朝日新聞よ さらば! ―知的アクセサリーへの訣別―
- 2011年 11月 10日
- 評論・紹介・意見
- 半澤健市原発報道朝日新聞
《「朝日」をやめた三つの契機》
50年間購読した『朝日新聞』をやめた。
以下にその経過を書く。お前の購読紙の変更に何ほどの意味があるのか。読者はそう思うであろう。しかし私にとってそれは、結構、重大な「決断」だったのである。読者にも考えて欲しいのである。
「朝日」だけが嫌いでやめたわけではない。かつては『日本経済新聞』も取っていた。全国紙はドングリの背比べである。後期高齢者ともなれば、新聞報道が如何に「上っ面」なのかはよく知っている。それならなぜここでやめるか。
「リベラル21」に、07年秋からものを書くようになった。その資料集めの経験から、新聞の「薄っぺらさ」を痛感していた。そういう背景のなかでやめるに至る契機は次の三つである。
第一に、船橋洋一主筆の言説
第二に、11年元旦社説
第三に、9・19反原発デモの報道
これらに対する失望感である。
《日米同盟擁護と経団連広報部》
ある読書会で船橋洋一の『新世界―国々の興亡』(朝日新書、10年9月刊)をテキストにした。世界の政治経済の第一線にいる識者・指導者・実務家11名とのインタビュー本である。船橋の近未来論も載っている。豊かな国際経験、博覧強記から発せられる質問と応答で構成されたグローバリゼーションの物語である。しかし船橋の結論は、19世紀的な「勢力均衡」論に基づく「日米同盟」擁護論であった。米国の主要な関心は中国と新興国であり、中国の主要な関心は米国と新興国という時代。我々の運命はアジアとの平和共存に大きく依存する時代に、「日米同盟は公共財」という人物が朝日の論調をリードしている。これはダメだと私は思った。(船橋は10年12月に朝日新聞社を退職)
2011年元旦の社説で、朝日は「あれもこれもは望めない。税制と社会保障の一体改革、それに自由貿易を進める環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加。この二つを進められるかどうか。日本の命運はその点にかかっている」と書いた。これは米倉経団連会長が、年頭課題は「税財政と社会保障制度の一体改革」と「世界貿易自由化の波に乗り遅れない」ことだと述べたのと同じである。これでは経団連広報部である。もっとも、かつて「商業(ブルジョア)新聞」は学生、労働者の言葉であった。だから私は「ブルジョア新聞の論調は極めて健康」(「リベラル21」11年1月3日)と書いたのである。
《脱原発運動に鈍感な新聞》
大震災が来た。「朝日新聞よ さらば!」へのダメ押しになったのが9月19日の反原発集会の報道である。『週刊金曜日』(11年10月14日号)の本多勝一の連載記事と私自身の測定による各紙の集会報道記事の面積は次の通りである。いずれも9月20日朝刊で数字の単位は平方センチ。
① 東京 2154(46.4、正方形換算時の一辺の長さをセンチで表す)
② 毎日 437(20.9)
③ 朝日 194(13.9)
④ 産経 56( 7.4)
⑤ 読売 52( 7.2)
⑥ 日経 40( 6.3)
面積比較は有用かという指摘があろう。ところが実感では質の差の方が大きいのである。
『朝日』が特にダメなのは写真である。望遠レンズによる地上写真で、デモ参加者の多いことがわからない。『東京』、『毎日』の空中写真の迫力に完全に見劣りする。
《「朝日」を読まなくても痛痒はない》
私は今まで日本の新聞記事から何を得てきただろうか。
それは世の中に何が起こっているか。世の中の人は何に関心をもっているか。そのキーワードは何か。その程度のことだったと思う。「日経」を朝一番の必読材料と考えていた時期もあった。それも相場情報の早読み以上のものではなかった。
今やインターネットを注意深く見れば何でもわかる。逆に全国紙や地上波では何が起こっているかが分からない。11年9月19日の反原発デモの映像は、大江健三郎ほかの主要な発言者の言葉を45分かけてカットなしに収録している。会場の雰囲気もよく伝わる。同日NHK午後7時のニュースはこの集会を無視し「ニュースウォッチ9」で62秒だけ挿入した。国内メディアだけではない。メルケル独首相の発言も『シュピーゲル』誌の英語版で読めるし、韓国の韓米FTA批准反対のデモも見ることができる。「ウォール街を占拠せよ」運動はマンハッタンからナマで中継している。凡そ世界の公開情報に我々はリアルタイムにアクセスできるのである。
《朝日新聞よ さらば!》
今思えば、「朝日」は知的アクセサリー以上のものではなかった。これが五十年間読者であった人間の結論である。ソーシァル・メディア時代の到来でその意味もなくなった。淋しく残念な結論である。しかしこの淋しさに共感する読者は多いだろう。
かくして私は小声で呟く。「朝日新聞よ さらば!」。
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〔opinion0679 :111110〕
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