P.D.スコット『最後の審判プロジェクト:JFK、ウォーターゲート、イラン・コントラ、そして911』
- 2011年 12月 28日
- 交流の広場
- ピーター・デール・スコット最後の審判プロジェクト松元保昭童子丸開
みなさまへ 松元
バルセロナの童子丸さんからThe Asia-Pacific Journal誌(2011年11月21日)に掲載されたピーター・デール・スコット論文の翻訳が届けられました。長文ですので、前半だけ紹介させていただきます。続きと註は童子丸さんのサイトでお読みください。
ケネディ暗殺からベトナム戦争、イラン・コントラを経て、9・11につづくアフガニスタン侵攻からイラク戦争の今日まで、米国とその世界戦略を支配してきた「最後の審判プロジェクト」の解析。キィーワードは「深層での動き」。
======以下、転載======
元UCバークレー教授、ピーター・デイル・スコットの論文、『最後の審判プロジェクト:JFK、ウォーターゲート、イラン・コントラ、そして911』をご紹介します。
ただし、本文は非常に長いもので、このメールでは私の書いた前文と、翻訳本文の前半部のみをお知らせさせていただきます。本文後半部と注釈(数が多く重要な内容が多い)については、私の「どうじまるHP」でご覧ください。
アドレスは次です。
http://doujibar.ganriki.net/Today’s%20World%20of%20Fraud%20&%20Myth/The_Doomsday_Project_and_Deep_Events_in_Japanese.html
最後の審判プロジェクトと深層での動き
JFK、ウォーターゲート、イラン・コントラ、そして9・11
これはThe Asia-Pacific Journal誌(2011年11月21日)に掲載されたピーター・デール・スコットの論文の翻訳である。
‘The Doomsday Project and Deep Events: JFK, Watergate, Iran-Contra, and 9/11,’ by Peter Dale Scott The Asia-Pacific Journal Vol 9, Issue 47 No 2, November 21, 2011.
http://japanfocus.org/-Peter_Dale-Scott/3650
この翻訳は、The Asia-Pacific Journal誌の了解の下でジャーナリスト櫻井春彦氏によって為され、童子丸開が補助と校正を行い、乗松聡子氏によってPeace Philosophy Centerのホームページに掲載された。そして乗松氏の許可を得て当サイトでも公開されるものである。
前文:童子丸開
『1963年の深層での動き以来、アメリカの政治システムの正統性は嘘にくるまれている。 それは、その後に続く深層での動きの助力によって保護されてきた嘘である。』(ピーター・デール・スコット)
”The Doomsday(最後の審判の日)”はキリスト教の聖書の「ヨハネ黙示録」にある言葉で、「キリストの再臨・千年王国」の後で起こるこの世に対する最終処分、全ての死者に対する「最後の審判」が行われるとされる日を意味している。この種の終末論は常に人々のファンタスティックな想像力をかき立てるとみえる。以前には「ノストラダムスの大予言」とやらがもてはやされたが、近年ではどうやら2012年にこの世が滅亡すると主張する人々もいるらしい。これは古代マヤの暦が2012年に当たる年で終わっているためと言われるが、一方でそんなファンタジーとは無関係に、「2012年に起こる米国軍事クーデター」という、1992年に米国軍のコリン・パウエル参謀総長(当時)の求めに応じて米軍人の手で作られた「フィクション」もある。これは<軍隊が国家権力を掌握し、社会的援助と医療、教育、交通を指導しつつ、『国民の防衛』を保障するために統一された命令を発した>という仮定の下に描かれたものだが、実際、2011年12月になって米国議会は新たな「国防権限法(NDAA)」を可決して、軍事独裁色を露骨に強めている。
それにしても『the Doomsday Project(最後の審判プロジェクト)』とは何ともおぞましいイメージをかきたてる言葉だ。この論文の著者によればこれはペンタゴンの命名のようだが、聖書には「最後の審判」の後に世界が「選ばれた少数の者たちだけの永遠の天国」と「大多数の者たちのための永遠の地獄」に2分されると書かれている。現在我々が生きるこの現実の世界で進行中の「人口の1%への富の集中と99%の貧困化」を考え合わせるならば、この「プロジェクト」の命名を単なる気まぐれと一笑に付すにしては、あまりにも現実味があるように思える。
ピーター・デール・スコット(Peter Dale Scott:1929~)は、カナダ出身の元外交官、詩人、そして米国カリフォルニア大バークレー校で英文学の教授を務めた人物である。彼は厳しい資料の選択と吟味を通して、「深層の政治(Deep Politics)」という用語を用いて現代史を語る。この論文をお読みになればお分かりになるとおり、ある重大な事件に関わりのある公的な資料の中にありながら、その事件が公式に説明される際には不思議と決まって無視される種類の情報がある。そしてその周辺には、決して公開されない、おそらく破壊されたと思われるデータの存在が示唆される。P.D.スコットの「深層の政治」は、このような情報を丹念に発掘しそこにある一貫性を発見してきた結果としてまとめられるものである。
彼はそこから読み取れる政治の表層から隠された出来事を”Deep Events”と名付けるが、この和訳でそれは「深層での動き」とさせていただいた。正確には「深層の出来事」だろうが、それが次のステップへと動的につながっていく様々な出来事の連続を現すと思われるため、「動き」と訳したものである。以上の点についてご了解いただきたい。
