「経済成長と財政再建の両立」は検討に値する
- 2010年 7月 5日
- 時代をみる
- 参院選早房長治消費税論議財政問題
消費税増税、政党・マスコミは前向きに議論を
参院選のキャンペーンの中で各政党が消費税増税について真剣な議論を行うことはいいことである。小泉純一郎政権時代、小泉首相は「在任中に消費税増税はしない」として、議論にも乗ろうとしなかった。鳩山由紀夫前首相も在任中の消費税増税を否定し続けた。これらに比べれば、いまの状況は一歩前進である。ただ、議論が荒っぽすぎる。各党とももう少し前向きな議論が展開できないだろうか。
消費税論議の先頭を走ったのは自民党である。参院選向けマニフェストに「当面、10%に増税」を勇敢にも掲げた。民主党批判ばかりが目立つ自民党の中で、難題に関して独自の主張を打ち出したのは谷垣禎一総裁の英断である。
これに対して、菅直人首相が増税論に応じ、超党派の論議を呼び掛けるとともに、「自民党の10%増税案を参考にしてもいい」とまで踏み込んだ発言をした。前稿で述べたように、菅首相が鳩山前首相と小沢一郎・前民主党幹事長の政治資金問題を国民の目から逸らす狙いを抱いていたにせよ、首相が消費税問題から逃げなかったのは評価に値する。
しかし、それ以降の議論は、残念ながら、各党もマスコミも後ろ向きのものに終始している。谷垣氏は「自民党と民主党の増税論は性格が違う」といった、わけのわからないことをいい出している。論議の先頭を走った者として差別化を図りたいのであろうが、両党の主張に共通点も多いのだから寛大に受けて立つことが望ましい。
公明党は、内心、増税やむなしと考えているに違いないが、表面的には菅首相の呼びかけに反発している。立ち上がれ日本と新党改革は議論参加を表明している。一方、共産、社民両党とみんなの党は消費税増税に絶対反対の態度である。だが、増税なしに福祉制度の維持、財政再建とも不可能なことを考えると、3党の姿勢は無責任といわざるをえない。
マスコミは、主要な新聞各紙が「消費税増税を前向きに議論すべし」という論調を展開している。しかし、毎日の報道は各党の主張の差を際立たせることは重点を置いているように見える。テレビ各局の中には軽減税率や戻し税制度についての知識をほとんど持たないまま、「首相は国民の反発に困惑して、低所得層への負担軽減をいい出した」と報道している局も多く、あきれる。あまりにも無責任である。
消費税増税をめぐる論議の中で、もう1つの注目点は菅首相が提唱している経済成長と財政再建の両立論である。いい換えれば、「消費税増税を含む抜本的な税制改革で増税しても、カネの使い方を間違えなければ、経済を成長させ、同時に高水準の福祉を実現できる」というのである。一見、いいことづくめで、野党や経済界などから「夢物語に過ぎない」という批判も出ている。しかし、政府税制調査会の専門家委員会(神野直彦委員長)が6月22日にまとめた「税制改革を巡る議論の中間的な整理」と、政府が同18日、閣議決定した新成長戦略を一読すると、まんざら夢物語ではなく、実現可能性があることが分かる。
新成長戦略には環境・エネルギー大国戦略、健康大国戦略、アジア経済戦略、雇用・人材戦略など7つの戦略が具体的に書き込まれている。この戦略を実現するためには政・官・民が緊密に協力し、政府は巨額の公的資金を投入する必要がある。それには増税によって財政力を大幅に強化しなければならない。換言すれば、私たちが「失われた20年」の現状から脱出するためには新成長戦略を成功させなくてはならず、それには財政力強化が必須なのである。
消費税増税を「貧乏人苛めか否か」「福祉財源か財政再建のための財源か」といった小さな視点ではなく、「日本が陥っている超閉塞状態から脱するにはどうしたらいいか」いう大きな観点から議論しようではないか。
(7月2日記す)
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