「乗り越えた大きなヤマ―ぶれない野田首相」
- 2011年 12月 30日
- 時代をみる
- 瀬戸栄一野田首相
「2014年4月に8%に、15年10月に10%に」―野田佳彦首相は消費税率引き上げについて29日深夜の民主党合同会議で妥協の「切り札」を持ち出し、とうとう了承を取り付けた。「ぶれない」ことを信条とする野田首相の粘り勝ちである。
もちろん、この総会了承で野田首相がいばらの道を通り切ったわけではない。この後、年明けの素案決定―野党との協議―大綱・法案決定という、3月末(2012年度末)までの困難な段取りが控える。それを通常国会に提出しても参院での与党少数派という現状では成立させる可能性は霧の中だ。
仮にこの法案が成立しても、2013年8月には衆院議員の4年間の任期が切れ、解散しなくても衆院総選挙を実施しなければならない。同じ時期には3年に1回の参院通常選挙を行わなければならない。さらに同年4月には東京都議選も回ってくる。
▽選挙で負ける恐怖
ことし9月の民主党代表選で野田氏は決選投票で逆転勝利し内閣総理大臣に選出された。この代表選で野田候補がはっきりと訴えたのが消費税の引き上げである。「もうノーサイドにしましょう」と代表選出のあいさつで吐露した野田氏はその瞬間、最大の任務が東日本大震災からの復興と、早期の消費税率引き上げであることを肝に銘じた。
後者に対しては民主党内から広範囲の、執拗な慎重論と反対が噴き上がった。その最大の論拠が、次の総選挙で民主党が惨敗し個々の議員が大量に落選し政権を失うことだった。
過去の自民党のいくつかの経験則によると、与党が消費税アップを打ち出して選挙に臨めば、ほぼ100%敗北し、過半数を失い他党との連立で苦しい政権維持を強いられた。自民党政権にまで遡らなくても昨年の参院選で当時の菅直人首相が消費税増税を前面に打ち出したお蔭で民主党は惨敗し、それ以降、ねじれ国会の苦吟を味わい続けている。
▽背後に藤井氏ら
野田首相もまた菅内閣での財務相の経験から、消費税引き上げの緊急性と政治的危険性を熟知している。しかし、ギリシャ危機で顕在化した欧州諸国の財政危機―国家の借金危機を国際会議のたびに見せつけられ、遠からず日本にも極度の財政難が波及する危機感を十二分に味わった。ポスト菅の代表選に出馬する以上は、最大の目玉政策が消費税であることを隠さず、むしろ鮮明にして立候補し、途中でぶれない決意を固めるしかない。
首相に就任した野田氏は、その背後から藤井裕久民主党税制改正本部長と勝栄二郎事務次官率いる財務官僚、菅内閣まで民主党政権に付き合い「税制と社会保障の一体改革」を推進した与謝野馨元財務相らにバックアップされつつ「年内」の素案決定を目標に突き進んだ。
▽小沢氏はブレーキ側に
党内で大きな反対勢力として立ちふさがる可能性を孕んでいる小沢一郎氏と、小沢支持の100人超の国会議員に対しては、小沢氏の盟友である輿石東民主党参院議員会長を幹事長に起用するという荒業で対応した。小沢氏が4億円の土地購入に絡む秘書の虚偽記載報告事件で強制起訴され裁判中であることも、野田首相に有利に作用した。小沢氏は輿石人事で野田首相を高く評価したものの、「次の総選挙までは消費税に手をつけない」という民主党の2009年マニフェストを盾に、野田首相が強引に消費税法案化に突き進むのにブレーキをかけ始めた。
▽離党とどめぬ執行部
自らは公判中というのに、2009年総選挙勝利―政権交代については、自分自身の功績という自負が小沢氏の内部に沸々と煮えたぎっている。2007年参院選での民主党圧勝も選挙のプロとしての自分の業績と自負する。マニフェスト順守こそ、民主党政権を長期化させる最大の武器というのが小沢理論だ。
2009年の総選挙を取り仕切った小沢氏が率いる100人余の国会議員の中から、12月30日現在で計11人の国会議員が離党した。消費税引き上げ反対というマニフェスト違反が離党の理由である。ところが、野田首相はじめ民主党執行部が離党の動きを阻止し説得する気配が見られないのも不思議である。
▽いらない人たち
首相官邸の中からは「あの人たちはいらない人々だから」という痛烈な声が聞こえる。300を超える民主党衆院議員から11人が抜け、さらにそれが拡大しても民主党政権は揺るがないという意味だ。小沢氏本人が政界再編で腹をくくって離党を後押しし始めたら安閑としていられないが、どうやら11人の離党は小沢氏が止めるのを聞き入れなかった結果、小沢氏から容認されたと受け止めて「飛び出した」新人議員ばかりというのが執行部の判断のようだ。
事実、11人の中には離党組を束ねるリーダーが見当たらない。このため6月の菅内閣不信任案採決の際に本会議場に入って賛成投票しようとした松木兼好議員か、保釈後に「真民主党」立ち上げを急ぐ鈴木宗男議員のどちらかに合流先を求めるものとみられる。
▽10%では同じだ
こうした民主党の「崩壊現象」を見ていきり立つのが野党第一党の自民党だ。一貫して早期の解散―総選挙を訴え続ける谷垣禎一総裁ら自民党執行部にとって、野田首相が消費税で窮地に立ち、退陣ないしは解散―総選挙に追い込めれば自民党が第一党になり、わずか2年半で政権の座に戻れる、と読む。野党議員でいることに耐えられないのが自民党本来の体質である。
ところが、まずいことに「消費税10%」を公約し続けてきたのも自民党なのである。野田首相と谷垣総裁の党首討論で、野田首相が「消費税についてはわれわれ民主党とあなた方自民党の考えは同じではないか」と一撃を食わせ、一瞬言葉に詰まりながら谷垣総裁は「選挙前に消費税をやるというのは民主党の2009年マニフェスト違反だ」と切り返した。谷垣総裁はじめ自民党の弱みはこの点にある。
▽野田支持の黒幕グループ
財務省に入れ知恵された民主党は、自民党が先に提唱した「10%」への引き上げを譲らない。自民党長老の森喜朗元首相はこの点を認め、「民主党提案に賛成し、これをきっかけに大連立に踏み切ってはどうか」と語る。政局の黒幕、渡辺恒雄読売新聞会長や中曽根康弘元首相らが野田首相を高く評価する背景には、森氏と同じ情勢判断が潜んでいる。(了)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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