この論文で「深層の政治」は、1963年11月22日のケネディ大統領暗殺事件、ベトナム戦争の直接の原因となった1964年のトンキン湾事件、1968年6月5日のロバート・ケネディ司法長官暗殺事件、1974~75年に米国を揺り動かしたウォーターゲート事件、冷戦末期の1980年代に大問題となったイラン・コントラ事件、また1970年代末から今日まで暴力的に続くアフガニスタン情勢、そして2001年の9・11事件に至るまで、米国の政治・軍事を舞台として継続されてきた作業の、明白な連続性として登場してくるものだ。個々の事件のビーズ玉はこの「深層の政治」の糸によってつながり一つの明確な形を取っていく。P.D.スコットは現場の資料から離れた憶測を交えることなく、データと人脈からその糸を冷静に厳密に探り取っていく。そしてそれは9・11以後も必然的に、2011年末の今日に至るまで、引き続いて動き続けているものなのだろう。
私は、「不況」と呼ばれる富の一極集中の中で、米国や欧州で99%の人々の生活が追い詰められ、「偶然の不祥事」で主の変わったIMFを代表部とし米国の格付け会社を司令塔とする巨大金融資本が欧州の支配と主権国家の破壊に成功しつつあり、イスラム圏の再編成と対ロシア・中国封じ込めが図られ、そして対イラン・シリア戦争の準備が進行する今日、この米国政治の「深層での動き」と我々が日常に肌で接することのできる世界の変化との関連を、いやでも感じ取らざるを得ない。
もちろんのことだが、日本という国家と社会もまたその「深層の政治」によって突き崩されつつある。しかしながら先日、インターネット版の新聞だが、次のような見出しが目に映った。『野田首相、TPP、消費税、「捨石になってけりをつける」』、『「米国に親しみ」過去最高82% 震災支援、追い風に』。私はこれを見て、思わず有名な漢詩の一部をもじって次のようにつぶやかざるを得なかった。「国亡びて…山河穢(けが)る…」。
ピーター・デール・スコットの作品が和訳されるのは、おそらくほとんど初めてのことではないかと思われる。これは極めて理解しがたいことだが、彼の「深層の政治」という用語が何か怪しげな陰謀論を連想させて日本の研究者を躊躇させるのだろうか。それともそこに何か日本人が触れてはならないものを察知するのだろうか。この和訳で本文の最後に著作・著述の紹介があるのだが、彼の貴重な作業が日本に伝わらないのは理に合わない。彼の今回の記念碑的な論文が、多くの日本人の関心を「深層での動き」に集めるきっかけとなることを期待したい。
ただこの論文にはいくつかの点でやや残念な面もある。一つには、イラン・コントラ事件から9・11の間で登場してくるいわゆる「米国ネオコン」の動きが完全に抜け落ちている点である。さらにそれに関連して、80年代から急速にそして巨大に台頭してきた「イスラエル(ユダヤ)ロビー」の役割が考慮されていない。またP.D.スコットは、ケネディ暗殺から9・11事件にいたるまで、その深層を探求する動きに対して、いわゆる「左翼」に属する人たちやその情報誌(ウエッブサイトを含む)が為し続けている犯罪的な役割については全く触れようとしない。
さらに次の点も指摘できる。ケネディ暗殺や9・11事件が、その犯人とされたオズワルドやアルハズミらが実行しCIAなどの組織がそれを意図的に見過ごしあるいは積極的に補助したいわゆる「やらせ」なのか、それともこれらの者たちは犯行に加わらず他の力によって犯罪が行われて彼らにその罪が擦り付けられた「内部犯行」によるものなのか、読み様によってはどちらとも受け取れるのだが、この論文の中ではもう一つはっきりしない。
だがこれらは、彼自身が本文で「そうした(革命を求める左翼の)挑戦に対する右翼の反応、そして彼らの反応を高めた深層での動きの役割に今日は焦点を絞ることにする」と述べている以上はいたし方のないことなのかもしれない。またこの限られたスペースの中でそのような事柄にまで触れることは、P.D.スコットといえども不可能な作業に違いない。
しかし我々がここで取り上げられている事件とその深層について考える場合、このような著者が触れていない点をも補いながら見ていく必要があるだろう。逆に言えばそうした接し方こそが、この現代史の中で見えなくされている「赤い糸」を丹念にたどるという苦しい作業を続けてきたこの老学者に対する敬意の払い方ではないだろうか。
P.D.スコットは論文の終盤で、2011年9月から始まった「ウォールストリート占拠」運動に参加する人々に対して、「愛国者法体制」の終了を要求せよという極めて貴重で決定的な提言を行っている。
この運動には最初から「深層での動き」が関与しているのかもしれず、また警備当局の厳しい弾圧と脅迫によって分裂しつつあるようだ。しかしその正統な部分の流れは米国と世界で、深く長く続く世界中での大衆運動に引き継がれなければならない。その際に、単なる経済的な格差是正を要求するだけのものではなく、近代の世界の歴史を通してその「格差」を作り広げつつある者たちとその集団を見据えた運動にまで発展する必要があるように思える。その意味で、現在「ウォールストリート占拠」運動に参加しあるいは支持を与える人々の88%が「9・11事件の再調査」を、またほぼ96%が「愛国者法体制の終了」を(2011年12月10日現在)、この運動の正式な要求項目にするように求めていることは(もしこのリンク先の情報が信頼できるものならば)、未来に対するかすかな希望なのかもしれない。
最後に、この翻訳を主要に携わり多数の注釈をお作りになったジャーナリストの櫻井春彦氏、翻訳の補助と公開にご尽力いただいたPeace Philosophy Centerの乗松聡子氏、そして何よりも、作者のピーター・デール・スコット氏とThe Asia-Pacific Journal誌に対して、心からの感謝を捧げたい。
(2011年12月吉日 バルセロナにて 童子丸開)
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■最後の審判プロジェクトと深層での動き:
JFK、ウォーターゲート、イラン・コントラ、そして9・11
ピーター・デール・スコット著
(翻訳本文省略―編集部)
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