アブドラ国王、サウジ女性の運転に理解?
- 2011年 9月 30日
- 評論・紹介・意見
- サウジアラビア女性浅川 修史
男性が妻たちの買い物という苦役から解放される日は来るのか。
サウジアラビア王国は内部ではスンニ派の一派であるワッハーブ派を国教としながら、対外関係では、その安全保障を米国に委ねる多面的な社会である。国内の石油開発や国家の統治では、欧米に留学したテクノクラートを重用しながら、宗教警察が国民や外国人がイスラム法に違反していないか、目を光らしている。このため、サウジアラビアの男性の多くは息抜きのために、木曜日から始まる週末にバーレーンやドバイを訪れる。
宗教警察にも関与する、サウジアラビアのワッハーブ派イスラム法学者は、国家から「給与」をもらっているため、「公務員ウラマー」と揶揄されている。
サウジアラビアの国軍は質、量とも経済力に見合わない貧弱な存在である。
その理由は、しっかりした国軍を形成すると、エジプト、イラク、リビアの経験で明らかなように、革新思想を抱いた青年将校団によって、王制が打倒されるリスクが高まるからである。一方、国王の親衛隊というべき、国家警備隊など国軍に匹敵する軍事組織がある。だが、これらの治安部隊が対外戦争には使えない。
このためイラク軍がクウェートに侵攻し、サウジアラビアに迫った湾岸戦争では、サウジアラビアは「メッカ、メディナ、2聖都の庇護者」という見栄を張らずに、米国にイラク軍追放を委ねた。米軍の駐留さえ許可した。このことがのちにオサマ・ビンラディンの怒りをかうことになり、9・11同時多発テロにつながる。
サウジアラビアはしばしばレンティア国家と呼ばれる。豊富な石油収入を国民に分け与えて、かつ税金を基本的にとらない。重税国家・日本から見れば、なんともうらやましい国家設計だ。ただ、その代償として国民に参政権を与えない。「代表なくして課税なし」が米国独立革命のスローガンだが、サウジアラビアの論理は、「税金をとらないのだから、参政権がなくてもよいだろう」というものだ。
ワッハーブ派原理主義のサウジアラビアでは、男性優位社会である。過激の表現を許してもらえれば、女性は「家畜」と似た地位にある。しかし、家畜に似た地位とは、勝手気ままな虐待を意味しない。たいせつな財産なので丁寧に世話をする。筆者の知る範囲では、アフリカなど新興のイスラム社会を例外として、伝統的なイスラム社会では、女性に対するレイプや虐待は少ない。女性はたいせつに扱う財産(動産)という考えがあるからだと推測する。
しばしば指摘されることだが、イエメンやアフガニスタンなど治安の悪い国で外国人 女性が人質になった場合、レイプされることは少ない。「男性が監禁するのではなく、中高年の女性が、人質の世話をする」ケースが多いという。
反面、サウジアラビアなどイスラム原理主義の強い国では、女性の権利は制限されている。たとえば、夫や家族抜きで単独で、あるいは女性同士で旅行したり、クルマの運転をするなどの行動が禁止されている。顔や体の線を出すことも禁止されている。
外国のビジネスウーマンが単独でサウジアラビアに入国することにも制限がある。夫や家族と一緒という建前(擬態)を使うようだ。
あるサウジアラビア人から興味深い話を聞いたことがある。
筆者 「奥さんが4人までOK。日本の男性にはうらやましい」
サウジ人 「日本人はいつも同じ質問をするので芸がない。複数の妻を持っているサウジ人は成人男性の5%以下。たぶん3%くらいだ。欧米や日本でもそのくらいの割合で、事実上複数の妻を持つ男性はいるだろう。それに愛人が4人でないことに注意してほしい。あなたの妻は何人か」
筆者 「ひとりです」
サウジ人 「ひとりでも大変だろう」
筆者 「はい」
サウジ人 「私は4人の妻がいるが、みんな私に対して団結して行動する。それぞれの妻から尻にひかれる、という情けない状態にある。妻をそれぞれ平等に扱わなければならない。4人の妻たちの買い物だけで1日がつぶれる。私は妻帯者でも自由に女性と交際できる欧米や日本の男性のほうがうらやましい」
1日3、4時間程度働けば立派に暮らせるレンティア国家だからできる芸当だ。
ところが、アラブの春がサウジアラビアの軒先にも押し寄せ、女性の解放を求める動きも強まっている。この荒波をかわすためにアブドラ国王は、女性の運転を容認し、地方の参政権を付与することをアナウンスしている。どこまで本気か疑問だが、いつものサウジアラビアらしい強権と譲歩という硬軟取り混ぜた生き残り作戦である。
たぶん、国王が女性解放に理解を示した言動を取って、時間を稼ぎ、その後「公務員ウラマー」にイスラム法を根拠に反対させることになると思う。
しかし、筆者はサウジアラビアの成人男性が妻のための運転という苦役から解放される日が来ることを期待している。
今度は女性の運転解禁? サウジ国王むち打ち刑取り消し(アサヒコムから)
http://www.asahi.com/international/update/0929/TKY201109290413.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0623 :110930〕
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