協同組合憲章草案にパブリックコメントを -協同組合年全国実行委が呼びかけ-
- 2011年 10月 23日
- 評論・紹介・意見
- 国際協同組合年岩垂 弘
2012年は、国連が定めた「国際協同組合年」。経済システムの一つである協同組合をもっと発展させるために世界中の人々が一年間かけて協同組合に対する理解を深め、協同組合を成長させるためにこぞって努力しようという趣旨で設けられた国際年である。わが国でも、これに向けてさまざま活動が始まっているが、すべての協同組合関係者らからなる「2012国際協同組合年全国実行委員会」が、政府に「協同組合憲章」を制定させようと、その草案をまとめ、国民から広くコメントを求めている。
国連が推進する国際年とは、世界各国が共通してかかえる特定のテーマに国際社会が一年間を通して集中的に取り組む企画。最初の国際年は1957年の「国際地球観測年」だったが、1975年の「国際婦人年」を契機にこの企画が日本でも一般に知られるようになった。そのテーマに協同組合が選ばれたのは初めてで、2008年暮れの国連総会で決議された。
世界には農業、漁業、林業、信用、保険、保健、住宅、旅行、消費、労働などあらゆる分野の協同組合があり、それらは国際協同組合同盟(ICA)に結集している。現在、93カ国、249の協同組合全国組織が加盟しており、その傘下の組合員は10億人を超える。その家族やそこで働く人たちを加えると協同組合に関係する人は約30億といわれ、世界人口の約半数を占める。
ICAは、国連の経済社会理事会から諮問機関の地位を与えられているNGO(非政府組織)の一つだが、そこでは、WFTU(世界労連)、ICC(国際商業会議所)などと並ぶ最古参にして最大規模の国際NGOだ。
国際協同組合年に関する国連決議は、以下の3つの目標に向けて国連、各国政府、協同組合関係者が活動するよう奨励している。
① 協同組合の認知度の向上
② 協同組合の成長の促進
③ 適切な協同組合政策の確立
国際協同組合年が設定された背景には、ICAによる長年にわたる働きかけが奏功したということもあるが、国連が、経済社会開発や世界の食料問題、雇用問題、環境問題などで協同組合がこれまで果たしてきた役割、それに加えて、リーマン・ショックを契機とする世界的な経済危機で協同組合がその影響を最小限に抑え、私企業に比べて安定的な経済システムであることを示したことを高く評価したためだ。
つまり、不況に悩む世界経済を再生させるためには協同組合という経済システムがきわめて有用なものであるとして注目し、その活動に期待をかけるに至ったとみていいようだ。
こうした国連決議に呼応して、日本では、昨年8月、「2012国際協同組合年全国実行委員会」が東京で発足した。発足にあたって中心的な役割を果たしたのは、日本協同組合連絡協議会(JJC)である。 これは、ICAに加盟している13の協同組合組織で構成されている。全国農業協同組合中央会、全国農業協同組合連合会、全国共済農業組合連合会、農林中央金庫、家の光協会、日本農業新聞、日本生活協同組合連合会、全国漁業組合連合会、全国森林組合連合会、全国労働者共済生活協同組合連合会、日本労働者協同組合連合会、全国大学生活協同組合連合会、全国労働金庫協会だ。これら組織の傘下の組合員は延べ9800万人、職員は57万人という陣容だ。
全国実行委の委員は100人。これら組織の代表のほか、協同組合研究者、文化人、マスメディア関係者らが名を連ねる。代表は経済評論家の内橋克人氏。
実行委では「国際協同組合年を単なるイベント開催だけで終わらせず、意義あるものにするために、政府に協同組合憲章を制定させよう」という提案があり、満場一致で了承された。
協同組合関係者の間では、これまで長期にわたって検討されてきた懸案事項がある。統一協同組合法ともいうべき法律を政府につくらせようという悲願だ。協同組合関係者によれば、諸外国の大半は、統一協同組合法をもち、協同組合に対しては統一的な施策がなされている。ところが、日本では各種の協同組合ごとに法律があり、政府側の対応も各省庁ごとのバラバラ対応だ。このため、日本では協同組合に対しては包括的な政策がなく、このことが協同組合の発展を阻んできたという。
そこで、協同組合陣営としては、統一協同組合法の制定を政府に求めたいのだが、政府や政界の現状からして当面は無理とみて、統一協同組合法制定の一歩手前の措置として協同組合憲章の制定を政府に迫ることになったのだという。これだと、閣議決定ですむ。
協同組合関係者が一つのモデルとしているのが、昨年6月に閣議決定された「中小企業憲章」だ。中小企業関係者による数年かがりの制定運動で実現した憲章で、中小企業の位置づけ、役割、政府が進める中小企業政策の行動指針などが明らかにされている。
全国実行委の下に今年1月、協同組合関係者、研究者らを委員とする「協同組合憲章検討委員会」(委員長、富沢賢治・聖学院大学大学院教授)が設置され、憲章にどんな内容を盛り込むかを検討してきた。6月末の委員会で草案の第1案がまとまった。
それは、「前文」「基本理念」「政府の協同組合政策の基本原則」「政府の協同組合政策の行動指針」「むすび」の5項目からなり、協同組合とはどういうものか、その歴史と現状、これからの協同組合はどうあもべきか、日本の政府が守るべき原則、政府が行うべき政策の中身が明らかにされている。いわば、前半は協同組合自身による宣言、後半は協同組合から政府への要請とも言える内容となっている。
この憲章草案第1次案は7月の実行委幹事会で承認され、実行委のホームページで公表された。実行委はこれについて各協同組合組織に討議を呼びかけ、併せて国民にパブリックコメントを求めている。締め切りは10月末。実行委は国民から寄せられた意見を加えて年末までに憲章の最終案を確定し、政府に提出するというスケジュールを描いている。
実行委のホームページには、ネットに「2012国際協同組合年全国実行委員会」と入力し検索すれば入れる。
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