「民主、出足は不調―菅首相、選挙後の新たな連立を模索」
- 2010年 6月 27日
- 時代をみる
- 瀬戸栄一
第22回参院選は6月24日の公示で正式の選挙戦がスタートを切ったが、各社の序盤情勢をめぐる世論調査で与党民主党が「予想外に」伸び悩んでいることが分かった。
鳩山由紀夫前政権から8日にバトンを引き継ぎ、どん底まで落ちた民主党内閣支持率をV字型に回復させた菅直人首相は、野党側の会期延長要求を振り切って強引に通常国会を16日(憲法の規定通りの150日間)で閉幕し、翌17日に選挙目前のタブーとされてきた消費税引き上げを参院選の争点に掲げた。まさに意表を突く奇襲作戦に出た。
ところが、24日の参院選公示から3日間にわたって実施された共同通信の全国世論調査では、民主党の滑り出しは不調で、国民新党だけとの連立では与党の過半数確保がおぼつかない情勢であることが浮き彫りとなった。
もちろん、選挙戦の序盤情勢だから、あと2週間の全国各地でのてこ入れによっては、民主党が政権交代を実現させた昨年夏までのような盛り上がりは無理だとしても、情勢を有利な方向に変えることは不可能とは言えない。しかし、参院選の選挙戦は公示よりもはるか前から実質的に始まっていたことを考慮に入れるなら、「序盤情勢」は必ずしもスタート時点ではなく、7月11日投開票までの今後の選挙情勢そのものとさえ判断できるのだ。
有権者の意識変化によっては、あと2週間に民主党を取り巻く選挙情勢は逆に、さらに悪い方向に変化する恐れさえ否定できない。
▽民主、比例で伸び悩む
全国の有権者約3万人を対象に共同通信社が24~26日の3日間、電話による世論調査を実施し、取材も加味して探った序盤情勢によれば、民主党は50議席台には乗せるものの、国民新党を加えた連立与党として過半数の56議席獲得は微妙であることが判明した。今回は選挙の対象にならない非改選66議席(与党系無所属1人を含む)と合わせて過半数の122議席に届かない恐れがあるからだ。
取材分を除いたナマの世論調査だけの数字を見ても、民主党は52(プラスマイナス5)で、非改選の62議席と合わせて最大限でも57議席にしかならず、単独過半数122に達するには3議席も不足している。
このうち、選挙区は35(プラスマイナス4)、比例代表が17(プラスマイナス1)で、特に比例代表は過去の2004年参院選の19議席、2007年の20議席を下回り、頭打ち現象を示している。
▽定数1人区で互角の勝負
これに対し、自民党は全国で29ある定数1人区で善戦しており、ナマの世論調査では34(プラス4マイナス5)で、ほとんど民主党と互角の勝負に持ち込んでいる。
香川と沖縄を除く、定数1人の27選挙区で、民主党は岩手、奈良、徳島、高知などで優位に立ち、自民党は和歌山、佐賀、宮崎などで優勢。そのほかでは両党が激しく競り合っている。
さらに12ある定数2人区では、民主が小沢一郎前幹事長の方針で議席の独占を狙い原則2人を公認したが、いずれも自民党と1議席ずつ分け合う状況だ。民主の共倒れはほぼ回避できそうだが、2議席独占は無理と見られる。
▽比例は自民が苦戦
ただし、自民党は比例代表では最近の不振が続き、12議席前後(プラスマイナス1)にとどまり、参院選に比例代表制が導入された1998年と2007年の14議席をさらに下回る数字が出た。
選挙区のうち、全国に5ある定数3人区と同5人区の東京では、民主、自由両党がそれぞれ1議席ずつを固めており、民主党にとって明るい材料として、東京と神奈川で2議席目も民主が優位に立つ。
▽「みんな」だけは善戦
公明、共産、社民3党は伸び悩んでおり、公明が9(プラス1マイナス2)、共産が3(プラス2マイナス1)、社民2(マイナス1)などと、非改選の公明10、共産3、社民2とほとんど同じ議席数しか得られそうにない。
ところが昨年の衆院選からスタートした「みんなの党」だけは、7(プラス3マイナス2)で、この政党がほぼゼロからのスタートの参院選で最大限10議席をもうかがう勢いであるため、その分を他の新党や民主党が奪われる可能性を示している。
あとは与党・国民新が1またはゼロにとどまり、非改選の3議席だけが民主を助けるかたちとなっており、選挙公示までの「連立与党」にとって、民主が単独で選挙戦に臨んだのと変わらない姿だ。参院選が近づいてから結成された新党改革1、たちあがれ日本ゼロ(プラス1)など、極めて不振である。
▽再可決の手立て見当たらず
こうした世論調査の結果は朝日新聞などともほぼ共通しており、主要国(G8)サミット出席のためカナダ滞在中の菅直人首相は衝撃を隠せなかった。
菅首相はトロントでの同行記者団との懇談で、7月11日の参院選で与党が過半数割れした場合について「政権運営がなかなか難しい状況になる。他党といろいろな形で話し合うことが必要だ」と述べた。これは「新たな連立を含めた対応」を模索する考えを示した、とも受け取れる発言だ。
自民党が衆院で300議席超を持ちながら参院選大敗で生じた「ねじれ国会」では、衆院で可決した法案が参院で否決されても、再び衆院に戻して公明党を加えた与党3分の2以上の賛成で再可決・成立させることができた。
ところが、衆院で310議席を持つ民主党の連立相手はわずか3議席しかない国民新党だけで、3分の2の「320」に足りない。同じ「ねじれ」でも再可決の手段がない連立政権なのである。
▽消費税は早い段階で議論開始
菅首相はこの懇談で「勝敗ラインは現有54議席をいかに超えていけるか。人事を尽くして天命を待つ」と述べたほか「消費税を含む税制の抜本改革に関する超党派の議論(菅首相が提唱)は、参院選が終わった段階で提起し、早い段階で議論を始めたい」と強調した。
さらに「財政再建は公務員や地方分権の制度論にも踏み込む」とも語った。
消費税の議論は、「大連立」的な発想で消費税の議論に入り財政再建の道を探り、政策別の「部分連合」を模索する考えから出たと見られる。公務員や地方分権の制度論のほうは、唯一、議席を伸ばすであろう「みんなの党」への連立呼びかけと見られる。(了)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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