「原子力の平和利用の夢」から醒めて世界の「核廃絶の運動」の先頭へ!
- 2011年 12月 2日
- 時代をみる
- 加藤哲郎原子力原発
2011.12.1 日本沈没がとまりません。世界全体でも、アメリカ経済もヨーロッパ金融危機も中東革命も出口は見えませんが、日本の場合は、政治の機能不全が深刻です。海外から見れば、ますますそうでしょう。今週の英語での日本関係ニュース・ポータル News on Japan の見出し、とても恥ずかしくて日本語にはできません。そのまま列挙。”Japan defence official sacked for Okinawa ‘rape’ slur”,”Radioactive cesium hotspot detected near Tokyo“、”Japan Olympic judo champ fired for sex harassment”、”Yakuza end up with 35 million yen in disaster aid”、”Japan ‘gangster son’ Toru Hashimoto wins Osaka ballot”、”Japan’s Unsustainable Debt Burden: Playing With Fire”、”Ex-Tokyo Performance Doll member Chizuru Tanaka arrested for stimulant drug use”、”More cesium found in rice harvested in Fukushima in Japan“、”Japan to apologise to female NZ war prisoner”ーー原発・放射能関係のニュースも交じって、とうてい日本が「安全な国」には見えないでしょう。防衛省沖縄防衛局長のオキナワ・レイプ暴言は特に深刻、沖縄県民へ、日本国民へ、世界の全女性に、民主党内閣は、どう責任を取るのでしょうか。国会で消費税増税論議がされている時に、ウェブ上には、「ふざけるな!玄葉外相 日帰り訪中に飛行機チャーター代1200万円」のニュースも。政治資金報告書では、民主党の収入が初めて自民党を上回り、電力会社が、役員の個人献金や労働組合の献金として、3年間で少なくとも4億8000万円を政界に。そのうち1億2000万円は電力系労組から民主党へ流れたとか。これ、Wall Street Journalの記事です。
こんな国の政府が、高速増殖炉「もんじゅ」を含む原発再稼働と、ヨルダン、ベトナムなどへの原発輸出再開に、踏み出そうとしています。事故から8か月たっての、東京電力の新たな発表。「1号機燃料85%超落下」、1号機は「相当量」、2、3号機は一部の溶融燃料が原子炉圧力容器から格納容器に落下したと推定。床面のコンクリートを1号機では最大65センチ浸食した可能性があるが、いずれも格納容器内にとどまっており、注水で冷却されている、とするもの。恐ろしいことです。核燃料の所在はまだ把握されておらず、人類にとって未知の領域を手探りで、いや手探りさえできずに、とりあえず地底に追いやり、地下水脈を汚染し、チャイナ・シンドロームの方へと流し込もうとしているのです。東京電力他電力会社から多額の寄付を受け、多くの「原子力村」関係者をうみだしてきた東京大学が、ようやくフクシマ原発事故を反省する「原子力工学の再考」シンポジウムを開きました。日本原子力学会会長が「教育者はどうあるべきでしょうか」と評論家・柳田邦男さんに質問したとか。まずは「何を教育してきたか」を、自省すべきでしょう。
日本の科学史研究を率いてきた、伊東俊太郎・東大名誉教授が、目立たぬかたちで、「『原発』よ、さらば」を、岩波書店のPR誌『図書』12月号巻頭言に書いています。「原発が放射性(廃棄)物質を出し続けること」の科学史的意味を問い、「いま日本は、(核兵器を含めた)核廃絶運動で、世界の先頭に立つべきである」と提言しています。同じく「科学」を標榜しても、かつてチェルノブイリ事故3年後に、故高木仁三郎さんら「脱原発派」を「『脱原発』派は、現在の原発が危険だということから、将来にわたって原子力の平和利用を認めないことを原則的な立場にしています。……脱原発派は、核と人類は共存できない、原発はなくす以外にはない、ということを主張しています。われわれは、原子力の発展は人類の英知の所産だという立場です。人類は失敗を繰り返しながら、科学・技術を発展させてきました。同様にして、将来もまた、発展していくだろう、というのが、われわれの哲学、弁証法的唯物論の立場です」と批判し、「科学の進歩によって、必ず死の灰を無害にする技術か、再利用するなどの技術を、人類は見つけるに違いない」「放射性廃棄物をロケットに積んで太陽にぶちこむという方法もある」と夢見て(『月刊学習』1989年4月号)非核運動を分裂させ、いまなお「原子力の平和利用の夢」を「将来、2、3世紀後、新しい知見が出るかもしれない」(毎日新聞8月25日)と信じ続ける「科学的社会主義」を自負する政党よりは、はるかにいさぎよいものです。
