童子丸開・仮訳「オバマは軍事的な賭けに出る:中国およびロシアと国境線で対峙」(ジェームズ・ペトラス)
- 2011年 12月 22日
- 時代をみる
- オバマジェームズ・ペトラス童子丸開軍事的な賭け
(以下は、童子丸開氏のホームページの次の記事からの転載です。 http://doujibar.ganriki.net/Today%27s%20World%20of%20Fraud%20&%20Myth/Obama-Raises_Military_Stakes.html )
訳者より:『割れ鍋に綴(と)じ蓋』
この文章は、2011年12月10日付のGlobal Research誌に掲載された次の論文の和訳(仮訳)である。
Obama Raises the Military Stakes: Confrontation on the Borders with China and Russia (by Prof. James Petras)
http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=28144
著者のジェームズ・ペトラスはユダヤ系米国人であり、前ニューヨーク州立大学ビンガムトン校社会学教授であり、現在、カナダのハリファックスにあるセイント・メアリー大学で教鞭を執る社会学者、作家である。シオニズムとそれに操られる米国政治に対する容赦ない批判的な姿勢を貫く学者であり、また、カナダ・オタワ大学経済学教授のミシェル・チョスドフスキーと並んで、ネオリベラルの経済と政策への強烈な批判者としても有名である。
ペトラスはこの論文の中で、米国オバマ政権の政策を「割れ鍋現実主義(crackpot realism)」と厳しく指摘している。一見するといかにも現実主義のようだが、それは、軍事力以外の現実を一切見ようとしない、「妄想」「幻覚」としか言いようのない認識の上に積み上げられている。そうとしか言いようがない。ちょうど、底の割れた鍋で料理を台無しにするように、世界を道連れにして自国を崩壊させようとしているかのようである。ペトラス教授の指摘を待つまでもなく、昨今の米国のやり口を見ていると、「自滅的」を超えて「自虐的」になっているのではないかと思えるほどだ。
「割れ鍋」といえばやはり「綴(と)じ蓋」、つまりツギハギだらけでボロボロの蓋が、お似合いのカップルということになる。事実も言葉も好き放題に捻じ曲げて「フクシマの冷温停止」を宣言し、米国の軍事主義に無条件に付き従い、増税と「安全保障問題」およびTPP参加に「捨石(捨て鉢?)になって」まい進する我が日本国政府など、このオバマの「割れ鍋」にぴったりの「綴じ蓋」だろう。政府ばかりか、内閣府の「外交に関する世論調査」によると国民の82%がこの割れ鍋国に親しみを感じているらしい。どうせ内閣府による「自作自演調査」だろうから数字を鵜呑みにはできないが、それにしてもつくづく情け無い祖国を持ったものだと、ため息の毎日である。(訳文の下にある「資料」を参照。)
訳文中の (1) (2)・・・の注釈で紹介される情報は極めて重要なものが多く、ぜひご参照・ご研究願いたい。(2011年12月13日、バルセロナにて、童子丸開)
オバマは軍事的な賭けに出る:中国およびロシアと国境線で対峙
ジェームズ・ペトラス著
イントロダクション
アフガニスタンとイラクでの血みどろの地上戦に軍事的・政治的敗北を喫し、イエメンやエジプトやチュニジアで長期間支え続けた傀儡政権を失い、ソマリアとスーダン南部で傀儡政権の解体を目撃した後にも、オバマ政権は何一つ学んでいない(1)。逆に彼は、巨大な力を持つ国々との、具体的にはロシアと中国だが、より大きな軍事的対決に向かっている。オバマは中国とロシア両国の国境線自体に対して挑発的な軍事攻撃の戦術を採用しているのだ。
世界的権力の周辺で起こる敗北に次ぐ敗北の後で、そして膨らむ一方の財政赤字を抱えて経済小国に対する帝国主義的支配追究が不調に終わった後で、オバマは、世界第二の経済大国である中国と、欧州共同体最大の石油・ガス供給国であり世界第二の核大国であるロシアに対して、包囲と挑発のポリシーを抱くようになった。
