「鉢呂吉雄経済産業相が失言で引責辞任―野田政権に打撃」
- 2011年 9月 11日
- 時代をみる
- 瀬戸栄一経産相辞任
野田佳彦内閣のスタートからわずか1週間。当面最大の課題である東京電力福島第一原発の事故を8日、現地視察した担当閣僚の鉢呂吉雄経済産業相(63)が10日夜、現地などで記者団に語った「奇妙な」失言の責任を取って野田首相に辞表を提出、受理された。滑り出し順調だった野田内閣はたったの1週間ちょっとで大きな打撃を受けた。野田首相はとりあえず後任に藤村修官房長官を兼務させ、10日夜の閣議で手続きを取った。
野党側は野田首相の任命責任を13日からの臨時国会で追及する。野田首相は29日の民主党代表選で勝利した後、党内の融和、挙党体制を最重要視し、特に要の民主党幹事長に小沢一郎元代表に近い輿石東・参院議員会長を起用したのをはじめ、2日の組閣でも小沢氏に近い人物を登用するなど党内バランス、「ノーサイド」人事に腐心した。
自らのイメージについても「どじょう内閣」を自認するなど持ち前の雄弁に加えて野党や党内小沢グループからも「なかなかやるじゃないか」(小沢氏)との前向きの評価を受け、党内安定への布石を巧みに打ってきた。だが、一見バランスが取れていると評価して最重要の経済産業相に起用した鉢呂氏の思いがけない失言には、意表を突かれて打撃を受けた。
▽まず「死のまち」の一撃
最初に表面化したのは8日、野田首相とともに原発周辺地域を視察、9日の記者会見で「残念ながら周辺市町村の市街地は人っ子一人いない「死のまち」だった」と語った。放射能への恐怖や関係自治体からの警告で家に引きこもったままの住民や被災者は「死のまち」という暗い言葉にショックを受け、その気持ちは一層傷ついた。
その言葉を発しているのが原発事故の補償やエネルギー政策見直しを担当する経済産業相とあって、住民の不快感は深刻だった。
この発言について鉢呂氏は、原発事故の深刻さを強調しようとした、などと弁明したが、その前夜に宿舎を取材に訪れた際の奇妙な言動を記者団にとがめられて、逃げられなくなった。
▽そして「放射能うつすぞ」
視察の際の防災服を着たまま、記者の一人に「放射能をうつすぞ」というブラックユーモア(?)を口にしたというのだ。一部報道では「うつしちゃうぞ」と口走ったという。本人はこの時の発言については記憶にないと逃げたままだが、そもそも「放射能うつすぞ」という子どもじみた発言は、とても原発補償担当の閣僚の口から出たとは信じられない。
長らく農業政策を担当してきた鉢呂氏は、放射能についての知識が著しく不足しているのだろう。国会対策の経験を積んできた鉢呂氏は旧社会党出身。北大農学部を卒業して農協職員から国会入りした鉢呂氏については、2日の組閣に当たっても、経済産業相で原発やエネルギー対策の責任者となることへの懸念が各方面から聞こえた。
▽旧社民への配慮優先
しかし、国対委員長当時の口の堅さや真面目そうな性格からみて、経済担当相も十分務まると野田首相は判断したのだろう。鉢呂氏は横路孝弘衆院議長の側近でもあり、横路氏を取り巻く旧社民党グループへの人事上の配慮、さらには横路氏や幹事長に起用した輿石参院議員会長、そして旧社民組と密接な関係にある小沢一郎氏への「融和政策」でもあった。
だが、野田首相は鉢呂氏の経済産業相起用に当たって、まさか首相自らの「福島の再生なくして元気な日本の再生なし」という得意のスローガンを帳消しにするような「死のまち」発言を鉢呂氏が口走るとは、夢にも思わなかったのだろう。
▽軽率発言の噴出
野田首相や鉢呂氏だけが油断しているのではない。この1週間、既に一川保夫防衛相が「シビリアンコントロール素人」発言をし、小宮山洋子厚生労働相が「たばこ700円」発言をぶっ放し、平野博文国対委員長が「不完全内閣」発言をするなど、閣僚と党役員が野田体制の「軽さ」「無責任さ」を次々と口に出しては弁明している。
これらは小物クラスだが、大物の自意識が顔つきにまで出ている前原誠司政調会長は早速訪米し、武器輸出3原則の見直しやPKО参加自衛官の武器使用範囲拡大などをぶち上げた。いずれも民主党内で十分に議論せず、コンセンサスを得ていない大テーマだ。前原氏が肝心の野田首相と十分話し合って了承を得ているとは思えない。
▽予算委で説明を
野田執行部は既に、臨時国会について13日から4日間の開催や予算委員会ゼロの日程で強行突破を図ろうとしている。鉢呂発言や辞任などのハプニングがあったのに、その釈明の機会を閉ざすような国会運営を強行したのでは、せっかくの「野田低姿勢首相」の好感度は帳消しになる。
野田首相は少なくとも衆参の予算委で一連の閣僚発言などについて、野党や国民が納得するような誠意ある国会答弁をするべきだろう。自らの任命責任も率直に認めるべきだ。
外交日程を理由に予算委を素通りすれば、野党側は硬化し、当面最大の課題である2010年度第3次補正予算案の編成―審議―成立がひたすら遅れ、被災者や国民のイライラや怒り、不信を増幅するのは確実だ。(了)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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