まるで不良債権問題そっくりです ――私の原子力日記その4(2/2)――
- 2012年 1月 1日
- 時代をみる
- 原発金子勝
2011.12.22 原子力委員会・新大綱策定会議メモ
「今後の原子力発電とそれに関連する事項に対する重要課題とその基本方針に関する論点(案)」について、再開後の議論を踏まえておらず、問題が多い。
1.番号1がつけられている「原子力発電の意義について」において、脱原発も含めて議論すべきとの意見があるにもかかわらず、今後、「原発をどうするのか」についての基本的な選択肢を提示しつつ、それらを丹念に議論しないのであれば、この会議の意味はほとんどない。この問題について、総合資源エネルギー調査会およびエネルギー環境会議が決定すべきであるなら、この委員会の独立性が疑われるだろう。また番号5の「研究開発と人材育成について」は、すでに原発維持を前提としたものになっている。前提になる「原発政策の選択」を議論にしていないのに、こうした議題だけが出てくるのはどうみてもおかしい。
2.この観点から、どれだけの原発が必要なのか、国民に選択肢を明示するのが本会議の責務である。
(1)まず入り口段階の電力需要全体からみた原発の必要数を明らかにすべきである。 2011年夏における節電を「前提にした場合」と「前提にしない場合」、さらに「一層の節電・省エネが進んだ場合」に分けて、現状における電力会社、民間の一般事業会社などの電力供給能力を示したうえで、必要原発数を出すべきである。
(2)さらに、「東京電力に関する経営・財務調査委員会」も明らかにしているように、東京電力が原発を再稼働しない場合、深刻な債務超過に陥っていく。原発再稼働がないと、電力料金が上がるといわれるのは、電力会社の経営に問題があるからである。それゆえ、東京電力だけでなく、他の電力会社も同様の問題を抱えている。原発が停止し、電力料金を引き上げない場合、各電力会社はどれほど赤字が生じるのか、情報を開示すべきである。
(3)つぎに、出口段階における原発維持可能数を明らかにすべきである。六カ所の再処理工場を「稼働しない場合」、「稼働した場合」、「直接処分の場合(最終処分場が確保されることが前提)」、「直接処分が実現しない場合」に分けて、具体数を出すべきである。
(4)入り口段階と出口段階における、それぞれの場合を組み合わせた選択肢を国民に情報を提示することが、税金を使ってやっている本会議の使命であろう。
3.東京電力は2012年3月期(単体)決算で税引き後利益が5763億円の赤字となる見通しで、政府による約1兆円の公的資金投入と実質国有化が検討されていると報じられている。事故処理費用および賠償費用に関して、あるいは発送電分離改革について事態の推移を見て再度議論をすることを明示すべきである。
4.注記にあるが、核燃料サイクル政策について、大きな失敗を続けている高速増殖炉「もんじゅ」の存続について、なぜ当面の議論の対象から外すのか、理由を明らかにすべきである。
5.番号3~4について六カ所村の再処理工場の継続を前提とした議題になっている。再処理工場については放射能漏れなど事故やトラブルが多く、また放射能の環境汚染が問題になっている。イギリスのセラフィールドも止めていく。改めて、きちんと議論すべきである。
六カ所村の再処理工場は、一種の「不良債権」問題だと考えられる。もし六カ所村の再処理工場を閉鎖すると、これまで投じた日本原燃および電力会社の資金が焦げ付くことになる。工事をいったん開始してしまった以上、ずるずると止められないダムなどの公共工事と似ていると思われる。除染費用を十分に出さず、福島県民をはじめ多くの国民が福島原発事故によって放射性物質に不安と恐れを抱いている状況のもとで、このような事業に巨額の資金を投入し続けることは許されないと考える。
6,日本原燃株式会社の簡易財務諸表はWebに公表されているが、以下の点についてより詳細な財務会計情報の開示を求める。
(1)2011年3月末のB/S(貸借対照表)で「建設仮勘定」に1兆4010億円が計上されているが、契約価額の全体、契約解除の場合の返還金などについて。
(2)同じくB/Sにある「再処理料金前渡金」として7272億円が計上されているが、これは電力会社からのものなのか、その具体的内容について。
(3)P/L(損益計算書)上の「売上高」2855億円、「売上原価」と2524億円の具体的内容について。
(4)B/S上の「長期借入金」8713億円、「短期借入金」1164億円について、借入先など具体的な内容について。
(5)同じくB/S上、固定負債の部にある「資産除却債務」5133億円について、これがいかなる資産に対して計上されているのか、その具体的な内容について。
7.番号6の「国際社会で果たすべき役割について」は、福島第1原発事故に関する2つの事故調査委員会の報告書が出ておらず、また会議においても原発の安全性について議論を尽くしたとはいえず、ましてや原発輸出の是非についても議論していない状況で、原発輸出を前提とした議論は不適切である。したがって議題から外すべきである。
金子勝ブログ http://blog.livedoor.jp/kaneko_masaru/ より転載。
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