ミャンマー国軍の要衝次々陥落 ―中国の経済権益にも大打撃
- 2024年 10月 25日
- 評論・紹介・意見
- ミャンマー野上俊明
ミャンマーの軍事政権は、来年に実施するとした総選挙のために有権者を確定すべく、この10月1日~15日を国勢調査の期間として、軍と警察に警護されながら調査員が各戸訪問を行なった。ヤンゴンやマンダレーのような大都市でもテロ攻撃が続いて満足のいくような調査はできず、期間を延長して行なうとしている。調査を受ける住民側は、これは選挙人確定のための調査といいつつ、じつは世帯への立ち入り調査をして徴兵適格者をあぶりだしたり、思想動向をとらえたりするのが目的だと知っており、みな内心は非協力的だという。国軍は主要な軍事的・経済的拠点を次から次に奪われており、選挙などにかまけている場合ではないというのが、大方の味方である。本日は抵抗勢力の今月の攻勢の一部をご紹介する。
Ⅰ.北部の要衝・ザガイン管区ピンレブ陥落
地元ポータルサイト「イラワジ」10/17によれば、連合抵抗勢力は10月8日、ザガイン地方の要衝ピンレブ(Pinleb)の町を占領した。周辺の郡区から50以上の反体制団体が参加した共同作戦で、連合抵抗勢力は2022年4月以来、今月初めの5回目の攻撃でついにこの町を占領したという。そして占領後すぐに国民統一政府(NUG)のイーモン国防大臣がピンレブを訪問し、激しい戦闘を闘い抜いた戦士たちの勇気をたたえ、苦労をねぎらった。
ピンレブの戦いで連合抵抗勢力の大半を指揮した国民統一政府(NUG)によると、670回を超える空襲で5000発以上の爆弾が投下されたが、800人近くの国軍将兵が降伏した。国軍側の兵士約70人が死亡、225人が負傷、また、多くの銃器やその他の軍事装備が押収されたという。
ピンレブで国軍の武器と弾薬を大量に押収。イラワジ
以下は、作戦に参加した抵抗軍の将校の話。
――今回の戦闘は8月15日に始まり、陥落まで53日間かかった。敵は弱体化している。徴兵令によって強制的に徴用されたり、徴兵された兵士たちには戦う意思がなかった。強制的に徴兵された兵士たちは、戦闘が始まると戦う勇気もなく降伏した。また食料が尽きて戦うことができなくなり降伏したものもいた。われわれは彼らに医療を提供し、食事を与え、安全な場所で保護した。
国軍は町周辺の村々を焼き払い、甚大な被害を与え、村民を殺害した。かれらの空爆は、町やカウリン周辺の村々も標的にした。民間人が犠牲となった。国軍は、町が陥落した後も数日間、町を空爆した。国軍はピンレブ郡区から駆逐された。われわれは、軍事政権による3年以上の占領を経過した今、町で地雷や不発弾の除去作業を行っている。農村部ではすべてが正常に戻っている。地雷が除去され次第、住民に町に戻ってもらうつもりだ。空襲に備えている。空襲時の安全確保について、人々への教育を行っている。
10月10日現在 黄丸-抵抗勢力制圧、濃緑丸―国軍支配、炎マークー国軍攻撃中 イラワジ
これに対し、国軍も、抵抗勢力の攻勢に反撃の準備を進めているという。
軍事政権ナンバー2のソーウィン副最高司令官は、抵抗勢力がピンレブを制圧した数日後に、北西司令部が拠点を置くザガイン州の州都モンユワ(Monywa)を訪問し、その後ピンレブから64キロの距離にあり、苦戦が伝えられる駐屯地ウンソー(Wuntho)を訪問したという。国軍はこの町を拠点にして、ザガイン北部の失われた領土の奪還を狙った作戦に打って出ると予想されている。
ソーウィン副最高総司令官は、10月15日にウンソーで国軍兵士を激励。/ CINCDS
▼タアン民族解放軍(TNLA)、中国の圧力をはねのけ前進
「ラジオ・フリー・アジア」 10/14 によると、1027作戦の第2ラウンドは、6月に5か月間の停戦が崩壊したときに始まった。それ以来、タアン民族解放軍(TNLA)はシャン州北部のチャウクメ、モンミット、ナウンキオの各町と、マンダレー管区のモコック町を占領した。
2カ月後、タアン民族解放軍(TNLA)はシッポー(Hsipaw)に狙いを定めた。8月12日には町の大半を制圧したが、軍事政権は歩兵キャンプは守り抜いた。10/13、第23歩兵大隊の基地がついにTNLAの手に落ちたと、報道官のルウェイ・ヤイ・ウー氏が語った。
「我々はシッポーを完全に制圧することができた」と、彼女はRFAに語った。「我々のリストによると、捕らえられた兵士は50人以上、軍人の家族は100人以上いるはずだ。我々は家族を解放するつもりだ」と。
既報のように、8月以降、中国は戦闘停止の圧力をミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)とタアン民族解放軍(TNLA)にかけてきた。MNDAAは中国の要求に応えてラショー以南への進軍は停止したようであるが、TNLAは警告を無視して戦闘を継続し、戦果を挙げているのである。シッポー(Hsipaw)は、ラショーを跳び越して戦略的要衝であるピンウールインや古都マンダレーにつながる重要な拠点である。国軍のみならず、中国がどういう出方をするのか、一瞬たりと目の離せない状況になってきている。