この論文は、オバマ政権による高度に不合理で世界的な脅威になりつつある帝国主義的軍備拡大(2)について述べるものである。我々はこういったポリシーを生み出す世界の軍事的、経済的および国内政治的なコンテキストを調べてみる。次にワシントンが関わる紛争と干渉の様々な点を取り出して調べてみる。それはパキスタン、イラン、リビア、ベネズエラ、キューバからそれらを超えてもっと進むものだ。アラブ世界(シリア、リビア)を超えて進む新たな攻撃の一部としてのロシアと中国に対する軍事的拡張主義について、そして世界経済の中で下落しつつあるEUと米国の経済的地位という側面から、分析を行っていこう。そうして我々は、延々と続く戦争を栄養源とし、世界的な経済の落ち込みや国内での不信、長期の大規模な基本的社会保障システムの喪失に動揺する勤労者と対峙する、この傾きかけた帝国の戦略の概要をつかむことだろう。
周辺部での軍事拡大から世界規模の軍事対決への転換
2011年11月というときは巨大な歴史的意味を持つ。オバマは2つの主要な政治的立場を明らかにした。その2つとも、世界の権力闘争に影響を与える極めて大規模な戦略的帰結を持っている。
オバマは、中国沿岸部をにらむ海軍力と空軍力の配置に基づいた対中国軍事包囲の政策を表明した。それは、中国のアジアにおける原材料へのアクセス、商業的・資金的な結びつきを弱め妨害するために企まれた公然の政策である。アジアが米国の軍事的拡張と基地の建設と経済同盟にとって最優先の地域であるとするオバマの表明は、中国に対して向けられたものであり、自らの縄張りの中で北京に敵対するものだった。このオバマの鉄拳政策は、オーストラリア議会で語られたものだが、米国の帝国主義的な目的を明白な形で定義づけるものであった。
「この地域[アジア・太平洋]における継続する利益のために、我々はこの地域に居続ける必要がある。…米合衆国は太平洋の力であり我々はここに居続ける。…我々が今日の戦争を終える[たとえばイラクとアフガニスタンでの敗北と撤退]にしたがって…私は我が国の安全保障チームに対してアジア・太平洋での存在と使命を最優先事項にするように命じてきた。…結局、米国の国防経費の削減が…アジア・太平洋の犠牲の元で為されることはありえない。」(CNN.com、2011年11月16日)
オバマが「存在と使命」と呼ぶものの本質的な内容がオーストラリアとの新しい軍事協定で強調された。それは、中国に狙いを定め軍艦と軍用機と2500人の海兵隊員をオーストラリア最北端の都市(ダーウィン)に配備することだった。クリントン国務長官は2011年の多くの時間を、中国との領海問題を抱えるアジアの国々に対して極めて挑発的な説得を行うことに費やした。クリントンはこれらの領海争いに米国を割り込ませ、南シナ海でベトナム、フィリピンそしてブルネイの要求をそそのかし激化させた。より深刻なことにワシントンは、日本、台湾、シンガポール、韓国との軍事的な結びつきと通商関係を強化させ、同時に中国沿岸の海域で軍艦や原子力潜水艦の存在と軍用機の飛行を増大させている(3)。軍事的な包囲と挑発という政策と並んでオバマ・クリントン政権は、アジア諸国相互貿易協定、および「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)」と呼ばれる、中国を排除して米国の多国籍企業、銀行と開発会社に特権を与える政策を推し進めている(4)。それは今のところ比較的小さな国々をカバーするものだが、オバマは日本とカナダがそれに加わるように誘い込みたいと願っているのだ…。
2011年11月のAPEC会議で東アジア首脳と会談するオバマの存在と彼のインドネシア訪問は、すべて米国のヘゲモニーを確保する努力を巡らすものである。オバマ・クリントンは、東アジアと中国との間で交易と投資の地域的な結びつきが成長する中で、米国との経済的なつながりが相対的に沈下しつつある現状を逆転させたいと願っている。