こうした「原子力の平和利用の夢」の日本におけるルーツを、ようやくつきとめました。ちょうどコミンテルン日本支部=日本共産党が生まれる大正後期、1920年8月号のモダニズム雑誌『新青年』に掲載された、岩下孤舟「世界の最大秘密」でした。ウェブ上では、作者名がなく、『新青年』1巻7号と紹介されていましたが、図書館で調べると、7号ではなく8号でした。「引用恐るべし」で、私の10月早稲田大学20世紀メディア研究所公開研究会報告「占領下日本の『原子力』イメージーーヒロシマからフクシマへの助走」も7号としていましたが、ここに訂正しておきます。でも内容紹介は、ほぼ正確でした。「将に開かれんとする世界の最大秘密の扉」「原子力(アトムりょく)の本源と性質、蒸気力よりは何百倍」「日本に居て米国の市街を灰燼に帰せしめる力」「原子爆弾の威力は堂々たる大艦隊も木端微塵」「戦争と貧乏は無くなり、気候は随意に変化さる」「変らないものは恋愛だけ、疾病は駆逐され生命は延びる」と展開します。曰く、英国バーミンガム大学のアーネスト・ラザフオード教授は、「原子を分解する事に成功した。で、この事は、他の学者の最近の発見と相俟つて、或る『力(フォース)』を解放するに至つた。そして人間を殆ど神様と同様の物にするか、それとも人類文明なるものを粉微塵に破壊して終ふかも、実にこの『力』の掌中に握られてゐるのである。若し仮にこの『力』が実現されたら現代社会の最大難物である労働問題などは忽ちに解決され、万人は悉く労働の苦痛から解放される。色んな税金なども不必要になる。泥棒や巡査はいなくなる。汽車も汽船もなくなる。戦争や疾病も無くなり、人間はもっと長命するやうになる」「『力』の偉大さは、実に驚くべきもので、一オンスの物質の中には、英国の艦隊を海底から世界最高の山頂まで持ち上げる『力』が含まれている」「恰も今日無電が大洋を越える事が出来るやうに、吾々は原子力を放つて、この大地を透過させ、地球の反対の面、例へば日本から云へば亜米利加の一市街を灰燼に帰せしめるやうな事が出来やう」「これが有益に使用された暁には、人類を塗炭の苦しみに陥るゝ彼の戦争なるものは、永久に不可能のものとなるに相違ない。何となればこの原子爆弾の威力に対しては、如何なる強国と雖も対抗できぬからである」。だからこそ、「夢」にも通じる。「原子力利用の専門家は、『原子的家庭(アトミックホーム)』と称してゐるが、そこでは鉄瓶の湯も、凡て原子力で沸かされる。主人や奥様の着物も亦、その力を借りて洗濯する。だから若しさうしたいと思つたら、毎日下着を代へる事が出来る。そこには雇人の問題などはない。何故なら、ボタンを一つ押しさえすれば、真空器か又は掃除機が自ら動いて、室内の塵芥は管から本管へ放出され、そしてそれは町の中央原子力塵芥駆除器で吸収されるのみならず、食物は同様の『力』で料理されるし、食器なども原子力で沸された湯で洗われ、熱気で乾かされるからである」「原子力が利用さるれば、嫌な仕事などは無くなるし、実際今日の所謂『仕事』などは無くなるのである」「以上は単にこの新しい『力』に依って革命されようと思われる数百の事柄から二三を引いたに止まる」「勿論労働問題などはなくなり『社会的不安』は一掃されて終ふ」。
以上に長く、岩下孤舟「世界の最大秘密」を引いたのは、この「原子力の平和利用の夢」が、「共産主義の夢」と、酷似しているからです。日本では両者ともにロシア革命と大正デモクラシーの時代に生まれ、時代の焦点である「労働問題」「社会的不安」の解決を「自然の征服」「溢れるばかりの生産力」に求めています。自然生態系の破壊や、自然に存在しない放射性物質の恐ろしさには、無知で無関心です。もちろんロシア革命指導者レーニンが「 共産主義とはソヴェト権力プラス全国の電化」と述べたように、「革命」のあり方は違ってきますが。同時代の宮澤賢治の「生徒諸君に寄せる」という詩の中に、「彼等は百の速力をもち われらは十の力を有たぬ 何がわれらをこの暗みから救ふのか あらゆる労れと悩みを燃やせ すべてのねがひの形を変へよ」「新たな詩人よ 嵐から雲から光から 新たな透明なエネルギーを得て 人と地球にとるべき形を暗示せよ 新たな時代のマルクスよ これらの盲目な衝動から動く世界を 素晴しく美しい構成に変へよ」という一文があり、解釈に悩んでいます。「新たな時代のマルクス」に課された「素晴らしく美しい構成」とはどんなデザインなのかと。賢治の一時代前の田中正造の言葉「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」の方が、東日本大震災復興の原理としては道標になるのではないかと。なにしろ、「あしでまといになるから、お墓にひなんします、ごめんなさい」という93歳老女の遺言が、ずっと引っ掛かって、頭の中で響いていますから。3・11以後に「夢」を見ること、語ること自体の意味も、問い直したいので。もっとも、宮澤賢治の詩の結びは、明快です。「科学はいまだに暗くわれらに自殺と自棄のみをしか保証せぬ、誰が誰よりどうだとか 誰の仕事がどうしたとか そんなことを云ってゐるひまがあるのか さあわれわれは一つになって」と。12月10日専修大学での同時代史学会年次大会で、「日本マルクス主義はなぜ「原子力」にあこがれたのか」と題して報告します。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1728:111202〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。