようにまず前政権下で雇われた契約公務員(この場合は教師)をとりあえず解雇ありきから出発したのではないでしょうか。ところが教師にかんしてはそれ相応の能力のあることが必須でありごまかしがきかないので(他の省庁も本当は同様であるのだが)、契約教師の解雇ありきとすべきではなかったのです。契約教師を解雇した結果、予想以上の教師不足となり教育現場で生徒の学習環境が悪化してしまったが、後の祭り。まさか、いくらなんでもそんなことがあるわけがない…とわたし自身、これを書いていてそう思いたいのですが、教師不足に悩む教育現場の実態をよそに教育省がのんびりと教師募集第二弾を実施している現状をみると、あり得ない話ではないと思い直す次第です。
解雇のあとの雇い過ぎ
先述した『ディアリオ』の記事の内容を繰り返すと、現政権の各省庁は与党幹部に職を与えるべく満杯になっているといいます。するとどうでしょう、サンティナ=カルドゾ財務大臣は、「各省庁は公務員の数を減らすように。さもないと公務員給料のための財源は今年12月までもたない」と述べたのです。当然の因果応報です(『チモールポスト』、2024年7月15日)。
= = = =
『チモールポスト』(2024年7月15日)より。
財務大臣による衝撃的な発言。
「公務員を減らせ、給料のお金が十分でない」。
= = = =
給料支払い能力を超えるくらいに大人数の公務員を雇うという後先かまわない現政権の信じられない在り様からしても、契約教師を解雇したら教師不足の問題が予想以上に深刻になってしまったというのはあり得ない話ではないとますますわたしには思えるようになってきました。
シャナナ=グズマン首相とジョゼ=ラモス=オルタ大統領は、これまでにないくらい海外出張の回数が多く、国内にいるときも海外からのお客さんの対応に時間をとられています。また来月「8月30日」は住民投票実施(1999年)の記念行事があり、アントニオ=グテレス国連事務総長がやって来る予定です。そして9月9~11日はローマ教皇が訪問する予定です。ローマ教皇訪問は東チモール最大の行事といってよいでしょう。現政権はいま、一に行事、二に行事、三・四がなくて五に行事、と浮足立っている観があります。外交行事ももちろん大切ですが、シャナナ政権は国民の生活向上のために地に足の着いた国内政策をコツコツと積み重ねてほしいものです。
青山森人の東チモールだより 第518号(2024年7月17日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13802:240717〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。