アジアにおける中国の経済的な結びつきを意図的に妨害するための、オバマ・クリントンの妄想的で破壊的な努力の最近の例が、ミャンマー(ビルマ)で為されている。2011年12月のクリントンのミャンマー訪問は(5)同国北部で中国電力投資企業によって行わるダム開発計画を中止させたいテイン・セイン政権の決意によって実現されたものであった。ウィキリークスが公表した内密の公式資料によると、「ビルマの複数のNGOがそのダム計画に反対するキャンペーンを組織し率いたのだが、それらは米国政府によって大量の資金を与えられていた」(Financial Times、2011年12月2日、p2)。これやその他の挑発的な活動、そして中国の「紐付き援助」を非難するクリントンの演説は、ミャンマーと中国を結びつける長期的で大規模な利益に照らし合わせるなら、かすんでしまうようなものである。中国はミャンマーにとって最大の貿易相手国であり投資者だが、その投資には他の6つのダム計画が含まれる。中国企業はこの国を横切る新しい高速道路と鉄道を建設しつつあり、中国南西部をビルマ製品に対して解放している。また中国は石油パイプラインと港を建設中である。そこには1度の難癖で妨害されるようなものではない力強くダイナミックな相互の経済的利益が存在する(Financial Times、2011年12月2日、p2)。中国によるミャンマーのインフラへの十億ドル単位の投資に対するクリントンの難癖付けは、世界史の中で最も奇怪なものの一つである。それは、バグダッド高官の推定で5000億ドルにも上るイラクのインフラを破壊したワシントンによる8年間の過酷なイラク軍事占領の挙句の果てに出てきた話なのだ。妄想に取り付かれた政府だけが、3日間のクリントンの訪問とNGOへの資金提供がミャンマーと中国をつなぐ深い経済的な絆に対して適切に対抗できる重みを持つなどという、修辞学的な見せかけを想像できるのだろう。同様の妄想に取り付かれた姿勢が、アジアにおける中国の支配的な役割に取って代わりたいオバマ政権の努力を伝える一連の行動の全てを支えているのである。
オバマ政権によって採用される政策のどれ一つをとっても、それ自身では、平和に対する脅威を表すものではないのだが、こういった全ての政策発表と軍事力をむき出すことで積み重なるインパクトが、中国の地域的なそして世界的なパワーを孤立させ脅迫し押し下げようとする総合的な努力の上に、次々と付け加えられる。軍事的な包囲網と同盟、対象地域の経済協力関係での中国の排除、領海を巡る紛糾に対する一方的な干渉、そして高度な技術を用いた軍用機の配置は、すべて中国の競争力を低下させ、閉鎖的な政治的・経済的ネットワークによって、米国経済の劣等性を補おうとする狙いを持つものである。
ホワイトハウスの軍事的・経済的な動向と米国議会の反中国的デマゴギーは、明らかに、中国の貿易上の立場を弱めることと、そこで中心的に商取引を行う者たちに強要して米国の銀行と商業上の利益を優越させ中国企業を押さえつける状態を作ることに、狙いを定めている。大規模な軍事圧力を第一とするオバマの政策が限界まで推し進められれば、それは米国と中国の経済関係を悲惨な破綻に導くかもしてない。それ恐ろしい結果をもたらすだろう。特に、だがこれだけではないのだが、米国の経済に対して、とりわけ金融システムに対してである。中国は1.5兆ドルの米国の債権を保持している。主要に国債であり、毎年2000億~3000億ドルの新規の国債を買い続けているのだが、それが米国の赤字を埋める実質的な資金源なのだ。もしオバマが中国の安全保障上の利益を深刻な脅威にさらし、北京がそれに対応せざるを得ないように追い込むのなら、その対応は軍事的ではなく経済的な報復となるだろう。数千億ドル分の中国国債(Tノート)の売却と米国の債権の新たな購入の縮小である。米国の赤字は急上昇し、その信用ランキングは「ジャンク」にまで下降し、その金融システムは「崩壊に向かって激震する」だろう。米国債を新たに買ってもらうための利率は二桁に達するだろう。米国に対する中国の輸出は縮小し、中国人の手にある中国国債の価値下落のために損失が膨らむだろう。中国はいままでにその市場を世界中に広げてきているし、米国市場から撤退することによる外国での損失はたぶんその巨大な国内市場が吸収できるだろう。
