民衆デモがついに金融資本主義の総本山へ。格差社会への抗議が広がる①
- 2011年 10月 5日
- 時代をみる
- ウォール・ストリート民衆デモ浅川 修史
NYのウォール・ストリートで「金融資本主義」の強欲さに対する民衆の抗議が続いている。参加している民衆は、それほど多くはないが、どこかアラブの春で繰り広げられた光景をほうふつさせる。クルマ社会の米国では民衆が大量に集まるインフラ(広場、公共交通機関)が少ない。が、こうした障害を越えて、全国に広がる勢いだ。
( http://www.afpbb.com/article/economy/2832637/7871996 より引用開始)
(記事タイトル)NYウォール街デモ、全米に拡大 AFP報道
【10月4日 AFP】米ニューヨークのウォール街で始まった反企業デモが全米各地に広がりをみせている。参加者たちは中東の革命に触発されたと述べているが、その実態は経済的な不平を訴えるスペインなど欧州各地での抗議行動の方に近い。
(引用終了)
米国の現状について、米国を知る人ほど厳しい意見が出る。
「今のアメリカは完全に金融資本主義国家になり下がり、大手金融機関と大企業の経営者だけが多額の報酬を得て、それ以外の一般民衆は霞を食べて生きるような生活を強いられている」注1
大手金融機関は、儲けたとき際は経営者が多額の報酬を受ける。投資で失敗したら、政府=国民にツケを回す。こうした非対称性が民衆の怒りをかきたてる。
「今のアメリカ社会は、贅沢品を買いまくる富裕層と、ウォルマートでしか買い物できない下層とくっきり二分化されてしまい、かつて存在した中産(ミドルクラス)がきれいさっぱり消えてしまっている。とんでもない格差社会なのだ」 注2
注1、注2 増田悦佐著『それでも「日本は死なない」これだけの理由』(講談社 2011年)
米国の貧困層について日経オンライン10月3日号が報道している。
(http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110929/222898/?rt=nocnt より引用開始)
(タイトル)貧困層のフードスタンプに群がる米国外食産業 景気後退の足音に身構える 米国民
米国では家計所得の低下から、2010年の貧困率が17年ぶりの高水準に達した。景気低迷の影響が長引き、失業率も9%台と高止まりしたまま厳しい台所事情を抱える米国民。そんななか、教育費や医療費は軒並み上昇を続けており、米国民は今後一層厳しいやりくりを強いられそうだ。
9月13日に米国国勢調査局が発表した数字は、米国民に衝撃を与えた。2010年時点で連邦政府が定める貧困ライン(4人家族で所得が2万2314ドル以下、1ドル77円計算で約170万円)を下回る生活を送る人の割合は09年から0.8ポイント増加し、15.1%になった。これは93年以来、最悪の数字となる。貧困層に属する人は、前年の4360万人から4620万人へと増加しており、52年間に渡る統計調査の歴史で過去最多数となった。景気低迷が長引くなかで、中間層が貧困層へと没落していく事実を突きつけられたかたちだ。
(引用終了)
FRBの量的金融緩和政策は、国内の金融市場を持ち上げ、新興国にバブル、資源価格高騰をもたらしたが、肝心の米国の景気浮揚にはさほど成功せずに、雇用環境は悪化したまま。このため生活保護の一形態であるフードスタンプの受給者が、下記のグラフのように2010年10月現在で4300万人と人口の14%を占めるようになった。
米国でこれまであまり貧困層の政治的、経済的不満が出なかった。理由を筆者なりに考えると、
① 政府が気前よく配るフードスタンプの存在と日本より安い食料品価格により、飢えで苦しむ社会ではないこと。反対に野菜や果物を買えず、安価で高カロリーのジャンク・フードばかり食べるので、「貧困の中の肥満」に苦しんでいる。
② 富裕層と貧困層が都市でも郊外でも所得に応じて見事に住み分けしており、お互いに相手の生活を知らないので、憐憫も不満も起きにくいこと。特に富裕層は、国内の貧困をテレビでしか見ない。日本人がアフリカの貧困を見るのと似たイメージがある。
③ 貧困層はキリスト教に慰めを得て、金融資本主義など米国のイデオロギーを信じていること。機会平等を掲げるアメリカン・ドリームへの信仰も大きい。
などがあげられる。だが、米国経済の低迷が続き、失業率が高まり、貧困層が増えるにつれて、ついに「閾値」を超えて(=限度を超えて)、金融資本主義が敵であるという認識が広がり、マンハッタンにおける抗議活動につながった。米国社会ではかつてない出来事である。
今回の民衆デモは。かつての公民権運動やベトナム反戦運動とは様相が異なり、金融資本主義を標的にして、経済的格差の是正を求めている。参加者もマイノリティだけではなく、白人が多い。
次回はこの運動をどう評価すればいいのか、日本の経験も踏まえて考えてみたい。
(以下 次回に続く)
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