<9・7板垣雄三講演会in札幌>ご報告
- 2024年 10月 6日
- 時代をみる
- パレスチナ問題松元保昭板垣雄三
「私たちの世界認識は大丈夫か?」とはじまった4時間半もの板垣講演は、パレスチナおよび世界と日本における「抵抗の主体のゆくえ」=抵抗権を再度見直すものとなった。いま世界中の「政治」が、抵抗の主体を見えなくさせる嘘と詐術と偽計・虚構のオンパレードとなっている。たとえば敵視し挑発・介入しながら「守る」という虚構、それを喧伝・扇動する嘘メディアが世界を覆う、500年前、いや欧米1000年の宿痾だ。
広島と長崎の原爆投下記念日の世界認識は、同じ陥穽に嵌っていたし世界全体がアメリカ独立宣言やフランス革命人権宣言、国連憲章さえも見落としているものだった。
今回もっとも力点をおかれたところは、ナチズムとシオニズムの共軛関係である。つまり、持ちつ持たれつの関係であったことはあまり知られていないだけでなく、両者の性格・特質に深く浸潤していることを指摘できる研究者は少ない。人類史を迷走させる根因がパレスチナ問題にあると視る板垣さんは、「ホロコーストの償いのためにユダヤ人国家イスラエルが建国された」と思い込んでいるこの憶説批判から切り込んだ。
厄介者「ヨーロッパ・ユダヤ人」吐き出しの発端となったのは、ロシア・ツァーリズムのポグロムであり、それをもっとも強力に推進したのは1930年代のナチズムであった。当時世界のユダヤ人のあいだでも少数派であったシオニストの最大の助け舟となったのは、ナチ政権とシオニスト組織によるハーヴァラ(移送)協定であった。ナチがユダヤ人を狩り集めシオニスト組織が強健な若者・壮年を選別し(子ども老人障害者はガス室へ)、バルフォア宣言を発した委任統治の英国はビザをどんどん発給し、米国は移住植民者に資金提供する財団に優遇課税するなど、ナチズムとシオニズムの協働をバックアップした。
こうしてパレスチナ移住運動が一挙に促進した。たとえば1938年水晶の夜(クリスタル・ナハト)の大規模なポグロムから、パレスチナ移住の大波が起きた。1919年のパレスチナのユダヤ人人口は9%であったが、1933年ナチ政権獲得を機に急増し、1939年には30%、にふくれあがった。しかも分割決議では、7%の土地しかないユダヤ人に60%の土地を、人口70%のアラブ人には40%の土地を与える、これが真相である。ナチズムなしにはイスラエル国家の誕生はあり得なかった。
不正義の中心は、ホロコーストの償いをパレスチナ人に負わせ「身代わり/スケープゴート(犠牲の山羊)」とした欧米の虚構と偽善にある。その内実は、何世紀にもわたりユダヤ人差別を実行してきたキリスト教ヨーロッパが厄介者ユダヤ人をパレスチナに集結させキリストの再臨が訪れ千年王国を迎えるといったキリスト教シオニズム(英国国教会が生み出した終末論)によって、自らの反ユダヤ主義を許す土台のうえに被差別ユダヤ人の入植シオニズムが確立した。ポグロムとホロコーストを梃子として欧米中東覇権の前哨としてのユダヤ人ゲットー・テロ国家イスラエルが誕生しこれを既成事実として神聖化することになった。欧米の偽善が深刻に反省されることなく、パレスチナ人を犠牲としたユダヤ人の虚構(3000年前の約束の地!)が許され、イスラエルの残忍と残虐が許容されているのである。ここには、「宗教対立/土地争いの民族紛争」など幾重にも重ねられた嘘と問題のそらしが嵌め込まれ、語り手にも読み手にも真の抵抗主体を無きものとする誤魔化しが潜在横行することによって、イスラエル建国はホロコーストの償い・贖いであると君臨して世界の民衆を騙すことになった。これは人類史の改竄ではないか?