オバマが太平洋の向こう側にいて中国に対する軍事的脅迫を宣告し、他のアジア諸国から中国を経済的に孤立させようと奮闘する一方で、米国経済の存在はかつてその「縄張り」だった場所の中で確実に色を失いつつある(6)。ファイナンシャル・タイムズのある記事を引用すると、「中国はラテンアメリカにとって唯一の魅力となっている」(Financial Times、2011年11月23日、p6)。中国はラテンアメリカ最大の貿易相手国として米国や欧州に取って代わるものとなっており、北京は新たな投資と低利子の貸付に何十億ドルでもつぎ込んできた。
中国のインドやインドネシア、日本、パキスタンそしてベトナムとの貿易は、米国のそれよりもはるかに大きな速さで増加しつつある。米国による帝国中心的な安全保障同盟をアジアで作ろうとする努力は脆弱な経済的基盤の上に置かれている。米国のアジアにおける軍事進出にとって頼みの綱でありかなめであるオーストラリアですら、中国への鉱物資源の輸出に大きく頼っている。いかなる軍事干渉もオーストラリア経済をパニックに陥れるだろう。
アジアやオーストラリアの生産物と工業製品にとって、米国経済は中国に取って代わる市場にはとうていなりえない。アジアの国々は、傾きつつある高度に軍事化した帝国と結びつくなら将来的な利点が何一つないことを痛切に悟るはずである。もしアジアを長期的な同盟関係に誘い込めると思っているのなら、オバマとクリントンは自分で自分を誤魔化しているのである。アジア人たちは単にオバマ政権の友好的な口説きを、中国との境界をはさむ領海・領土の確保で有利な条件を引き出すために、「戦術的な手段」つまり取り引き材料として利用しているだけなのだ。
もしそんな怪しげな見通しで排他的な経済協力関係に加わるために中国との長期的で大規模で有益な経済関係を壊すようにアジアを説得できると信じているのなら、ワシントンは妄想に取り付かれているのだ。アジアにとって、中国から米国へのいかなる「出直し」も、中国に狙いをつけた米国海軍と空軍の存在以上のものを要求するだろう。それは、アジア諸国の経済、階級構成、政治的・軍事的エリートの全面的な作り直しを要求することになる。アジアでの最もパワフルな企業家群は中国・香港との深く拡大する絆を手にしており、特にこの地域におけるダイナミックな中国系国際エリートたちの間ではそうである。ワシントンに立ち戻ることは巨大な反革命を必要とする。それはすでに確立されている企業家を「商売人」(買弁)とすげかえるものだ。米国に立ち戻ることは、戦略的な貿易と投資の関係を切り捨てたいと願う独裁的なエリートを要求するだろう。それは膨大な数の労働者と専門家たちを取り除いてしまうことになる。一部の米国によって訓練を受けたアジアの軍官僚たちと同様に、財界人や以前のウォール街投資家や億万長者たちは、米国軍の存在と中国の経済力の「バランス」を求めているかもしれないが、彼らは、アジア的解決を成し遂げる中に最終的に利益が存在することを悟らねばならない。
アジアの「買弁資本家」、つまり米国の市場に好条件で近寄ることと引き換えに国の産業と主権を売り渡すのに熱心な者たちの時代は、すでに過去の歴史である。顕著な消費主義と西側のライフスタイル-これはアジアと中国の新興階層が無分別に賛美するものだが-に対する際限の無い熱意がどれほどであろうとも、経済格差と労働者に対する厳しい資本家の収奪がどれほどに内包されていようとも、そこには、米国と欧州による支配が地元のブルジョアジーと中産階級の成長と富裕化を妨害してきたという、過去の歴史についての認識があるのだ。オバマとクリントンの演説や発言などは、過去の新植民地主義の監督者たちや買弁的協力者たちへのノスタルジアという悪臭を放つものである。愚かな妄想だ。彼らの政治的現実主義の試みは-それは結局はアジアを現存の世界秩序にとって経済的なかなめだと認識しつつなのだが-好戦的な態度と軍事力の突き付けが中国をこの地域での弱小勢力に落ち込ませるだろうと想像する奇怪な展開をするのだ。
ロシアとの対決を強めるオバマ