▼この10月17日、国民統一政府NUGと連携をとるカレン民族解放軍(KNLA)と人民防衛軍で構成された合同部隊「コブラ隊」は、4月に国軍に奪回されたタイとの重要貿易都市ミャワディを再奪回すべく、ミャワディから14キロのところにある2024年10月17日、カレン州ミャワディ郡レイケイコー村付近にある軍事基地を制圧した。ミャンマー最古の民族武装組織であるKNLAは、カレン民族同盟の軍事部門である。2.1クーデタ以後、ビルマ族の多くの青年たちを国境の根拠地に受け入れ、軍事訓練を施し人民防衛軍として独り立ちするまで協力してきたのである。
イギリスの公共放送チャンネル4の現地ルポルタージュ ロイコー近郊の女子部隊の軍事訓練 YouTube
まだ雰囲気にあどけなさが残る10代の女性たち。私が知る彼女たちの母親にあたる世代は、夜間7時以降は外出もせず、信心深くもきわめて保守的だった。この変化には驚きを禁じえない。2・1クーデタによってまさに人心の地殻変動が起こったのだ。
▼カレン民族解放軍(KNLA)は、10/17にミャンマー・タイ貿易の中心地であり国境の町でもあるミャワディからわずか14キロの距離にある軍事基地を制圧した。ミャワディでは4月にKNLA軍が2週間にわたり占領したが、しかしその後国軍の猛反撃にあって、やむなく退却していた。軍事政権側に寝返ったカレン民族同盟(KNU)の一分派が、抵抗軍の包囲網を突破して国軍を支援したためであった。軍事政権が、ミャワデイを失うことの軍事的・政治的・経済的損失は計り知れない。国軍は兵力を再投入して、なにがなんでもミャワデイを守り抜こうとするであろう。近い将来、戦略的な意味を持つ両軍の衝突は避けられないであろう。
2024年10月17日、カレン州ミャワディ郡レイ・ケイ・コー村付近にあるスウェ・タウ・コーネ軍事基地の制圧で押収した武器を手にポーズをとるカレン民族解放軍(KNLA)の兵士たち。(コブラ・コラム第3支部、Facebook経由)
▼抵抗勢力、中国のレアアース採掘拠点パンワ町落とす
カチン族独立軍(KIA)と人民防衛軍の合同軍は、中国によるレアアース採掘と国境貿易の拠点となっていた国境の町パンワを制圧した。これに伴い、中国はミャンマー北部のパンワとの国境検問所を閉鎖した。10月17日、中国のミャンマー特使である鄧錫軍氏はKIAの指導者らと会談し、国軍に対する攻撃をやめるよう圧力をかけていた。KIAの攻撃は、中国側の意向を無視したことになるので、今後より強硬な制裁措置を加えるかもしれないと観測筋はみている。いずれにせよパンワを失ったことは、国際的な制裁網にあって財政的に苦境に立たされている軍事政権にとって、重要な収入源を失うことを意味だけでなく、中国にとっても膨大な権益の喪失を意味する。
イラワジなどのポータルサイトによると、パンワ郡区は中国貿易、チプウェ・ンゲ水力発電や希土類鉱山プロジェクトの拠点となっている戦略的な重要拠点である。国際的監視団体グローバル・ウィットネスによれば、北西部のパンワとチプウィの町には300以上のレアアース鉱山があるという。
パンワ鉱山のほとんどの鉱山は、この地域の戦闘により閉鎖され、中国人労働者の大半は帰国したというものの、中国税関が発表した統計によると、軍事クーデタから2024年8月までの間に、中国はミャンマーから34億米ドル相当のレアアース鉱物を輸入したという。
2024年6月、ミャンマーのカチン州チプウェイ郡区の希土類鉱山
広大なレットパダウン銅鉱山を眺める鉱山労働者の子供たち。Natural Resource Governance Institute
上の写真を見れば一目瞭然、露天掘りで行なわれるレアアースや銅の開発は、地域の自然環境に甚大な影響を及ぼしている。足尾銅山の過去を思い起こせば理解できると思うが、硫酸などの薬品を使用する精錬作業は、土壌汚染や人体への悪影響を及ばす。ヒスイやルビー原石の採掘もほとんどが露天掘りであり、鉱滓やずりの巨大な堆積はときに大規模崩落で多くの人命を奪うこともある。
カチン州やザガイン州などにある豊富な資源の開発は、中国国営企業と国軍のフロント企業(ミャンマー・エコノミック・ホールディングスなど)とのジョイント・ヴェンチャー方式で行われている。中国にとって国軍と組む利点は、現地の反対運動を弾圧してくれるし、環境への配慮も節約できるところにある。まさに新植民地主義型の搾取・収奪を現地の傀儡的政権を使って可能にしているといっていい。そういう意味では、現下の内戦における抵抗戦争は、対内的な抑圧機構と対外的な搾取機構を打破し、ナショナルな連邦民主国家を樹立するという意義を有しているのである。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13928:241025〕
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