板垣さんは46年前に指摘していた。「イスラエルの国家が生まれたのは、欧米社会の反ユダヤ主義に対する反省と克服への努力とが不徹底であったからである。ナチズムの反セム主義をついに徹底して批判しきれなかったところに、イスラエル国家が誕生することになる秘密があった。」(講演資料:岩波『世界』78年7月巻頭言参照)
ところがパレスチナ人の80年にも及ぶ占領・封鎖への抵抗が、米欧イスラエルによって「テロリスト」と指定され(ナクバから76年、ミュンヘン・オリンピックから52年、ハマースから37年、ガザ封鎖から17年)今回丸1年の「イスラエル自衛権」の無差別爆撃によってガザ・西岸では数万人以上の無辜の子どもと女性たちが犠牲となり、いまガザからレバノンへと拡大しイランを引き込む世界戦争の危機に突入している。
語るものも語られるものも、ここにあるのは人間の尊厳さいごの拠り所となる抵抗権の閑却ではないのか。今回、家を破壊されたガザのある男性が簡潔に語っていた。「犬だって足を踏まれたら噛みつくだろう!」これがさいごの自衛の抵抗権ではないか。
日本の場合を考えてみよう。目に見えて抵抗権を隠蔽されているのは沖縄の人々であろう。司法までよってたかって「抵抗の主体」を無きものにしている。無反省な自民党と堕落したマスメディアは、自民党の選挙権も無縁の国民に総裁選の茶番劇を見せつけて恥じない。統一教会にしても裏ガネにしても犯罪ではないのか。43兆円もの軍拡費を米国に貢ぎ議論もなく琉球列島を捨て石にするミサイル基地軍事要塞化、自民党は売国詐欺集団である。詐欺は税金や企業献金のカネもさることながら、国民を誤魔化す政治言説と姦計・偽計そのものが詐欺なのだ。軍事同盟日米安保を拝跪する55年体制から訣別しよう!正義や人権・労働基本権、人間の尊厳と抵抗権が無化されるからだ。
ところで、昨年10・7の直前にネタニヤフはパレスチナ全土を併合した地図を掲げて国連総会で演説した。ガザ全土西岸全土併合、すなわちパレスチナ人がいなくなったユダヤ国家イスラエルという野望こそが、いまレバノンからイラン、そしてグローバルサウスをも巻き込む世界戦争の目指すところではないのか。
老碩学は、すでに4年前の2020年7月、ネタニヤフが予告した「西岸併合宣言」を批判した論考「コロナ禍に幻惑されて“世界の危機”を忘れていないか?」で、出口なしの諸国家共通の悪あがきを指摘し、こう述べている。「いずれも権力の維持・拡張システムの矛盾・危うさ・腐敗を乗り越え、補強し、隠蔽する、という一時しのぎの悪あがきに類するものと言えるだろう。」と述べたあと、「危険なシナリオは、一国であれ、手を結んだ連合であれ、統治の<危機>[現実/仮想現実/空想/何であれ⁆の緊急回避衝動が、[計算づくで、/誤認から、/事故や誤作動から、⁆戦争に転化することである。」と、的確に指摘・警告・予言している。(この論考のURLは講演資料訂正版4ページ参照)
講演後、まもなくレバノンで通信機器爆破の犠牲が報じられた。そこには占領下の家屋破壊・土地強奪から、暗殺・拷問・性的虐待・恒常的集団懲罰・避難者虐殺・無差別爆撃・世界戦争という悪魔の所業を屁とも思わない残忍で傲慢な心性が横たわっていることを今こそ直視すべきだ。他者をhuman animalsと貶め無限に自己正当化する例外主義の傲慢な心性の内面化、これこそナチズムとシオニズムが合体した所産でなくてなんであろう。ペーター・コーヘンや、武力による聖地征服の挙は神への冒涜と考えるヤコブ・ラブキンさんのようなユダヤ教徒でなくとも、世界戦争の新たな悲劇が到来する前にイスラエルの解体を願わずにはいられない。老碩学のコーヘン論文要約を噛みしめたい。核戦争の臭いさえする欧米中心主義の末路において、自らの人類史最後の誠意ある仕事としてほしい。歴史的不正を糺すまで、抵抗は終わらない。
「パレスチナ紛争の本質は民族・宗教紛争などでなく、植民地主義の先住民駆逐・土地略奪であって、問題解決は、欧米が自らの責任において果たす植民国家イスラエルの解体をおいてほかにない。パレスチナ人に正当な権利回復と補償を行い、イスラエルに経済制裁を課し、立ち退く植民者の帰国・移住に補償を与える。私たちは、勇気をもって第2次世界大戦を最終的に終わらせ、イスラエルを賢明なやり方で解体・廃止すべきである。」(講演資料訂正版6~7ページ参照)
ともあれ、94歳にもなろうという板垣先生は、(既存の論考が山ほどお在りなのに)札幌向け「講演資料」を徹夜で仕上げてくださり、パワポも、難しい言葉も使わず淡々と平易な語り口で二つの講演を4時間半にもわたって疲れも見せずに130名の聴衆に語りかけてくださいました。終了後、非常に多くの方々から「じつにわかりやすいお話だった」「学識に裏付けられた話をあんなに分かりやすく話すのは驚きでした」など、たくさんの感想をいただきました。先生、ほんとうに、ありがとうございました。
弾き語りの菊地クン、発言された、とぅなち隆子さん、イム・ピョンテクさん、成田得平さんにもお礼を申し上げます。また、小町谷さんのおかげでオンライン配信もできました(視聴約100名)、ありがとうございます。そして賛同団体のみなさま、個人賛同のみなさま、ご支援ありがとうございました。スタッフのみなさまにもお礼を申し上げます。遅くなってごめんなさい。
2024年9月26日、
パレスチナ連帯・札幌 松元保昭(※講演資料などご希望の方はメールにて)
◆ご参考<板垣雄三先生の札幌講演>(今回6回目)
2002 「対テロ戦争とパレスチナ問題のゆくえ」板垣雄三
2004 「パレスチナと日本をむすぶ心」板垣雄三
2005 第1回「響きあう パレスチナとアイヌ―国境・土地・アイデンティティ―」「パレスチナ問題からみたアイヌ問題―植民地主義をつらぬくもの」、板垣雄三、臼杵陽、大岩川ふたば、小川隆吉、北川しま子
2006 第2回「響きあう パレスチナとアイヌ」、「パレスチナ問題と世界、日本、そして先住民族」板垣雄三、テッサ・モーリス・スズキ、
2017 「去り行かぬ植民地主義、深まるレイシズム、世界の未来を透視する」―パレスチナ、アイヌ、沖縄、在日コリアンが問いかけること―板垣雄三
◆9・7板垣雄三講演会in札幌オンライン視聴ダウンロードリンクURL
https://www.youtube.com/live/RHxhqsYJ93g?si=o992QhtgYO2L0T7i配布資料リンク:
https://drive.google.com/drive/folders/1z32U_p6aajMZdRD5RWbgLrAkrVoV8VwQ?usp=share_link 注意:近々、修正テロップおよび講演資料訂正版の再告知あり。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye5781:241006〕
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