オバマ政権はロシアの国境線に対して大きな軍事力の展開を推し進めている。米国はポーランド、ルーマニア、トルコ、スペイン、チェコ共和国そしてブルガリアでミサイル基地と空軍基地を強化させた。ポーランドではパトリオットPAC-3対空ミサイル基地が、トルコでは最新レーダーAN/TPY-2が、そしてスペインでは多数のミサイル(SM-3 IA)を搭載した軍艦が、ロシアを包囲する強力な軍備の中に含まれるのだが、それらはロシアの戦略的中心地から数分の距離でしかない。続いて、オバマ政権は中央アジア諸国、特に旧ソ連圏で米軍基地を確保し拡大する全面的な努力を積み重ねている。第3にワシントンは、NATOを通してだが、北アフリカと中東にあるロシアとの主要な取引相手に対して大きな経済的・軍事的作戦を起こしてきた。NATOの対リビア戦争はカダフィ政権を葬ったのだが、巨額のロシアの石油・ガスへの投資と武器の販売を無効なものにし、以前の対ロシア友好政権をNATOの操り人形に取り替えた。
イランに狙いを定めた(7)国連・NATOの経済制裁と米国・イスラエルが共謀するテロ活動が(8)、ロシアの膨大な額の核取引と共同石油開発を破壊している。トルコを含むNATOは、ペルシャ湾岸の王政独裁諸国に後援されているのだが、シリアに厳しい制裁を行い同国へのテロリスト攻撃に資金を提供している(9)。シリアはこの地域でのロシア最後の同盟者であり、地中海岸で唯一の海軍基地(タルトゥス)を持っている。今までのロシアのNATOに対する協力関係は自らの経済・安全保障上の地位を弱める中で行われたものだったのだが、それはNATOを、とりわけオバマの帝国政策を、読み違ったことの産物である。ロシア大統領メドベジェフと外務大臣セルゲイ・ラブロフは(以前のゴルバチョフやエリツィンのように)、ロシアの貿易相手に対する米国・NATOの政策を支持することが「相互交換状態」か何かでも導くかのように、誤って推測した。つまり、米国が国境からその攻撃的な「ミサイルの盾」を解いてくれロシアの世界貿易機関(WTO)加入を支持してくれる、といったふうにである。メドベジェフは自身の自由主義の西欧的な幻想に引きずられ、その方針に従って米国・イスラエルのイランに対する制裁を後押しした。その「核開発計画」の作り話を信じたからである。そしてラブロフは、NATOによる「リビア国民の命を守るための飛行禁止区域」という方針に誤魔化されて賛成票を投じた。わずかに「抵抗」を示した時にはすでに手遅れだった。NATOは「その権限を越えて」リビアを空爆して中世の状態に陥れ、そしてゴロツキどもと原理主義者たちによる親NATO政権を据え付けたのだ。最終的に、シリアで群集反乱を組織して反乱者を武装させる一方で、米国がモスクワから5分の場所にミサイルを配備してロシアの心臓部に刃を向けたときに、メドベジェフとラブロフのコンビはその人事不省状態から目覚め国連の制裁に反対している。メドベジェフは核ミサイル削減の条約(START)を放棄してベルリンやパリやロンドンに5分で届く中距離ミサイルを配備すると脅した。
オバマの「関係を作り直す」というレトリックに基づいたメドベジェフとラブロフの連帯と協力の政策は、攻撃的な帝国の建設を招いてしまった。妥協するたびにより激しい攻撃が次々と続いた。結果として、ロシアはその国境の西側でミサイルに囲まれ、中東での主要な貿易相手を失うなどの損失に悩み、そして南西側と中央アジアにある米国軍基地に対面している。
遅ればせながらロシアの高官たちは、次の大統領として、幻覚に取り付かれたメドベジェフを現実主義者のプーチンに取り替えた。この政治的現実主義へのシフトはあらゆる西側メディアのプーチンに対する嫌悪の波を引き起こした。しかしながら、自立した政権を破壊することによって進められるオバマの攻撃的なロシア孤立化政策は、核大国としてのロシアの地位を揺るがせるものではない。それは単に欧州での緊張を高め、そしておそらく、将来的な平和的核兵器削減のチャンスあるいは国連安保理による紛争の平和的解決の努力を終わらせたのみであろう。オバマ・クリントンの下で、ワシントンはロシアを柔軟な得意先から主要な敵対者に変えてしまったのだ。
プーチンは、西側からの脅威に直面して、東方、つまり中国との連携を深め拡大することに気を配っている。ロシアの進歩した軍事技術やエネルギー資源、そして中国のダイナミックな工業と産業の成長との組み合わせは、七転八倒するEU・米国の危機に瀕した経済とは比較にならない。
