「緊急地震速報」と「放射能拡散予測」SPEEDI情報隠蔽の責任について
- 2012年 1月 23日
- 時代をみる
- SPEEDI情報隠蔽山崎久隆
◇「パニックを起こす」ならば緊急地震速報も津波警報も発せられない
まず、気象庁のホームページに記載されている文章をそのまま引用する。
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お知らせ■平成24年1月12日の福島県沖を震源とする地震の緊急地震速報について
平成24年1月12日12時20分頃の福島県沖を震源とする地震において、福島県、茨城県を中心に、東北から関東にかけて緊急地震速報(警報)を発表しました。
この緊急地震速報では、東京都等において観測された震度よりも大きな震度を予想して発表したため、解説資料を掲載しました。
◇緊急地震速報(予報及び警報)が的確に発表できない場合があります
3月11日に発生した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」の発生後、同月12日03時59分頃の長野県北部の地震や同月15日22時31分頃の静岡県東部の地震など広域にわたって地震が多発しています。
このため、ほぼ同時に発生した複数の地震からのデータを適切に分離して処理できず、適切に緊急地震速報(予報及び警報)の発表ができない事例などが発生しています。
8月11日にはこれらの対策として、緊急地震速報(警報)の発表対象としていない小規模の地震を計算の対象から外すことによって、2つの地震を誤って結びつける頻度を減らす改修を施し、適切でない緊急地震速報の発表の改善を図りました。
なお、今後も引き続き緊急地震速報の改善を図りますが、地震活動が活発な状況では、緊急地震速報が適切に発表することができない場合もあります.
緊急地震速報が発表されたときは何らかの地震が発生していますので、強い揺れから身を守る行動をとっていただきますようお願い致します。
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緊急地震速報が必ずしも適切な予測をしないことを断っている文章であるが、だからといって「緊急地震速報など止めてしまえ」という人はいないだろう。
さらに、この速報と同様の仕組みに「地震動早期検知警報システム、(Urgent Earthquake Detection and Alarm System)がJR東日本で導入されている。頭文字を取って「ユレダス」という。これが発信すると新幹線などは緊急停止をするようになっている。中越地震(2004年)では、上越新幹線とき325号を緊急停止させ、脱線はしたものの転覆を免れ、事故を大惨事にせずに済んだのはこのシステムのおかげといわれている。同様に、3.11の地震でもシステムが作動し、本震到達1分10秒前などと、大きな揺れに襲われる前に29本の走行中新幹線に非常ブレーキが掛かった。そのため脱線した車両は一両も無かったという。
同様にJR東海の東海道新幹線には早期地震警報システム(テラス)が導入されている。
◇SPEEDI情報隠蔽の責任
緊急地震速報は、いまでは携帯電話で受けることが出来る。つまり発信すると一方的に市民に送られる。もちろん、誤報とも言える場合もある。実際には地震は起きているのだから、本当の誤報ではないが、わずか震度2で鳴らされても、と思う人はいるだろう。
しかし、だからといって無用だとかパニックを引き起こすなどという人は、もういなくなった。以前は自動車運転中にこの警報を受けたら慌てて急ブレーキを踏む可能性が指摘され、そのとき後続の車が速報を知らなければ追突事故を起こすと心配されていた。しかし実際に急ブレーキを踏むような行為をする人はまずいない。冷静に路肩に止めるためにウインカーを出すか、ハザードを点滅させる。そのくらいの判断力はある。むしろ誰も速報を受信していないときに大きな揺れにみまわれ、全車両が制御不能になる事態が遙かに危険だ。
ある程度の誤差を含み、慌てる場合もあり得るとしても、それによる損失を上回る利益が見込めるならば導入しようという考えが一般的だ。
ところがほとんど同じく市民を守るために開発されたはずのSPEEDIについては、全く真逆の判断を当時の官邸は行っていた。
枝野官房長官や細野原発担当大臣が公表しなかった理由を「パニックを恐れたから」としている。それが大変な住民被曝を引き起こしたことはもはや隠しようもない事実であり、彼らを含め情報を隠蔽した者の責任は極めて重大だ。
また、情報を隠したもう一つの理由に「信頼性の欠如」という理由があった。
当時、原発のモニタリングポストや県のシステムもダウンし、しかも保安院のデータ送信装置に非常用電源を接続していなかったため電源喪失と同時に作動しなくなるなど、原発の状況を知る方法が無くなってしまうなかで、データが無いため正しい拡散予測が出来ないだろうという思い込みが、官邸にはSPEEDIの情報が上がっていたのに、首相などには伝えられなかったという。
しかしこれもまた、情報収集と分析能力の欠如としかいいようのない官邸の失策だった。
双葉町で放射線を計測し、インターネット上でリアルタイムで報告していたジャーナリストの山本宗輔、森住卓、野田雅也、豊田直己、綿井健陽各氏の行動で放射能が拡散していることがわかっていたのだから、これら実測値とすりあわせるなどしてSPEEDIの拡散予測システムによる汚染拡散の状態をシミュレーションすることは十分出来たのだ。
◇ではどうすれば・・・
こういう広報をすることが少なくても可能だっただろう。
・・・3月11日に発生した「東北地方太平洋沖地震」に引き続き発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故により、放射性物質が環境中に放出されていることが確認されました。そのため原子力災害対策特別措置法に基づき、周辺地域住民に対して避難指示が発令されました。しかしながら、放射性物質の拡散予測については、現時点では原子力発電所からの放出量が正確に計測できない状況にあることから、拡散方位と予想放射線量にかなりの誤差が生じる可能性があります。
首相官邸は対策として、避難先としては適切でないと確認できる地域を、まず広報することといたしました。
なお、今後も引き続き放射性物質の拡散予測の改善を図りますが、放出量が正確に把握できない状況では、拡散予測を適切に発表することができない場合もあります。しかしながら強い放射線量が予測される地域については優先的に避難を指示いたしますので、放射性物質からの被ばくを避けるために、避難指示または屋内退避指示に従って行動をとっていただきますようお願い致します。・・・
いつ、どこへ、何処ルートを通って逃げるかを適切に伝えるからそれに従って欲しいと言えば、パニックは起こらない。
この国が市民を守らず、体面ばかりを気にすることは、民主党政権になったからといってもいっこうに変わらない。むしろ、自民党政権でこういうことをしていたら、おそらく野党である民主党は猛然と非難をしたであろう。しかし実際には能力の無さはどっちもどっちだったとしか言いようがない。
事が「地震速報」「津波警報」ならば、ストレートに情報を市民に流すことはためらわない政府が、「放射性物質拡散予測」となると、にわかに及び腰になり、隠蔽を計る。その理由は、放射性物質の拡散予測に誤りがあり、大災害にならなかった場合、それが原発への恐怖心として市民に伝播したら困ると考える「安全神話に毒された推進派」が権力を握り続けたからだ。
昔は居た「防災よりも経済成長」「地震対策は大げさだ」などという政治家や官僚はもういない。繰り返し襲ってきた地震災害により、絶滅状態だった上、今回の地震津波災害でおそらく滅亡した。原発防災についても同様に、今回の福島原発震災で絶滅して欲しいところだが、残念ながら復活し始めている。それが次の原発震災を準備していることを肝に銘じておこう。
たんぽぽ舎「地震と原発事故情報 その306」より転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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