政府広報紙と化した大手メディア TPP、沖縄、BSEでの太鼓持ち報道は目に余る
- 2011年 11月 11日
- 時代をみる
- TPP大野和興
野田政権がTPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加に前のめりだ。それにつれて、マスメディアもまたいつものように「このままでは日本は世界から乗り遅れる」と太鼓をたたいて政府の応援団を買って出ている。野田首相の意向は、11月中旬にアメリカ。ホノルルで開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議でTPP参加を表明することにある。
9月22日にオバマ米大統領と会談したさい、首相は大統領から「普天間で結果を出せ」、「米国産牛肉の輸入規制を緩和しろ」「TPPはやる気があるのか」と詰め寄られた。日本の首相はかしこまって「一生懸命やります」といった意味のことを応えている映像が、テレビを通して国民に流れた。ここから事態は急速に動く。
この動きに早速呼応したのは、かねがね日米同盟重視の読売新聞であった。同紙9月23日の社説は「同盟深化へ『結果』を出す時だ」と煽り、「11月(APECホノルル会議が日本参加決断の期限」と尻をたたいた。この読売社説を皮切りに、朝日、毎日、東京など大手各紙も、TPP推進で足並みをそろえる。
日本の新聞、テレビは原発報道でさんざんミソをつけた。事故当初、事実をできるだけ隠そうとした政府や東京電力の意向にそうがごとく、大手メディアは大本営発表をし続け、読者や視聴者の不信を買った。TPP報道についても、同じような状況がみえる。TPPをしゃにむに進めようとする政府や経済界の主張への批判が全くといってよいほどないだ。むしろキャンペーン役を果たしているといってよい。原発報道に続きTPP報道でも、権力への批判を失ったメディアの現実が浮かび上がる。
その典型が10月16日の朝日新聞である。この日の同紙は「TPP論議大局的視点を忘れるな」という社説を掲げた。社説がいう「大局的視点」とは次の二つだ。一つは農業界だけでなく医師会のTPPに強く反対しているのを受け、「反対派が唱える『国民の生活を守る』という大義名分の陰に、関連業界の既得権益を守る狙いがないか、見極めることが重要」ということ。もう一つは「国際経済の中で日本が置かれた状況という大局的な視点を忘れてはなるまい」ということをあげる。いかにも朝日らしい上から目線の物言いだが、いいたいことは「日本がもたつく間にも世界は動いている。自動車や電気といった日本の主力産業出ライバルとなった韓国が典型だ」ということだ。
この朝日新聞がいう「大局的視点」とは次のよう翻訳できる。
「自動車や電気など主力産業が世界で生き残るためには国民の暮らしはどうなってもよい、国民の暮らしの視点からTPPを批判するのは業界の既得権益にすぎない」
本当にそうなのか。人々のくらしやいのちを支える「食の安全」を例にみていく。一番わかりやすいのは米国からの輸入牛肉に関する規制である。日本はBSE(牛海綿状脳症)に侵された牛肉が輸入されることを防ぐために月齢20ヶ月以下の若牛に限って米国産牛肉の輸入を認めている。米国はかねがねこの措置に不満を表明しており、前回の野田・オバマ会談でも日米間に横たわる重要課題として取り上げられた、というよりオバマ大統領が強く規制撤廃を要求した。その会談で野田首相は20ヶ月以下を30ヶ月以下にゆるめる密約をしたのではないかともいわれている。
オバマの脅かしはすぐ成果となってあらわれた。読売新聞10月16日号は一面トップで「米産牛輸入制限緩和へ」という記事を掲載した。「食の安全」のために自民と政権時代も守ってきた輸入規制を野田民主党政権は対米配慮と自動車・電気産業の輸出拡大のためにあっさりと捨て去る選択をしたのである。
この日の読売新聞には、この緩和措置が実施された場合、BSE肉の侵入は防げるのかどうかという人々の安全と健康に関わる記述はいっさいなく、20ヶ月をいう規制を緩和することがいかに大事かという記述に終始していた。
その読売新聞10月18日号は政府が民主党の「経済連携プロジェクトチーム」に出した、TPPに参加したら日本にどんな影響があるかという資料を事細かく報道した。TPP推進にやっきの政府が出す文書だから一方的にメリットを強調したものであり、「中小企業が輸出しやすくなる」「他国の公共事業への参入が容易に」「新興国でのビジネス環境整備を促せる」といった記述が目立つ。物事には裏表がある。これらはすべて国内に跳ね返ってくることでもあるのだが、それにはほとんどふれられていない。日本の新聞はいつの間にか政府発行の広報紙と変わらなくなってしまった。
日刊ベリタ(2011年11月09日)より、著者の許可を得て転載
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