オバマのロシアに対する軍事対決姿勢は、ロシアの天然資源への接近をはなはだしく害し、長期にわたるあらゆる安全保障上の合意を決定的に妨げるだろう。それらこそが米国の負債削減と経済の再生に有用なもののはずなのに。
現実主義と妄想の間で:オバマの戦略的再編成
現在と未来の政治力と経済力の中心が止めようもなくアジアに向かって動いているというオバマの認識は、政治的現実主義の閃きだった。世界政治の周辺と埒外での軍事的冒険に何千億ドルもつぎ込んできた失われた10年間の後で、ワシントンはついに、国々、とりわけ諸勢力の運命を決められるものではないことに気が付いた。ただし、失われた理由を巡って資源を搾り取るというネガティブなセンスを除いてだが。オバマの新たな現実主義と優先的な志向の焦点はいま明らかに東南・東北アジアに注がれている。そこではダイナミックな経済が花開き、市場は二桁のペースで成長し、投資家たちは生産的な活動で何百億ドルも掘り起こし、そして貿易は米国やEUの3倍もの速さで拡張している。しかしオバマの「ニュー・リアリズム」は全面的に妄想に満ちた仮定に照らされているのだ。それは米国の政策を再調整するあらゆる真摯な努力を破壊するものである。
第一に、アジアの中に「入り込む」というオバマの「努力」が軍備拡張を通してであり、米国経済の競争力を磨き高めることを通してのものではない。市場のシェアを高めようとしているアジア諸国に対して米国は何を生産するというのだろうか。米国は、武器と飛行機と農業以外に、競争力のある産業をほとんど持っていないのだ。米国はその経済を総合的に作り直し、労働の質を高め、「安全保障」と軍事主義から莫大な資金を実用的な技術革新に移していかなければならなくなるかもしれない。しかしオバマは、軍-シオニズム-金融複合体(10)の内部で働いている。彼は他のことを知らないしそれとの関係を絶つ能力もない。
第二に、オバマとクリントンは、アジアの中で米国が中国を排除あるいはその役割を最小限にすることができるという妄想の下に政策を実行するのだが、その政策は、巨大に成長しつつある投資と中国内のあらゆる主要な米国系多国籍企業の存在によって阻止されるようなものだ。彼らはアジアと世界の他の地域に向ける輸出の起点として中国を利用しているのである。
米国の軍備増強と脅迫の政策は単に、米国の債権の財政的な保証人としての中国の役割を縮小させるように追い込むのみだろう。それが中国の追求できる政策なのだ。中国が国内とアジア、ラテンアメリカと欧州にその存在を広げていくにつれて、米国市場の重要性が、今はまだ重要であるにせよ、しだいに失われていくからである。
一度はニュー・リアリズムとして現れたものが、いまや古ぼけた幻覚に舞い戻った姿を見せている。それは米国が第2次世界大戦後にそうであったような絶対の平和維持権力に戻ることができるという論調なのだ。米国はオバマとクリントンの下でその平和維持の支配力に戻ろうと試みているのだが、彼らは、よろめく経済、軍事化しすぎた経済の突出、そして重大な戦略的欠陥に付き添われている。その欠陥とは、過去10年間、米合衆国の対外政策がイスラエルの第5列(イスラエル・「ロビー」)(11)の言いなりであり続けていることである。米国の政治勢力は、全体として常識的で実践的なセンスと国民的な目標が欠落している。彼らは「制限のない逮捕」や「移民の大量追放」についての野蛮な論争に没頭する。もっと悪いことに、その全員が米国内で商売をし中国内で投資する私営企業に金で雇われているのだ。
オバマはどうして、利益の少ない周辺部での犠牲の大きい戦争を取りやめたうえで、世界の経済空間のダイナミックな中心部で同じような軍事的な虚妄を推進するというのだろうか。バラック・オバマと彼の補佐官たちは彼をペリー代将(12)の再来であると信じているのだろうか。ペリーの19世紀の艦隊と封じ込めはアジアを西側諸国との交易に開かせたのだが。彼は軍事同盟がその後に経済への特権的な参入の時代を作る第一歩になるとでも信じているのだろうか。
