イラン政府「米国、イスラエルのイラン攻撃はありえない」という公式見解をやや修正か/「原油輸出制裁なら、ホルムズ海峡閉鎖で対抗」高官が発言
- 2011年 12月 30日
- 時代をみる
- ホルムズ海峡原油輸出浅川 修史
イラン政府「米国、イスラエルのイラン攻撃はありえない」という公式見解をやや修正か。イラン通貨も暴落 (12月30日11時26分)
「米国、イスラエルのイラン攻撃はありえない」。これが、イランの「公式見解」である。米国、イスラエルのイラン攻撃は「想定外」というものである。
2003年ころから、現在に至るまで、米国がイラン攻撃を企画(期待)していることは明白なのに、なぜ、イランは「ありえない」という立場なのか。何事も素朴に単純に考える筆者には理解できない。
たとえば、日本のある外交経験者が、2008年にテヘランで開催された国際会議の席上で、「米国、イスラエルがイラン攻撃を行う可能性がある」と発言した。発言後、イラン人に質問攻めにされたという。「なんで、そんなことを言うのか」という非難する口調で疑問を発せられた、という。
おそらく、イランの実権を握るイスラム法学者たちは、優れた知識人である。米国、イスラエルのイラン攻撃の可能性(あくまで可能性だが)を認めてしまうと、国民が動揺することを懸念しているのだろう。
だが、さすがにイランも米国の経済制裁の輪が縮まる中で、他人に語らせる、「客観報道」という形で、米国のイラン攻撃の可能性を示唆している。公式見解をやや修正しているように思える。
米人歴史家、「イラン攻撃は米国の新保守派の理念」 国営イランラジオ報道(12月29日)
http://japanese.irib.ir/index.php?option=com_content&view=article&id=24097:2011-12-29-12-46-40&catid=17:2010-09-21-04-36-53&Itemid=116
米軍、「ホルモ(ム)ズ海峡での混乱に忍耐せず」 国営イランラジオ報道(12月29日)
http://japanese.irib.ir/index.php?option=com_content&view=article&id=24081:2011-12-29-10-47-59&catid=17:2010-09-21-04-36-53&Itemid=116
イランと米国の神経戦は続いている。イランが、戦前の日本のような貧弱な忍耐力と交渉力しかなかったら、すでに「真珠湾」に進んでいるだろう。米国はそれを待っているのだろう。だが、イランが伝統的なバーザール商人の忍耐力を持っていることにほとほと感心させられる。
ところで、日本人には意外に思えるかもしれないが、2、3年前、イランは空前の好景気だった。資産バブルも起きていた。原油価格の高騰、世界的な金融緩和に加えて、イラン政権が物価上昇率より低い低金利(=マイナス金利)を採用したことから、テヘランのマンション価格高騰など資産バブルが発生した。
あるペルシャ絨毯商は、「その頃、日本円換算で、昔3000万円で買ったテヘランのマンションが4億円になった」と語る。このペルシャ絨毯商は、「持っている親戚にはすぐ売って、欧州か日本の不動産を買え、と勧めた。私は日本がベストだと勧めた」という。その後の為替の変動を見ると、なかなか鋭いアドバイスだろう。
この好景気はリーマンショックや国内金融政策の修正と経済制裁によって、終わった。
イランの通貨リアル(イラン人は通常、リアルの10倍単位のトマンという非公式的な呼称を使う)も下落している。
急落するイランの通貨 中東・エネルギーフォーラムより
http://www.energyjl.com/2011_folder/December/11new1226_1.html
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「原油輸出制裁なら、ホルムズ海峡閉鎖で対抗」イラン高官が発言。年明け以降、重大な局面も (12月28日 18:53)
「仮に西側諸国がイランの原油輸出に制裁を課せば、一滴の原油もホルムズ海峡を通過できなくなるだろう」――2011年12月27日国営イラン通信は、ムハンマド・レザ・ラミヒ イラン第一副大統領の発言を伝えた。
米国のロイター通信も12月28日、報道した。ロイター通信の日本語WEBは、イランのホルムズ海峡閉鎖警告で、原油価格が上昇したと、報じた。
北海ブレント109ドルに上昇、ロイター報道
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPTYE7BR02M20111228
ホルムズ海峡は、イランとオマーン、UAEとの間にある、ペルシャ湾の出入り口となる海峡で、幅は約40㎞と狭い。サウジアラビア、イラク、クウェート、アブダビ(UAE主要国)、それにイラン産の原油が、ホルムズ海峡をタンカーで通過する。米国エネルギー情報局(EIA)によると、海上輸送された世界の原油の約3分の1がホルムズ海峡を通過したという。日本に限ると、輸入する原油の約8割がホルムズ海峡を通過している。日本のイラン産原油依存度は14%である。長期間にわたったイラン・イラク戦争でもイランは結局のところホルムズ海峡閉鎖を実行しなかった。このカードを切ることはイランにとって、重い意味がある。
米国とイランはイランの核開発をめぐり、非難合戦と神経戦を繰り返している。お互いの度胸を試すチキンレースになっている。
米国は金融制裁によって、イランの原油輸出を止めようとしている。欧州や日本にイラン中央銀行との取引停止を要求している。原油取引の資金決済ができなくなると、原油取引ができなくなる。
米国は欧州や日本に、「米国をとるか、イランをとるか」と選択を迫っている。米国に従わない国は、米国の金融機関と金融取引ができなくなる。今の世界では、イランをとる国はない。
イランが神経をとがらしているのは、EUの動向だ。EU諸国は12月1日に開催した外相会議で、イラン制裁強化を決定している。EUの中でも連合王国とフランスが制裁強化に積極的で、2012年1月にイラン原油禁輸を含む具体的な制裁案をまとめる方向である。
イラン海軍や革命防衛隊は、ペルシャ湾に駐留する米国第5艦隊(バーレーン、カタールに基地)を排除して、ホルムズ海峡を閉鎖できる実力があるか。多くの識者の見方は、「否」だろう。だが、イランが本気を出せば、航空攻撃、ミサイル攻撃、小型艦艇による攻撃や機雷などで、商船の航行に重大な障害を与えることは可能だと考える。ホルムズ海峡通行のリスクが高まり、海上保険の料率が急騰するだけでも海上輸送に大きな障害が出る。
また、イランは湾岸諸国やレバント(地中海沿岸)のシーア住民に足場を持っている。影響下にある住民の反政府活動や武装闘争を支援することができる。
イランを経済制裁で追い込む欧米。バーザール商人のような自制心、忍耐力、交渉力で対峙してきたイランだが、だんだん手持ちの時間がなくっている。
このままでは2012年春頃までに重大な局面が懸念される。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1756:111228〕
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