オバマは、第2次世界大戦へと向かう時期に日本に対して行ったように、彼の政権が中国を封じ込めることができると信じているのだろうか。時すでに遅しである。中国は世界経済にとってはるかに中心的になっている。米国の債権に資金を与えるほどあまりにも活発であり、フォーブス500社の多国籍企業とあまりにも固くつながっている。中国を挑発することは、中国を蹴落とす経済的「排除」を夢想することですら、世界経済を全面的に破産させるような政策の追求になるだろう! まず最初に何よりも米国経済を、である。
結論
オバマの「割れ鍋の現実主義」は、イスラム世界での戦争からアジアでの軍事対決への転換だが、何一つ本来的な価値を持たず本来なら不必要な異常なコストをかけるものだ。軍事的な方法と経済的な目標は全く両立不可能であり米国の能力を超える。それが現時点での状態である。ワシントンの政策は決してロシアや中国を「弱める」ことはなく、脅すことすらできないだろう。その代わりにこの両国にもっと敵対的な立場をとるようにさせ、イスラエルのために行うオバマの永続戦争に手を貸さないようにさせるだろう。すでにロシアはシリアの港に艦隊を送り(13)、シリアとイランに敵対する武器搬入への支持を拒否し、(過去を振り返って)リビアに対するNATOの戦争を批判している。中国とロシアは、一連の米軍前哨部隊や「排他的な」同盟に苦しむ世界の経済と、あまりにも多くの戦略的な結びつきを持っている。ロシアは、米国が東欧の基地から核ミサイルを発射できるのと同じ程度に、西側に向かって致命的な核ミサイルの照準を合わせることが可能なのだ。
言い換えるなら、オバマの軍備増強は核による力のバランスを変えることはなく、逆にロシアと中国により接近したより深い同盟関係をもたらすだろう。キッシンジャーとニクソンによる、ロシアの武力に対抗して米国と中国の貿易協定を結ぶという「分割と支配」の戦略は、もはや過去のものである。ワシントンは、現在中国とその周辺国の間の領海を巡る小競り合いについてとんでもなく誇張された意味合いを受け取っている。各国を経済的な言葉で結びつけるものの方が中期・長期的に見ればはるかに重要なのだ。中国のアジア経済との結びつきは米国との取るに足らない軍事的なつながりの全てを融解させるだろう。
オバマの「割れ鍋の現実主義」は軍事の眼鏡を通して世界の市場を見るものである。アジアに対する軍事的傲慢さはパキスタンとの決裂をもたらした。そこは南アジアで最も従順なお得意先だったのである。NATOは意図的に24人のパキスタン兵士を殺しパキスタンの将軍たちを軽蔑して侮辱した。一方で中国とロシアはその攻撃を非難して影響力を確保したのだ。
最終的には、この中国に対する軍事的で排他的なやり方は失敗するだろう。ワシントンはかつてのアジアの商売相手を高飛車な態度で脅すだろうが、彼らは戦術的な経済上の優位を得るために米国軍の存在を終わらせることを望んでいる。彼らは米国のけしかける新たな「冷戦」など望んではいない。それはアジア域内でのダイナミックな交易と投資を分裂させて弱めるものである。オバマとその腰巾着らはすぐにアジアの現在の指導者たちが永続的な同盟者ではないと学ぶだろう。彼らが持っている関心は永続的な利益なのだ。最終的な分析で、中国はアジアを中心とした新しい世界経済の形成の中で顕著にその姿を現している。ワシントンは「永続的な平和維持の軍事力」を持っていると主張するかもしれないが、米国政府が自らの財政を整えたり現在の負債額の埋め合わせをするといった「祖国での基本的なビジネス」の世話ができることを明示できないうちは、米国海軍司令部は結局のところ、アジアの輸出業者と船主たちに海軍の施設を貸したり、彼らのために貨物を運んだり、また海賊と密貿易と麻薬密輸を追い払うことで彼らを守る仕事をするはめにおちいるのかもしれない。
こんな想像はどうだろうか。ひょっとするとオバマが、好調なアジアの経済的パワーに威張り散らして米国の納税者の金を浪費するのをやめて、海峡地域のパトロールのために第7艦隊を貸し出すことで米国の対アジア赤字を減らすのかも…なんて。
【注釈】
(1)次のペトラスの論文を参照:The Washington – “Moderate Islam” Alliance: Containing Rebellion Defending Empire
(2)参照:The Globalization of War: The “Military Roadmap” to World War III : ONLINE INTERACTIVE E-READER(by Michel Chossudovsky and Finian Cunningham)
(3)参照:成澤宗男: 南西諸島の軍備強化は安全保障に何の利益もない(Peace Phylosophy Centerより)
(4)TPPに関しては数多くの報告があるが、ここでは特に日本国内の対応に関連して次の記事を取り上げておく。
外務省HPの日米首脳会談概要のTPP部分が書きかえられている
消されたレポート「TPPに潜む危険性」(あおぞら銀行 金融法人部門)(共にPeace Phylosophy Centerより)
(5)参照:ビルマのクリントン: 米対中国戦略のもう一つの動き(「マスコミに載らない海外記事」より)
(6)参照:新同盟誕生:革命途上の中南米(「マスコミに載らない海外記事」より)
(7)参照:米・英、対イラン戦に備える(「マスコミに載らない海外記事」より)
(8)参照:U.S.-Israel to Launch More Terrorist Attacks Against Iran(Real Democracy Now.com)
また、2011年11月28日に起こったイランの核施設の爆発について次を参照されたし:
イラン核施設が謎の爆発:イスラエル要人曰く、事故ではないと・・・(「新ベンチャー革命」より)
(9)以下のROCKWAY EXPRESSの記事とそのソースを参照のこと:
レバノン軍情報機関:シリア反政府ゲリラへの武器密輸を阻止 、 シリア:アメリカは空母を展開、NATOは戦争準備 、 リビア新政府:シリアに600人の兵士を侵入させる 、 トルコの武器がシリアに密輸されている 、 数百人の米・NATO軍兵士がシリア・ヨルダン国境に集結
(10)参照:Rulers and Ruled in the US Empire: Bankers, Zionists, Militants (by James Petras)
また欧州を襲う「不況」の実態とシオニズムの関係について次のペトラスの論文が参考になる:
Greek P.M.: Zionism and the IMF’s Last Best Friend
(11)イスラエル・ロビーについては次の2つのペトラスによる論文(和訳)を参照のこと:
シオン権力と戦争:イラクからイランへ 、 ノーム・チョムスキーの誤謬に満ちた論調
かつて「軍産複合体」と呼ばれたものは、ペトラスによれば「軍-シオニズム-金融複合体」に変化している。米国とその同盟者にとって経済の中心は産業ではなく金融であり、さらにそれと軍事を結びつける位置に、あらゆる破滅的な妄想を生み出すシオニズムが存在する。かつてブッシュ・チェイニーを操り今オバマ・クリントンを動かすものがこの複合体なのだ。
(12)「代将」は’Commodore’だが、この地位は当時の米海軍にあったもので、現在では存在しない。
(13)以下のROCKWAY EXPRESSの記事とそのソースを参照のこと:
ロシア軍艦がNATO攻撃阻止のためシリア領海に進入 、 ロシアは3隻の軍艦をシリアに派遣
資料
「米国に親しみ」過去最高82% 震災支援、追い風に(朝日新聞2011年12月3日)
http://www.asahi.com/politics/update/1203/TKY201112030363.html
野田首相:TPP、消費増税「捨て石になってけりつける」(毎日新聞2011年12月3日)
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20111204k0000m010037000c.html
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